夕陽差す聖櫻の片隅、閑静な住宅街の一角に佇む一軒家ーー『渋木』と表札が刻まれたその一室では、暇を持て余した5人の男子高校生があれやこれやとカーテンを閉めたり各々のバッグをまさぐったりと思い思いの動きを見せていた……
「おっしカーテンオッケー。イヤでも雨戸はどーすっかな。」
「ねぇ槌野くん、まだ18時だけどもうやるの?まぁ僕はなるべく早い方が良い、ケド……」
「そうですぞ。しかも夏ではまだまだ明るい、アレのコンディションとしては些か不充分かと。」
頬を掻く介斗と頷く大一が不思議そうに首を傾げるが、楓太は当然のようにニッと笑いながら眼鏡を光らせる。
「ッたりめぇよ!なんたってこの辺りの時間帯は不吉なモノに遭う『逢魔ヶ刻』、遠くの相手の顔が判らない『誰そ彼刻』つって昔から縁起でもねぇって言われてんだからよ。」
それよりも……キヒヒッと笑いながら続ける彼は部屋を見回し、即座に不満そうに眉を寄せる。
「結局オレらだけかよ〜。串間、島田チャンは呼べなかったのか?」
あ?たった今名前を出された相手とメッセージアプリでトークしていた淳は顔を上げると、先まで笑顔で眺めていた添付写真を見せた。
...もっと見る「アイツは今日長谷川と動物園、小動物触れ合いフェアだとよ。」
あそ……、早々に切り上げるように返した楓太はすぐにもう一人ーー勝手に大一の布団に潜って寛ぐ少年に目を向けた。
「和泉、新垣チャンは?」
「んあ?雛菜ちゃんはいつもの友達数名と服やらトリートメントやらお買い物行っとるで〜」
「なるほどなるほど。女子は日用品をチョロっと買うだけでも集まって盛り上がれるんだから羨ましい限りですなぁ〜」
「渋木くん、多分女の子にとっては服も美容具も日用品とは思ってないよ……」
ウンウンと顎に手を添え頷く大一に介斗はボソボソとツッコミを入れる。
あーあっ、彼らのやり取りをヨソに一層肩を落とした楓太が溜息交じりに言葉を繋ぐ。
「なんだよぉ、折角の企画なのに華も無しかぁ。」
「テメェ槌野ヨソのカノジョを花魁かなんかだと思ってねぇか?」
オイとくぐもった声で切り出し、鋭く睨みつける淳の姿を手で制した彼は咄嗟に返す。
「滅相もねぇよ!ただ女の子いれば今日の話でキャーキャー怯えるリアクション見れて楽しいだろ。」
「それはそれでどうなんだろぅ……」
「てかフータ氏、火に油ですぞ。」
「そんな怒んなやジョー、ボクは楓太の気持ちも解るで。」
「ブッ飛ばすぞアラタァ……!」
激情寸前に息巻く淳とそれを羽交い締めで抑えるアラタ、二人の様子を見た3人が苦笑する。
「マいっか。それよりお前ら、ちゃんと準備は持ってきたんだろうな?曽良もなんか考えてきた…?」
「う、うん。一応、自信無いケド、ね……」
「まぁ流石に蝋燭は危険ですし百均とは言え何本も買うのはキツいのでライトですが……」
話を振られた介斗がやや尻込みしながら応え、脇では大一が灯火した蝋燭を模したライトを5本取り出して配っていく。
よっし。夏場の夕暮れと言えども、消灯しカーテンを締め切った部屋は絶妙な暗さに包まれた。。
顎先をライトで照らし、眼鏡を白く光らせた楓太がニヤつくと他四人もつられるように口角を上げ頷いた。
「さて諸君、集まってくれてありがとう。特に渋木クンに至っては例によって場の提供、心より感謝申し上げる。そして何より、今年は和泉アラタクンと言う新盟友を迎え入れて開催できたこと大変嬉しく思います。」
勿体振るように言った楓太が一息付きながら、改めて始めようかと口火を切った。
「では、暑気忘れ百物語会、開催します……!」
◎『僕たちの聖櫻学園〜ゾワッ、野郎だけの百物語〜』
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●槌野 楓太『社会科資料室の謎の人形』
ーーお前らは、歴史資料室って知ってるよな?
「ああ、名前の通り、日本史とか世界史で出てくるモノの実物を置いてるとこだろ?」
「ああ、なんか土偶とか埴輪とか、ね……」
「実際に祐天寺先生や深見先生はよく出入りされていますからなぁ〜」
「ボクあそこの掃除やった時あったわ。」
思い思いの感想を漏らす一同に笑い返しながら彼は言葉を続ける。
ご存知の通りあの部屋はモノ多いし歴史的資料なんてデカいモンもあるからさ、当然いちいち持ち出せないヤツとか使わない物もあってそういうのが隅に追いやられてくんだよ。
で、だ……物々しい雰囲気を感じ取った4人に好感触だとほくそ笑む楓太は指を立てる。
実は端っこの棚には『謎の人形』があるんだよ。
如何にも南米のティキとかを思わせる木彫の民芸品みてぇなヤツ。
見てみればわかると思うんだが、あんな人形日本史は勿論、世界史にすら載ってねぇ。
ご存知槌野クンは好奇心旺盛なもんでどうにも気になっちまって世界史を教えてらっしゃる教頭先生にもお訊ねしたんだよ。
でも答えはご存知ないらしくて、あそこにあるのも『歴史的価値のある物には違いない』くらいの理由だそうだ。
だがオレもどうも納得できねえからよ、何かわからないかと掃除してた時にしげしげと観察してみたりしたんだよ。
そしてなんとなく並べてみて気付いたんだが、その人形は全部で七人いて、それぞれが指で数字を表してるんだけど、3の指だけ足元の造りが悪いらしくてなかなか真直ぐちゃんと立たねぇんだ。
ふと折角だから全員数字通りに並べてやろうと思ってさ、前倣えみたいに棚に沿って右向きで揃えようとしたんだけど3の奴が全然立たなくて変な方向むくわすぐ倒れて他のやつドミノ式に巻き込むわで、オレ元々不器用だからイライラしちゃったのよ。
でもなんかここまで来たらって思ってムキになって意地でも皆と同じ方向むかせて立たせようとどうにか足裏の角度とか絶妙に利用してなんとかならないか模索したんだ。
あん時の執念はヤバかった。掃除の時間で終わんないからって隙を見つけては入れさせて貰ってなんとか経たせようと苦節一ヶ月、ついにそこの担当終わる時にダメ元でやったらよ……
ちゃんと同じ向きで立たせられたんだ。
そしたらよ……ゴクリと一同が固唾を呑み、身を強張らせる姿に眼鏡を白く光らせた楓太はニヤリと不敵に笑って顔を上げた。
「めっっっっちゃスッキリしたぁー!!!!」
おおーっ!彼が両手を勢いよく挙げ、灯りを消すとともに四人が歓声を上げしきりに手を叩く。
「あの細かい事が苦手なフータ氏が……やりましたなぁ!!」
「いっやーあん時の感動と来たらもぅ〜ね!」
「解るわぁそれ、当番最後の最後ってのも良かったじゃねえか。」
「トランプタワーを成功させた時みたいな感じだよね、おめでとうっ。」
大一、淳、介斗…3人の称賛にどうもどうもと応じているとアラタもポンと手を叩いてあーっと声を上げた。
「なんやアレ楓太やったんか。ボク掃除当番なった時割と早く終わって時間余ってたからオママゴトしとったわ。」
・・・
「ちょっ、お前マジかっ!」
「イヤすまんな。」
「良いんだよオレもう当番終わったしやりたいことはできたんだからさ。」
「しかしそんなことして大丈夫なのですかアラタ氏?」
肩を叩き笑い合うアラタと楓太、続くように大一が口を挟むとあっけらかんとアラタは言う。
「あー、ボクが担当やったからか見廻りに来た祐天寺センセと畑山センセに見られてドツかれたわ〜」
「ふっ、ふふっ、何それ……」
「つかお前の方がよっぽどホラーじゃねぇか……」
くすくすと口元を押さえる介斗と呆れたように苦笑を漏らす淳……ひとしきり笑ってから気を取り直すと、
「よし、次渋木な〜。」
大一に指を向けながら楓太が指示すると、自慢げに腕を組み、軽く踏ん反りながら彼は応じた。
「良いでしょう。ジブン、不肖渋木 大一、皆に戦慄をお届けしますぞぉ。」
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●渋木 大一『廃井戸と母』
ーーアレはジブンが中学の時でしたな。
フータ氏、淳氏、介斗氏は社会科見学で大人に話を聴く、という課題があったのを覚えているでしょう?
「あーあったあった。父さん母さんアウトっつうからダルかったな〜」
「僕は無難にお巡りさんに聞いたっけ。」
「俺はコンビニの店長さんだった、かも。」
「ほぇー、そんなんもあったんやなぁ。」
一抹の盛り上がりを見せる4人にアラタは思わず関心の声を上げた。
ジブンも提出用は当たり障りの無い公務員だかに聞いた記憶がありますが、それはテンプレ過ぎてつまらない。
そう思った自分はですね……実は囚人に話を聴こうと刑務所まで言ったのですな。
・・・
「なんーだそりゃ」
「まず既にキミがホラーやないか。」
「なにアラタみてぇなことしてんだお前……」
「よく許可貰えたねぇ……」
既に予想外の展開に一同笑いながらツッコミを入れるが、すぐに場を静め、再び大一は話を続ける。
で、その中で一人退屈していたと言った囚人が気前良く私に話してくれましてな、その男なんと●人犯らしいのです。
おいおい、そんな話大丈夫かと一斉に言われるが首を振り大一も返す。
問題ありませんぞ。何も手口を聞いたわけではなく、その男が何をして如何にして捕まったかという話でしたからな。
男は元々アウトロー的な仕事をやっていたようで、その仲間と揉めた際、つい勢いで手を掛けてしまったらしいです。
そこで我に返った男は恐れて家の裏手にあった廃井戸に仲間の●体を放り込んだそうです。
…翌朝、不安を抱きながら井戸を覗いたところ、なんと仲間の姿は消えておりました。
それでも男は素直に安心できず、自分を嗅ぎ回った野良猫が怖くなり、続けて最近元気がなさそうだと言って訪ねてきた近所の方まで手を出してしまったそうです。
勿論、それらも井戸に棄て、流石に気が大きくなって油断していたのでしょう。
ある日母から話があると言われ、まるで自分の隠し事を追求するかのように詰め寄られた男は恐怖に駆られ、反射的に母すら毒牙に掛けてしまったそうです。
しかし既に3件も隠滅したこの男、もう怖くないと母も同様の道を辿らせ、すっかり勝った気になってしまったそうです。
どうせ母もすぐ消える、そう思いながら強気に構えていた男ですが、事件から数日のうちに警察が押しかけあっさりお縄に着いてしまったのです。
何故だと思えば母の●体は消えておらず不審に思った方の通報で発見されたそうです。
それはおかしい、今までは消えていたはずなのに今回に限って母の姿が残っていたのは何故か、
それは……
「なんと、井戸には強酸が張ってあり、
母 は『 純 金 』 だ っ た
と言うのですっ!!!」
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「マジで何言ってんだ?」
誇らしげに言い放ち灯りを消す大一に楓太の眼鏡の奥からジトリとした視線が向けられる。
まぁアレだ、口を開いたのは淳だ。
「純金は酸で溶けないんだよ。だから今まで処理した犠牲者は溶けて消えちまったけど、純金の母は溶けなかった、だろ?」
「その通りです。流石淳氏ですなっ。」
「そっかー、なるほどねぇ〜!」
「そうなんかぁ……ボクもこういう知識は何かに使えるかもしれへんなぁ〜」
ストンと落ちたのか満足げな声を上げる楓太と気付きを得て一人物思いに耽るアラタ。
「それにしても中学生で●人犯を訪ねるなんて渋木くんはすごいなぁ……」
介斗も大一の行動力に舌を巻くより無かった……
「よし、次は〜串間っ。」
「おう。後悔すんなよ…?」
楓太から鳴らしながら差し向けられた指を受け、淳が顔の前にライトを立てて不気味に笑った。