そんなことを口々に言っていると、不意にアラタに呼び声がかかる。
「おーいアラタ、この黒いやつなんだと思う?オレあんま雪とか触りたくねんだわ悪りぃ。」
辺りをうろうろと見回っていた白い髪の少年の姿にアラタは思い出したように振り返る。
「おースマンなサラ。どれどれ~?」
とことこと踵を返したアラタは程なくして散らばる黒い塊を覗き込む。
「おおなんやコレ、真っ黒やんけ。」
「おいおい、あまり触らない方が…」
在路の制止もご存じの通り聞くはずもなく、アラタは掌を押し当てた。
オイ!?在路達一同が驚愕する中、アラタは構わずに手に取り、額に押し当てる。
「気にすんな、アイツはあーゆーバカだ…」
...もっと見る彼を知る淳が呆れ交じりにいう中、アラタは口を開いた。
「これ、『雪』です。(キリッ)」
雪!?驚きの中でサラは腰を落として覗き込む。
「マジかよ!?なんか真っ黒だぜ!?それに…」
ステイ、言いかけた彼をアラタが制し何事か目配せで語り合うと、気を取り直したようにアラタは言う。
「何にせよこれは雪なんでね、一回食べてみます。黒ぉお~~雪ぃいい~~~ねぇええ!!」
「いや食うな!?雑菌だよバカ!」
声を荒らげる在路の肩を軽く小突きながら串間はため息をつく。
「構わなくて良い、アイツはそういうやべー奴なんだよ…」
そんな似た者同士の心労などそっちのけでザクザクと雪に齧り付きながらアラタは言う。
「ん~…黒くたってやっぱ雪は雪っすね。面白味はないかな。」
「いやいやいやキミさっきから何やってるの!?」
「貴方さっきから埒が明きませんね、何者なんですか?」
「ユヅキ、キズナ、あんま近寄らねえ方が良いぞ?」
素性を知らなければ完全に不審者だ、いよいよあかりとゆかりが訝しむではないか。
「おおせやな、ボクは和泉アラタ言うてなぁ、ここだけ不自然な大雪になっとる言うから仕事のツテの知り合いに調査頼まれたんよ。」
「それで、何かわかったのか?」
仕事…?顎に手を添えるゆかりをヨソに淳が問いかけると、アラタも頷いて返す。
「おうさ。まぁ十中八九あの黒雪やろけど、尻尾掴むにはちぃと早いかな…」
何だコイツ…?先までの奇行とは打って変わって鋭い目で黒雪を見据えるアラタに一同が困惑する中、あかりが乗り出した。
「その仕事とか尻尾掴むとか、何の話?異常気象なんだよね?」
まぁ~、アレや、頭を掻き、言い淀みながらアラタは応える。
「無理に知らなくてもええこともあるっちゅーこったな。ところでキミ、名前は?」
え…?突然の言い分にあかりはぽかんと首を捻る。
「紲星あかり、ですけど…」
へぇ…相槌とともに、アラタが流れるようにその手を取ろうとしたため、あかりが咄嗟に後ずさる。
「ちょ、いきなり何!?こわっ!?」
「いやはや失礼、何故やかわからへんけど、キミの声を聴いていると妙な安心感を持ってもうてなぁ~」
「だから何!?」
「まぁあかりは明るい女の子の可愛らしい中にも優しさあふれる声しとるからわからんでもないけどなぁ…」
反論するあかりと対照的に謎に説明臭い言い分を付け加える茜、しかし気にせずアラタは続ける。
「なーなーあかりちゃん、ちょっと『あーらたんっ』て言うてみてくれへん?」
「出会って数分で名前呼び!?ていうかアーラタンって何!?」
「ん?ボクのあだ名やけど…」
・・・
「え何、フツーにイヤですけど!?」
「デァアアアアアアアアア!?」
うわぁ!?あかりの回答に間髪入れず、アラタがその場に転げた。
「あ゛あ゛あ゛その声で拒否られるとダメージがエグイ!!」
その場でゴロゴロと荒ぶりながら泣き叫ぶ姿に追い打ちの一言、
「え待って?本当に心底気持ち悪いんだけど。」
「うあああその声で気持ち悪いって…!!割と心当たりあったわ。」
スンと鎮まりながら立ち上がったアラタはいきなりスマホを取り出し、通話を始める。
「ワタシの心を救えるのは私自身しかいないィ!」
[もしもし、あらたん?どうかした?]
ありがとうございます!!電話口の声に間髪入れずアラタが咆哮めいた奇声を返すと、電話口で困惑の声が続く。
[ちょ待って!?何、どういうこと!?]
「ありがとな雛菜ちゃんっ、キミの『あらたん』に救われた魂がいます。本当にありがとう、ほなね。」
[ねぇだから待ってってあらたん、一方的に切らな]
問答無用で通話を収めたアラタがひとつ深呼吸をする。
「よし、ボクには雛菜ちゃんがいてくれとる。せやから…」
そこまで言った時、不意にアラタに当たった雪玉が爆ぜる。
「アラタだー!」「雪合戦やろーぜー!!」
顔を向ければ、小学生の子供たちが大はしゃぎ、既にサラまでまじっているではないか。
「おお~なんやチビども、元気やなぁ!サバイバル雪合戦、やっちゃぅ!?」
「イヤ、アンタ仕事言うとったやろー!」
茜のツッコミも虚しく、アラタは子供の輪に駆けていく…
一部始終に開いた口が塞がらない在路だが、ふと我に返り、淳の肩を小突く。
「なぁ、あの和泉クンとやらは、いつもあんな感じなのかい?」
その質問にさながらトラウマを掘り起こされたように表情を沈めた淳が返す。
「あぁ、認めたかねぇが、アイツは普段からああいう感じなんだよ…」
「本当にいざって時は頼りになるんだけどねぇ…」
項垂れて脱力する淳にフォローを入れるように泉が苦笑する。
そんな様子に一同は淳の心境を慮るより他は無かった…
ともあれ、茜が思い出したように手を叩く。
「無駄に時間食ったわ。とりあえず雪搔きやってくで~。」
雪搔き?聞き返す淳に続けて茜が応える。
「おう、ウチら学校でボランティアみたいな委員会入っとってな~。ここにいる厳密な委員はウチとヌシやけど、他の皆も手伝ってくれとるんよ。」
「それでまあ日頃お世話になってる場所だし、スタッフさんも雪搔きしてるし、ね…」
なるほどな、淳は泉と顔を合わせるなり頷きあって一同の後ろにつく。
「俺たちもやるよ、遊びに来たのは同じだしな。」
「まぁじで!?お前やっぱ良い奴だな、さんきゅー!」
「よせよ、言う程だ…」
「なぁに言ってるの、淳センパイは良い人だよ。」
「ふふっ、仲が良いんだね…」
・・・
仕事だ調査だとは何だったのか、子供との雪合戦に興ずるアラタとサラを置いて、一同はスタッフに続く形で雪搔きの作業に入った。
「うぁー、寒すぎっしょ~…」
暫く雪搔きに勤しむ面々…そんなさなかに、一人の影が佇むと、その光景に苦々しい声を上げる。
「はあぁ?何してんのお前ら?なぁんで雪搔きなんざしてるワケぇ?今すぐそんなのやめやめ、やめろよぉ~~。」
なんやぁ?いきなりかかる声に茜や周囲にいた面々が顔を上げる。
見ればそこにいるのは、マスクにマフラーファーまでついたジャンバーにブーツまで着込んだ、随分極端な装いの青年だ。
目深なフードの奥からは隈が浮くほど顔色の悪い目元が覗き、じとりと気怠げに睨みまわす。
「何だよもう、見てるだけで面倒臭い…うっざ~。」
何言ってんだおめぇ?ズカズカと身を乗り出したのは阿久津だ。
「色々困るから雪搔きしてんだろ。お前もそんな着込んでさみぃならいっちょど~よ?」
・・・あ゛?その言葉に男の眉間が少し寄る。
「なぁにお前、そのツラで真面目ぶってんのぉ?はぁイヤダイヤダ…」
「なんやなんや、気分悪いなぁ。」
「お言葉ですけど、貴方何をしにいらっしゃったのかしら?」
茜とゆかりの言葉にガリガリと頭を掻きながら男は引き下がる様子も無さそうだ。
「んー?どうせ大雪で凄いことになったろーなって様子見に来ただけだけど?こん~な寒いんだから、大人しく休まない?」
何言ってるんだ、うだうだと垂れ流す姿に在路が踏み出す。
「公共の場なんだし、野放しって訳にもいかないだろ。」
「あーあーあー、真面目チャンって、ほんっとめんどくさ…たりぃだけだし、雪なんて晴れればすぐ溶けるんだから、何もしないで待った方がラクっしょ~。違う?」
「ゆかり~ん、この人怖すぎない?」
「ええ、こうもみっともない大人にだけはなりたくないわね。」
わざとらしく深いため息を吐きながら項垂れる姿にあかりとゆかりがひそひそと言い合う。
「ねぇ淳センパイ。この人…」
「ああ、そろそろアラタのヤツが嗅ぎつけるか…?」
二人、男の奇妙な言動に所感を漏らしていると、男は相変わらず身勝手な言い分を繰り広げるではないか。
「理解できねぇ~、なぁんで疲れることしてんのぉ?息真っ白じゃん、ヒトが来る場所じゃないってぇ。」
うっさいねんコラ…
不意に刺刺しい言葉が空気を突き放すように放たれる。
見ればズカズカと身を乗り出すのは茜ではないか。
「アンタが何をどうせぇと勝手やけどな、ウチらはウチらの都合でやっとんねん。手伝わんでエエからさっさと失せーや。」
「お姉ちゃん…!?」「落ち着け、茜…!」
日頃の陽気な声を静めて喰いかかる姿に葵と在路が止めにかかるが、そんな姿に豆鉄砲を食ったように見入っていた男はやがて勢いよく吹きだした。
「なぁにお前ら?まさかまだイルミネーションとか言ってるクチ?無理っしょ。」
「あ?どういうこったコラ。」
変わらず眉を吊り上げる茜を受け流すようにわざとらしく首をすくめる男はマスク越しの口を閉じるつもりは無いようだ。
「見りゃわかんだろ、なんか真っ黒い雪落ちてるし、そんな得体の知れない物を野放しにはできないじゃん。
だからさっさとはっきり中止にしちゃえよ、ここも封鎖してさっ!楽しそうにするのやめな、ウザいんだよ。」
「ヤローさっきからなぁにワケわかんねえこと言ってやがる?」
拳を握り締めて踏み出す阿久津‐如何にもガラの悪い姿すら冷笑しながら奴は続ける。
「だって寒くて辛いのにバカみたいに群れてさぁ~。夜にギラギラ光らせてぇ~、皆で謎に盛り上がってんのホントクソだわ。
お前ら結局群がるのは寒いからだろ?イベントごとなんかなくっても集まってたいんだろ?だったら家ん中でよろしくやってた方が暖かいしラクじゃんねぇ?」
「うっわ何それひっど!?」
「勝手なこと言わないでよ!」
一方的に好き勝手捲し立てる姿に、あかりと泉が息巻くが、すぐに泉がある様子に気付く。
…呆れて閉口していた在路は、不意に強く袖を摘む感触に隣を見る。
自分の袖を握り締めながら、視線を落として唇を噛む葵の姿…
「葵さん…」
泉もその姿を心配そうに見る。