「ねーねー淳センパイ!隣町でなんかイルミネーションのイベントあるんだってぇ!」
12月の初頭に、泉が溌溂とした声で呼びかける。
「隣町…昇星か?」
「じゃなくて、反対の途成(トナリ)のほう。」
「小中学ならともかくとして、高校がそんな隣接した街に何個もあってたまるかっつー話だけどな。」
気怠げに突っ込むがしかし、肝心の彼女が降った話題を思い出すなり小さく微笑みながら淳は返す。
「行くか?丁度誕生月だし、な…」
その言葉を聞くなり、泉が目を輝かせ、口元を綻ばせる。
「ありがとー!淳センパイ大好きっ!」
...もっと見るおいおい、よせよ…困ったように笑いながらも腕に身を寄せる彼女の頭に手を優しく置く。
「うーわ串間のヤツがまぁた見せつけてやがる~。」
「うるせぇ槌野大人しく帰れ。」
『漆黒の寒波!ヒーホー大魔界!!』
「大雪大雪ヒーホーヒーホー!」
深夜、こんこんと雪が降り積もる中、一つの影が踊り狂う…
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とある町‐大型モールの一角の広場…ここ数日にして異様な吹雪に見舞われた一帯は、見事なまでに不自然な銀世界と化していた。
「なん~やコレ、異常気象やんけ。」
軽妙な訛り口調で声を上げ、好奇の目で見回しながら先陣を切るように踏み出したのは、飾紐でリボンを長髪にとめた少女だ。
「おい、あんまはしゃぐなよ、転ぶぞ。」
そんな彼女を制止するのは線が細く、どこか気怠げな雰囲気の少年だ。
しっかしよぉ…そんな少年の隣に並ぶのは派手なアクセサリーが目を引く…如何にもヤンチャな雰囲気の少年だ。
二人並ばれるとカツアゲする方される方にしか見えない二人組だが、至って仲良さげに少年は目の前の光景に指を向ける。
「なぁヌシ、あの真っ黒いのなんだと思う?」
『ヌシ』と呼ばれた少年がゆったりと視線を向けると、その先に広がる雪景色の中には、ちらほらと黒光りする塊が点在するではないか。
「なんだ、あれ…なんか汚くても困るし、アクユーもアカネも触るなよ?」
「おー了か、ておい!?」「何やねんヌシ、アンタウチをどう思っとんねん!」
アクユーと呼ばれた少年‐『阿久津 裕(アクツ ヒロシ)』と、アカネと呼ばれた少女‐『琴葉 茜(コトノハ アカネ)』はヌシの言い分に食って掛かる。
「はは、ごめんて。」
「もぅ、お姉ちゃん。公人くんの言う通りだと思うよ。」
気の抜けた笑いで受け流すヌシ‐『在路 公人(アルジ キミト)』だが、隣で袖を摘んでいた少女が身を乗り出しながら茜に寄る。
雰囲気こそ静と動を思わせるように対比的だが、目鼻立ちや身長が茜と瓜二つ…更に彼女と反対に揃いのリボンをとめた少女だ。
「な、なんやねんアオイ!」
アオイ‐『琴葉 葵(コトノハ アオイ)』…そっくりな容姿に加えて、茜を姉と呼んだ通り、双子姉妹の妹だ。
因みに在路とは恋仲だ。
彼女はやや厳しい口調で茜の反論を打ち返す。
「だってそうでしょ。絶対公人くんが言わなかったら何やこれぇとか言いながらぺたぺた触ってたでしょ?」
「うぅ、言われてまうとぐうの音の欠片も返せへん…」
しおしおと頭を垂れる茜。
そんな様子をくすくすと眺めていた人物ーー切れ長な目元が気品を感じさせる、長いもみあげを結いたショートヘアの少女が口を開く。
「ところで阿久津くん。アキバくんとロボケンはどうしたの?」
んあ?少女の問いに頭を掻きながら記憶を探って阿久津は返す。
「あー、『オタク』のヤツも『ロボケン』も今日はなんか用事だとよ。」
そう…自分から聞いた割にはどこか素気ないように彼女が返す。
「ともあれ皆…アカリちゃんも、準備するわよ。」
「でもさぁゆかりん。一応アレ何なのか聞いといた方が良いよね?」
ゆかりん‐『結月 ゆかり(ユヅキ ユカリ)』に応じるのはボリューミーな髪を太いみつあみにまとめたアカリ‐「紲星 あかり(キズナ アカリ)」だ。
彼女は人懐っこい面持ちで近くにいた関係者に駆け寄る。
「すみませーん、あの黒いの何なんでしょうか~?」
「いやはや、それが私にも分からなくてですね…雪はどうにかしても、この真っ黒いのがどうにもならない分には…」
うむむ…苦い顔をしながら男性が腕を組む…
「今夜のイルミネーションも中止ぃ、ですかねぇ…」
あ…少し、葵の表情が曇り、胸元で手を握り締める。
葵…在路と茜が気遣わしげな視線を送る。
「えー、中止かぁ~…」
気まずい空気を解くようにさぞ残念そうな脱力声が上がる。
見れば、みつあみを二つ、輪のようにまとめた少女が肩を落とすではないか。
隣ではまぁまぁと精悍な少年が諫める。
「お、なんやアンタら。」
失礼、精悍な少年‐淳が応えた。
「悪り、聞こえてましたか、俺は串間。こっちはいず…島田、彼女。まぁアレッス。イルミネーション目当てッス…」
少し愛想の無さを取り繕うようにぎこちなく言う姿に、どこか心当たりがあるように茜や阿久津は在路に視線を送る。
「な、なんだよ…?」
「プハハ、悪り。」「なんでもあらへんよ~」
含みのある言い方に釈然とせず頭を掻くが、しかし、彼から感じるコミュ障力にはそこはかとないシンパシーを感じるのは事実だ。
二人が言いたいのはそういうことだろう。
まーまー、不意に場を取りなしたのはあかりだ。
「二人とも高校生くらいでしょ~…え、二年と一年?私たちも二年だから敬語じゃなくっていいよ~」
持ち前のフランクで距離を詰めるのは流石といったところか。
それにしても…泉のことを淳は彼女と言った…バリバリ陽キャタイプの阿久津に絡まれタジタジとする淳の脇に立つ少女に共感を抱いたのか、葵は隣に立つ。
「こ、こんにちは。」
「あ、えと。こんにちは…」
綺麗な人だな…突如声をかける少女に、そう思いながら泉も返す。
それにしても…
「あちらの方とご姉妹ですか?」
元々物怖じをしない質らしい、挨拶を交わすなり話題を切り替える姿に、内向的な葵は少し緊張を抱く。
「あ、はい。双子で、私は妹…です。」
「へぇ~、ほんとそっくり!あ、私一年だから敬語無しで良いですよ。」
へ?彼女の言い分に呆気にとられていたが、すぐにあかりの言葉を思い出す。
「う、ウン…えっと、島田さんも、学校違うんだし、大丈夫だと思う、よ…?」
思わず陽の波動に気圧されてしまったが、しかし思い出したように言葉を続ける。
「そうだ。その…島田さんは、串間さんと、デート?」
ん!?直球な質問に思わず頬を染めながらも、泉は応じる。
「うん…今月誕生日あるし、なんかイルミネーションあるって聞いて、気になったんだけどね…」
とほほと肩を落とす姿に、葵も苦笑を浮かべる。
「残念だよね。私も…皆と来てはいるけど…」
そう言いながら彼女が指した人物‐在路に目線を送ったまま柔らかく目を細めた。
「公人くん…私も大切な人と過ごしたいのが一番だったからさ…」
葵さん…性格こそ対照的だが似たような境遇を持つ彼女の姿に泉の眉が下がる…と、
「いんや、まだ早いんじゃね?」
口を挟むのは淳だ。
「ん、どゆこっちゃ?」
「何か案があるの?」
不思議そうに首をかしげる茜とゆかりにバツ悪く淳は頭を掻く。
「いやー、他力本願みたいなもんだけどさ。多分この雪が異常気象なら、知り合いが嗅ぎつけてるよ。」
嗅ぎつける?その言い分に在路も続いて口を開く。
「串間くん、それは、つまり…?」
「あー、いるんだよ。この雪とか黒い塊みたいな変なのを専門的に対処する奴が、さ…」
そんな話をしている矢先だった。
「あんんれまぁあ~、ものっそい雪やんけオイ。」
「ひょお、さっみぃなあ~!!」
近くに停まったタクシーからズカズカと降りる少年二人…
「あんがとなオッチャン。頑張ってな!」
片や茜のような訛り口調で、ボサついた髪癖の少年‐愉快に笑いながらドライバーの胸ポケットに札束を捻じ込むではないか。
「オイオイおめぇ、マジかよ!佐野満リスペクトか!?」
隣に立って腕を組むのは逆立った白い髪と、ステレオチック番長よろしくに肩で学ランを羽織った大柄な少年…制服の柄は運動部の大会で名を馳せる高校のものではないか。
「えぇのえぇの、ツリ無しぴったりやし~」
白髪に応えるように笑う少年の姿に一転、不服そうな表情を浮かべながら立去るタクシーをつゆ知らずで少年は気前良く手を振る。
「やっぱ来やがったか、アラタ。」
「おぉう、誰か言うたらジョーやんけ!ほんで泉ちゃんもおるんか。」
淳が呼びかけた髪癖の強い少年‐アラタがあっけらかんと笑うが、すぐに二人が見慣れぬ少年少女と居合わせていることに気付くなり、むふむふと気色悪く口角を緩めるではないか。
「やぁ~だもぅ、ジョーが他校の子と仲良くしてるなんて珍しっ!あらたん感激ぃ~」
・・・
腰をくねくねと蠢かせる姿に一同が黙する中、淳はアラタの頭を掴んで腹の高さまで押し下げるなり、
「気持ち悪りぃ!!」
「どぎゃーん!!」
その顔面目掛けて振り上げた膝を叩きつけた。
投げ出されて転がるアラタ…突然の光景に在路達が呆気にとられる中、茜が彼に耳打ちする。
「なーなーヌシ、あの串間クン、やっぱアンタと同じにおい感じるな~」
「そ、そうかい…?」
「あぁ、人慣れしてなさそうどころかキレるとフットワークエグいのもそっくりだぜ…」
追い打ちをかける阿久津にも釈然としないが、不意に目の前で崩れ落ちていたアラタが勢いよく起き上がるではないか。
「ヌシくん!?貴方ヌシくんって言うの!?」
「あ、僕は…」
そーそ、本名を言うより先に彼の肩に腕を回しながら阿久津がご機嫌に笑った。
「コイツ『在路(アルジ)』だから『ヌシ(主)』ってオレが勝手に呼んでたら広まった。」
「おぉ~、ウィットの利くチャラ男や~」
「オメェそれ褒めてる?」
「しかし在路公人(あるじきみと)、主公人(あるじきみと)…あっ(察し)」