「SAY!Wow!!HEEROOOO!!!」のうち、
他の方のサイドといった番外編やバスデ、年末年始などのリアルタイム連動させたいエピソード等を本編時系列に関係なく先行公開させる、補完、こぼれ話、横道集的な感じの方です。
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●和泉 アラタ『酔っぱらいのオバケ』
ーーいやーいきなりやけどオバケってホンマにおるんやなぁ。
前にボクが地元行っとった時に近所のおっちゃんからお使い頼まれてな?
その日、おっちゃんが海外のワイン届くんやけどミスって宅配事務所宛にしてもうたうえに一週間仕事キツくて営業時間に間に合わん言うて受け取って欲しいって頼まれたんよ。
それで受け取ったはええんやけど、届いた時間が結構遅くなってもうてな、当然ボクの帰りも遅くなってもうたんや。
それでも暗がりの中帰っていた時、ふと奇妙な気配を感じたんや。
もうひとつの足音が明らかにボクに合わせとってな。
...もっと見るでも気にせんと進もうとしたらソイツ、「オイ」なんて声掛けてきよったんよ。
なんやイヤやな〜思いながらしゃーなく振り返ってみたらオバケいたわ。
3つの目、真っ赤な顔に尖った歯と角、しかも瓢箪片手におぼつかない足取りでぷらんぷらん寄ってきたんよ。
そんなん見たから流石にボクも確信したわ。
あー、コイツはオバケやし、しかも酔っぱらいなんやなって。
そんな奴がいきなりオイオイ話しかけてきよったもんやからな、ボク言うたったんよ……
「(おっ、来るか……?)」
「(そういうことですな。)」
「ふふっ……」
「(おいおい、早ええよ。)」
一様に何かを察し、どこか期待に満ちた面持ちで笑みを浮かべる四人の反応を楽しむように見回してからアラタはニッと笑いながら締めの言葉を言い放つ。
「こ の ワ イ ン は 、ワ イ ん や 。」
・・・
暫しの沈黙の後、表情を引きつらせていた4人がドッと吹き出しながら、笑い声を響かせる。
「ワハハハ、イヤそっちかよ!?」
「いやはやアラタ氏、そうきましたかぁ。」
「てっきり『何かようかい?』かと思ったよねぇ……」
「そもそも別にお前のワインじゃあねぇだろ……」
「そらまぁ〜ワイン持っとる時に酔っ払いがいきなり絡んできよったんやからそういうことかと思うやろ〜」
腹を抱えていた4人に同じく笑いながら答えるアラタ、部屋に一層の笑い声が響き渡っていた。
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「でっっけ……」
家主である大一の本棚にあったソシャゲの画集を眺め、楓太は際どい装いの美少女のイラストに思わず感嘆の声を漏らす。
が、ふと顔を上げると友人の様子を見回した。
「アラタ氏は歯車を、淳氏はケーブルをもってきてくだされ〜」
「おう任せろ、多分このゴミ箱に入ってそうやな〜」
「えっと……こういうのは意外と一つ前で使ったやつを使い回すこともあるんだよな……」
マルチプレイで謎解きアクションパズルにいそしむ大一、アラタ、淳……
「えぇっ!?こんなどんでん返しが思いつくなんて、やっぱこの先生はすごいなぁ……」
一人で小説を読み耽る介斗……
・・・
しばらく見渡していた状況に黙していた彼は大きく溜息を洩らした。
「あーあっ、暇だなぁ〜。」
そもそも5人で100話も用意するなど無茶の極みである。
オマケに揃い揃って用意できた話も先程の体たらくと来たもので、全員一通り話してしまえばもうネタ切れにもなるだろう。
ふと、誰ともなく腹の虫が虚空に鳴り、
「なぁ、今何時だっけか?」
それを機に楓太が問うとやはりそれぞれにスマホを取り出して待受を眺める。
20時30分。
結局百物語(?)が1時間かからず終わったことを考えると随分時間潰しになってしまったものだ。
「なぁ……マジワン行かね?」
「賛成ですな。」
「そういやご飯まだだったね……」
「だな、今日はどうすっか……」
「せやなぁ〜、久し振りにオールトッピング決めっかしら……」
皆何かしらの転機を求めていたのであろう。
楓太の提案に全員が口を揃えて応じると、身支度を整え5人連れ立って行った……
華の聖櫻学園に通っていると言えども、毎日が刺激的な出来事に満ちている訳ではない。
何も無い日とは往々にしてこんなものであろう。
男達はいつだって退屈なのだ。
◎『僕たちの聖櫻学園〜ゾワッ、野郎だけの百物語〜』
E N D
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●串間 淳『サッカー部の怨霊』
ーー俺の小学校、昔は高校だったらしくてさ。
七不思議とか怪談的なやつもどっちかつうとその高校として機能してた頃に絡めたような話が多かったんだよ。
近所に高校のOBってオッサンもいて、その人がよく話してたんだ。
んで、夏祭に俺達の学区をそのオッサンが監督してくれるってのもあって、複数人でいたら少し帰り遅くなっても良いって祭楽しんでたんだよ。
21時くらいかな、そろそろ帰ることになってオッサン主導で集団帰宅になったんだけど、近所が小学校だから横を通りかかることになったんだ。
そん時だ。
...もっと見る
なんか騒がしい物音が聞こえてきたんだよ。
流石に9時だし先生の残業ならともかくそういう感じじゃなかった。
そしたらオッサン笑いながら言うんだよ。
「サッカー部の怨霊かもしれねぇ」ってさ。
で、サッカー部の怨霊ってのはなんでも、全国大会候補っつわれてた人が事故ってよ、脚が駄目になっちまったんだと。
それだけを目標にしてたそれですっかり発狂しちまったらしくてその足で病院を出ようとして、階段を駆け下りようとして……っつうことがあったらしい。
その霊が鬱憤を晴らすように夜な夜なグラウンドを片足で走り回ってるって話なんだとよ。
で、それが今いるんじゃねえかってオッサン笑っててよ、俺等もまぁ今にしちゃ不謹慎だけどやっぱ小学生だとそういうの面白がっちまうからこっそり皆で覗きに行ったわけよ。
そしたらさ、い た ん だ よ。
確かにグラウンドを激しく走り回ってたんだ……
「創 設 者 ・ 久 織 篤(クオリ アツシ) の 銅 像 が。」
・・・
「なんっだよソレェ!!!」
暫しの緊張の後、荒く口火を切ったのは楓太だ。
「ハァー期待させやがって、紛らわしいなクソッ!」
「いやはや、折角良い感じに盛り上がっていたのに台無しですなぁ。」
それなー、口々に言う楓太と大一に淳も溜息交じりに頷き、
「一緒に見てた奴も久織かよってガッカリしてたぜ。」
「確かに、二宮金次郎とか初代理事長の像とかが動くのってありふれてるもんね……」
「せやぞ。そんな話やったら麻帆良にもあったわ(※本作独自の設定です)懐かしいなぁ……」
苦笑いを浮かべる介斗とアラタにも同じく苦笑で返すしか無かった。
「でもま、本当はサッカー部の事件なんて無かったんならソレに越したことはねえんじゃねえかな。」
「ハハッ、それもせやな。」
「よし、曽良。無理はしなくて良いぞ。」
「うん、あまり自信はないけど大丈夫。ありがと……」
オドオドとしていた介斗が楓太に促されて一呼吸入れると、ゆっくりと語り始めた……
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●曽良 介斗『背中に……』
ーー僕も小学生の時の話だね。
アレはじっとりとした嫌な暑さの夏だったことを今でも覚えてるよ。
その日、僕は夕飯を終えて両親やうちの猫と団欒していたんだ。
お父さんはテレビを見てて、お母さんと僕は小説を読んでて、猫は自由にうろうろしてて……
そうやって皆で思い思いに過ごしていたんだけどね。
いきなり猫が大きな声で叫んで毛を逆立てたんだ。
みんなビックリしたけど何だと思えばさ。
いたんだ……『G』。
お母さんも僕も一緒になって叫んじゃって、お父さんもそそくさとホイホイと古新聞を取りに行ったんだ。
でも、その間にGはさっさと戸棚の裏側に行っちゃって、僕達は途方に暮れていたんだ。
緊張感の中で様子を警戒していた時、不意に僕の背中にイヤな感触が襲ったんだ。
あの時は標的を逃がした直後だけに、冷静に考える余裕なんて無かった。
『イヤだ!』『取って!』『誰か!』
僕はそんな言葉を不規則に連続的に叫びながらその場で倒れ込んでその場を転げ回るように暴れ回った。
「ちょっと、どうしたのカイちゃん!?」
「バカお前、何やってんだやめろ!」
威嚇のように叫ぶ猫と困惑する両親の諌める声が響いても僕は止まること無く取り乱していたんだ。
あの背中のカサカサとした感触は間違えるはずが無い、なのになんで父さんも母さんもこんなに冷たいんだ……!
「だって、背中にGいるでしょ!?」
「っ?何言ってんだ!?」
「カイちゃん、いないわよ?」
え……???僕の切実な訴えを流すように諭した言葉で僕は我に返って恐る恐る背中に触れたんだ。
いない……
三人、思わず吹き出して笑っちゃったよ。
後で二人に聞いたら放送事故かと思ったとか悪魔憑きみたいだったとか、普段の僕が出さない叫び声だったから本気で心配されたみたい。
でも、なんであの時に限ってあんなに暴れる程に確信を抱くくらいの思い込みをしちゃったんだろう。
今でもわからなくてなんとなく考えてみることがあるんだ……
「まぁ、あの時アミアミのタンクトップ着てたし、それが背中に擦れた感触がGを逃がした緊迫感と相俟ってそうだと思ったんじゃないかなって思うよ。」
どうかな……?一頻り話し終えた介斗が四人を見る……と、
「曽良、怖かったな……」
「介斗氏、そんな辛いことがあったのですか〜!?」
「曽良!またGが出たら呼んでくれよ、やっつけてやるからな!!」
うわわ!?困惑する介斗をよそに淳と大一と楓太が彼にまとわりついてくしゃくしゃと撫で回しながら泣き交じりの優しい笑顔を見せる。
「ちょ、ちょっと3人とも、僕だってもう高校生なんだから……」
そこまで言いかけた時、視界の隅を小さな影が素早く横切った。
「うわぁ!?」
叫ぶ介斗、他3人も続いてその目線を追う。
暗がりの中で恐る恐る目を凝らすと、そこにあるのは黒い服ボタンだ……
「あ悪りい悪りぃ。ボタン取れてしもうたわ……って?」
頭を掻きながら詫びるアラタと対象的に、介斗以外がゆらりと立ち上がる。
「アラタァ、テメェ覚悟できてんだろうな……?」
「いーずーみーくぅん?」
「流石に今のはちょっと、ですなぁ。」
「え…?ボクヤバい感じ?ってちょっ待っうわぁあ!?」
キョトンとする彼がアクションを取るより先に3人がボコボコと飛び掛かり絶叫が響いた。
「やっちゃいかんことがありますぞアラタ氏〜」
「反省しろ和泉ィ!」
「イヤ、ほんまゴメンな介斗くん……」
「気にしないで。もう3人とも、和泉くんだって悪気があったわけじゃないんだから……」
「甘いぜ曽良、コイツはわざとやっててもおかしくない、そういう男だ。」
ボロボロになって謝るアラタに逆に申し訳無さそうに答える介斗が親友3人に咎めるように続けるが、淳は気まずそうながらもやや苦々しく答えた。
「気にすんな介斗くん、これはボクの間が悪すぎる不注意やったんやし〜」
「しっかりしてくれよ、和泉。次はお前だぞ。」
「そういやそうか。ほな、やったるか。」
あっけらかんと笑うアラタに楓太が促し彼も不敵に笑って応じた……
夕陽差す聖櫻の片隅、閑静な住宅街の一角に佇む一軒家ーー『渋木』と表札が刻まれたその一室では、暇を持て余した5人の男子高校生があれやこれやとカーテンを閉めたり各々のバッグをまさぐったりと思い思いの動きを見せていた……
「おっしカーテンオッケー。イヤでも雨戸はどーすっかな。」
「ねぇ槌野くん、まだ18時だけどもうやるの?まぁ僕はなるべく早い方が良い、ケド……」
「そうですぞ。しかも夏ではまだまだ明るい、アレのコンディションとしては些か不充分かと。」
頬を掻く介斗と頷く大一が不思議そうに首を傾げるが、楓太は当然のようにニッと笑いながら眼鏡を光らせる。
「ッたりめぇよ!なんたってこの辺りの時間帯は不吉なモノに遭う『逢魔ヶ刻』、遠くの相手の顔が判らない『誰そ彼刻』つって昔から縁起でもねぇって言われてんだからよ。」
それよりも……キヒヒッと笑いながら続ける彼は部屋を見回し、即座に不満そうに眉を寄せる。
「結局オレらだけかよ〜。串間、島田チャンは呼べなかったのか?」
あ?たった今名前を出された相手とメッセージアプリでトークしていた淳は顔を上げると、先まで笑顔で眺めていた添付写真を見せた。
...もっと見る「アイツは今日長谷川と動物園、小動物触れ合いフェアだとよ。」
あそ……、早々に切り上げるように返した楓太はすぐにもう一人ーー勝手に大一の布団に潜って寛ぐ少年に目を向けた。
「和泉、新垣チャンは?」
「んあ?雛菜ちゃんはいつもの友達数名と服やらトリートメントやらお買い物行っとるで〜」
「なるほどなるほど。女子は日用品をチョロっと買うだけでも集まって盛り上がれるんだから羨ましい限りですなぁ〜」
「渋木くん、多分女の子にとっては服も美容具も日用品とは思ってないよ……」
ウンウンと顎に手を添え頷く大一に介斗はボソボソとツッコミを入れる。
あーあっ、彼らのやり取りをヨソに一層肩を落とした楓太が溜息交じりに言葉を繋ぐ。
「なんだよぉ、折角の企画なのに華も無しかぁ。」
「テメェ槌野ヨソのカノジョを花魁かなんかだと思ってねぇか?」
オイとくぐもった声で切り出し、鋭く睨みつける淳の姿を手で制した彼は咄嗟に返す。
「滅相もねぇよ!ただ女の子いれば今日の話でキャーキャー怯えるリアクション見れて楽しいだろ。」
「それはそれでどうなんだろぅ……」
「てかフータ氏、火に油ですぞ。」
「そんな怒んなやジョー、ボクは楓太の気持ちも解るで。」
「ブッ飛ばすぞアラタァ……!」
激情寸前に息巻く淳とそれを羽交い締めで抑えるアラタ、二人の様子を見た3人が苦笑する。
「マいっか。それよりお前ら、ちゃんと準備は持ってきたんだろうな?曽良もなんか考えてきた…?」
「う、うん。一応、自信無いケド、ね……」
「まぁ流石に蝋燭は危険ですし百均とは言え何本も買うのはキツいのでライトですが……」
話を振られた介斗がやや尻込みしながら応え、脇では大一が灯火した蝋燭を模したライトを5本取り出して配っていく。
よっし。夏場の夕暮れと言えども、消灯しカーテンを締め切った部屋は絶妙な暗さに包まれた。。
顎先をライトで照らし、眼鏡を白く光らせた楓太がニヤつくと他四人もつられるように口角を上げ頷いた。
「さて諸君、集まってくれてありがとう。特に渋木クンに至っては例によって場の提供、心より感謝申し上げる。そして何より、今年は和泉アラタクンと言う新盟友を迎え入れて開催できたこと大変嬉しく思います。」
勿体振るように言った楓太が一息付きながら、改めて始めようかと口火を切った。
「では、暑気忘れ百物語会、開催します……!」
◎『僕たちの聖櫻学園〜ゾワッ、野郎だけの百物語〜』
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●槌野 楓太『社会科資料室の謎の人形』
ーーお前らは、歴史資料室って知ってるよな?
「ああ、名前の通り、日本史とか世界史で出てくるモノの実物を置いてるとこだろ?」
「ああ、なんか土偶とか埴輪とか、ね……」
「実際に祐天寺先生や深見先生はよく出入りされていますからなぁ〜」
「ボクあそこの掃除やった時あったわ。」
思い思いの感想を漏らす一同に笑い返しながら彼は言葉を続ける。
ご存知の通りあの部屋はモノ多いし歴史的資料なんてデカいモンもあるからさ、当然いちいち持ち出せないヤツとか使わない物もあってそういうのが隅に追いやられてくんだよ。
で、だ……物々しい雰囲気を感じ取った4人に好感触だとほくそ笑む楓太は指を立てる。
実は端っこの棚には『謎の人形』があるんだよ。
如何にも南米のティキとかを思わせる木彫の民芸品みてぇなヤツ。
見てみればわかると思うんだが、あんな人形日本史は勿論、世界史にすら載ってねぇ。
ご存知槌野クンは好奇心旺盛なもんでどうにも気になっちまって世界史を教えてらっしゃる教頭先生にもお訊ねしたんだよ。
でも答えはご存知ないらしくて、あそこにあるのも『歴史的価値のある物には違いない』くらいの理由だそうだ。
だがオレもどうも納得できねえからよ、何かわからないかと掃除してた時にしげしげと観察してみたりしたんだよ。
そしてなんとなく並べてみて気付いたんだが、その人形は全部で七人いて、それぞれが指で数字を表してるんだけど、3の指だけ足元の造りが悪いらしくてなかなか真直ぐちゃんと立たねぇんだ。
ふと折角だから全員数字通りに並べてやろうと思ってさ、前倣えみたいに棚に沿って右向きで揃えようとしたんだけど3の奴が全然立たなくて変な方向むくわすぐ倒れて他のやつドミノ式に巻き込むわで、オレ元々不器用だからイライラしちゃったのよ。
でもなんかここまで来たらって思ってムキになって意地でも皆と同じ方向むかせて立たせようとどうにか足裏の角度とか絶妙に利用してなんとかならないか模索したんだ。
あん時の執念はヤバかった。掃除の時間で終わんないからって隙を見つけては入れさせて貰ってなんとか経たせようと苦節一ヶ月、ついにそこの担当終わる時にダメ元でやったらよ……
ちゃんと同じ向きで立たせられたんだ。
そしたらよ……ゴクリと一同が固唾を呑み、身を強張らせる姿に眼鏡を白く光らせた楓太はニヤリと不敵に笑って顔を上げた。
「めっっっっちゃスッキリしたぁー!!!!」
おおーっ!彼が両手を勢いよく挙げ、灯りを消すとともに四人が歓声を上げしきりに手を叩く。
「あの細かい事が苦手なフータ氏が……やりましたなぁ!!」
「いっやーあん時の感動と来たらもぅ〜ね!」
「解るわぁそれ、当番最後の最後ってのも良かったじゃねえか。」
「トランプタワーを成功させた時みたいな感じだよね、おめでとうっ。」
大一、淳、介斗…3人の称賛にどうもどうもと応じているとアラタもポンと手を叩いてあーっと声を上げた。
「なんやアレ楓太やったんか。ボク掃除当番なった時割と早く終わって時間余ってたからオママゴトしとったわ。」
・・・
「ちょっ、お前マジかっ!」
「イヤすまんな。」
「良いんだよオレもう当番終わったしやりたいことはできたんだからさ。」
「しかしそんなことして大丈夫なのですかアラタ氏?」
肩を叩き笑い合うアラタと楓太、続くように大一が口を挟むとあっけらかんとアラタは言う。
「あー、ボクが担当やったからか見廻りに来た祐天寺センセと畑山センセに見られてドツかれたわ〜」
「ふっ、ふふっ、何それ……」
「つかお前の方がよっぽどホラーじゃねぇか……」
くすくすと口元を押さえる介斗と呆れたように苦笑を漏らす淳……ひとしきり笑ってから気を取り直すと、
「よし、次渋木な〜。」
大一に指を向けながら楓太が指示すると、自慢げに腕を組み、軽く踏ん反りながら彼は応じた。
「良いでしょう。ジブン、不肖渋木 大一、皆に戦慄をお届けしますぞぉ。」
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●渋木 大一『廃井戸と母』
ーーアレはジブンが中学の時でしたな。
フータ氏、淳氏、介斗氏は社会科見学で大人に話を聴く、という課題があったのを覚えているでしょう?
「あーあったあった。父さん母さんアウトっつうからダルかったな〜」
「僕は無難にお巡りさんに聞いたっけ。」
「俺はコンビニの店長さんだった、かも。」
「ほぇー、そんなんもあったんやなぁ。」
一抹の盛り上がりを見せる4人にアラタは思わず関心の声を上げた。
ジブンも提出用は当たり障りの無い公務員だかに聞いた記憶がありますが、それはテンプレ過ぎてつまらない。
そう思った自分はですね……実は囚人に話を聴こうと刑務所まで言ったのですな。
・・・
「なんーだそりゃ」
「まず既にキミがホラーやないか。」
「なにアラタみてぇなことしてんだお前……」
「よく許可貰えたねぇ……」
既に予想外の展開に一同笑いながらツッコミを入れるが、すぐに場を静め、再び大一は話を続ける。
で、その中で一人退屈していたと言った囚人が気前良く私に話してくれましてな、その男なんと●人犯らしいのです。
おいおい、そんな話大丈夫かと一斉に言われるが首を振り大一も返す。
問題ありませんぞ。何も手口を聞いたわけではなく、その男が何をして如何にして捕まったかという話でしたからな。
男は元々アウトロー的な仕事をやっていたようで、その仲間と揉めた際、つい勢いで手を掛けてしまったらしいです。
そこで我に返った男は恐れて家の裏手にあった廃井戸に仲間の●体を放り込んだそうです。
…翌朝、不安を抱きながら井戸を覗いたところ、なんと仲間の姿は消えておりました。
それでも男は素直に安心できず、自分を嗅ぎ回った野良猫が怖くなり、続けて最近元気がなさそうだと言って訪ねてきた近所の方まで手を出してしまったそうです。
勿論、それらも井戸に棄て、流石に気が大きくなって油断していたのでしょう。
ある日母から話があると言われ、まるで自分の隠し事を追求するかのように詰め寄られた男は恐怖に駆られ、反射的に母すら毒牙に掛けてしまったそうです。
しかし既に3件も隠滅したこの男、もう怖くないと母も同様の道を辿らせ、すっかり勝った気になってしまったそうです。
どうせ母もすぐ消える、そう思いながら強気に構えていた男ですが、事件から数日のうちに警察が押しかけあっさりお縄に着いてしまったのです。
何故だと思えば母の●体は消えておらず不審に思った方の通報で発見されたそうです。
それはおかしい、今までは消えていたはずなのに今回に限って母の姿が残っていたのは何故か、
それは……
「なんと、井戸には強酸が張ってあり、
母 は『 純 金 』 だ っ た
と言うのですっ!!!」
・
・
・
「マジで何言ってんだ?」
誇らしげに言い放ち灯りを消す大一に楓太の眼鏡の奥からジトリとした視線が向けられる。
まぁアレだ、口を開いたのは淳だ。
「純金は酸で溶けないんだよ。だから今まで処理した犠牲者は溶けて消えちまったけど、純金の母は溶けなかった、だろ?」
「その通りです。流石淳氏ですなっ。」
「そっかー、なるほどねぇ〜!」
「そうなんかぁ……ボクもこういう知識は何かに使えるかもしれへんなぁ〜」
ストンと落ちたのか満足げな声を上げる楓太と気付きを得て一人物思いに耽るアラタ。
「それにしても中学生で●人犯を訪ねるなんて渋木くんはすごいなぁ……」
介斗も大一の行動力に舌を巻くより無かった……
「よし、次は〜串間っ。」
「おう。後悔すんなよ…?」
楓太から鳴らしながら差し向けられた指を受け、淳が顔の前にライトを立てて不気味に笑った。
楓太「おっしゃお前ら時間切れ〜〜!!」
柚子「(あっ、やっと二分か、なんか長かった〜…)」
楓太「それじゃ尋常に…勝負ッ!」
淳「いっせーのぉ……!」
アラタ「ウハハ、やーねーまーでーとーんーでー!」
介斗「…ッ!……ッ!!」
大一「で〜す〜ぞっ!」
...もっと見る柚子「それでまぁ兄もホク兄も一緒になってさぁ〜(うわ始まった!っていうか屋根までトブ!?でっかくとか言ってなかったっけ?)」
桃子「あれはびっくりしたよねぇ〜」
伊吹「あ、七月先輩と言えば最近南田先輩とはどうなの?」
おおーーっ!!彼女達の談笑をよそに湧き上がる歓声、思わず柚子はビクリと反応してしまう。
楓太「ひぃ、ふぅ……よし、全員ちゃんと出せたみてぇだな!」
淳「一番デケェのは…ンだよアラタか。こんなとこでまでなんでもアリ発揮してんじゃねぇよ。」
アラタ「いぇーいピスピース!!二番目は……介斗くんやな。」
介斗「そう、みたいだね。びっくりだよ…」
柚子「いや〜ホク兄はああ見えて繊細なところあるしどうなるか…(アラタ先輩はともかく、二番目がまさかの曽良先輩!?たしか男子の中でも小さい方だよね!?)」
桃子「でもずっと今のままも南田先輩可哀想だと思う。」
淳「で、槌野は……俺とあんま変わんねぇな、僅差ってとこか。」
楓太「まっ、そりゃ誤差はあるし、コレは同率3位ってとこだな。」
伊吹「なんていうか不器用って感じだよねぇ〜」
真由里「ッスよね〜、面倒見良くて優しいのはわかるんスけど。」
柚子「ほんーとほんと!もっと素直になれば良いのに〜(串間先輩がこんなことやってるって聞いたら泉ちゃんどうなっちゃうんだろう……?)」
大一「えちょっまっ、マジですか!?圧倒的ピンチ!」
淳「ブフッ、ちっっさ。圧倒的最下位、だな…」
楓太「二言は無しですぞ渋木くぅ〜ん。」
介斗「渋木くん、僕の分は無理しなくて良いから…」
大一「いいえ!不肖渋木大一、ルールには従いますぞ!所詮フルーツ牛乳五本が何だと言いますかっ!無念…!」
アラタ「ンま、とりあえず今回の優勝はアラタクンってことで!」
柚子「コッ!?」
桃子「ユズちゃん?」
柚子「こほっ!?ごめんモモ、ちょっと噎せちゃった!(今回!?何回もやってるのソレ!?)」
「っせぇなお前ら!さっきから声でけーよ特に槌野、アラタ!」
不意に飛び込んできた予想外ながらも聞き慣れた声に思わず柚子はハッと顔を上げた。
柚子「(まぁ兄!?イヤイヤ、もう声が大きいとか絶対そういう段階じゃないよね!?なんでここにきてうるさいことへの注意!?)」
アラタ「おーうマタサブロー!」
介斗「だよね、うるさかったよね、ゴメン…」
槌野「ンだよ箕浦〜、お前も参戦すっかぃ?」
大一「め、めめ、名案ですなぁ!ここは一先ず仕切り直しの6人勝負と行きましょうぞ!」
淳「おいドサクサにワンチャン最下位リセット狙ってんじゃねえぞ渋木ィ。」
柚子「(仕切り直し!?もう一回!?そんなに何度もできるの!?毎回そこまで大きさ?って変わるのぉ!?よくわかんないけど!!)」
雅一郎「イヤ俺はやんねぇよ。お前ら楽しむのも結構だが声は程々にな。」
柚子「(恐ろしく冷静な拒否!いつもみたいにツッコまないの!?っていうか楽しむって!なんでそんなこと容認してるのまぁ兄!?)」
おや?諸々を終え、湯船に入り込んだ影が見るからにあたふたと困惑している柚子を見かけるなりスイスイとにじり寄り、耳元で緩めた口元を開いた。
「ふふ…殿方はお元気で良いですねぇ、葉月さんっ♪」
柚子「!?!?ッ新田さんンン!?」
ああ…あ……
桃子「あや!?ユズちゃん!?」
真由里「どうしたんスか!?」
ユーリヤ「お顔真っ赤ですよ!?」
伊吹「のぼせちゃってるよぉ!」
柚子「あ、ははは……も、もぅ、ダメ…」
萌果「(や、やりすぎたかしら……)」
思考のショートといったところか。
不意に脱力し、顔を火照らせ背もたれに崩れる柚子を居合わせた女子達が寄り添い、萌果は内心自省する。
当の本人は頼りない笑い声とともに目を回し、赤い顔からうわ言を洩らしていた……
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「くぅ、なんたる無念。流れからすればどう考えても提案したフータ氏が惨敗する展開だったのに……!」
「ダッハハ、んまぁこればっかりは時の運だしなっ!」
「まっ、渋木センセの次回作をお楽しみにってか。」
5本、黄色の瓶を抱えてさめざめと負け惜しみをこぼす大一の肩を両脇から叩く楓太と淳が煽り、
「し、渋木くん…本当に僕のことは」
「ダメですぞ介斗氏!スジはスジです!!」
当の大一は申し訳無さそうにおずおずと口を挟む介斗にキッパリと応じる。
・・・
「ふぅ、まだフラフラするかも…」
「おぅユズ、大丈夫か?」
なんとか落ち着いて顔の熱も冷め立ち上がった柚子に馴染みの気さくな声がかかる。
「あっ、まぁ兄。うん、ありがと……」
「モモがなんか考え込んでたみたいつってたけどどうしたんだよ?」
えっ!?その質問に経緯を思い返す……が、すぐに発端を思い出すとなんと言えば言いか迷い言い淀んでしまう……
と、
「でもさぁ〜、フルーツ牛乳なんて一番高いつって300円だし次はもっとハードル上げねぇ?」
「良いなぁ〜」
「みんなっ、流石に程々にしなきゃ……!」
「フータ氏淳氏、自分が絶対勝つと思って調子こくと痛い目見ますぞ〜」
相も変わらず寄り集まってワイワイはしゃぎたてる男子陣を見て意を決する。
「ねぇ、先輩達随分盛り上がってたけど、さ……その…何やってたの……?」
…へ?声を潜めた割には思わぬ問いに抜けた声を上げる雅一郎だが四人組の様子にあーっと納得すると頭を掻く。
「聞こえてたかっ。まぁ槌野とアラタは声デケェからなぁ〜……アレだよ、手シャボン。」
・・・
「手、シャボン……??」
聞き慣れない言葉に一層首を傾げる柚子をヨソに、雅一郎は両手で輪を作り、中央にフッと息を吹き付けるではないか。
「ホラ、手に石鹸塗ったくって指で輪作って〜ってヤツだよ。ユズもやったことくらいはあんだろ?」
……暫し黙していた柚子は彼の言い分にだんだんと記憶を呼び起こされていく。
思い出されるのは、幼稚園や小学校の流しで桃子と共に石鹸まみれの手でOKを作り、ひと吹きしたシャボン玉が飛び出しては喜んでいた光景……
「っ!アレ!?アレ5人でやってたの!?」
「そっ。一発勝負で誰が一番デケェの出せるかって、アイツらよくやってんだよ。」
「・・・へ、へぇー……」
大きくする勝負、家でも練習している、そして何より『屋根まで飛んだ』というアラタが口走っていたフレーズ……
じっとり。
風呂上がりなのに既に汗が浮かび顔がまたしても熱を帯びてくる。
余計なことを言うまいと無理やり引き結ぼうにもわなわなと震えてしまう口元、反応に困り震え出す肩……
「ど、どうしたユズ!?」
「ユズちゃあ〜ん」「落ち着いた〜?」
振り返った先ーー歩み寄ってくる二人に即座に距離を詰めた柚子は
「モモっ!伊吹ちゃあん!?」
「あやや!?」「な、なになに!?」
「ドッッと疲れたよもぉ〜〜」
二人に抱きついたままぐったりと脱力した。
「あやや〜!?今お風呂、」「入ったばっかなのに!?」
※
「やっぱり銭湯は良いですね。賑やかってだけでこんなにお風呂がいつもより楽しくなるなんてっ。」
「それなぁ〜。めっっちゃわかる。」
扇風機に当たりながら笑顔で話すユーリヤに目を細めながらアラタも返す。
「(ヒトのカネのフルーツ牛乳キメつつ風下ポジションで湯上ガーリヤちゃんを合法的に一服吸う。これ程の幸福はあらへんでしかし……)」
内心ではオークやトロルのように醜悪な笑みを浮かべていた彼だが、不意に鳴った電話に気付き応じる。
「どったんりょーやさん?」
[和泉クン、サンは要らない。隣駅の周辺に超越不審者が現れた。至急向かってくれたまえっ!]
・・・
「イヤ今風呂入ったとこなのにマジかいっ!!!」
\おひらきっ!!/
ガラガラッ!
蕎麦処葉月庵ーー小気味よい音と共に戸が開かれると、活気づく店内に一層大きな声が響く。
「どもっす店長ぉ〜お久ァ!!!」
「おぅ槌野か!相変わらず声がデケェな!」
応じた店主・葉月 哲也は楓太を快く迎えると、後ろに引き連れた3人ともども着席するなりニカッと笑う。
「いや〜最近外食つうとマジワン行ってたからね〜。ってわけでカレーうどんね。」
ねぇよ!!笑い飛ばしながらツッコむとしかしすぐに見知った面々を見ると一つ小さなため息を漏らす。
「哲也おじさん、何?」
「ほ?どうかなされましたか?」
...もっと見る「あ、そういや注文決めてないっすね……」
「イヤ、それにしても槌野と渋木と串間に介斗……オメェら相変わらずだなって思ってよぉ。」
やぁだなぁ〜、彼の言い分にケタケタと笑いながら楓太は引き続き言葉を返す。
「でも逆にさぁ、オレらが久し振りに来た時皆それぞれ全く違う人間引き連れてたら逆に怖くね?」
「別に良いんだけどよぉオメェら。串間はともかくとしてまだカノジョとかいねぇのかぃ?」
ちょっと!?誰よりも早く立ち上がって反論しだしたのは意外にも淳だ。
「待ってくださいよっ、そんな話どっから……!?」
「ん?どうも何も、泉ちゃんたまにウチ来るしよくユズ達と話してんぞ。」
・・・あー、暫し黙した後、気の抜けた声を上げながら淳は納得したように座り直した。
「いやはや、モテる男はツラいですなぁ淳氏ぃ。」
「もぅ、渋木くんたら。でも、島田さんメロメロだもんね。」
「お前らっ……!」
ニヤける大一を咎めながらも口元に手を添えてくすりと微笑む介斗、気まずそうに目を泳がせる淳。
そんな光景を見て楓太は自慢するように顎を上げ、哲也に向き直る。
「んま、オレらはこうやってバカやって笑い合ってる方が大好きなんだよーん。」
「好きにすりゃ良いのは解るけどよぉ、折角聖櫻に入って色気話のひとつもねぇのは勿体無くねぇか?」
「わぁーったよもぉ〜しゃーないなぁ〜哲也くぅん。」
やや複雑そうな哲也に露骨に甘ったれた声を上げながらニタニタと手招きで促した楓太は少し屈んだ彼の耳元に顔を寄せ、小声で囁いた。
「柚子チャンをボクにくだ〜ちゃいっ♥」
・・・
「おー痛ってぇ。雷親父はジョークも加減も知らねえからなぁ〜」
「バカかお前。」
「ジョークにしても相手と内容はしっかり選ぶべきですぞぉまったく。しっかし酒屋並みの怒りようでしたな〜…」
「だね。ひろしおじさんならともかく、哲也おじさんあそこまで怒らせるのは珍しいと思う。多分……」
腫れた頬と頭の瘤を擦りながらグズグズ泣き言を漏らす楓太に、同情の声はひとつも無かった……
◎『僕たちの聖櫻学園〜泡沫の勝負〜』
銭湯・花の湯……壁の向こうで熾烈な闘いが繰り広げられることも知らずに、少女達は癒しの湧泉を堪能する……
桃子「ユズちゃんお疲れ〜」
柚子「はぁ、生き返る…!モモもお疲れ〜」
伊吹「二人共ゆっくりしていってねぇ〜♪」
少女達が華やかに笑い合う中、不意に喧騒の中で存在感を放つ声が響き渡る。
「なぁーなぁー串間、渋木、曽良、和泉。この際だからハッキリさせよぉーぜぇ?こん中でぇ……
誰が一番デッッッカくできるか、よぉ……!」
ッ!?衝撃走った柚子が咄嗟に口元を湯に埋めた。
桃子「あやっ、ユズちゃん?」
伊吹「どうしたの?」
柚子「ブクク!い、いや!なんでもないの、ゴメンゴメン。アハハ……」
柚子「(待って、デッカくって何!?"一番でかいか"じゃなくて"でっかくできる"!?……じゃなくて!あたしも何言ってるの!?)」
アラタ「おっ、アレやっちゃう!?エエなぁ!」
淳「返り討ちにしたらぁ…!」
介斗「えへへ、僕だって負けないよ……!」
大一「で、ルールはどうします?優勝者に貢物とか?」
楓太「アホか、最下位が全員にフルーツ牛乳(※一番高い)に決まってんだろっ!!」
柚子「(え待って皆もやるの!?ていうか、アラタ先輩どころかツッコミ担当な串間先輩も初心な曽良先輩までノリノリ!?)」
アラタ「ぃよっしよし!んじゃまぁとりあえず2分後が勝負やな!」
淳「せーぜー恥かかねぇように鍛えとけよ?」
大一「家でも練習しましたからなぁ。フータ氏…最下位の件、二言は無しですぞ?」
楓太「なんだ渋木ィ、突っ掛かんじゃねえか。あたぼうよ。」
介斗「よしっ、頑張る…!」
柚子「(恥!?家で練習!?鍛える!?2分!?わ、わわ、わかんない!2分後にナニをどうするの!?)」
桃子「それで菫ちゃん先輩がねぇ〜……あや、ユズちゃん?」
伊吹「ねぇねぇ、大丈夫?」
柚子「ひぇっ!?ハッ、ごめんごめん大丈夫!な、なな、なんか部活でいつにも増して疲れちゃったのかなぁ〜!!」
友人達の言葉で我に返った柚子が笑って取り繕い、とにかくなにかの間違いだろうと心を落ち着かせるために談笑の輪に戻ることを決意した。
それにしても2分……この2分の間、息巻く男達は一体何を勤しんでいるのだろう。
先程の掛け合いを境に彼らの響くほどやんちゃな声は途絶えた。
恐らくは例の勝負とやらに懸けているのだろう。
柚子「そう言えばモモ〜、最近あの人とはどう〜?(まだ静か、2分経ってないのかなぁ?)」
桃子「あやや!?」
伊吹「あ、私も気になるかも!」
元々落ち着きの無い性分で活発な柚子にとってそれは初めての感覚だった。
今までこんなにも2分が長く感じたことがあったろうか。
伊吹「あ、いらっしゃーい!」
真由里「おー!お疲れッス!」
桃子「あやや、飛び込んじゃ危ないよ〜」
柚子「お疲れ〜♪(今どれくらい経ったんだろ…?)」
「いや〜すごい盛り上がりだねぇ……雛菜ちゃん、川上さんも手伝ってくれてありがとっ!」
救護テント、汗を拭いながら盛況を見届ける鞠香は2人に目を向ける。
「いーのいーの、次の試合までまだ時間あるしねぇ〜」
「はい。それに、水分補給も大事ですから…」
復帰した男子を見送る雛菜に次々とお茶を用意していく瀬莉、本当に助かると笑いながら鞠香も手際よく駆け込んだ生徒達の手当をしていく……
「さっ、さ、佐伯ちゃぁーん!!」
うわぁ!?いきなり激しい勢いで突っ込んできた随分と大きな影に3人驚くも、すぐにその正体を見届けるなり思わず呆気にとられた。
「雛菜ちゃん、騎馬戦なんてあったっけ…?」
...もっと見る「いやぁ…球技大会だし無いんじゃないかな…」
そう口々に言い合う相手は話題の通り3人が1人を担ぎ上げるまさに騎馬戦のような体勢ではないか。
「たた、たっ佐伯チャン!ソラッ曽良が…!」
「いっ一大事ですぞ〜介斗氏が、きゅきゅきゅ急患ッ!!」
「曽良、膝、転んでっ、血、血が……!」
「ちょっと3人とも、擦りむいただけなんだから…ゴメンね、これくらい自分で洗うから気にしないで…」
取り乱して口もおぼつかない3人と対照的に、困ったような口ぶりで介斗が諌める。
その膝にはたしかに血が滲んでいるではないか。
・・・はぁ…呆れたように殊更大きく溜息を漏らした鞠香が立ち上がる。
「ダメだよ適切な処置をしなきゃ。ハイハイちゃっちゃと終わるからとりあえず曽良くんおろして。全く、転んだだけなのにわざわざ3人も付き添わないの、試合中でしょ?」
「ぼ、僕は大丈夫だから…」
「でぇもよぉ〜」
「ていうかさ、6人中4人も抜けちゃったから、ホラ……」
何か言いたげな楓太に雛菜が指摘を入れると振り返る。
「エエかりゅーくん、アイツらの為にも行くでぇ!」
「ハイッ、アラタ殿!常ォォ在戦中ぅ!!」
・・・
「やっべぇ!」
「と、とにかく介斗氏は頼みましたぞ!」
誰ともなく大声を上げ慌てて立ち去っていく姿に3人、やれやれと首をすくめる。
「まったく、去年よりセコムっぷり加速してない?」
「ホント、曽良くん絡むと串間くんまでアレだもんねぇ〜…」
「それにしても、大丈夫でしょうか。」
苦笑いを浮かべる2人の脇で、想い人も参加する試合に瀬莉は目を向けた……
「ワリィ和泉、嶺堂!」
「アラタ、もう良いぞ、パスくれ!」
「おー頼む、ソレっ!てうわ!ボールチャンどこ行っとんねん!?」
「お前ぇ〜どっちに蹴ってんだよ!」
・・・
「ダメ、そうだね……」
\ピピーッ!/
―――――――――――――――――――
「おいヤバいぞ」
ハーフタイム、楓太が頭を掻く。
「さっきから全然運がキテねぇよ……」
「まぁ、ジブンもフータ氏も運動は苦手ですし…ソレもあるのでは…?」
「そこはなるべく配慮して組んでくれてるって言うし、大丈夫だと思うけど…」
息を切らせる大一にしかし介斗は口を挟む。
「たしかに来栖とか立花達みたいなハンターとか、赤跳とか皇とか刻宮とか、運動力高い奴らはバラけて配置されるようになっているんだ、その為にクラス関係なく組んでるらしいしな。それと競技と同じ部活の奴は別の種目出るようにちゃんとバランス配慮はされてるよ。」
補足するような淳の言葉に小さな確信を得た楓太は小さく笑って立ち上がる。
「なら大丈夫だな!オレらには普通に動ける我らが串間も和泉もいるし、それに……」
・・・
「頼んだぜ、嶺堂!」
「承ォオオ知ィ!嶺堂隆、参るッ!」
楓太から受けたボールを受け止めた隆がそのまま勢い良く蹴ったボールを一心に追い掛ける。
「よし、このまま押し切る!常ォオオ在ィ…!!」
ゴールを目前に足を止めず、駆け抜ける隆……と、
「ん?マズイ、嶺堂、横だ!」
「えっ、な、なんと!?」
斜めの方向から突っ込んできた相手選手が勢い良く彼のボールを流れるように掬い取り、そのまま自身のペースで柔軟な軌道を描きながらこちらのゴールへと駆け抜けた。
「相手を避けるのは苦手か、嶺堂……」
「ぷはは、りゅーくんはどこまでもまっすぐやからなぁ〜…」
\ピピーッ!/
―――――――――――――――――――
ま!だ!だ!
勢い良く叫んだ楓太は勢い良く頭を振るう。
「オレらにはまだまだ希望の最輝星、和泉がいる!」
拳を握り、力強く言い放つ姿に、不意に外野から声が掛けられた。
「槌野、アンタ知らないの?」
「んあ?なんだよ織部ぇ〜」
見ればクラスメイトの女子が友人2人を引き連れ呆れたような苦笑を見せる。
「いやほら、英子と一美から聞いたんだけどさぁ…」
「いや〜はっは。どーもどーも。」
あっけらかんと笑ったアラタが設置されたボールの前に立つ。
どうやらキックオフの順番が回ってきたようだ。
ひとつ、大きく息を吸った彼はボールから距離を取ると勢い良く駆け寄り、脚を振り上げる……
「どぉわぁ!?」
なっ!?一同が驚愕する中、アラタの足は豪快に空を切り、置かれたままのボールをヨソに尻餅をついた勢いで転がり、自身がゴールネットに飛び込んでしまったではないか。
「和泉ィーー!?!?」
「彼、球技苦手らしいのよ。」
・・・お、終わった。いつも楽観的な楓太ですら、ソレには確かな確信があった。
『おおっと、アラタ選手、オウンゴール!』
「ちょっ、なんでやボールは入っとらんやろ!」
\ピピーッ!/
―――――――――――――――――――
『以上をもちましてゲームセット、Zチームは初戦敗退となります。お疲れ様でした!』
非情なアナウンスにすごすごと立ち去る6人…楓太は不貞腐れるように頭を掻いた。
「なぁーっ、クソ、こんなん最初はダメダメでもスーパー大逆転の流れだっただろ!」
「いやー、流石に無理だと思うな…」
「そりゃそうだろ、なんで奇跡が起こると思ったんだ、バカ。」
「まぁ予定調和と言いますか…まぁもう動かなくて良いならジブンとしては願ったりですが…」
「いっやー、やっぱ球技は苦手やけど好き勝手走り回れるのは気持ちエエな〜りゅーくん!」
「ハイッ、アラタ殿!!」
『僕たちの聖櫻学園〜球技大会編〜』ーーE N Dーー
ハァ……だだっ広いグラウンドに狭しと沸き返る喧騒の片隅、長身ながらただでさえ猫背気味な体格を縮こまらせた影はジャージを頭から被りながら溜息を漏らす。
「聖櫻に限った話でもないが、何故学校は音楽祭だの体育祭だの、得手不得手をガン無視した行事を強要するのですか…暑さも本格化してる頃と言うのにこれでは拷問ですぞ…」
「・・・ま、まぁー、無理はするなよ渋木…」
ボヤく大一に微妙な表情で投げ掛ける淳…と、歓声が上がるなり彼はそちらに目を向け、既に見入っていた他のチームメイトも軽く一瞥する。
渾沌とする程にバラエティ豊かな行事を誇る聖櫻学園では、初夏の頃合に球技大会が開かれる。
新しい環境にも慣れた時期に、学年やクラスを超えた幅広い交流を目的とし、生徒達は多種多様な球技の試合を行うというものだ。
チームはクラスなどを関係無く編成されており、公平性の為に球技部員は当該球技の試合は当たらないようにと言った配慮もなされている。
「それにしてもスゴいね、吉川さんと酒井田先輩の白熱っぷり……」
...もっと見るそう介斗が感嘆する先ーー今、この野外の部で注目を集めているのは、運動部不所属ながらも運動能力を誇り、度々補欠として試合の出場を頼まれることが多い女子2人を中心とした試合だ。
「なんと言っても吉川殿は助っ人でありながらMVPを取ることも多いとお聞きしますからね!」
「ぷはは、夏海ちゃんも助っ人以前にそもそも根っからの筋肉バカやしな〜」
「ちょっ、アラタくん聞こえてるからねー!?」
感心するように漏らす隆に続いてあっけらかんとアラタが続くと夏海の抗議が飛んでくる。
ダッハハハ!楓太は軽く伸びながら満足げにそんな様子を笑い飛ばす。
「いっや〜、オレ運動は無理だけどこういうのは球技大会様々でワクワクしっぱなしだよな〜!なんつっても圧倒的 躍 ! 動 ! 感 !」
・・・不思議そうな顔の隆、呆れ気味な介斗、同調するように笑うアラタ…彼らをよそに首を振った淳は苦々しく口を開く。
「お前なぁ…ただでさえダメなんだから少しは動き方を学ぼうとしろよ。」
「でしょうな。フータ氏と来れば、1にお喋り2におっぱ「おりゃあ!」痛てぇ!?」
隣でボソリと何事か溢した大一は不意に楓太が投げつけた適当なボールが顔に当たり転げ回る。
「しっかしまぁ体育祭とは別に球技大会があるって聞いた時はビビったでぇ。」
そうか?頭を掻き、試合の数々を流し見しながら所感をそれとなく口走るアラタに楓太は聞く。
「おう、もういきなりそんなん言われたって『きゅー(急)ぎ』どないせぇ、って感じやわ。」
「ダッハハハ、それな!……フータとぉ!」
「アラタのぉ〜〜〜〜!」
\エブリデー・バカやで〜〜!!!/
拳骨拳骨ゥ!!!
「俺らの試合の時間なんだから早く行くぞ、バカ。」
瘤を作って項垂れる2人に舌打ちをひとつ、淳が引きずって行った……
『僕たちの聖櫻学園〜球技大会編〜』
―――――――――――――――――――
「GO!GO!Let's GO,SE・I・Oh!」
会場で少女達が眩しく舞い、誰でもなく、行事全体を鼓舞するような声が響き渡る。
元気付けられた者達も自身の戦場を駆ける足が加速し……
「うぉあっとぉい!?林田希羅チャンじゃん!」
「ちょっ、オイ槌野!!」
淳が怒鳴りつける先ーー約一名試合の真っ只中に足を止めて眼鏡を光らせたようだ。
「フータ氏、今っ、試合中、ですぞ〜!?」
「ぷはは、つっちー程々になぁ〜」
「イヤ和泉くん、そうじゃないんだけど…」
「試合中に足を止めるな、バカっ。」
口々に言いながらボールを追いかける面々、その脇で淳は楓太の腕を憤然と引きながら吐き捨てる、が…
「ちょおい串間、なんだよ!ちょうどオレらの会場の近くに林田チャンがいるんだぜ、見ないほうが失礼だろ!」
何をバカ言っているのだとお互い無駄な意地の押し問答を繰り広げる中、
「つっ、槌野殿ぉー!」
「つっちーあぶねぇっ!」
えっ…?隆とアラタの叫びを聞き不思議そうに彼らに目を向けようとした瞬間、
「ガァッ!?」
突如の重たい衝撃ーー顔面にボールが直撃して勢いよく彼は倒れた。
「槌野くんっ!」
「大丈夫ですか!?」
いってー…顔を擦りながら身を起こした楓太は駆け寄った2人に目を向ける。
「わ、わりぃ曽良、嶺堂……お前らもありが、ん…?」
「おおお、フータ氏、なんというザマに……」
「アカンわつっちー、ボク接着剤なら持っとるけど」
「おー、コイツはひでぇや……」
目を向けた先では、残り三名が転がるひしゃげた眼鏡を取り囲んで悲痛な声を上げているではないか……
「ってオイ!!」
\ピピーッ!/
―――――――――――――――――――
「さぁ、聖櫻球技大会、どこをとっても白熱した試合に目が離せません!」
モニター越しに実況をする明音の声が響き渡り、彼女は様々な様子を目で追いながらふと、1つの映像に目を留めた。
『さて、ここでZとSのチームの試合の様子を見てみましょう!』
「櫻井チャーン、そこは『つっちーフレンズ』って呼んでくれよぉ〜」
「呼ばんで良い…!」
スピーカーに声を上げる楓太に呆れたように口を挟んだ淳が追い抜き、相手が蹴るボールを刈り取るように奪って蹴り進めて行く……
『おっと!串間選手、流石のフットワークで相手を寄せ付けません!』
このまま押し切るかアラタに任すか……そんなことを考えていると不意に相手チームが迫ってくる。
おっと、咄嗟に思考を切り替えとりあえずとアラタめがけて勢い良く蹴り放つも、
「やべっ、距離が足りない…!?」
反射で動いたからか勢いが弱く、アラタに届くより先に奪われそうだ。
「じゅ、淳氏!?な、なんのぉ!」
フラついた足取りながらも近くにいた大一が咄嗟に蹴ると勢い良くボールが飛び、アラタに繋げられた。
「おわっと、行くでぇ!」
「サンキュ、渋木っ!」
「ほ!?あ、イヤ自分もまさか……」
『おぉーっと、渋木選手ナイスパス、お見事っ!』
えぇ!?自身を讃える面々に続く明音の声に彼は捻れた声を上げた。
「アイヤ、そのっ、櫻井氏!?ジ、ジブンは咄嗟にやってたまたまそうなっただけでして」
「し、渋木くん落ち着いて〜…!」
「渋木〜、そんくらいでデュフってんじゃねぇぞ〜!」
「何も、そそんなっ、ナイスと言えるほどのことなどジブンごときはですねぇ〜〜〜」
「し、渋木殿、前がッ!!」
ヴ!?ワタワタとした足取りで求められてもいない釈明じみた言葉を並べ立て友人の声すら聞こえていない彼は足がもつれ、勢い良く横面をゴールの柱に強打しふらりと倒れ込んでしまった。
「渋木ィーーーッ!!!!!!」
「だっ、大丈夫?」
「コイツいっつも女子に声かけられただけでデュフるからなぁ……」
\ピピーッ!/
―――――――――――――――――――
「なーなー、このコートなんか女の子のギャラリー多くね?」
試合が白熱(?)するなか、アラタが不意に疑問を浮かべる。
そこまで色めいた試合でもないと思うが、目を向ければチラチラと女子の観客が多い。
「えっ、和泉くん知らないの?」
「串間けっこーモテんだぜ。」
えぇ!?介斗と楓太の返答に思わず妙な声が出る。
「なんだかんだ高1まではバレンタインでも間宮氏や嘉村氏雪風氏には及ばずながらもそれなりにもらっていましたからな〜。」
はぇー…彼らの解説に思わずアラタは驚きを見せる。
「意外…て程でもあらへんけど、割と暗めやしそこまでとは思わんかったわ〜」
「和泉言い過ぎだろ!まぁ流石に島田チャンと会ってからそんなにベタついてくる奴もいなくなったけどな。」
お前ら……口々に話題に出された当の本人が苦々しい声を後ろから投げ掛ける。
「試合中なんだから無駄口より手…つか脚動かせ。」
ーー淳せーんぱい!ーー
と、不意に一際立つ声が上がり、思わず淳もそちらに顔を向けた。
「泉…!」
「頑張ってー!」
手を振る彼女ーー泉に柔らかな笑顔を見せ、彼は走りながらも手を振り返す。
「ふふっ、串間くんがあんな風に笑うなんてね…」
「あそこまで串間と距離詰めるんだからほんと島田チャンはすげぇよなぁー」
「しかも氷河期の長かったN枠からの今や売れっ子の富田美憂女史とくれば…まさにシンデレラガールですな(オタク特有の早口)」
「だぁからお前ら、無駄口じゃなくて…いって!?」
バシッ、呆れた彼は不意に痺れるような痛みを感じ、表情を歪めて腕を押さえた。
『ハンド!』
どうやら飛んだボールが淳の肘に直撃したようだ。
「待てよ、ぶつかっただけだろ!?」
「槌野くん、わざとじゃなくても肘に当たったらハンドになるんだよ…」
「淳先輩、大丈夫!?」
「大変、串間くんの肘が…!」
「早く連れて行かないと!」
「いや、ちょ、待て!?ただ肘ぶつけただけだから…!」
「大丈夫ですか、串間殿!?」
「しっかりせぇジョー!」
「串間くん!」
「淳氏!」
「串間ァ、オレ達がついてんぞ〜!!」
チームメイトはおろか、泉を筆頭としたギャラリーの女子陣まで駆け寄ってくるではないか。
「待て待て待て、そんなもんじゃねぇから来んなって、おまっ、お前ら、お前らァーッ!!」
\ピピーッ!/
―――――――――――――――――――
異界の月が満ちる夜、2人はいつも通り適当な洞を見つけて寝支度をする。
その過程で何の気無しに満月を眺めていると不意に隣でしっとりとした声が語りかける。
「月、綺麗だね……」
「うおっと!?なんじゃ、文学の真似事か?」
くすくすと小さく笑うアレクの姿に、やや反応に困ったようにクニオも笑い返す。
それより…一呼吸置きながら彼女は口を開く。
心なしかいつもより顔が紅いような……
「今日、貴方の世界は何の日か知ってる…?」
...もっと見るはて?今や異界を彷徨く割合が高いクニオにとっては難問だ、思わず手帳を取り出して確認する。
「2月14日か……どうかしたかの?」
「人間はさ、大切な相手に、その…お菓子あげるんだよね?だから、えっと…あたしも……」
そう押し付けるように渡されたのは鮮やかな色合いの紙袋、中には今やすっかり日本にも浸透した菓子ーーチョコレートだ。
「ッ、お主……!?!?」
「あの子達にも色々と教えてもらったり手伝ってもらったりして、この間買ったんだ。急でビックリだよね。でも、あたしはあの日貴方に助けられてから、ちゃんとお礼がしたいって……」
「あっ、ああ。ありがと……じゃが、お主がわしの見落としている物を教えてくれて、わしのサポートをしてくれて、充分世話にはなっとるぞ。」
「それでも、この気持ちは絶対に言いたいって思ってたから……」
突然渡された物にクニオは困惑する。
元より浮ついた文化には疎い性分で学友からも感性が古いなどと揶揄される始末だ。
しかし、初めてみた彼女を綺麗だと思い、心からの笑顔を見たいと願い、そして共に歩んでくれると申し出た姿を嬉しく思ったのも紛れもない事実だ。
いくら変わり者と言えどもクニオとて一介の男として己の肌に熱を感じていた……
ねぇ、暫し互いに返す言葉を探り迷っているうちに、やがてアレクは口を開く。
「ここでこうして言葉を交わして、気持ちを伝えたこともいつか思い出に変わっちゃうのかな…?ごめんなさい、こんなこと言ったら重たくて湿っぽいよね。あたしはこんな身体だし、そもそも人間ですら無いのに……」
クニオは祖父母の代の影響で幼少より訛りが強く、先述のように学友からも感性が古臭いと言われるような男だった。
しかし、彼は今、自分の取るべき行動を考える。
まっすぐな想いにはそれ相応に応えねばならない。
「その優しさにも、わしは惹かれたんじゃよ。のう、アレクよ……」
「っ!なに……?」
その…なんじゃ……いつになく言い淀むクニオの姿にアレクも少し背筋が強張る…
が、不意に彼から顎に手を添えられ、心臓が勢い良く跳ねるような感覚を抱く。
「くっ、クニオ!?」
「もし…お主がイヤでなければ今わしがやることを受け止めてくれぬか?イヤなら無論止めてもらっても良い。」
日頃飄々としている彼の、エイスモディの事件を始めとして幾度と見てきた真剣な目。
だが、今自分をまっすぐ見つめる姿には柔らかな優しさがあった。
彼女は心の準備を示すように目を閉じ、少しクニオに顔を寄せる。
っ……
甘く、淡く、互いの口唇に触れ合う暖かな感触……
数秒してからクニオが離れ、少し緩んだ笑顔を見せる。
「ありがとうアレク、わしもじゃよ。ここまで一人のおなごに心を惹かれたのは、お主が初めてじゃ……すまんの、わしのような人間が。」
……いつも伏しがちな目を見開きながら暫し紅潮していたアレクだが、やがて瞳を滲ませながら、不意にクニオの肩に腕を回す。
「ううん。ありがとう、受け止めてくれて……えっと、今後とも、ヨロシク……」
そうして、長旅を共にしてきた二人の関係は大きく変わった。
「ヒホッ、人間と魔族!?そんなことあるのかホ〜!?ヒホヒホ、これもグローバルってやつなのかホー!」
「なんか、違うような…?」
「フッハハハハハハ!なんとも豪胆な男よ、やはりキサマは見どころがあるなぁ。我が眷属となるならそれくらいでなくてはならぬ!」
「勝手な事言わないで、貴方の家来にはならない……!」
「何かよく解んねーけどスゲーじゃねぇか、グッハハハ!」
「とりあえずそれ言っとけば話通じると思ってない…?」
「とにかくめでたいなら美味しいもの食べたいよね?僕はお寿司の気分かな〜」
・・・
「オマエなんか海に沈めてやるーっ!」
「すぅーっ、すやぁー、すぅー……」
「ふふっ、貴方も祝ってくれるんだね?ありがとう……」
「(そ、そうなのか…?(;;Θ3Θ)」
「カッカッカ、こやつら使ってなんか巧く稼げないものかのぉ…ところで水掻きでは指輪は着けれんがどうするんじゃ?」
「尾鰭の付け根に着けてもらったよ、ホラ…」
「カッカッ、ええなぁ。人間で言えば足首のようなもんじゃし、拘束感が増しとるわいグヘヘ」
「お主少し静かにしとってくれぬか…?」
「貴女達も、本当にありがとう。」
「いやぁ〜おめでとぉ二人とも〜」
「まったく物好きな奴ら…でもま、今時の人間のオトコにしちゃそんなヒョロガリ選ぶなんて見どころあるんじゃない?」
「・・・なに、僻み?この根暗ウナギ…」
「アァ!?この枯れ専まな板人魚テメェ海入れやゴルァ!!」
「ちょっ、もぉ落ち着いてぇ〜、ていうか水魔的な『オモテ出ろ』って『海入れ』なの?」
「アンタはすっこんでろ!」
「クニオに色目使わないでよ、贅肉サキュバス…!」
「ぜぇ、にく…?びやああん!アタシサキュバスじゃないもぉおん!」
「オイお主ら、落ち着け。あと枯れ専とか言うがわしまだ28ぞ!」
気付けば増えていた『友』と呼べる者達にも囲まれ、ある意味新たな旅と言える道中は随分と賑やかになった。
だが、そんな旅も長くは続かなかった。
ある日から、アレクが調子が悪いと言うようになった。
身体が重いと息を切らせるようになった。
当然医者などいない、人間の医者の理解が及ぶものでは到底無い。
まさか人間と交わったからか?クニオはそんな自責にすら駆られた。
暫くは無理は禁物だと友人たる魔族達にも協力を得てアレクの回復に専念した。
やがて落ち着きを取り戻した彼女は一方でどこか落ち着かない素振りも見せていた。
あのね……二人きりになった昼下がり、アレクは切り出す。
「心配かけてごめんなさい。皆にも後でお礼言わなきゃね。」
「気にするな、当然のことじゃよ。それで、この症状が何か分かったのか?」
うーん…少し彼女は物思いに耽るように黙してから口を開く。
「正直確証は持てないけど、でも昔あたしの友達もこんな感じだったのを思い出してね。それで、その……たぶんなんだけど今あたしね……」
お腹に、赤ちゃんいるんだと思う……
「ッ!本当か!?」
心配という錘から解き放たれたように一気に緩む顔に、今まで見たことのない綻びにアレクはたじろぐ。
「わからないけど、友達も同じだったから、きっと……わっ!?」
瞬間、細身ながらも引き締まった肢体が、彼女の儚く繊細な身体を優しく抱きすくめた。
「そうか、ありがとう……」
身体が暖かく包まれる中…潤んだ目を細め、力が抜けるように繰り返す口元に今一度アレクも涙交じりに彼に腕を回し、顔を綻ばせる。
「あたしこそありがとう、だよ。それに……あたしもクニオの心からの笑顔、やっと見れた……」
こうして、彼らの旅には暫しの休止符が打たれるが、それは決して終わりではない。
彼らはまた歩き出し、数奇な出会いは更なる時を超える。
そうして二人の旅も出会いも、未来を生きる者が旅立つきっかけを与えるのだ……
『真太郎誕生〜しなるの謎〜』
――――――――――――
――――――
―――
「今でも昨日のように思い出すわい。あの時のあの子の幸せそうな顔…本当に綺麗で健気でっ、グズッ…良い女なんじゃよぉ、うぅっ……」
「(ま〜た始まった、そりゃアンタは昨日のことのように思い返せるだろうがよ……)」
「(うっわこの爺さん泣上戸かよ……) 」
「(めんどくさぁ〜、堪忍したってぇ……)」
あ、まだ終わりじゃないぞよ、もうちぃとだけ続くんじゃ(Θ3Θ)
「ヒホホ?オマエ、何者だホ…?」
が、次の瞬間には地を揺るがすような衝撃が走り、奴の魔力フェロモンは霧散した。
エイスモディもマーメイドも驚きの表情を見せる先では銀色に輝く拳を地に叩き付けるクニオの姿があった。
「オイ、エイスモディよ。覚悟はできたか…?」
「くっ…嘗めるなよ…!」
力を振り絞って放った魔力すら掻き消され、苦し紛れに呼吸をもらしながらもなんとか立ち上がろうとするが足元がガクガクと安定しないエイスモディはしかし、声を荒げる。
「人間よ、貴様は一体何だというのだ!?なぜマーメイド如きに肩を持つ!?そやつらが歌えば船乗りは惑い、近寄る船は沈む、人間にとっては紛うこと無き"敵"ではないか!」
「ッ…!」
突き放すような言葉にマーメイドは言葉を失う。
一方でクニオは構わず、腕に銀色の光を迸らせながら右手首に左手を添えて構えを取る…
「なんてことはない。この子と出会えて色々知れたからの。何よりも……」
...もっと見るクニオはマーメイドと歩んだ道中を思い出す。
彼女の歌に聴き入り溺れた自分を助けた時、歌いたいだけなのに影響を受けた人間が不幸に遭うと吐露した時、仲間を助けてほしいと懇願してきた時、その仲間がおかしくなった様子を見た時、満身創痍の自分を気遣う時、いつだって彼女は物憂げで儚い表情をしていた。
だからこそ、じゃろうな……
「わしが、わし自身が…!お主の心からの笑顔を見とうなった…!」
っ!彼の言葉にマーメイドは今一度息を呑み、視界が滲む感触を抱く。
「ぬぅ、くだらぬ綺麗事を!隙だらけであるぞぉ!」
構えるクニオを嘲笑い、再度鞭を構え彼目掛けてエイスモディは踏み出すが、突如として足がもつれて崩折れる。
予想だにしなかった冷たい感触と共に足元が強張る感覚。
氷?まさか!そう目を向けた先ではクニオの脇でこちらに手を差し向けるマーメイドだ…
目元には涙が滲み、その身には纏うように髑髏の浮かぶ人魂が漂っているではないか。
「おのれ貴様ァァァ!」
「フン、エイスモディよ。わしのこの気持ちを鼻で笑う貴様に、お前の目指す"性質の王"を語る資格は無いわ!」
次の瞬間、クニオは人差し指を突き出し、その先端に銀色の光が収束すると、さながら弾丸のように撃ち放たれ、一瞬にして奴の胸を貫いた。
・・・
広がる静寂。
クニオとマーメイド、そして彼女の同胞達が、腹に穴をあけた魔族の姿を見届けている。
「くふふっふ……」
しかし、こともあろうかこの期に及んでエイスモディは笑いながら口を開く。
「余を撃ったところで奴らに振りまいた魔力フェロモンは消えぬ。」
「なんじゃと…!?」「っ!?そんな…!」
ハッと目を向ければ、湖のマーメイド達は感情を失った顔で奴を見据えるではないか。
「そやつらは余を撃ち抜いた貴様らを憎み、屠り、そして余の肉体を取り戻す為に勤しむ。その時を、楽しみに待っているぞ、ハハハ……!」
高笑いと共にエイスモディの身体は塵と溶け、そして宣言の通りに、冷酷な目を赤く光らせるマーメイド達が二人を睨み付ける。
「まっ、マズイ!」「ちょっ、クニオ!?」
無理矢理足を起こし、マーメイドを抱え上げたクニオは彼女らから逃れるように慌てて走り去った。
ほうぼうの体ながらもなんとか体術とマーメイドの妨害を駆使して撒くことには成功した。
※
「魔力が解けないだなんて……」
マーメイドは沈んだ面持ちで俯く。
しかし、脇を見れば応急処置を施して木にもたれるクニオの姿だ。
「あのっ…元凶を倒してくれてありがとう。それに、無茶を言ってごめんなさい……」
「気にするな、わしが勝手に名乗り出たことじゃよ。」
クニオ……一抹の躊躇いがよぎるが、しかし言わねばならないだろう。
マーメイドは意を決するように言葉を繋ぐ。
「あたしは諦めない、絶対に皆を助ける。だから、貴方の船も沈まずに進めますように、祈ってるよ……」
・・・彼女の言葉に暫し、目を瞬かせながら見ていたクニオだったが、
「何を言っておるのじゃ。まだわしはお主の心からの笑顔を見ておらんぞ。」
すぐに呆れたように口をすぼめ、胡座をかきながら彼は言う。
「え?それって……」
「ほれ、動けるくらいにはなったんじゃ。策を探しに行くぞよ。」
困惑するマーメイドをよそに立ち上がったクニオが手を取って引き寄せる。
「あっ……ありがと……」
真っ直ぐな目に、思わず視線を逸らした。
そうして再び彼らは旅をした。
「フッハハハ、人間でありながら我らを恐れぬその姿、気に入ったぞ。我が有能なる眷属として迎え入れてやろう!」
「ねぇ、勝手にクニオの上に立ったつもりでいないでくれる…?」
「なんだ人魚よ、キサマなかなか見どころあるな、否、それくらいでなければ釣り合わぬか!」
「なんじゃなんじゃ、勝手に言い争うでない…」
「テメー強えーじゃねぇか!気に入ったぜ!オレ様とテメーはソウルフレンドだ!」
「クニオ、大丈夫?勝手に襲い掛かって来て勝手に友達だなんて、図々しい奴……!」
「あぁ!?オイ女ァ、オレ様はクニオは気に入ったがテメーは気に食わねぇなぁ!?」
「二人ともやめんか、落ち着けぇ……」
「カッカッカ、お前と組めばワシはもっとリッチな思いができるかもしれんからな、良かろう、協力しちゃる。ところで人魚や、ちぃと助けてくれんかの?」
「えっ、あたし?何をすれば良いの?」
「実はウォシュレットが壊れてしもうてな…お主の操る水でちょいと洗ってくれんかの?」
・・・
「オマエなんか海に沈めてやるーっ!」
「落ち着け落ち着け、ていうかお主ウォシュレットわかるんか……?」
「ここから西の山の頂上の秘泉には水神がいるって聞いたホー。何かわかるかもしれないホー!」
「ありがとう……」
「ヒホヒホ、このまま暴れられてちゃオイラまで危ないホー。」
「お主、一言余計とよく言われんか…?(Θ3Θ;;)」
道中、やはり様々な出会いを経ながらも有益な情報と巡り合い、聞いた通りに彼らは水神の元を訪れることに成功した。
この後もお約束と言うべきかこの水神もこれまた好戦的な性分らしく、魔力の影響を解く条件にと腕比べを強いられもしたが、ともかく勝利を収め、水神の浄化により湖のマーメイド達の正気を取り戻すことに成功した。
ありがとう、涙ながらに笑顔で言う姿を見届け、優しく笑いながらクニオは言う。
「いやはや、わしも楽しかった。また会おう、達者でな……」
そう背を向けた時、
「待って!」
今一度、袖を引き留められた。
「あたし、まだ恩返しができてないから、貴方の旅をサポートしたいの、きっと役に立ってみせるわ!」
突然の申し出に思わず困惑する。
「しかし、お主はまた皆と暮らしたいのではないのか?」
それは、そう……でも…意を決したように固唾を呑むと彼女は言葉を返す。
「今は、貴方の進む船が沈まないように支えていたい。」
それに……一呼吸置くなり、彼女は冷たく淀んだ目を浮かべ、その周囲に髑髏の人魂を浮かべながら言う。
「貴方の邪魔をする奴らだって、あたしが沈めてあげる……」
「そ、それは頼もしいことで……(;;Θ3Θ)」
ところで、ふと思い出したようにクニオは切り出す。
「そうなればお主にも名前が要るな。」
え?彼の提案にマーメイドはぽかんと首を傾げる。
「ナマエ…?」
「うむうむ。わしが『人間の"クニオ"』であるように、お主もいつまでも『マーメイド』ではつまらんじゃろう。」
そうさな……数秒考え、再び口を開く。
「"アレク"はどうじゃ?昔読んだ小説で見かけて響きを気に入っておったんじゃが……」
アレク……復唱した彼女の口元が徐々に緩んでいくようだ。
「あたし達、一人一人のナマエなんて意識したことなかったから嬉しい。ありがとう……」
こうして、二人の旅は三度始まった。
「ヒッホー、オマエらまだつるんでたのかホー。」
「まぁ縁というもんじゃな…」
「へぇ、随分とお互い物好きな奴らね…」
「わぁ、二人ともすっごく良い匂いするよぉ〜」
・・・
「なに、色目使ってるつもり?」
「ハァ!?」「えぇっ、そんなことないよぉ!?」
「(うむうむ、楽しそうで何よりじゃな(Θ3Θ))」
今度の旅は異界を巡り見聞を広めるだけでなく、アレクの希望で自分達の世界に連れていくことも増えた。
元より怪物の情報収集に熱を上げる変わり者と呼ばわれてこそいたが、やはり召喚者のような契りもなく魔族を連れている姿は随分と珍しがられたものだ。
そして、アレクは時に自ら正体を隠しながら、時に異界で出会った友の助力を得ながら人間の文化を学んでいたらしい。
クニオは思いもよらぬ日を迎えることとなった。
元々彼女たちマーメイドはとある湖に暮らしていたらしい。
しかし、ある日住処を離れようとした矢先に妙な霧が立ち込めたと思えば、突如として彼女以外のマーメイドの様子がおかしくなり、偶然影響を免れた彼女をも引き込もうと襲ってきたらしい。
「何らかの呪いによる暴走、と言ったところじゃな…恐らくは黒幕がおる……」
顎を擦りながら、先と打って変わって真剣な面持ちで語るクニオの姿にマーメイドは一層身を乗り出す。
「お願い、もし良かったら、仲間を助けるのを手伝ってくれる……?ごめんなさい。出会っていきなりこんな事言うのもおかしいけど、もしかしたら貴方ならって、そう思えて……」
躊躇うように段々と沈む声、先程から変わらず物憂げな表情……しばしその姿を眺めていたクニオは小さく笑った。
「構わんよ、わしも学につながるなら願ったりじゃしの……」
「っ!あ、ありがとう……」
胸元で手を合わせクニオに言葉を返す表情が少し和らいだ。
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そうしてクニオはマーメイドを連れ立ち、共に彼女の住処たる湖を目指した。
「ヒホ!?ま、マーメイドかホ!?」
「安心せぇ、この子は無事じゃから凶暴になっておらんぞ……」
「クニオ、信じてくれるの…?」
「目を見れば分かるさ……」
「勝手に共に寝てしまってすまんかったの、縁があればまた会おう…」
「すぅーっ、すやー、すぅー……」
「……なんか、可愛い、かも…?」
「んじゃあ今度人間のとこ連れてってくれたら良いお店教えてねぇ〜……それにしても……」
「?あたしがどうかした…?」
「え、あー、んーん。ただちょっとお刺身食べたくなったなぁって……」
・・・
「オマエなんて海に沈めてやるーっ!」
「こ、これこれ気持ちはわかるが落ち着かんか…」
道中、多種多様な魔族達と出会い、交流を重ねながら2人は湖を目指し、ようやく辿り着いた。
そして目にしたのはあまりにも異様な光景であった。
「み、みんな…?これはどういうこと…!?」
「あ〜、帰ってきたんだぁ……」
「ねぇ、貴女も早くおいでよ?」
「このお方と一緒なら私達幸せになれるよ……」
「貴様、何者じゃ…?」
マーメイド達が群がるように寄り添う影ーー羊のような体毛と角を具え、さながらアヒルやガチョウを思わせる足で仁王立ちをする異形の男は、侍らせるマーメイド達共々冷たい目で異物たるクニオを見据えた。
「余はエイスモディ。世への復讐のために美を追求する者ぞ。」
復讐、じゃと…?突如相手から言い放たれた言葉にクニオは身構える。
「あぁ。この世界は余と同じ性質と名を持ちながらもサキュバスやリリムと大差無い痴●のような連中が圧倒的多数として存在しており、余はそんな連中に地位を追われていると思わんか?」
・・・
「いや堂々と●女とか言うでないわ!」
「チ●?ねぇクニオ、●ジョって何?」
「知らんで良い、お主にはなんら無縁な言葉じゃ!…しかしエイスモディ……そういうことか…?」
どこか興味深げなマーメイドの言い分に思わず声を荒げるが、改めて彼はエイスモディの名と言い分から何事かを察し一人納得する。
「じゃが、それとこの騒動とは何の関係があると言うのだ?」
簡単なことだ、相変わらず恍惚としながら寄り添うマーメイド達を抱き寄せ、頭や頬を撫でながら奴は返す。
「余の魔力フェロモンでこやつらに余への愛を抱かせた。元よりマーメイドの血は長寿の効を持つからな、ゆくゆくはこのようなまやかしでなく心の底から余を愛するようになったところで甘美なる血を頂き、余こそが性質の王たりうる永遠の美を得るのだ。」
だめっ…!いつになく声を上げてマーメイドが身を乗り出した。
「お願い、もうやめて!みんなを解放して!」
彼女の言葉に数秒、やや呆気にとられたエイスモディはしかし、優しく微笑みながら歩み寄ってくるではないか。
「案ずることは無い。そちも皆と同じように余を愛せば良いのだ。」
「そうそう。」
「ほら、早く……」
どことなく優雅な足取りで距離を詰めてくるエイスモディ、背後には相変わらず同胞達が周囲に髑髏の頭を浮かべながら快楽を促すようにマーメイドを誘う。
そんな中、奴はクニオに改めて冷たい目を向けながら口を開いた。
「して…そちは人間か?よもや余を止めようなどと言う戯言を聞かせにでも来たのか?」
「そういうことだ。お主がマーメイド達を解放しないと言うのであればわしも出方を選ぶこととなるぞ…」
鋭い視線と共にこちらを見据える姿に数秒黙するエイスモディだが、やがて口元を緩めると大きく笑い出す。
「はっははは、人間如きが余を討とうなど笑止の極み。不遜にも牙を剥くなら加減はせぬぞ…?」
「エイスモディ様、その子助けてあげて…」
「変な人間に誑かされてるなんて可哀想……」
「ちがっ、あたしは…!」
燃え盛る鞭を生成するエイスモディを鼓舞するように呼びかけるマーメイド達、クニオの背に控える同胞を見る目は同情を浮かべながらも彼女の心を追い詰めるほどに冷やかだった。
しかし、クニオは躊躇わず彼女を奴らから遮るように片手を広げながら歩み出す。
「甘くは見るでないぞ、これでも銀弾の家系…と言えども拳銃は慣れとらんが、それでも腕節にはそれなりの評価があってな……」
おや…?佇むクニオの両腕に銀色の魔力が漂う様を見たエイスモディは口角を曲げ、鞭を改めて構える。
「面白い、ならば現実を目の当たりにして悔いるが良い……」
エイスモディは苛烈に燃え盛る鞭を振るい辺りを引火させながらその猛威を見せつける。
しかし対するクニオもまた負けていないようだ。
彼が腕に魔力を纏いながら繰り出す拳は炎を打ち消し、地を揺るがし、そしてエイスモディを打ち据える。
互いの身体が焼かれ、打たれながら応酬を繰り広げており、思わぬ力を見せる人間にマーメイド達も驚愕を浮かべ、自信に満ちていたエイスモディも徐々にその表情を歪めていく。
「(すごい、彼なら……)」
手を合わせ、クニオの背中に希望を抱くマーメイド。
しかし、エイスモディは苦い顔を浮かべながらも冷静な様子で佇みながら彼を見据えた。
「ほぉ。戯言ばかりでも無さそうだな。」
良かろう……笑いながら奴が勢い良く拳を握りしめると、全身から真黒に淀んだ魔力が溢れ始め、息を荒らげながら全身に流れ込む魔力を受け止める。
ぞくり…その異様な光景の中で愉悦のように笑む魔族の姿にクニオは一抹の悪寒を抱いた。
「貴様…なんじゃその力は…?」
「嘗て、余は妙な"実"を食らったのだ。その瞬間今までに感じたことも無い力に目覚め、数多の魔族を魅了する程の魔力フェロモンを得たのだ。よもや人間如きを打ちのめすためにこの力を解放することとなるとは思わなかったがやむを得ぬか……行くぞ人間。」
一瞬のことだった。
言うより早くエイスモディの姿は消え、クニオの身体が熱と強烈な衝撃を感じた時には勢い良く地を転がっていた。
「ッ…!ぐぅ、貴様ァ……!」
「クニオ!」「来るなぁ!」
咄嗟に起き上がったクニオはエイスモディが再び打ち放った鞭を掴み、勢い良く引き寄せて蹴りを見舞う。
「…どうした?余が本気を出した途端そんなものか?」
涼しい顔で奴は返し、クニオ諸共に鞭を振り上げると彼の身体を地に叩きつけ、更に鞭から火焔を迸らせてその身を焼き焦がした。
「ぐぅう、おのれぇ……!」
狂気とも言える笑みを漏らすエイスモディはさながら嬲るようにクニオに幾度と鞭を叩きつける。
クニオとて元より身体力と魔力には恵まれている故応戦するも決定打となる手応えが無く防戦を強いられているようだ。
ぐぅ……いよいよ猛攻に今一度クニオは膝を着く。
「なんて奴じゃ……一体何を食って…?」
「フッ……ククッヒャハハハ!所詮人間如き、余には敵わんわ愚か者めがァ、素晴らしいぞこの力ァ……!」
なんじゃ…?先までの気品のあった立ち振る舞いが崩れたように凶悪な笑みを浮かべ、全身から黒い靄を放出しながら笑う姿に違和感を抱いているとしかし、やがて奴は覚束ない足取りでよろめき出すではないか。
「ぐぅ!?な、ナンダァ…?」
なるほどな、その姿にクニオは察したように一息つく。
「お主が食った実が何物かは知らんが、どうも強大な力を与えこそすれども、負担もかけるようじゃな……」
「ナンダトォ……愚か者め、余がそんなモノに呑まれる訳がっ、ガハッ……」
咳込んだ口元から黒い魔力を吐き捨てながらエイスモディは胸を押さえ姿勢が崩れ落ちる。
「どうする?これ以上暴れるなら貴様がもたぬぞ……」
「フン、馬鹿を言うでないわ、こういう時の為の……」
ニタリと笑いながらエイスモディは視線を動かす。
目線の先…
「貴様ラァ、余に血をよこすのダァア!!」
心配そうに自身を窺っていたマーメイド達目掛けて飛び掛かった。
「やめてぇっ…!」
正気のマーメイドが悲痛な声を上げるのと対照的に、湖の同胞達は奴を迎え入れるように微笑みをうかべ、エイスモディは彼女達の肌目がけて尖った歯の生え揃った大口を開けて飛び掛かる。
「やめんかぁあ!!」
声を絞り出したクニオは一飛にエイスモディに飛び付き、その軌道を逸らしながら諸共に地へ転がり込んだ。
「この死に損ないめがァ、何のつもりだ!」
「言いよるわ、貴様とてその力を使えば長くはないぞ!」
「クニオっごめんなさい…!もうやめて!」
「っ、お主…!?」
不意にクニオの手を取った影ーー彼が連れていたマーメイドが縋るような声を上げる。
「もう良いよ、あたしがこんなこと頼んだばっかりに貴方のことボロボロにさせちゃって…!」
「何を言う、よさぬか…!」
「ふん、愚かだなぁ、人間なぞそちよりも脆いものを、何を望んだのだ?我に愛を捧げる方がよほど価値あることぞ。この際人間も我が魔力に呑まれるが良い、小間使いにはしてやろうぞ。」
「うるさい!オマエだけは許さない!」
冷たく睨みつけるがしかし、エイスモディは気にせず脱力と共に膝を付きながらも二人目掛けて手を差し向け、魔力を放出する。
クニオッ…!迫る支配の力にマーメイドは身を竦ませる。
とある山奥、そこに湧き出る秘湯ーーその周囲には四人ほどの影が次々と服を脇に置いて爪先から身を沈めていた。
「先生、本日はお越しいただきまして、誠にありがとうございました。ささやかながら召し上がってくださいませ。」
既に湯に浸かる人物に声を掛ける男は一升瓶を持ち、猪口の載った盆を差し向ける。
彼の傍の服には翁を模した金色の能面が置いてあるのが目を引くだろう。
「おぉ、コイツはありがたいな。頂くとしようかの。」
声を掛けられた人物ーー顔や体格からして初老程度ながらも年期を感じる白髪頭の男が湯に緩んだ顔のまま笑顔を浮かべながら答える。
「なぁ〜なぁ〜学園長、僕にもちぃと頂け「るわけねぇだろ、テメーはダメだバカ。」なんやいけずぅ。」
恐らく翁面の持ち主たる男の酒を前にして縋るような声を上げたのは銀髪の青年だ。
...もっと見る中性的で泣きぼくろが映える色白の美麗な顔立ちだが、右額からは瘤と呼ぶには不自然なほどに張り上がった…さながら角としか言いようの無い突起を備えている辺り人とは非なる者で間違いないだろう。
そんな彼を制したのは黒髪で眼鏡を掛けた青年だ、精悍な顔立ちを苦々しく歪め吐き捨てる。
「貴方達、特別講師の前でおよしなさい!」
「うっ…そっすね……」「すっ、スンマセーン…」
そんな様子に学園長と呼ばれた翁面の男が一喝すると2人は肩を竦み上がらせながらしおらしく引きつり笑いを返した。
すみませんねぇと、白髪の男に対し、翁面の男は苦笑を浮かべるが、
「構わんよ、お主ら元気なようで何よりじゃ。折角の湯を楽しもうぞ。」
目を細めながら口をすぼめ、猪口を片手に満悦な様子で3人を制する白髪の男は開放感に身を委ねるように深く息を吐いた。
「しかし、先生の知識には本当にお世話になっております。」
「いつもありがとうございますぅ。『僕ら』だけでは他の『連中』のことはよく解らへんからなぁ〜」
「なんの、わしはただ自分が分かることを教えとるだけじゃよ。そういえばお主、4人目が産まれるんじゃってな?」
「えぇ!?イヤそっすけど、誰からそんな話を…?」
指名された眼鏡の男は驚きを見せながら応えるが、即座に何かを察するように隣の角の男を睨みつける。
「そやつが愚痴ってたのが聞こえただけじゃよ。」
「テメェコラ、ヤんのかオイ?」
「んもぉセンセ、ユーモアの通じん子やさかい要らん事言わんといてぇ〜」
眼鏡の男が凶悪な笑みを浮かべながら前腕に生成した鋭利な刃を角の男に突き付け、当人は参ったように頭を掻いて舌を出す。
「ア ナ タ た ち ?」
「ヒェッ!?」「スッスス、スミマセンッ…!」
しかしそんなやり取りもまたしても学園長の一喝に収まった。
恐らくはこれが彼らにとっての茶飯事なのだろう。
楽しげに笑いながら白髪の男は諭すように言う。
「しかし四児の父か、頑張り甲斐があって大したものじゃのう。子を思う父は強し、じゃ。」
「いや貴方もう子供どころかお孫さんまでいらっしゃいますよね…?」
「それやそれ、アンタ80前後行っとるなんて言うとったけどその顔で嘘やろぉ?」
感慨深げに頷く姿に学園長と角の男が指摘を入れるとしかし、複雑そうに笑みを浮かべながら男は語る。
「そうじゃなぁ、まぁわしの場合は間違いなく、『あちら』に長居したり頻繁に出入りしたりが原因じゃろうな。」
後は…いや、これは良いか。
そんなことを思いながら白髪の男は再び3人と談笑を交わし始めた…
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「ええか、あやつらは集団で攻めてくる上に果物が好きなんじゃ、コレを使わない手は無いぞよ、一網打尽じゃ。」
「ばーちゃんはすごいのぅ、いろんな魔物のことに詳しくて。」
「いくら一族に銀弾の技術とそれをこなせる魔力が伝わっているとて、敵を知らんと動きようもないからねぇ…」
『彼』の一族は銀の弾丸で人畜を害する魔物退治を行う『魔法使い』の家系だった。
起源は祖先たる日本人の魔法使いが西洋圏に留学した際にシルバーバレットの文化を学び、自分たちの家系の魔術に擦り合わせたなどと聞くが、まぁこの際は良いだろう。
ともかく、そんな家系で生まれた彼だが、魔物に対して詳しい知識を見せる祖母の姿から魔物達そのものの実態に興味を持ち、物心がついた頃には文献を読み漁って妖怪や魔族のような魔物達及びその伝承に通ずる民俗学に傾倒するようになり、より多くの異形を知るためにと、20を超え独り立ちする頃には自ら世界や異界を練り歩き、時には衝突して争い、時には打ち解けて戯れ、様々な魔物を観察して知り、膨大な知識を蓄えるようになっていった…
銀弾の者として励み、時には銀弾の魔力そのものを指先に宿して撃ち出す術を編み出す為に研鑽し、その傍らで魔物と触れ合い広めた見聞を資料として纏める日々を彼は楽しんでいた。
そんな時に出会ったのが、彼女だった…
その日、彼は異界の水辺を歩いていると、
「ん、なんじゃ…?」
不意に儚げな声が聞こえてくるではないか。
よくよく聴くとそれは歌だろうか…?
正体を辿るように岩場の陰へと行くと…
「あれは……」
彼は陰から覗き見た正体に思わず目を見張る。
長い髪を靡かせ、一人か細い声を口ずさむのはスレンダー、というよりもはや華奢と呼ぶにも薄すぎる体型で儚い面持ちの女性…しかし胸と腰回りは鱗に包まれ、太ももより先は一本の尾鰭が、両肘より先には水かきを具えた緑色の皮膚が露わな辺り、紛れも無く人外の者だろう。
「"マーメイド"か、良い声じゃな……」
思わず暫し立ち竦んで聴き惚れていたが…
ばしゃり。
「ッ…!だ、誰!?」
突如響く飛沫音に咄嗟に振り向いた先、一人の影が倒れているではないか。
「な、なんだ、追手じゃな……え…!?」
一瞬胸を撫で下ろすがしかし、当の影ーー一人の青年が口をすぼめ目を細める脱力した表情を浮かべながらブクブクと水底へ沈んでいくではないか。
「え、ちょっと、待って…!?」
完全に水没する前に慌てて引き上げ、意識を戻すように軽く揺する。
「んーむむむ…はて何があったかのぅ…?」
「えぇ……」
やがて目を開ける青年だがまず出てきたのは溺れかけたと思えぬほど呑気な声だ。
相変わらず口をすぼめたまま頭を搔く青年にマーメイドも呆気にとられるがしかし、すぐに疑問を口にする。
「あたしはマーメイド。貴方、人間…?」
お?突如振られた話題にゆるく笑いながら彼は応えた。
「ああ、クニオじゃよ。助けてくれてありがとう。」
「…あたしの方こそ、ごめんなさい。ただ歌いたかっただけなのに…」
気にせんでええよ、後ろめたい表情を見せながら言う彼女の姿に青年・クニオは以前文献で見たマーメイドの性質を思い出し事情を察する。
「わしが勝手に聴き入っただけじゃからな……」
あっけらかんと言い放つ姿にふと、マーメイドは違和感を抱く。
この男、人間と言うが先程溺れかけたことを除けば随分ピンピンとしている上に獰猛な魔族に溢れるこの世界にいながら目立った外傷も無く、何より自分の性質を知りながらも怯えも拒絶もしない…
彼なら…意を決したように息を呑むと彼女はクニオに詰め寄った。
「ねぇ、貴方ってもしかして強い?」
「ん?わしは強いなどと思ったことはないぞ。家族からはかなり魔力が高いと言われるがの。」
「魔力が…?そう。あのね、お願いがあるんだけど…」
「そう言えばお主追手がとか言っとったな?」
「あ、それは聞こえてたんだ…」
改めてひとつ息を吐き出すと、彼女は口を開いた…
「ってことがあったからさぁ…そうなると俺も呼ばないわけには…アラタくん?」
少し複雑そうに話しながらも、このノンデリ野郎め茶化してくるだろと構えていたが、聞き入っているのかアラタは一向に口を出さない。
ふと気になって目を向けると…
「ッ…!ッ、ッ……!!」
「えぇえ!?あ、アラタくん!?泣いてんの!?」
俯きながら目元に手を翳し、しきりに啜り上げる姿に思わず困惑の勢いのままに真一は言うとアラタは勢い良く立ち上がり、
「ゔぇえええ!カンドーしてもぅた!」
そう言いながら踵を返すと一直線に座敷へと戻り、
「お、戻ってきたか…」
...もっと見る「オバアチャーン!ボクのことは孫2ご……あ、2号は先約おるか、孫3号って呼んでくれて「気持っち悪りぃなオイ!?」ギャッ!?」
涙を散らしながら飛び込むが即座に銃声が3発響くとアラタは転げ落ち、銀色の煙を噴き出しながら蹲った。
「少しは見直そうと思った俺自身が情けないよ!」
「ふふ、真一。面白い子だね…」
「よしてよおばあちゃん、下手すりゃ魔族以上のバケモノだよアイツ。」
「そ、それよりも真一!いくらなんでも銀弾をそんな…!」
「アラタめまして和泉アラタっす、今後ともよろしくぅ!イヤしかし考えてみるとアレやな!」
「うわ立ち直り早っ!?」
友人に向けて発砲した真一に多穂が語気を強めるが、あっけらかんとした様子で起き上がって呑気な言い分を見せるアラタの姿には程なくして真太郎共々驚きを見せることになった。
「するってぇとアレかぃ?真さんは半分はマーマンてことかぃ?」
「イヤ、真太郎は人間じゃぞ。」
邦夫が口を挟む。
「そもそもーーコレはわし自身も経験を経て知ったことじゃが、本来異種間の子は基本的にどちらかの親と同じ種が産まれるんじゃよ。」
え、そうなん!?邦夫から語られる話にアラタは驚きを見せるが、それを受けながら彼は続ける。
「うむ。わしの知り合いにも『鎌鼬』と『鬼』の夫婦とかもおるが、子供たちはそのどちらかしかおらんし、寧ろ世間的にイメージされがちな両親の性質を併せ持つ種族的ハーフのような子は極めてイレギュラーなケースなのじゃよ。」
はぇ〜……感嘆のような声を漏らしていたアラタだが、
「でもまぁそうよな、確かに人間と人魚やと下半身が変わるか泳ぎが上手いかくらいにしかならへんしな!ウンウン」
「キミのデタラメな強さはデリカシーと引き換えに開花したのかい???」
やがて納得したように腕を組んで頷くその姿に真一が呆れ返った声を投げ掛けた。
「しかしアレクの血は確かに継いどるぞ、真太郎はこう見えてバケモノ級の生命力を備えておる。」
「そうそう、そのうえ真太郎はお人好しで油断が多いからね…」
「ちょ、父さんっ、母さんまで…!」
本当にねぇ、追い討ちを掛けるように口を開いたのは多穂だ。
「思い切り貫かれたり、大っきい敵に咀嚼されて飲み込まれたり、何回も死んじゃったと思った時もあったのに、全部ピンピンして生還してたんだもん。協会でも単純な強さと実力以上にそっちが重宝されてるみたいなとこあるし…」
「おおおすっげぇ、さっすが真さん!!」
困ったように狼狽える真太郎に目を輝かせるアラタ…
・・・
アレ?ふと真一はそんな彼の姿に首を捻る。
「貫かれようが噛み砕かれようが死なない『ごく普通の』人間を俺は最近見たような、よく知ってるような…?」
うん面倒臭い、気の所為ということにしておこう、一人言い聞かせるように彼は首を振った。
「異種の子のことはわし自身まだまだわからんことだらけじゃよ、簡単な話じゃないのは確かじゃがね。もしも種族的ハーフが産まれたらそれはその子に重い因果を負わせるも同じじゃよ…特にマーメイドが脚を持つことは縁起が悪いとも言うしのぅ」
遠い目で空を見据えながら言う姿はどこか複雑そうな表情を浮かべていた。
「でも、体質だけ母さんから継いであとは完全に人間なんてあるのかな?」
いんや、不思議そうに漏らす真太郎に邦夫が応える。
「マーメイドの長寿の血は勿論じゃが、厳密にはわしの持つ魔力も影響しとるんじゃないかとわしは考えとるよ。」
何にせよ…、納得する真太郎をよそに引き続き彼は続ける。
「それに、わしらは母(アレク)が魔族じゃったから恵まれておるものの、母が人間じゃと魔族や妖怪の子を産むには膨大な生命力を消費すると聞いた……」
「おじいちゃん……」
「あの時は大変だったよね。あたしも、子供がマーメイドだったら本能的にどうにかなったかもしれないけど、人間だったら水中では産めなかったし。」
「あぁ、コレばかりはあの医者様々じゃな…」
「医者?魔界にもおるんか?」
不思議そうにアラタが聞くと、邦夫は再び応える。
「旅の途中で出会った『たかはし』先生という男でな。妖怪の医者を生業とする百々目鬼じゃよ。アレクは妖怪でこそないがその男も随分好奇心というか知識欲の旺盛な者でな、そのお陰で世話になったんじゃ。」
その名を出した途端、アレクが目に見えてムッと表情を顰める。
「…恩人は恩人だけど、あたしあのヒト苦手……」
まぁまぁ……真太郎と多穂が宥める姿になんやと疑問を抱くアラタに耳打ちするように真一が言う。
「俺もたかはし先生は会ったことあるんだけど、好奇心旺盛な上に生来のサイコ?マッドサイエンティストってのかな?って感じで、おばあちゃんのことかなり珍しい構造の人魚だって気になってる上に、お父さん出産の縁から予防接種受けてるのもトラウマらしくてね……」
「ヒッホー、いっつも注射の日は大ベソでクニオにしがみついてるんだホ〜……」
なるほどなぁ…魔族も色々あるんやなぁとアラタは感心したように頷く。
「ハッ、なぁ〜にがハーフは重い因果を背負うだか。」
「まぁまぁ〜」
おっ!?アラタにとって聞き慣れた2つの女性の声に振り向く。
片や頭や尾に鰭を具えた群青色のウミヘビのような姿。
片やビキニを纏った女性的なピンク色の亜人風な姿……
「おぅビィちゃんデモスちゃん久し振り。」
「アラタくん久し振り〜」
朗らかに手を振るデモスに合わせて尾を振って応じるヴィアだが、口角はケッと吐き捨てるように歪めたままだ。
「ったく、孫もいるB●Aが年甲斐もなく夜な夜なイチャこきまくりやがってなぁに言ってんのよ。」
「ちょビッ、ビビ、びぃちゃん!?」
・・・
あちゃーと頭を抱える真一、狼狽えるデモス、そして息子夫婦に宥められながらも拗ねていた様相から一転、アレクはじっとりとヴィアを睨みつけながらその周囲に髑髏の浮かぶ鬼火を漂わせ冷たく口を開く。
「何、僻み?そっか、そうだよねぇ。貴女、最後の希望の真一までも……」
あぁっ!?アレクが何事かを口走る前に語気を荒らげたヴィアが絡みついて頭に頭を突き付ける。
「テメェ水入れやゴルァ、枯れ専まな板人魚ォ!!」
「寸胴根暗ウナギ、オマエなんか海に沈めてやるー!」
「ちょっ、母さん落ち着いて、お客さんいるんだし…!」
「もぅ、ビィも子供の前で変なこと言わないでよ〜…!」
「なぁなぁ魔族くん、水棲種的な『オモテ出ろ』って『水入れ』なん?」
「いや知らないよ!?」
取っ組み合う2人を宥める真太郎と多穂、その脇で些末事にツッコミを入れるアラタと真一。
「やれやれ、やはりアレクはまだまだ若いの、敵わん…」
しかし、ふと一人呑気にその様子を眺めて笑う邦夫にアラタはそうだと歩み寄っていく。
「しなるセ〜ンセっ」
「ん?どうかしたかの?」
彼の問いに期待に満ちた目を向けながらアラタは続ける。
「夜な夜な云々って話、詳しくオネシャス!!」
ほぉ…小さく笑い、頭を掻きながら邦夫は口を開く。
「そうさな…例えばこの歯型は昨日の「ゴルァジジイ!」ぶぅっ!?」
首元を指しながら話を切り出そうとするより先に怒号が飛び、真一がこともあろうに祖父の横面に肘打ちを叩きつけるではないか。
「当たり前のように未成年相手にプライベートな話しようとすんな!?」
「ちょちょ!?魔族クン!?大好きなおじいちゃんになんたる仕打ちを…!」
「う る せ ぇ!てかそもそもお前も変なとこに食いつくなよ高校生!」
しっかしアレやなぁ〜…目を見開き声を荒らげる真一をどこ吹く風と顎を擦りながらアラタは一人振り返るように漏らす。
「お話聞くとそもそも最初は洞窟拠点にしてたんやろ?それにアレビキニやのうて鱗なんやろ?しかも8割くらい人間と近いと言えども人外に躊躇いなく…いやっはやかえすがえすもしなるセンセはドッ変態やな……」
ア゛ーー!捻れた奇声を上げた真一がアラタに襟元を掴むと玄関までズカズカと足音荒く引き摺り……
「うるっせぇうるせぇうるせぇ!オラッ今日はもうお開きだから帰れゴルァ!!」
「あぁ〜〜れぇ〜〜」
アラタを上空高く目掛けて放り投げ、聖櫻へと隕石のように飛んでいく姿を見届けた。
「もぅ!2人共いい加減に!家が!壊れますっ!!」
「きゃぁああ!?」「プギャッ!?」
「ちょっ、多穂ちゃん!?って、アレクちゃん、びぃちゃん!?」
「多穂の聖女の魔力は根底的に魔族と相性が悪いからね、こんな風に暴発すると、アレ?アラタくん…???」
「ヒホヒホ、地獄絵図だホ〜」
・・・こうして彼の自由研究は幕を閉じた。
しかし冷静に考えてみよう。
友人の家庭環境に踏み込んだ話ばかりを聞いてしまった手前、コレをまとめたらただタチの悪いプライバシーの侵害と同じだ。
こんなモノを自由研究として出せるハズも無い……
と、言うわけで!職員室にアラタの声が響き、話し相手の政子は呆れ顔を頬杖で支えて彼がノートを突き付ける姿を見据えていた。
「まぁ流石にコンプラが危ないんで、自由研究は聞いた話を参考にツンデレウナギと人間の官●小説のラフ案を書いたんよ、とっとと読んでくりゃりんこ。」
・・・
数秒の沈黙の後、すっくと政子が立ち上がるとその手に脇の竹刀を掴む。
「まぁ、アタシとしちゃ色々ツッコミたいことはあるが……」
「畑山センセ?部活行く前に見てってちょーらいよ、自由研究出せ言うたのは他ならぬ「コンプラ云々なんてのは一番最初に気づけやダボッ!!」グギャァアア!」
力説するアラタの脳天に政子の怒声と竹刀が力任せに叩きつけられ、職員室はアラタの血と肉片に染まり上がった……
しろか「アラタてめー私に内緒で多穂先生に会ったのかよ●すぞ!?」
串間「失礼します。課題のノート集めまし…うわきったね!?」
『真一誕生〜松の木の謎〜』ーー E N D ーー
プラスアルファ( モ ノ の つ い で )
「Q・しなるセンセがご夫婦生活で一番大変だったことは何ですか?」
「そうじゃな、アレは共に生きると決めて数週間ぐらいの時じゃったかのぅ……」
『ね、ねぇ、クニオ。どうしよう…』
『ん?どうかしたか…て、ア、アレク!?』
その姿を見た邦夫は途端に熱を帯び、思わず顔を逸らす。
『換鱗期が来ちゃったみたい……』
そういう彼女の姿は基本的には普段通りだが、胸元と腰周りの鱗が剥げ落ち、隠された柔肌が露わではないか……
『と、トトトっとにかく!わしの服を着ておれ!』
『クニオ!?大変、顔から血が出てる!?さっきの戦いでケガしたの!?』
『イヤ、違っ、て、近い近い!少し落ち着け…!』
「キャーッ♥キャーッ♥」
「……とまぁあの時ばかりは今までで一番大変じゃったよ(Θ3Θ)」
瞬間、銃声が2発鳴り響き、邦夫とアラタは眉間から銀の煙を漂わせながら白目を剥いてブッ倒れた。
「だぁからコイツ相手にそんな話すんなつっとんじゃクソジジイ!何度も言うけど俺と同じ未成年(じゅーなな)ぞ!?」
ただいまー、そんな中、不意にドアが開く音と女性の明るい声が響く。
程なくして姿を現したのは黒髪の女性ともう一人ーーアラタも見知った緑色の羽虫だ。
「あ、お帰り、お母さん。」
「ただいま〜、買い出し行ってきたよ。おっ、やほやほアラタくん。」
「ごめんタホ、寝ちゃってたや。」
「いいの、気にしないで。ゼルブもありがと……あれ?」
そこまで女性ーー真一の母は彼や真太郎とやりとりを経て、買い出しに付き合ったらしい羽虫ーーゼルブに駄賃代わりらしき食品を渡し見届けてからアラタに顔を向ける。
「わぁ、アラタくんいらっしゃい。そういえば靴が多いなと思ってたんだ。真一の母の多穂です。息子がお世話になってます〜」
「イエイエ、むしろ我々聖櫻が「二度もやらんで良い。」
無駄に凛々しい表情で応えるアラタの肩を小突いて真一が遮るが、すぐにアラタが肩に手を回し返すなり囁くように真一に顔を寄せる。
...もっと見る「いや〜やっぱ紛いなりにもGF世界やからかママン美人さんやんけ。」
「そ、そぉ?自分の親のことだとよくわかんなくて…」
「だってボクのオカンなんかほれ……」
アラタはそう言いながらスマホを見せる。
・・・
「イヤ普通に綺麗じゃん!」
「えぇ…やっぱ隣の芝生言うやつなんかな?」
「クソデカブーメラン定期」
肩を寄せ合いぼそぼそと言い合う姿に夫婦はクスクスと笑う。
父に似て内向的な息子にもここまでフランクに接してくれる友人がいるなら感無量だ。
ところで…アラタは何かを思い出したように手を叩く。
「多穂さんって…なんや名前聞いたことあるなと思うとったけど……確かしろかの奴が人生で唯一尊敬しとるとか言ってなかったけか?」
あぁ、それを思い出したように真一も頷く。
「お母さんは『聖女』の家系で、特に強い力を継いでいるんだよ。だから治癒的な魔力も高いしね。」
そういうことか、納得したようにアラタは返す。
「つまりアレか…真さんとは昔からバケモノ退治の付き合いがあった感じか。」
え!?3人が大きな声を同時に上げる。
「すっすごい…」
「よくわかったな!?」
「キミはエスパーかい?」
え?感心する親子の姿にアラタは逆に不思議そうに首を傾げた。
「いや…そら奥様が補助とか聖?光?的な属性に優れてて、真さんはしなるセンセや魔族くんの例に倣えば確実に強い…ほんでご夫婦やったらそれしか無いやろ?」
おぉー……理路整然とした言い分に思わず手を叩いてしまうが、やはりアラタはそこまでのリアクションを受けることにしっくり来ないようだった。
「確かに、君の言う通りだ。僕と多穂は麻帆良の中等部で『そういう任務』の時に同行してたのが始まりだったんだ。」
そうそう、頷きながら多穂が繋げる。
「私達2人共最初の方からまとめ役任されてたところから始まったんだよね〜…って、流石に親世代のこんな話なんて興味無いよね?」
いやいやいや!手を叩きながらアラタが笑う。
「寧ろそういう話聞くために生きてるようなモンなんでどうぞご遠慮なさらず!デモスちゃんみたいなもんやと思えばさぁ!」
「イヤ盛りすぎだろ…」
真一が呆れたようにアラタの頭をスッ叩くが、多穂は照れ臭そうに笑いながら返す。
「そ、そう?まぁとにかく、そんなこんなでお互い戦線でサポートし合ってたんだけど、ここに至るまでは長かったなぁ……」
「たっ、多穂!?」
目に見えて大きめな溜息を一つ漏らす彼女の姿に真太郎がギョッとしたように肩を竦ませるがお構い無しだ。
「ほんっと、真太郎くんたらヒドイんだよ〜?初めてのバレンタインの時なんか……」
『これ、受け取ってください!』
『矢代さんチョコ作ったの!?ありがと…』
『あのね。それでね、マツノキくん…!』
『すごいね、お菓子作りでも始めたのかい?』
・・・
『へ?』
「あのー…多穂チャン??」
あーあ…、頬杖をつきながらどことなくむくれる彼女は気まずそうにオロオロと声を掛ける夫などお構い無しだ。
「そんな感じだからそれはそれはもぅ本っ当に苦労したよぉ……」
「だ、だからアレは本当にごめんて……(;;Θ3Θ)」
うっわぁ……頭を掻きながらタジタジな真太郎の姿にアラタも苦笑いを浮かべながら頬を掻くと返す。
「なんか"解る"わ〜ソレ…なんかそのめっちゃビジョン浮かぶで…」
「ウン。あんま言いたくないけど君も大概そっちの枠だと思うよ俺…(;Θ3Θ)」
にべもなくツッコミを入れるは真一。
「とにかく良い?真一。貴方はそういうとこお父さんみたいになっちゃダメだよ。」
「ぷはは、奥さんソイツはとっくに手おく「ウラァ手が滑ったァッ!!」
ウギョーッ!?手を叩き笑いながらアラタが何事か口を開くより早く、真一が咄嗟に掴んだ電気ポットの底を彼の脳天に殴り付け、アラタは頭を抱えながら転げ回った。
「あ、アラタくん大丈夫!?」
「あーオッケーオッケー、いつものことなんで!」
何事もなかったように頭を擦ってテヘペロウィンクを見せるアラタの頭はまたしても真一にスッ叩かれた。
「賑やかじゃと思ったら……まぁ多穂ちゃんは当時学年のアイドル的ポジションじゃったからのぅ。」
「わっ、と。父さん!?」
ふらり、襖を開けて顔を出したのは着流し姿の老齢な男性だ。
捉えどころの無い飄々とした佇まいーー彼のことはアラタも知っていた。
「お義父さん、お帰りなさい!」
「おじいちゃん随分早かったね?呑みとか言ってなかった?」
「あぁ、そうなんじゃがエンマおっとゼウっ……、知り合いどもが泣き上戸やキレ上戸で収拾つかなくなったんで抜けてきたんじゃよ。先日、昔若気の至りで教わった崩龍拳をまだ打てると思って咬ましたせいで腰がまだ痛いしのぅ…」
「ほんと勘弁してよ父さん、引っ張って帰るの大変なんだから…」
「まだまだ現役じゃよ、しかし久し振りじゃのアラタくん。」
「いンや〜ハッハどうもどうもしなるセンセ、お久しぶりッス!」
息子の小言もそこそこに笑い飛ばす老人にアラタはあっけらかんと返す。
彼こそが真一の祖父ーー『柳木しなる』の名で執筆活動をする学者・松の木 邦夫その人だ。
それはそうと、アラタは顎をさすりながら笑う。
「アイドル的存在言うたらアレか、ここみんとか陽歌ちゃんとかそういう系譜か〜」
「申し訳程度のGF要素ッ!?」
ヤケクソ気味に真一が声を上げるがアラタは当然のように受け流して再び口を開く。
「しっかしアレやな、なんや意外だわ。真さんの奥様言うたらネコマタかなんかやと思っとったし。」
「ネコマタ!?」
「な、なんでまた…?」
「ヒホホ〜、ネコマタなんてチャラいギャルみたいなのばっかでシンタロには合わんホ〜」
「きっ、気にしないで!?アラタくんちょっと思想が強めなの!」
本当にコイツはベラベラベラベラと…!うんざり気味に真一がアラタを睨みつけるが気付いてすらいない彼はケラケラと家族達と談笑を続ける始末だ。
「ただいま、お客さん…?」
不意に、涼やかな声が響き、やはりふらりと影が姿を現す。
そこにいたのはどこか儚げな女性ーー物憂げな笑みを浮かべ、長い髪を靡かせる姿はただでさえ眼を見張るものがあるが、それ以上の存在感を放つのがその風体だ。
スレンダー…と言って良いのか肋の浮いた身体は胸元と腰周りを鱗が覆う以外は白い柔肌を晒し、前腕と太腿より先は翠の皮膚と水掻きや尾鰭に覆われた、まさに『マーメイド』と呼ぶべき姿。
アラタは思いがけないその姿に思わず息を呑む…
「おお、アレクや。」
「おかえり、おばあ「オォリャア!!!」ナニがキミをそうさせたァ!?」
邦夫からアレクと呼ばれた彼女に真一がアラタを指しながら歩み寄った途端、横ヅラに重い衝撃ーー当の彼の拳が叩き込まれて畳を転げながら困惑を訴える。
「だぁ〜れがおばあちゃんやねん!どっからどう見ても綺麗……通り越してドスッッッケベな人魚のおねいさんやろがい!なんやったらボクちぃとドキッとしてもうたわ!てかチュキデチュ(小声)」
「・・・」
頬を擦りながら姿勢を治す真一をヨソに矢継ぎ早に捲し立てるアラタ…その姿に深くため息をつきながら真一は立ち上がり……
「アラタくん、最初に言ったよな…?」
言うが早いか真一はアラタの両肩を掴み、
「まっ、魔族クン…??」
「説明する前にツッコむなつったよなぁ!?」
勢い良く隣の部屋に飛び込む勢いでアラタを投げ飛ばし畳に叩きつけた。
「ウギャァア何をしやがるこのドーテ「お前の世界は一人だけでループしてんのか!?」
「真太郎、あの子は?」
「母さん、真一の友達のアラタくんだよ。しかし驚いたな、真一もあんな技咬ませるくらい体力が上がってただなんて。」
「うん、真太郎くん。それに、あそこまで感情を出せる友達に会えるなんてね…」
何故か家族から自分とアラタを隔離するようにいそいそと襖を閉める真一をヨソにこの反応、まさに親バカである。
「だから、言いたいことは解るけど、あのヒトが正真正銘の俺のおばあちゃん…祖母なんだよ。あと松の木邦夫の妻、松の木真太郎の母…」
・・・
えぇ!?再びアラタが声を上げる。
「ウン…てか、人魚が長寿なのくらいはキミだって知ってるだろ?先に言っとくけどおじいちゃんが出会ったのも20代の頃だからね!?」
あ、あぁ…おちょくるより先に先手を取られたアラタが困ったように頬を掻きながら言葉を返す。
「まぁ確かに血肉を食うととかって話は有名やな……」
まぁそれはエエけどさ、そう言うとアラタは少し表情を強めながら言葉を続けた。
「祖母やからって無理におばあちゃん言うもんやないで、ジジババって呼ばれたくなくて孫にあだ名を教え込ませるってのも珍しくあらへんし…」
あぁ、気まずそうに真一は縁側に腰をかける。
「俺も悪いなぁと思って、でもどう呼べば良いのかわかんない時があって、さ……」
横目に庭を眺める姿にアラタも隣に座る。
「あの頃は呼ぶにしたって『ねぇ』とか『あのさぁ』とか、クソガキだったよ…」
そう語る真一は幼少期を思い返す……
『ねぇ、おばあちゃんって、呼んでくれないの?』
『ごめんね。なんかちがう気がして、でもなんてよべばいいのかわからなくて…』
『真一は、おばあちゃんって呼ぶの、イヤ?』
『・・・わかんない。でもそうよばれるのはイヤかなって思ってさ…』
『あたしはね、呼んでほしいな…』
え…?思わぬ返答に真一は首を傾げる。
随分と彼女は嬉しそうに微笑むではないか。
『確かに、あたしは人間にとっての"おばあちゃん"とは全然違うわ。でも、きっとそれがクニオ…おじいちゃんに"アレク"って名前を貰えたあたしが幸せな証だから…』
あかし…?ますます不思議そうに復唱する姿にうんと頷きながらアレクは続ける。
『クニオと出会った時は大変だったけど、彼との愛を知って、真太郎を授かって…その真太郎も多穂みたいないい子と巡り会えて、真一を授かって、そんな皆を見守って……あたしにとっては、マーメイドとして湖で過ごすよりもずっと、ずっと……幸せなんだ。だから、もしあなたが良ければ、あたしは"おばあちゃん"って呼んでほしい……』
頬に手を添え微笑みかける姿に固唾を呑み、勇気を振り絞るように口を開く。
『・・・ゴメン。おばあ、ちゃん…』
その時、頭を撫でた手は、マーメイドたる彼女にしては珍しいくらいに暖かかったことは今でも覚えている。
「ドゥワァアァァアもぅ!どぉおするんよこれぇええええ!!!」
とある一室、悲痛なのか滑稽なのか見当のつかない叫びを木霊させながら少年は転げ回る。
「しゃーねぇ…かくなる上は……!」
やがて瞳に決意を灯した少年は立ち上がり、自室を後にした……
「ヒホ!?オマエ、何者だホ!?」
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『真一誕生〜松の木の謎〜』
タイトル手抜きじゃねーか(byヴィア)
とある一軒家の座敷で、少年は洋書を読み耽る。
黙々と内容を読み進める脇で、随分ドタドタとけたたましい音が響くではないか。
「・・・〜(まったく、ターサか?それにしちゃ足音軽いような…?)」
「ま ー ぞ っ く く ん !あー↓そ↑びー↓ましょー↑↑!!」
「うわあ!?」
襖をブチ抜く勢いで飛び込んできた影が心当たりしか無い呼称と共に呼び掛け、少年は勢い良く叫びながら思わず立ち上がる。
「あっ、アラタくん!?」
襲いかかった正体ーーアラタに呆気にとられた少年・真一だがアラタはあっけらかんとしながら言葉を返す。
「やほやほ魔族くん、久し振り〜」
「いや、久し振りじゃないんだよ!大体なんで実家(おれんち)知ってんのさ!?」
「いやーなんのこったあらへんで、魔族くんは麻帆良生やし、しなるセンセもオトンさんも協会に関わり持っとる聞いとったから、ここにあるのかなとアタリ付けて探しとってな、その途中で……」
「ヒホヒホ、この家知らないかって聞いてきてビビったけど、シンイチとクニオの名前を出してきたから知り合いだと思ってオイラが案内したんだホー。」
「ジャックフロスト!?てかどうせ聞くなら俺に直接メッセージ送ってよ!それともまたサプライズとか言うつもり?」
アラタの隣に佇む小柄な影ーー青いフードとケープを纏う手足の生えた雪だるまのような魔族ーー祖父の顔馴染みである『ジャックフロスト』の返答に面食らっていると悪びれるでもなくアラタは続ける。
「いやー歩いて来て疲れててそこまで頭回らんかったわ〜」
歩いて!?その返答に思わず真一はまたしても声を上げてしまう。
「東京の聖櫻から埼玉の麻帆良まで歩いて!?イヤマァ君のフィジカルなら無理ではないかな…?」
ブツブツと続ける姿を気にせずアラタはまたしても言葉を繋げる。
「いやーやっぱ冬休みは食べ過ぎてもうてな〜」
「なんか理屈とか色々おかしいけど餅の話?」
「いや、お菓子やな。食いまくったら魔族くんみたいに使い魔的なのでも生み出せるかな思うたからさぁ」
「お腹に口でもできてから出直してきなよ……」
じゃなくて!呆れたままの声をまたしても荒らげながら真一はどうにか口を開く。
「わざわざ何しに来たのさ?」
あーそーそー、アラタもようやく本題を思い出したように手を叩いて返す。
「すまん魔族くん!自由研究終わらへんから魔族くんちの話聞かせてくれへん!?」
自由研究?彼の言い分に真一はまたしても首を捻る。
「冬休みなのに自由研究?聞いたこと無いよ。」
「イヤーほら、アレや。年末に畑山センセと口論になった勢いでそんなんやからモテへんのや〜!言うたらブチギレられてもうてな、特別に自由研究をよこされてしもたんよ〜。ところでジャックフロストくんは魔族くんとどういう関係なんだっけ?」
「ヒホヒホ、オイラはクニオが若い頃から知り合ってのツキアイだホ〜。毎年冬はこうして居候してるんだホー。」
「なるほどなぁ、しなるセンセがれっきとした人間な手前、マスコット枠を擁立しなきゃアカンのやな。イヤでも待てよ、この家既に7人もマスコットみてぇなのおるよな…?」
「ヒホ?シンイチ、コイツ何をブツブツ言ってるでホ?」
「あ〜気にするな、思想がおかしい奴だから……じゃなくてキミまた畑山先生相手にバカやったのか!?」
滞在中にも幾度と見た光景を思い返しながら呆れる真一。
「あのヒトがユーモア欠落患者なんやで。」
「イヤ本当に懲りんな!?」
頼むってぇ〜!言うが早いか呆れる真一に飛びついたアラタがその頭から体からわさわさと撫で回す。
「うゎ気持ち悪っ!!つか頼むってなんだよ、離れろ!」
「なぁ〜魔族くぅ〜ん。出血大サービスやぞコレ〜」
刹那、銃声が一つ響き、蟀谷から銀色の煙を噴き出したアラタがぶっ倒れた。
「気持ち悪りぃつってんだろがァ!」
「ウギャァア何をするドーテー野郎め!」
「ドッ!?当たり前だろ、まだ高校生なんだから!」
「ワハハ甘いな松の木真一ィ、このサイトに移転する前の本家文芸部では『そーゆー話』いっぱいあったで!」
「そういうことを言うな!?」
あれ、でも厳密には公式サークルから派生したからアッチは本家とは言えないのかな?関節技をかけられながらもそっちのけで思案にふけるアラタ。
高校生が戯れれば当然に物音も凄まじいわけで…
「ん〜?真一、お客さんかい?」
足音とともに一人の影が姿を現す。
寝起きなのかややボサつき気味ながら質の良さそうな髪、そして眠たそうな顔。
真一が考え込んだり逆に何も考えていなかったり気まずい時に見せる例のあの顔そっくりなのはつまりそういうことか。
「あぁ、お父さん。ごめんね、騒がしくしたかな。」
気にしないで、ようやく目が覚めたらしい真一の父はしっかりと目を開く。
高校生の父相応の年季や貫禄は感じさせながらも、嘗ては中性寄りだったのだろうと思わせる顔立ちはどこか少年のようにも見えて神秘的な印象を持つ。
・・・尤もくたびれた服装で台無しにされている気もするが。
とにかく彼はアラタの姿を見ると少し驚いたように目を開いた。
「あれ?やぁアラタくん。いらっしゃい。真一の父の真太郎だよ。去年は父さ…父と息子がお世話になったね。」
いやーはっは、あっけらかんとアラタが口を開く。
「どーもどーも真さん。とんでもございませんくてぇ、寧ろ我々聖櫻が真一クンとしなるセンセのお世話になったんすよぉ〜。久し振りに真一くんに会いたくなって来ちゃいました。」
「こーゆー時は調子いいな!?てか、真さん?俺も真一なんだけどー?」
「あ?テメェ様は魔族くんやろが。」
またしても呆れて溜息を吐く真一にアラタがにべもなく返す。
「それはそれとしてっすよ真さん、去年はお会いできなかったけどあの爺様にこのぼっちゃんなら真さんも強いんよな?」
「つ、強い?ってのはよく分からないけど……でも今日はちょうどタイミング良い日だからゆっくりしてってよ。」
そうだった……真一がどこか複雑そうな顔をして頭を抱えて数秒、彼は乗りかかった船だと頭を振りながらアラタに向き直る。
「あーもう。話せそうなことは話すよ、あんま面白くないと思うけどね。」
「ぃやったぅ!」
ただし!両手を振り上げて喜ぶアラタに語気を強めて真一は続ける。
「色々ツッコミたいだろうことは俺が先に説明するから、突っ走ってツッコんだりドツいたりするの禁止ね!」
「おっけーい。」
念を押すように言いながら指を突き付ける真一にアラタもあっけらかんと答える。
「それにしても真さん両目あるんやな、並ならぬワケあって隻眼みたいな偏見あったからイメージとちゃったわ」
「隻眼!?どんなイメージ!?」
「お父さん気にしないで!?コイツ変な奴だから!」
「ヒホホ、コイツめんどくせーホ……」
「おいおい、マジかよ…」
その瞬間、僕の心によぎったのはそのたった一行の感情だった…
『行事支援委員会』…少年の通う高校で新たに発足した委員会を巡ったじゃんけんに負け、彼は不本意にも委員となってしまった。
「こーして喋るんは初めてやんな?よろしくな、主くん!」
対する女子は興味本位で立候補したムードメーカーな『茜』
更に巡り合わせの悪いことに…
「お姉ちゃん、一方的に喋ってたら失礼だよ…」
双子の妹でしっかり者の『葵』…姉の事務能力を懸念してサポートという名の実質三人めを名乗り出てしまう。
...もっと見る
人付き合いは苦手、況して女子との会話など、それこそ委員会のような最低限しかなかったような少年にとって、完成された関係に割り込むような居心地の悪さと試練を感じるばかりであった。
両者それぞれの友人の手厚いサポートもあり、徐々に姉妹とも打ち解けて委員会活動を安定してこなす中、やがて葵と少年は心の動きを自覚し…
「ねぇ、私…貴方と会えて本当に嬉しい…」
「その夏、僕は一輪の『向日葵』を見た…」
想いは夏空の下で確信となる。
積み重ねた気持ちの行く末は…夜空の大輪として咲き誇った。
あかね色の喧騒の中で、あおい芽は息吹く…
『隣の君と日を向いて…』
ハーメルン、pixiv、Arcadiaにて連載中。
あとYouTubeにて鋭意動画化プロジェクト進行中~
※最後に
本作及び本エピソードのゲストヒロインの性格、キャラ付けは拙作シリーズ独自のものです。
二次創作者によってキャラ付けがガラリと異なるジャンルである点にはご注意くださいませ。
※ ※ ※
「わぁ、綺麗!!」
「ああ、だな。その…ありがとな、アラタ。」
「えーのえーの。ボクとしても中止は困る事情あったし、決めて作ってくれたんはジョーがアレ注文してくれたおかげやで。」
目を輝かせる泉を抱き寄せながら、どこか気まずそうに謝意を述べる淳にあっけらかんと笑いながら彼は応える。
そうか…アラタの言葉にそんなことを思っていると、
「あ、やぁ、串間くんに島田さん、それと和泉くんだっけ…?」
「こんばんは…」
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不意にかけられた声に振り返る。
昼に会ったカップル…在路公人と琴葉葵ではないか。
「葵さん!」
「おっヌシくんやんけうっすおっす。」
「ああ…さっきは、どうも。」
暫し談笑の後、離れてから葵は在路に言う。
「綺麗だね、公人くん。中止にならなくて、良かった…」
葵…その柔らかな笑顔に目を細めながらも、在路はフユキを巡っての騒動を思い返し胸を痛める。
「葵、その…さっきは、ごめん。また格好悪いとこ、見せたよね…」
彼女の目の前で感情的に誰かに殴り掛かる…以前の苦みを思い出す。
自分は未熟なままだと頭を抱える姿に葵は柔らかく笑う。
「ううん。公人くんが怒ったのは、私のためだよね?嬉しかったよ、その…ありがとう…」
そう言いながら、葵はつま先で身を乗り出し、彼の頬に口唇を寄せた。
・・・
瞬間、在路の頬が燃え、目を丸くする。
「あっ、アオイ!?」
「えへへ、貴方がいつもやってることだよ…」
そんな姿に照れくさく顔をそらして笑う葵…
「ああ、あ、あ、葵さん…?き、キキ、きす…!」
「キャーッ、ほらジョー、アンタら負けとるんやないわよ!レッツゴー!!」
その光景に紅潮しながら困惑する泉と、手をばたつかせながら淳を煽るアラタ。
「な!?うるっせ、俺らには俺らのペースがあるっつの…!」
落ち着かない泉の肩に手を添えながら反論する淳は、ふと思い出したように言葉を返す。
「そういやアラタ、新垣は?」
え??アラタはきょとんと首を傾げる。
「雛菜ちゃんは来とらんよ、そもそも別の予定ある言うてたし、ここのことも知らんと思うし。」
え?逆に淳が困惑する。
「お前さっき自分もイルミネーションは中止は困るつってたじゃん。」
あー…目を泳がせながらアラタが笑う。
「それは、まーなぁ…」
要領を得ない姿に一層謎が深まる。
「お、葵達おった~」
「相変わらずあちぃなオイ。」
「まだ邪魔かなぁ」
「仲が良いのは素敵なことね…」
在路達の友人も合流したようだ。
そんなことを考えていると、不意にサイネージが光る。
おっ、アラタが顔を上げる。
なんやぁ?不思議そうに茜が首を傾げ、続くように在路達や淳と泉も不思議がる…
‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐
『本作を連載初期から追っていたというAさんにスペシャルデラックスインタビュー…』
淳「なんだこの頭の悪そうなワード…?」
Q.まず、年齢と一言お願いします。
『じゅ~なな歳、高校生っす。え~、ま、せやなぁ…
シンプルに嬉しいわな、うん。おめでとうございます言うてねぇ…』
茜「えぇ!?和泉クンやんけ!」
淳「え、おいアラタ!?」
Q.この物語に触れたときに思ったことは?
『そう~ですねぇ…ま、はじめは、アレや、よくある日常学園系コメディや思たんやけどね?どこぞのSWHみたいな。
イヤまぁコミカルな部分のが強いと思うで?でも蓋を取って展開追っかけたらもうな、繊細で美しい、なんだかゆったりとした空気、ですかねぇ…
表現がね、ふとした瞬間に抒情的で心が澄むような…そういう綺麗な雰囲気がねぇ、ボク好きなんすよ、ほら、茜色葵色言うたら夕空の色やん?ボクが言いたいのはそう。』
Q.他に魅力を感じたところをお願いします。
『やっっ…ぱ、勿論?登場人物ぅ、ですよね…可愛いですよね、皆。ちょっと愛想悪そうだけど誰よりも周りを気遣う主人公くん。
成績優秀だけど引っ込み思案で自分の気持ちと向き合うことが怖い妹ちゃん、喧しくてちょいとノンデリやけど、二人の関係性と幸せを一番に見守っているお姉ちゃん。
みんな不器用ながらも相手のことをまっすぐに思って…ねぇ。ホンマ、愛おしいんすわ。』
Q.ありがとうございました、最後に一言お願いします。
『あぁ、ハイ。言うてもまあ、たまたまウェブ連載お見掛けして楽しませていただいただけのボクがあれこれ言うんも烏滸がましいんでとりあえず一言。せやな、【隣の君と日を向いて】は、エエぞ。(キリッ)』
‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐
・・・
「…オイ、アラタ…」
「いやー、初期から追っかけてたシリーズの書籍化言うからラブコールした甲斐があったわぁ~」
「じゅ、淳センパイ…?」
ケラケラと万感に浸るアラタをヨソに、どこか雰囲気が変わる淳の声色に泉が引き攣る。
一方ところでと、阿久津は在路の肩に腕を回しながら悪戯っぽく笑う。
「なーなーヌシ、さっき良い感じだったけど、やっぱお前らはこの後ホテル行くの?」
「・・・」
がしっ…次の瞬間、在路は阿久津、淳はアラタの襟元を掴み、
「アクユー、ラインは守れ…?」
「す、すとっぷヌシくん!!オレら友達なんだから、ちゃんと言葉で分かり合えっ、ちょっ!!」
「これ、『 大 魔 界 』じゃなくて!!
『 ダ イ マ 回 』
じゃねえかぁ!!俺らのこと当て馬にしやがって!!!」
「待てジョー!落ち着くんやジョー!!一旦深呼吸でぅわあああああ!?」
二人の少年は極寒の池目掛けて放り込まれ、けたたましい飛沫はそこらのイルミネーションよりも目を引くこととなった…
泉「ちょ、淳センパイ!?」
葵「公人くん落ち着いてぇ…!」
あかり「昼に喧嘩?してた和泉くんをあんなあっさり!?串間くんスゴ!?」
ゆかり「いやぁまぁ、ちょっと暗そうに見えてスパダリな感じとか見てる時も思ってはいたけど…」
茜「はは、せやな。いよいよヌシに似とるとこあるわ、串間クン…」
『漆黒の寒波!ヒーホー大魔界!!』E N D
・・・
『くっだらね…』
淳、在路、阿久津の心が異口同音に共鳴した。
ヒホホ、フユキの主張に頷いて同調しながらジャアクフロストが親指を自らに突きつける。
「コイツの言い分はよくわからんが、コッチの世界で遊びたいけど身体を顕現できないオレサマと吹雪を求めてるフユキ…偶然会った意見の一致であのカジツを依り代に疑似契約を結んだんだホー!お陰でオレサマはこっちで遊びホー題!!」
くははは…!狂気じみた笑いを上げながら、フユキは得意げに言う。
[そしてコイツがドカ雪まみれにしちまえばイベントとか言ってる場合じゃなくなるぅ!クリスマスもイルミネーションも中止だぁ~!]
異様に高揚したテンションで騒ぐフユキに応えるように、またしてもジタバタと手足を振り乱してそこかしこに氷塊を撒き散らす。
...もっと見る「ヒーホー!アイスシュート!」
巨大な氷塊を生成したジャアクフロストがアラタ達目掛けて蹴り放つ。
「チィ、アラタッ!」
おうよ!燃える手でサラが彼の木刀をなぞり、刀身に火焔を灯すとアラタが居合抜きのように迫って力いっぱいに叩き付け、
突進が止まったところをサラが抉りこむように焔の拳を叩きつけてたちどころに溶かした。
[スキーしようにもゲレンデだって閉鎖ぁ~~!!]
「ヒーホー!ジャックブフーラ!!」
ジャアクフロストが上空に冷気を吹くとジャックフロストの氷像を生成し、二人目掛けて落下させる。
けたたましい音と共に像が粉砕した衝撃で投げ出されたアラタとサラが息を切らす。
「あああ、待ってまじで寒みぃ!」「なんーやあのクソダルマ好き勝手やりやがってぇ~!!」
そしてぇ!!ジャアクフロストの暴走ぶりに気を良くしながらフユキは相変わらず喧しく吠え散らかす。
[寒いとカカオも育たないから、勿論バレンタインだってやめやめぇ~!!うはははは!!]
ジャアクフロストはまたしても両手を振りかざして氷塊を降らせて逃げ惑うアラタ達を執拗に追い込んだ。
「えぇ~!?バレンタインまで!?」「そんな、ひどい…」
「葵?泉ちゃん?流石にそれはちゃうねん…」
ズレた言い分に落胆を見せる泉と葵に、頬を掻きながら茜が苦笑いを浮かべる。
「ヒーホヒホヒホ、テメェら寒そうだホー?オレサマに勝てるわけがねぇんだから大人しく帰れホー!」
[そーだそーだ、クッッソ寒いのに無理してうろついてないで、炬燵でミカンを食べながらクーネルエンゲイザーしてな!]
「じゃがあしい、お前らの悪ふざけもここまでや、サラ、もうちょい堪えてな、手はあるで!」
「あ、ああ。元よりオレ達に燃やせないものはねぇ!だろ!?」
二人、肩を叩きあいながら氷塊のつぶてに構える。
ストライクバーナー!両手から火炎を打ち出してサラが氷激を迎え撃つと、猛攻が緩んだ隙を縫いながら木刀を構えてジャアクフロストを目指す。
「ヒッホホ、今のは『上級氷雪魔法(ブフダイン)』じゃねぇ、『初級氷雪魔法(ブフ)』だホー!」
「やっかましいわ!」
アラタがハリセンですっぱたくようなキレで木刀を横面に打ち据え、その巨体に尻もちをつかせる。
一方でサラが目を輝かせる。
「なんか今のかっけーな!?オレもそういうのやりてぇ!」
援護射撃の手を止めたサラが手に焔の刀身を宿し、てアラタのように氷を斬り払いながら距離を詰めると、立ち上がる直前の奴の腹を一思いに斬り付けてまたしてもダウンを取る。
「今のは『ストライクバーナー』じゃねぇ、『フレイムソード』だッ!!」
・・・
「ちゃ、ちゃうねんサラ。そのセリフはそーゆーんやないねん…」
「アイツら凄まじいことになっとる割に余裕そうやな…串間クン、泉ちゃん、あの二人ホントに何なん?」
「あ、茜さん。えーっと…なんて説明すれば良いんだろ…」
「イヤ、説明のしようがないんだよ。悪りぃけどそういうものだと思って受け流してくんねぇ?」
茜の的を射すぎた疑問に泉は歯切れ悪く、淳は遠い目でそう応えるしかなかった…
そんな時だ。
「なーヌシ、あれマジワンの車じゃね?」
不意に近づいてきた山吹色を基調とした車を見るなり、阿久津が在路の肩を小突く。
マジワン…彼らにとって近い地区‐サラというなんだか物理的に燃えている少年の制服が示す『昇星』にあるカレー専門店『MAJIナンバーワン』の配達車ではないか。
やがて停車するなり、岡持を携えた男が身を抱えながらかじかむサラに近寄るではないか。
「サラ、貴方バイトを休んで何をやっているのですか?」
「おお。師匠!どうしたんよ?」
呆れ気味な声に振り返ったサラは驚き交じりの顔で応える。
彼が師匠と呼んだ男‐マジワンの店長は岡持一皿のカレーライスを取り出す。
「和泉くんの根回しでしょう。例のアレを持ってくるようご注文を受けましてね。あ、お代分は減給しますよ。」
「それ見たことか、このクソサムコンビ。お前らももうおしまいやで!ジョーにメモ渡しといて正解やったな!」
得意げに笑うアラタ、そして彼がジョーと呼ぶ友人‐淳を目で追いながら受け取ったサラは顔を輝かせる。
「マジかよ!ありがとな、お前ら、師匠!!そんじゃ遠慮なくいただきます!」
サラはその場で胡坐をかくなりカレーライス‐と呼ぶべきなのか、さながらマグマでもかかった料理のような何か…もとい『マジキチインフェルノ』をスプーンで抉り上げて食らいつく。
あ、因みにこの『マジキチ』は『マジで鬼畜』の略です。(規制対策)
「ねぇ、何、あの…何…?えげつない色してるんだけど…?」
「カレー、なのかな…?」
そこそこの距離があるはずなのに微かに漂う香辛料の香りとその見た目にゆかりが顔をしかめ、葵が首を傾げる。
「あかり、アンタやったらイケるんちゃう?」
「いやー…流石に遠慮したいかなぁ…」
茶化す茜にあかりがすっとぼけた。
そんな間にも一心不乱にカレーを貪るサラ、守るようにジャアクフロストの猛攻を耐えるアラタ。
「ヒーホホホ、相方が飯食ってるだけでオレサマが負けるワケ無いホー!」
全身に雪を寄せ集めて巨大な雪玉と化したジャアクフロストがそのまま転げまわっては縦横無尽に跳ね回る。
圧し潰す勢いで迫る姿にアラタは跳んで避けるが、やがてその動きを見極めると、奴が上空を取るなり木刀を構える。
[お?なんだお前、諦めた感じぃ?]
「もらったホー!」
おちょくるようなフユキと得意げなジャアクフロスト…しかしアラタは木刀に淡い光を滲ませると、姿目掛けて勢い良く木刀を振るった。
ヒホー!?打ち上げられた衝撃と共に雪玉が崩れ、ジャアクフロストは地に叩きつけられた。
「はは、闇系の力を得たお前やったらボクの力は相性悪い思うてなっ。」
[ぐぇ、何やってんのお前!?]
「ヒホー、ちょ、ちょっと油断したかホ?」
ニヤリと笑うアラタに苦い顔を見せると、追い打ちをかけるようにサラが叫ぶ!!
「っしゃあ!ごちそうさん!!アラタ、良いぜ!」
「おっけーサラ、Show‐Timeや!!」
木刀に残った光を足に注ぎ込んだアラタはそのまま空高くに飛び上がり、その場で体を捻って勢いをつける。
追うようにサラも焔を手から打ち出した勢いで上空のアラタの背を取るなり、アラタに焔を打ち放つ。
焔諸共に打ち出されたアラタは急降下の勢いを乗せて足を突き出し、グロッキーなジャアクフロスト目掛けて蹴り込み、
[オイ、早く何とかしろ!?]
「ヒ、ヒホホー!?足が回らんホー!」
「いくでコラ!サ ラ マ ン ア ラ タ ー キ ー ッ ク !!」
(イノチハーハテルーコトーハナイー…ゲッダンゴーッ!!)
淡い光と融合した…謂わば聖焔を纏ったアラタの足がジャアクフロストの胸に叩きこまれて、
奴は勢いよく身を投げ出して転がり、ジャアクフロストから分離するようにフユキも飛び出して昏倒する…
アラタの着地と共に熱波が広がり、モール一帯の豪雪も、黒雪諸共にその姿を眩ませ、事態は収束した…
「いや、焔で竜でキックだけどショウタイムじゃねーのよ…」
阿久津がボソリとツッコんだ…
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「なんーかもう面倒だし、いいっか。寒くてしんどい、何にもやりたくなーい…」
ボロボロの衣服…ぐすぐすと不貞腐れながらフユキは肩を落として歩き去っていく。
「ヒホ、さっきの技のせいで逆にオレサマが向こうに帰れなくなったホー。もうしばらく一緒にいさしてもらうホー。」
「冷た!?寄るな、お前存在が寒いんだからさぁ!」
「ヒホッ!?オマエの方が冷たいホー!?」
いわゆる聖、光と定義できる木刀の魔力を受けた影響かこちら側で実体化し、体躯も平均的なジャックフロストよろしくの子供サイズに縮んだジャアクフロストが、
掌を返すように突っぱねるフユキに抗議する…
・・・、ブチッ
彼女の姿に在路は最適解を見る。
「っ!?公人くん…?」
葵の頭に優しく手を置きながら離れる彼はそのまま厚着の男に近寄る。
「いい加減にしろ…」
「あ?…デュンッ!?」
いきなり在路は奴のマフラーに掴みかかるなり顔の位置を無理やり引き下げる。
おいおいマジかよ…!?思いがけぬ姿に淳が頬を掻く。
「おいヌシ、落ち着け!?」「流石にアカンてヌシぃ!」
...もっと見る阿久津と茜も驚愕を浮かべて呼び掛けるが、在路は変わらず鋭い目を向けるではないか。
「お前が何をどう考えようが勝手にすればいいけどな、皆同じ感覚だと思うな。人のことも考えないでガタガタ突っかかりやがって…」
「待って、公人くん…!」
葵の弱々しく縋る声も届かず、在路は拳を握り、相手の横面に振りかぶる。
「調子に…!」
葵が瞳と胸元の手を固く閉じる…
瞬間、在路の手を何かが押し留めるような衝撃が走る。
その視線の先に、一同が驚きを見せ、
「ったく、やっと来やがったか…」
淳が胸を撫で下ろす。
「和泉くん、いつの間に…?」
「ずっと向こうで遊んでたよね!?」
ゆかりとあかりの視線の先‐アラタが在路の手首を掴み、その脇ではサラが得意げに腕を組んで仁王立ちするではないか。
「和泉くん…!」
「落ち着きぃやヌシくん!キミがその手を出してまえば、傷つけるのはそんな奴なんかやない。君の手は誰かを慈しむためにある…せやろ!?」
その言葉にハッと我に返った在路は顔を上げる。
胸の前で指を握り締め、心配そうな目を向ける葵の姿…即座に駆け寄り肩を抱き寄せる。
「ごめん、葵…!」
「ううん、良いの…」
怒り任せに拳を作った手を取り、優しく頬を寄せる彼女の姿に胸を痛める。
ああ、まただ…以前の醜態がよぎり苦い顔を見せる。
しかし、その感傷は続くことはなかった。
「え、何?暑苦しいのが来ても…サムいままなんだけデュンッ!?」
一瞬にしてアラタが足を振り上げ、悪態の絶えない男の身体が地面に転がるではないか。
・・・
ええええ!?淳を除く一同の驚愕の声を気にせず、ニッと笑いながらアラタは言う。
「エエかコラぁ、『穏便やない手段』ちゅうんは、『穏便な手段』が取れへんヤツのやることやでオイ。そのねじれた根性ぉ…」
すっ…木刀を構えながらアラタは威勢良く続けた。
「たった今我々がちょーだいするッ!!」
「ナーッハッハ!テイクユァハート、だぜィ!!」
脇に控えたサラが咆哮と共に瞳と髪を燃えがらせる。
「…なんやアレ、サ●ヤ人?」
困惑に包まれる空気の中、何とか話題を拾ったのは茜だ。
目の前で繰り広げられるアトラクションのような大立ち回り、困惑も当然だ。
対する男は腹を擦りながら立ち上がり、肩をふつふつと揺らせるではないか。
「ンだよ…なんだよなんなんだよお前らぁ!」
その姿をアラタは煽るように笑い飛ばしながら仁王立ちで応ずる。
「ボクらはな、お前みたいなアホの暇人御用達の遊び相手やぞ。0120・8080・808・11♪」
ワレワレガヤレバ イイ
「ナッハハハ、『0120・8080・808・11』つってな!」
えぇ…相変わらず要領を得ない言い分に一同の困惑は収まらないが、男だけは頭を掻きまわしながら地団太を踏む。
「ンだよそれぇ、お助けヒーロー?そーゆーノリ、まじしんどいんだけど…なん~かイライラしてきたぁ…
不愉快な奴ばっかりだなぁ~~コイツラ見てたら、何もかもイヤになってきたぁ~~」
「ははは、イヤんなったなら大好きな暖かいおうちでも帰ったらどーよ?サラ、そっちはどや?」
応じるサラは何やら黒い雪の様子を見るではないか。
「おうよ、ガンガンに感じるぜ。そんじゃ手筈通りに…ストライクバーナー!」
サラが掌から火炎を打ち放つと、黒雪は水蒸気と共に霧散する。
「ヒホォー!?てめぇ様は、何をしてくれちゃってんだヒホー!?」
どこからともなく気の抜けた声が響くと同時に、厚着の男がやれやれと頭を抱える。
突如響く声に狼狽える間もなく強い冷気が漂いだすと、そこかしこに散らばっていた黒雪が厚着の男を中心に舞い出した。
オイ…隈の浮いた目元を苦く歪めながら男は言う。
「真夜中以外暴れんなつったろぉ…」
「ヒホー!アイツ、オレサマの雪溶かしやがってヒドすぎるヒホー。フユキ、アイツら凍らそうぜヒホー」
元々不自然な黒い雪が自分に群がり、挙句に謎の声が呼びかける光景。
好奇の目に晒された男‐フユキは立ちすくむ…
「ぷはは、まぁただの雪やないな思うてサラに見てもろたら魔力の残滓を感じる言うてな、依り代みたいなもんや思たんよ。」
「んで、そこの着膨れ野郎が来たら案の定黒雪に呼応する魔力を感じた、ビンゴってわけだ!」
「なぁーヌシ。あいつら何言ってるか「解るわけないだろ。」
「なんーや漫画みたいやなぁ。」
得意げに語るアラタとサラに、阿久津と在路、茜がぼそりと呟く。
「お前ら、こっから起こることは理解しようとするだけバカみてぇなもんだぜ…」
呆れとも諦めともつかぬ面持ちで淳が補足した。
あーあ…気怠げにため息を漏らしながらフユキは言う。
「毎晩ちまちま進めようとして、寒いだけでもイライラするのにぃ~。相手すんの、ホント面倒臭いんだけどぉ…あ゛~、この世終わりにしてぇよなぁ~。」
そう言いながら彼は懐から取り出した果実を貪り、辺りには寄せ付けぬ程の吹雪が漂って黒雪が包むように舞い上がる。
「ヒーホヒホ、これでまたいっぱい遊べるホー!」
アラタ達をも遮る猛吹雪のなかでヤンチャな声が響く。
「お、そやジョー、サラ…あの昇星のアンちゃんがヤバそうだったらここに電話してくれや。」
「ん…?イヤ、でもここって?」
淳は渡されたメモに首を捻るが、すぐにアラタは元の場に戻ってしまう。
吹雪がやがて止み、空気が静まり返ると、徐々に霧の中の影が形を成す…
[ケーキもチョコも甘ったるい匂いだし無理すぎて凍えるわぁ、もう冬のイベント全部、俺達で無理やりにでも終わらせてやる…!]
「ヒィーホォー!!!」
晴れた中に佇むのは2m程の真っ黒な巨体…その容姿は一言で言えば手足の生えた雪だるま、だろうか。
紫の頭巾とケープを纏い、険しい顔こそしながらも、ゆるキャラのような愛嬌を感じさせる妙な風体だ。
「えぇ、何アレ、着ぐるみ!?」
「なんーやかわええやんけ!」
驚きを浮かべるあかりと茜、一方でサラは気の抜けた声を上げる。
「あれ、オメェ、ジャックフロスト!?」
ヒホホー!高らかに笑いながら異形は語る。
「オレサマはイノセントだったあの頃から悪の道を究めた…」
「ブラックフロスト!」
「ちげーホ!オレサマこそが、」
「サラ、ちゃうねん。ダークフロストや。」
「惜しい、『ジャアクフロスト』だヒホー!!」
楽しげに腕を振り回して嬌声を上げるジャアクフロストをヨソにアラタがリモコンのような装置を起動すると彼らと淳や在路達周囲を分断するように光の規制線が生じる。
[もう隠すこともねぇっか…今ぁ、気分悪いからさ、潰させて貰うよ…?]
歯ぎしりが混じった底意地の悪いニヤケ声‐フユキだ、奴の声がジャアクフロストの姿から響いてくるではないか。
「どうもあの着膨れ野郎、マックロフロストと一体化してる感じか?」
「なぁ~るほどな、そういやさっきサラが黒雪溶かしたとき口出ししかせんかったよな?」
おぅコラァ!口々に思案する二人に、ジャアクフロストが声を荒らげる。
「テメェら、ジャアクフロスト様だつってるヒホ!嘗めやがって許さねえホー!ブッコロヒーホー!!」
ジャアクフロストが両手を振り乱しながらアラタとサラ目掛けて飛び込んでくるが、咄嗟に二人が飛び退く。
「さーて、やったるでコラ。」
「ヘヘッ、ちぃと寒ぃが雪野郎相手なら不足はねぇ!」
アラタが木刀を構え、サラがその両手に焔を灯す。
「ヒホヒホ、オレサマをただのジャックフロストと思うなホー!!」
上空へ突き出した両手から冷気が迸ると次々にツララを成して降り注ぐ。
「おわっと!?いてて…」
「フレイムソード!」
木刀を振るうアラタと共に、サラもその指先から焔の刀身を伸ばしてツララを払う。
「ヒーホー、オレサマは遊びたいだけだホー!」
ジャアクフロストが騒ぎながら、両手を凍結させて拳となった氷塊をそこかしこに叩きつける姿にアラタが木刀を打ちにかかる。
「遊びたい言うて暴れとるやないかアホ!」
「ヒホ、オレサマはオレサマの遊び方があるだけだホー!」
拳を勢いよく地に叩きつけた衝撃を浴びたアラタが腕で身を庇いながら後退する。
「へ、ブッ咬ましてやんよぉ!」
入れ替わるように飛び出したサラが、燃え盛る拳で奴の拳を殴り返して氷を蒸発させたが、
激昂したジャアクフロストは身を仰け反らせながら冷気を辺り一面に吹き散らすではないか。
吹雪く中で、更に奴は両手を高く翳すとそこかしこに氷塊が降りしきる。
二人、持ち前の脚速で回避をするも、いくつかの猛威は避けきれずに呑まれてしまう。
「アカンサラ、また来るで!?」
「お~冷て…!てマジかよ、フレイムタワー!!」
赤熱を帯びた掌を地に叩き付けると共にそこかしこから高く火柱が上がり、辺りを漂う氷雪を無に帰する。
「ったくぅ…オレもだいぶかじかんできたぜ…」
「アカンなぁそういやサラは…そや、ジョー!!」
?呼びかけられた淳が不思議そうに手を上げて応じたため、アラタも手を上げるなり三本指をたたみ、親指を小指を伸ばす。
…『受話器』のつもりか、趣旨を察した淳がスマホを取り出した。
それを見届けたアラタはサラとジャアクフロストが殴り合う様子へ割って飛び込んでいく。
[んああ、まぁた寒くなってきたしぃ~…楽しそうな奴も、人助けとか言って暑苦しい奴も、ほんっとうぜぇ~。早く終わらせたい。]
「ヒホホ、テメェ火焔持ちの癖に随分寒がってるホー?」
うるせぇ!!相手の放った拳を真っ向から打ち返しながら、闘志そのものを燃料とするように、瞳から焔を一層に浮かび上がらせる。
「オメェの飼い主だって寒がりなのにコンビ組んでるじゃねえか!」
それはそうだ、アラタは思い出したように手を叩く。
「ソレようわからんのよな、なんで寒いの嫌いとか騒いでる癖に氷雪系の悪魔と手を組んでんねん?」
んあ~?ジャアクフロストの中から、相変わらず気怠い声が間延びしながら返す。
[別にぃ、俺はただ寒いの以上に人がワイワイ群れるイベントだ行事だってのが大嫌いなだけなんだよねぇ~。]
・・・
「うっわぁ~…拗れすぎてて非リアモーターカーって感じ。」
「もはや化け物と組まなくてもとっくに化け物ね…」
フユキの言い分に、あかりとゆかりが口角を引き攣らせながらぼそりとツッコむ。
しかし当の奴は何を気にすることもなく相変わらず思想を垂れ流すではないか。
[そういう意味ではさぁ、冬ってクソだよねぇ…寒いうえにクリスマスだのスキーだのバレンタインだの…そのせいでチョコだケーキだの甘い匂い…
挙句、俺の住んでるこの街でイルミネーションなんざおっぱじめて…そりゃ思うよねぇ、『いっそエグい吹雪になってくれないかなぁ~』ってさ。]
そんなことを口々に言っていると、不意にアラタに呼び声がかかる。
「おーいアラタ、この黒いやつなんだと思う?オレあんま雪とか触りたくねんだわ悪りぃ。」
辺りをうろうろと見回っていた白い髪の少年の姿にアラタは思い出したように振り返る。
「おースマンなサラ。どれどれ~?」
とことこと踵を返したアラタは程なくして散らばる黒い塊を覗き込む。
「おおなんやコレ、真っ黒やんけ。」
「おいおい、あまり触らない方が…」
在路の制止もご存じの通り聞くはずもなく、アラタは掌を押し当てた。
オイ!?在路達一同が驚愕する中、アラタは構わずに手に取り、額に押し当てる。
「気にすんな、アイツはあーゆーバカだ…」
...もっと見る彼を知る淳が呆れ交じりにいう中、アラタは口を開いた。
「これ、『雪』です。(キリッ)」
雪!?驚きの中でサラは腰を落として覗き込む。
「マジかよ!?なんか真っ黒だぜ!?それに…」
ステイ、言いかけた彼をアラタが制し何事か目配せで語り合うと、気を取り直したようにアラタは言う。
「何にせよこれは雪なんでね、一回食べてみます。黒ぉお~~雪ぃいい~~~ねぇええ!!」
「いや食うな!?雑菌だよバカ!」
声を荒らげる在路の肩を軽く小突きながら串間はため息をつく。
「構わなくて良い、アイツはそういうやべー奴なんだよ…」
そんな似た者同士の心労などそっちのけでザクザクと雪に齧り付きながらアラタは言う。
「ん~…黒くたってやっぱ雪は雪っすね。面白味はないかな。」
「いやいやいやキミさっきから何やってるの!?」
「貴方さっきから埒が明きませんね、何者なんですか?」
「ユヅキ、キズナ、あんま近寄らねえ方が良いぞ?」
素性を知らなければ完全に不審者だ、いよいよあかりとゆかりが訝しむではないか。
「おおせやな、ボクは和泉アラタ言うてなぁ、ここだけ不自然な大雪になっとる言うから仕事のツテの知り合いに調査頼まれたんよ。」
「それで、何かわかったのか?」
仕事…?顎に手を添えるゆかりをヨソに淳が問いかけると、アラタも頷いて返す。
「おうさ。まぁ十中八九あの黒雪やろけど、尻尾掴むにはちぃと早いかな…」
何だコイツ…?先までの奇行とは打って変わって鋭い目で黒雪を見据えるアラタに一同が困惑する中、あかりが乗り出した。
「その仕事とか尻尾掴むとか、何の話?異常気象なんだよね?」
まぁ~、アレや、頭を掻き、言い淀みながらアラタは応える。
「無理に知らなくてもええこともあるっちゅーこったな。ところでキミ、名前は?」
え…?突然の言い分にあかりはぽかんと首を捻る。
「紲星あかり、ですけど…」
へぇ…相槌とともに、アラタが流れるようにその手を取ろうとしたため、あかりが咄嗟に後ずさる。
「ちょ、いきなり何!?こわっ!?」
「いやはや失礼、何故やかわからへんけど、キミの声を聴いていると妙な安心感を持ってもうてなぁ~」
「だから何!?」
「まぁあかりは明るい女の子の可愛らしい中にも優しさあふれる声しとるからわからんでもないけどなぁ…」
反論するあかりと対照的に謎に説明臭い言い分を付け加える茜、しかし気にせずアラタは続ける。
「なーなーあかりちゃん、ちょっと『あーらたんっ』て言うてみてくれへん?」
「出会って数分で名前呼び!?ていうかアーラタンって何!?」
「ん?ボクのあだ名やけど…」
・・・
「え何、フツーにイヤですけど!?」
「デァアアアアアアアアア!?」
うわぁ!?あかりの回答に間髪入れず、アラタがその場に転げた。
「あ゛あ゛あ゛その声で拒否られるとダメージがエグイ!!」
その場でゴロゴロと荒ぶりながら泣き叫ぶ姿に追い打ちの一言、
「え待って?本当に心底気持ち悪いんだけど。」
「うあああその声で気持ち悪いって…!!割と心当たりあったわ。」
スンと鎮まりながら立ち上がったアラタはいきなりスマホを取り出し、通話を始める。
「ワタシの心を救えるのは私自身しかいないィ!」
[もしもし、あらたん?どうかした?]
ありがとうございます!!電話口の声に間髪入れずアラタが咆哮めいた奇声を返すと、電話口で困惑の声が続く。
[ちょ待って!?何、どういうこと!?]
「ありがとな雛菜ちゃんっ、キミの『あらたん』に救われた魂がいます。本当にありがとう、ほなね。」
[ねぇだから待ってってあらたん、一方的に切らな]
問答無用で通話を収めたアラタがひとつ深呼吸をする。
「よし、ボクには雛菜ちゃんがいてくれとる。せやから…」
そこまで言った時、不意にアラタに当たった雪玉が爆ぜる。
「アラタだー!」「雪合戦やろーぜー!!」
顔を向ければ、小学生の子供たちが大はしゃぎ、既にサラまでまじっているではないか。
「おお~なんやチビども、元気やなぁ!サバイバル雪合戦、やっちゃぅ!?」
「イヤ、アンタ仕事言うとったやろー!」
茜のツッコミも虚しく、アラタは子供の輪に駆けていく…
一部始終に開いた口が塞がらない在路だが、ふと我に返り、淳の肩を小突く。
「なぁ、あの和泉クンとやらは、いつもあんな感じなのかい?」
その質問にさながらトラウマを掘り起こされたように表情を沈めた淳が返す。
「あぁ、認めたかねぇが、アイツは普段からああいう感じなんだよ…」
「本当にいざって時は頼りになるんだけどねぇ…」
項垂れて脱力する淳にフォローを入れるように泉が苦笑する。
そんな様子に一同は淳の心境を慮るより他は無かった…
ともあれ、茜が思い出したように手を叩く。
「無駄に時間食ったわ。とりあえず雪搔きやってくで~。」
雪搔き?聞き返す淳に続けて茜が応える。
「おう、ウチら学校でボランティアみたいな委員会入っとってな~。ここにいる厳密な委員はウチとヌシやけど、他の皆も手伝ってくれとるんよ。」
「それでまあ日頃お世話になってる場所だし、スタッフさんも雪搔きしてるし、ね…」
なるほどな、淳は泉と顔を合わせるなり頷きあって一同の後ろにつく。
「俺たちもやるよ、遊びに来たのは同じだしな。」
「まぁじで!?お前やっぱ良い奴だな、さんきゅー!」
「よせよ、言う程だ…」
「なぁに言ってるの、淳センパイは良い人だよ。」
「ふふっ、仲が良いんだね…」
・・・
仕事だ調査だとは何だったのか、子供との雪合戦に興ずるアラタとサラを置いて、一同はスタッフに続く形で雪搔きの作業に入った。
「うぁー、寒すぎっしょ~…」
暫く雪搔きに勤しむ面々…そんなさなかに、一人の影が佇むと、その光景に苦々しい声を上げる。
「はあぁ?何してんのお前ら?なぁんで雪搔きなんざしてるワケぇ?今すぐそんなのやめやめ、やめろよぉ~~。」
なんやぁ?いきなりかかる声に茜や周囲にいた面々が顔を上げる。
見ればそこにいるのは、マスクにマフラーファーまでついたジャンバーにブーツまで着込んだ、随分極端な装いの青年だ。
目深なフードの奥からは隈が浮くほど顔色の悪い目元が覗き、じとりと気怠げに睨みまわす。
「何だよもう、見てるだけで面倒臭い…うっざ~。」
何言ってんだおめぇ?ズカズカと身を乗り出したのは阿久津だ。
「色々困るから雪搔きしてんだろ。お前もそんな着込んでさみぃならいっちょど~よ?」
・・・あ゛?その言葉に男の眉間が少し寄る。
「なぁにお前、そのツラで真面目ぶってんのぉ?はぁイヤダイヤダ…」
「なんやなんや、気分悪いなぁ。」
「お言葉ですけど、貴方何をしにいらっしゃったのかしら?」
茜とゆかりの言葉にガリガリと頭を掻きながら男は引き下がる様子も無さそうだ。
「んー?どうせ大雪で凄いことになったろーなって様子見に来ただけだけど?こん~な寒いんだから、大人しく休まない?」
何言ってるんだ、うだうだと垂れ流す姿に在路が踏み出す。
「公共の場なんだし、野放しって訳にもいかないだろ。」
「あーあーあー、真面目チャンって、ほんっとめんどくさ…たりぃだけだし、雪なんて晴れればすぐ溶けるんだから、何もしないで待った方がラクっしょ~。違う?」
「ゆかり~ん、この人怖すぎない?」
「ええ、こうもみっともない大人にだけはなりたくないわね。」
わざとらしく深いため息を吐きながら項垂れる姿にあかりとゆかりがひそひそと言い合う。
「ねぇ淳センパイ。この人…」
「ああ、そろそろアラタのヤツが嗅ぎつけるか…?」
二人、男の奇妙な言動に所感を漏らしていると、男は相変わらず身勝手な言い分を繰り広げるではないか。
「理解できねぇ~、なぁんで疲れることしてんのぉ?息真っ白じゃん、ヒトが来る場所じゃないってぇ。」
うっさいねんコラ…
不意に刺刺しい言葉が空気を突き放すように放たれる。
見ればズカズカと身を乗り出すのは茜ではないか。
「アンタが何をどうせぇと勝手やけどな、ウチらはウチらの都合でやっとんねん。手伝わんでエエからさっさと失せーや。」
「お姉ちゃん…!?」「落ち着け、茜…!」
日頃の陽気な声を静めて喰いかかる姿に葵と在路が止めにかかるが、そんな姿に豆鉄砲を食ったように見入っていた男はやがて勢いよく吹きだした。
「なぁにお前ら?まさかまだイルミネーションとか言ってるクチ?無理っしょ。」
「あ?どういうこったコラ。」
変わらず眉を吊り上げる茜を受け流すようにわざとらしく首をすくめる男はマスク越しの口を閉じるつもりは無いようだ。
「見りゃわかんだろ、なんか真っ黒い雪落ちてるし、そんな得体の知れない物を野放しにはできないじゃん。
だからさっさとはっきり中止にしちゃえよ、ここも封鎖してさっ!楽しそうにするのやめな、ウザいんだよ。」
「ヤローさっきからなぁにワケわかんねえこと言ってやがる?」
拳を握り締めて踏み出す阿久津‐如何にもガラの悪い姿すら冷笑しながら奴は続ける。
「だって寒くて辛いのにバカみたいに群れてさぁ~。夜にギラギラ光らせてぇ~、皆で謎に盛り上がってんのホントクソだわ。
お前ら結局群がるのは寒いからだろ?イベントごとなんかなくっても集まってたいんだろ?だったら家ん中でよろしくやってた方が暖かいしラクじゃんねぇ?」
「うっわ何それひっど!?」
「勝手なこと言わないでよ!」
一方的に好き勝手捲し立てる姿に、あかりと泉が息巻くが、すぐに泉がある様子に気付く。
…呆れて閉口していた在路は、不意に強く袖を摘む感触に隣を見る。
自分の袖を握り締めながら、視線を落として唇を噛む葵の姿…
「葵さん…」
泉もその姿を心配そうに見る。
「ねーねー淳センパイ!隣町でなんかイルミネーションのイベントあるんだってぇ!」
12月の初頭に、泉が溌溂とした声で呼びかける。
「隣町…昇星か?」
「じゃなくて、反対の途成(トナリ)のほう。」
「小中学ならともかくとして、高校がそんな隣接した街に何個もあってたまるかっつー話だけどな。」
気怠げに突っ込むがしかし、肝心の彼女が降った話題を思い出すなり小さく微笑みながら淳は返す。
「行くか?丁度誕生月だし、な…」
その言葉を聞くなり、泉が目を輝かせ、口元を綻ばせる。
「ありがとー!淳センパイ大好きっ!」
...もっと見るおいおい、よせよ…困ったように笑いながらも腕に身を寄せる彼女の頭に手を優しく置く。
「うーわ串間のヤツがまぁた見せつけてやがる~。」
「うるせぇ槌野大人しく帰れ。」
『漆黒の寒波!ヒーホー大魔界!!』
「大雪大雪ヒーホーヒーホー!」
深夜、こんこんと雪が降り積もる中、一つの影が踊り狂う…
‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐
‐‐‐‐‐‐‐‐
‐‐‐
とある町‐大型モールの一角の広場…ここ数日にして異様な吹雪に見舞われた一帯は、見事なまでに不自然な銀世界と化していた。
「なん~やコレ、異常気象やんけ。」
軽妙な訛り口調で声を上げ、好奇の目で見回しながら先陣を切るように踏み出したのは、飾紐でリボンを長髪にとめた少女だ。
「おい、あんまはしゃぐなよ、転ぶぞ。」
そんな彼女を制止するのは線が細く、どこか気怠げな雰囲気の少年だ。
しっかしよぉ…そんな少年の隣に並ぶのは派手なアクセサリーが目を引く…如何にもヤンチャな雰囲気の少年だ。
二人並ばれるとカツアゲする方される方にしか見えない二人組だが、至って仲良さげに少年は目の前の光景に指を向ける。
「なぁヌシ、あの真っ黒いのなんだと思う?」
『ヌシ』と呼ばれた少年がゆったりと視線を向けると、その先に広がる雪景色の中には、ちらほらと黒光りする塊が点在するではないか。
「なんだ、あれ…なんか汚くても困るし、アクユーもアカネも触るなよ?」
「おー了か、ておい!?」「何やねんヌシ、アンタウチをどう思っとんねん!」
アクユーと呼ばれた少年‐『阿久津 裕(アクツ ヒロシ)』と、アカネと呼ばれた少女‐『琴葉 茜(コトノハ アカネ)』はヌシの言い分に食って掛かる。
「はは、ごめんて。」
「もぅ、お姉ちゃん。公人くんの言う通りだと思うよ。」
気の抜けた笑いで受け流すヌシ‐『在路 公人(アルジ キミト)』だが、隣で袖を摘んでいた少女が身を乗り出しながら茜に寄る。
雰囲気こそ静と動を思わせるように対比的だが、目鼻立ちや身長が茜と瓜二つ…更に彼女と反対に揃いのリボンをとめた少女だ。
「な、なんやねんアオイ!」
アオイ‐『琴葉 葵(コトノハ アオイ)』…そっくりな容姿に加えて、茜を姉と呼んだ通り、双子姉妹の妹だ。
因みに在路とは恋仲だ。
彼女はやや厳しい口調で茜の反論を打ち返す。
「だってそうでしょ。絶対公人くんが言わなかったら何やこれぇとか言いながらぺたぺた触ってたでしょ?」
「うぅ、言われてまうとぐうの音の欠片も返せへん…」
しおしおと頭を垂れる茜。
そんな様子をくすくすと眺めていた人物ーー切れ長な目元が気品を感じさせる、長いもみあげを結いたショートヘアの少女が口を開く。
「ところで阿久津くん。アキバくんとロボケンはどうしたの?」
んあ?少女の問いに頭を掻きながら記憶を探って阿久津は返す。
「あー、『オタク』のヤツも『ロボケン』も今日はなんか用事だとよ。」
そう…自分から聞いた割にはどこか素気ないように彼女が返す。
「ともあれ皆…アカリちゃんも、準備するわよ。」
「でもさぁゆかりん。一応アレ何なのか聞いといた方が良いよね?」
ゆかりん‐『結月 ゆかり(ユヅキ ユカリ)』に応じるのはボリューミーな髪を太いみつあみにまとめたアカリ‐「紲星 あかり(キズナ アカリ)」だ。
彼女は人懐っこい面持ちで近くにいた関係者に駆け寄る。
「すみませーん、あの黒いの何なんでしょうか~?」
「いやはや、それが私にも分からなくてですね…雪はどうにかしても、この真っ黒いのがどうにもならない分には…」
うむむ…苦い顔をしながら男性が腕を組む…
「今夜のイルミネーションも中止ぃ、ですかねぇ…」
あ…少し、葵の表情が曇り、胸元で手を握り締める。
葵…在路と茜が気遣わしげな視線を送る。
「えー、中止かぁ~…」
気まずい空気を解くようにさぞ残念そうな脱力声が上がる。
見れば、みつあみを二つ、輪のようにまとめた少女が肩を落とすではないか。
隣ではまぁまぁと精悍な少年が諫める。
「お、なんやアンタら。」
失礼、精悍な少年‐淳が応えた。
「悪り、聞こえてましたか、俺は串間。こっちはいず…島田、彼女。まぁアレッス。イルミネーション目当てッス…」
少し愛想の無さを取り繕うようにぎこちなく言う姿に、どこか心当たりがあるように茜や阿久津は在路に視線を送る。
「な、なんだよ…?」
「プハハ、悪り。」「なんでもあらへんよ~」
含みのある言い方に釈然とせず頭を掻くが、しかし、彼から感じるコミュ障力にはそこはかとないシンパシーを感じるのは事実だ。
二人が言いたいのはそういうことだろう。
まーまー、不意に場を取りなしたのはあかりだ。
「二人とも高校生くらいでしょ~…え、二年と一年?私たちも二年だから敬語じゃなくっていいよ~」
持ち前のフランクで距離を詰めるのは流石といったところか。
それにしても…泉のことを淳は彼女と言った…バリバリ陽キャタイプの阿久津に絡まれタジタジとする淳の脇に立つ少女に共感を抱いたのか、葵は隣に立つ。
「こ、こんにちは。」
「あ、えと。こんにちは…」
綺麗な人だな…突如声をかける少女に、そう思いながら泉も返す。
それにしても…
「あちらの方とご姉妹ですか?」
元々物怖じをしない質らしい、挨拶を交わすなり話題を切り替える姿に、内向的な葵は少し緊張を抱く。
「あ、はい。双子で、私は妹…です。」
「へぇ~、ほんとそっくり!あ、私一年だから敬語無しで良いですよ。」
へ?彼女の言い分に呆気にとられていたが、すぐにあかりの言葉を思い出す。
「う、ウン…えっと、島田さんも、学校違うんだし、大丈夫だと思う、よ…?」
思わず陽の波動に気圧されてしまったが、しかし思い出したように言葉を続ける。
「そうだ。その…島田さんは、串間さんと、デート?」
ん!?直球な質問に思わず頬を染めながらも、泉は応じる。
「うん…今月誕生日あるし、なんかイルミネーションあるって聞いて、気になったんだけどね…」
とほほと肩を落とす姿に、葵も苦笑を浮かべる。
「残念だよね。私も…皆と来てはいるけど…」
そう言いながら彼女が指した人物‐在路に目線を送ったまま柔らかく目を細めた。
「公人くん…私も大切な人と過ごしたいのが一番だったからさ…」
葵さん…性格こそ対照的だが似たような境遇を持つ彼女の姿に泉の眉が下がる…と、
「いんや、まだ早いんじゃね?」
口を挟むのは淳だ。
「ん、どゆこっちゃ?」
「何か案があるの?」
不思議そうに首をかしげる茜とゆかりにバツ悪く淳は頭を掻く。
「いやー、他力本願みたいなもんだけどさ。多分この雪が異常気象なら、知り合いが嗅ぎつけてるよ。」
嗅ぎつける?その言い分に在路も続いて口を開く。
「串間くん、それは、つまり…?」
「あー、いるんだよ。この雪とか黒い塊みたいな変なのを専門的に対処する奴が、さ…」
そんな話をしている矢先だった。
「あんんれまぁあ~、ものっそい雪やんけオイ。」
「ひょお、さっみぃなあ~!!」
近くに停まったタクシーからズカズカと降りる少年二人…
「あんがとなオッチャン。頑張ってな!」
片や茜のような訛り口調で、ボサついた髪癖の少年‐愉快に笑いながらドライバーの胸ポケットに札束を捻じ込むではないか。
「オイオイおめぇ、マジかよ!佐野満リスペクトか!?」
隣に立って腕を組むのは逆立った白い髪と、ステレオチック番長よろしくに肩で学ランを羽織った大柄な少年…制服の柄は運動部の大会で名を馳せる高校のものではないか。
「えぇのえぇの、ツリ無しぴったりやし~」
白髪に応えるように笑う少年の姿に一転、不服そうな表情を浮かべながら立去るタクシーをつゆ知らずで少年は気前良く手を振る。
「やっぱ来やがったか、アラタ。」
「おぉう、誰か言うたらジョーやんけ!ほんで泉ちゃんもおるんか。」
淳が呼びかけた髪癖の強い少年‐アラタがあっけらかんと笑うが、すぐに二人が見慣れぬ少年少女と居合わせていることに気付くなり、むふむふと気色悪く口角を緩めるではないか。
「やぁ~だもぅ、ジョーが他校の子と仲良くしてるなんて珍しっ!あらたん感激ぃ~」
・・・
腰をくねくねと蠢かせる姿に一同が黙する中、淳はアラタの頭を掴んで腹の高さまで押し下げるなり、
「気持ち悪りぃ!!」
「どぎゃーん!!」
その顔面目掛けて振り上げた膝を叩きつけた。
投げ出されて転がるアラタ…突然の光景に在路達が呆気にとられる中、茜が彼に耳打ちする。
「なーなーヌシ、あの串間クン、やっぱアンタと同じにおい感じるな~」
「そ、そうかい…?」
「あぁ、人慣れしてなさそうどころかキレるとフットワークエグいのもそっくりだぜ…」
追い打ちをかける阿久津にも釈然としないが、不意に目の前で崩れ落ちていたアラタが勢いよく起き上がるではないか。
「ヌシくん!?貴方ヌシくんって言うの!?」
「あ、僕は…」
そーそ、本名を言うより先に彼の肩に腕を回しながら阿久津がご機嫌に笑った。
「コイツ『在路(アルジ)』だから『ヌシ(主)』ってオレが勝手に呼んでたら広まった。」
「おぉ~、ウィットの利くチャラ男や~」
「オメェそれ褒めてる?」
「しかし在路公人(あるじきみと)、主公人(あるじきみと)…あっ(察し)」