・・・、ブチッ
彼女の姿に在路は最適解を見る。
「っ!?公人くん…?」
葵の頭に優しく手を置きながら離れる彼はそのまま厚着の男に近寄る。
「いい加減にしろ…」
「あ?…デュンッ!?」
いきなり在路は奴のマフラーに掴みかかるなり顔の位置を無理やり引き下げる。
おいおいマジかよ…!?思いがけぬ姿に淳が頬を掻く。
「おいヌシ、落ち着け!?」「流石にアカンてヌシぃ!」
...もっと見る阿久津と茜も驚愕を浮かべて呼び掛けるが、在路は変わらず鋭い目を向けるではないか。
「お前が何をどう考えようが勝手にすればいいけどな、皆同じ感覚だと思うな。人のことも考えないでガタガタ突っかかりやがって…」
「待って、公人くん…!」
葵の弱々しく縋る声も届かず、在路は拳を握り、相手の横面に振りかぶる。
「調子に…!」
葵が瞳と胸元の手を固く閉じる…
瞬間、在路の手を何かが押し留めるような衝撃が走る。
その視線の先に、一同が驚きを見せ、
「ったく、やっと来やがったか…」
淳が胸を撫で下ろす。
「和泉くん、いつの間に…?」
「ずっと向こうで遊んでたよね!?」
ゆかりとあかりの視線の先‐アラタが在路の手首を掴み、その脇ではサラが得意げに腕を組んで仁王立ちするではないか。
「和泉くん…!」
「落ち着きぃやヌシくん!キミがその手を出してまえば、傷つけるのはそんな奴なんかやない。君の手は誰かを慈しむためにある…せやろ!?」
その言葉にハッと我に返った在路は顔を上げる。
胸の前で指を握り締め、心配そうな目を向ける葵の姿…即座に駆け寄り肩を抱き寄せる。
「ごめん、葵…!」
「ううん、良いの…」
怒り任せに拳を作った手を取り、優しく頬を寄せる彼女の姿に胸を痛める。
ああ、まただ…以前の醜態がよぎり苦い顔を見せる。
しかし、その感傷は続くことはなかった。
「え、何?暑苦しいのが来ても…サムいままなんだけデュンッ!?」
一瞬にしてアラタが足を振り上げ、悪態の絶えない男の身体が地面に転がるではないか。
・・・
ええええ!?淳を除く一同の驚愕の声を気にせず、ニッと笑いながらアラタは言う。
「エエかコラぁ、『穏便やない手段』ちゅうんは、『穏便な手段』が取れへんヤツのやることやでオイ。そのねじれた根性ぉ…」
すっ…木刀を構えながらアラタは威勢良く続けた。
「たった今我々がちょーだいするッ!!」
「ナーッハッハ!テイクユァハート、だぜィ!!」
脇に控えたサラが咆哮と共に瞳と髪を燃えがらせる。
「…なんやアレ、サ●ヤ人?」
困惑に包まれる空気の中、何とか話題を拾ったのは茜だ。
目の前で繰り広げられるアトラクションのような大立ち回り、困惑も当然だ。
対する男は腹を擦りながら立ち上がり、肩をふつふつと揺らせるではないか。
「ンだよ…なんだよなんなんだよお前らぁ!」
その姿をアラタは煽るように笑い飛ばしながら仁王立ちで応ずる。
「ボクらはな、お前みたいなアホの暇人御用達の遊び相手やぞ。0120・8080・808・11♪」
ワレワレガヤレバ イイ
「ナッハハハ、『0120・8080・808・11』つってな!」
えぇ…相変わらず要領を得ない言い分に一同の困惑は収まらないが、男だけは頭を掻きまわしながら地団太を踏む。
「ンだよそれぇ、お助けヒーロー?そーゆーノリ、まじしんどいんだけど…なん~かイライラしてきたぁ…
不愉快な奴ばっかりだなぁ~~コイツラ見てたら、何もかもイヤになってきたぁ~~」
「ははは、イヤんなったなら大好きな暖かいおうちでも帰ったらどーよ?サラ、そっちはどや?」
応じるサラは何やら黒い雪の様子を見るではないか。
「おうよ、ガンガンに感じるぜ。そんじゃ手筈通りに…ストライクバーナー!」
サラが掌から火炎を打ち放つと、黒雪は水蒸気と共に霧散する。
「ヒホォー!?てめぇ様は、何をしてくれちゃってんだヒホー!?」
どこからともなく気の抜けた声が響くと同時に、厚着の男がやれやれと頭を抱える。
突如響く声に狼狽える間もなく強い冷気が漂いだすと、そこかしこに散らばっていた黒雪が厚着の男を中心に舞い出した。
オイ…隈の浮いた目元を苦く歪めながら男は言う。
「真夜中以外暴れんなつったろぉ…」
「ヒホー!アイツ、オレサマの雪溶かしやがってヒドすぎるヒホー。フユキ、アイツら凍らそうぜヒホー」
元々不自然な黒い雪が自分に群がり、挙句に謎の声が呼びかける光景。
好奇の目に晒された男‐フユキは立ちすくむ…
「ぷはは、まぁただの雪やないな思うてサラに見てもろたら魔力の残滓を感じる言うてな、依り代みたいなもんや思たんよ。」
「んで、そこの着膨れ野郎が来たら案の定黒雪に呼応する魔力を感じた、ビンゴってわけだ!」
「なぁーヌシ。あいつら何言ってるか「解るわけないだろ。」
「なんーや漫画みたいやなぁ。」
得意げに語るアラタとサラに、阿久津と在路、茜がぼそりと呟く。
「お前ら、こっから起こることは理解しようとするだけバカみてぇなもんだぜ…」
呆れとも諦めともつかぬ面持ちで淳が補足した。
あーあ…気怠げにため息を漏らしながらフユキは言う。
「毎晩ちまちま進めようとして、寒いだけでもイライラするのにぃ~。相手すんの、ホント面倒臭いんだけどぉ…あ゛~、この世終わりにしてぇよなぁ~。」
そう言いながら彼は懐から取り出した果実を貪り、辺りには寄せ付けぬ程の吹雪が漂って黒雪が包むように舞い上がる。
「ヒーホヒホ、これでまたいっぱい遊べるホー!」
アラタ達をも遮る猛吹雪のなかでヤンチャな声が響く。
「お、そやジョー、サラ…あの昇星のアンちゃんがヤバそうだったらここに電話してくれや。」
「ん…?イヤ、でもここって?」
淳は渡されたメモに首を捻るが、すぐにアラタは元の場に戻ってしまう。
吹雪がやがて止み、空気が静まり返ると、徐々に霧の中の影が形を成す…
[ケーキもチョコも甘ったるい匂いだし無理すぎて凍えるわぁ、もう冬のイベント全部、俺達で無理やりにでも終わらせてやる…!]
「ヒィーホォー!!!」
晴れた中に佇むのは2m程の真っ黒な巨体…その容姿は一言で言えば手足の生えた雪だるま、だろうか。
紫の頭巾とケープを纏い、険しい顔こそしながらも、ゆるキャラのような愛嬌を感じさせる妙な風体だ。
「えぇ、何アレ、着ぐるみ!?」
「なんーやかわええやんけ!」
驚きを浮かべるあかりと茜、一方でサラは気の抜けた声を上げる。
「あれ、オメェ、ジャックフロスト!?」
ヒホホー!高らかに笑いながら異形は語る。
「オレサマはイノセントだったあの頃から悪の道を究めた…」
「ブラックフロスト!」
「ちげーホ!オレサマこそが、」
「サラ、ちゃうねん。ダークフロストや。」
「惜しい、『ジャアクフロスト』だヒホー!!」
楽しげに腕を振り回して嬌声を上げるジャアクフロストをヨソにアラタがリモコンのような装置を起動すると彼らと淳や在路達周囲を分断するように光の規制線が生じる。
[もう隠すこともねぇっか…今ぁ、気分悪いからさ、潰させて貰うよ…?]
歯ぎしりが混じった底意地の悪いニヤケ声‐フユキだ、奴の声がジャアクフロストの姿から響いてくるではないか。
「どうもあの着膨れ野郎、マックロフロストと一体化してる感じか?」
「なぁ~るほどな、そういやさっきサラが黒雪溶かしたとき口出ししかせんかったよな?」
おぅコラァ!口々に思案する二人に、ジャアクフロストが声を荒らげる。
「テメェら、ジャアクフロスト様だつってるヒホ!嘗めやがって許さねえホー!ブッコロヒーホー!!」
ジャアクフロストが両手を振り乱しながらアラタとサラ目掛けて飛び込んでくるが、咄嗟に二人が飛び退く。
「さーて、やったるでコラ。」
「ヘヘッ、ちぃと寒ぃが雪野郎相手なら不足はねぇ!」
アラタが木刀を構え、サラがその両手に焔を灯す。
「ヒホヒホ、オレサマをただのジャックフロストと思うなホー!!」
上空へ突き出した両手から冷気が迸ると次々にツララを成して降り注ぐ。
「おわっと!?いてて…」
「フレイムソード!」
木刀を振るうアラタと共に、サラもその指先から焔の刀身を伸ばしてツララを払う。
「ヒーホー、オレサマは遊びたいだけだホー!」
ジャアクフロストが騒ぎながら、両手を凍結させて拳となった氷塊をそこかしこに叩きつける姿にアラタが木刀を打ちにかかる。
「遊びたい言うて暴れとるやないかアホ!」
「ヒホ、オレサマはオレサマの遊び方があるだけだホー!」
拳を勢いよく地に叩きつけた衝撃を浴びたアラタが腕で身を庇いながら後退する。
「へ、ブッ咬ましてやんよぉ!」
入れ替わるように飛び出したサラが、燃え盛る拳で奴の拳を殴り返して氷を蒸発させたが、
激昂したジャアクフロストは身を仰け反らせながら冷気を辺り一面に吹き散らすではないか。
吹雪く中で、更に奴は両手を高く翳すとそこかしこに氷塊が降りしきる。
二人、持ち前の脚速で回避をするも、いくつかの猛威は避けきれずに呑まれてしまう。
「アカンサラ、また来るで!?」
「お~冷て…!てマジかよ、フレイムタワー!!」
赤熱を帯びた掌を地に叩き付けると共にそこかしこから高く火柱が上がり、辺りを漂う氷雪を無に帰する。
「ったくぅ…オレもだいぶかじかんできたぜ…」
「アカンなぁそういやサラは…そや、ジョー!!」
?呼びかけられた淳が不思議そうに手を上げて応じたため、アラタも手を上げるなり三本指をたたみ、親指を小指を伸ばす。
…『受話器』のつもりか、趣旨を察した淳がスマホを取り出した。
それを見届けたアラタはサラとジャアクフロストが殴り合う様子へ割って飛び込んでいく。
[んああ、まぁた寒くなってきたしぃ~…楽しそうな奴も、人助けとか言って暑苦しい奴も、ほんっとうぜぇ~。早く終わらせたい。]
「ヒホホ、テメェ火焔持ちの癖に随分寒がってるホー?」
うるせぇ!!相手の放った拳を真っ向から打ち返しながら、闘志そのものを燃料とするように、瞳から焔を一層に浮かび上がらせる。
「オメェの飼い主だって寒がりなのにコンビ組んでるじゃねえか!」
それはそうだ、アラタは思い出したように手を叩く。
「ソレようわからんのよな、なんで寒いの嫌いとか騒いでる癖に氷雪系の悪魔と手を組んでんねん?」
んあ~?ジャアクフロストの中から、相変わらず気怠い声が間延びしながら返す。
[別にぃ、俺はただ寒いの以上に人がワイワイ群れるイベントだ行事だってのが大嫌いなだけなんだよねぇ~。]
・・・
「うっわぁ~…拗れすぎてて非リアモーターカーって感じ。」
「もはや化け物と組まなくてもとっくに化け物ね…」
フユキの言い分に、あかりとゆかりが口角を引き攣らせながらぼそりとツッコむ。
しかし当の奴は何を気にすることもなく相変わらず思想を垂れ流すではないか。
[そういう意味ではさぁ、冬ってクソだよねぇ…寒いうえにクリスマスだのスキーだのバレンタインだの…そのせいでチョコだケーキだの甘い匂い…
挙句、俺の住んでるこの街でイルミネーションなんざおっぱじめて…そりゃ思うよねぇ、『いっそエグい吹雪になってくれないかなぁ~』ってさ。]