「ってことがあったからさぁ…そうなると俺も呼ばないわけには…アラタくん?」
少し複雑そうに話しながらも、このノンデリ野郎め茶化してくるだろと構えていたが、聞き入っているのかアラタは一向に口を出さない。
ふと気になって目を向けると…
「ッ…!ッ、ッ……!!」
「えぇえ!?あ、アラタくん!?泣いてんの!?」
俯きながら目元に手を翳し、しきりに啜り上げる姿に思わず困惑の勢いのままに真一は言うとアラタは勢い良く立ち上がり、
「ゔぇえええ!カンドーしてもぅた!」
そう言いながら踵を返すと一直線に座敷へと戻り、
「お、戻ってきたか…」
...もっと見る「オバアチャーン!ボクのことは孫2ご……あ、2号は先約おるか、孫3号って呼んでくれて「気持っち悪りぃなオイ!?」ギャッ!?」
涙を散らしながら飛び込むが即座に銃声が3発響くとアラタは転げ落ち、銀色の煙を噴き出しながら蹲った。
「少しは見直そうと思った俺自身が情けないよ!」
「ふふ、真一。面白い子だね…」
「よしてよおばあちゃん、下手すりゃ魔族以上のバケモノだよアイツ。」
「そ、それよりも真一!いくらなんでも銀弾をそんな…!」
「アラタめまして和泉アラタっす、今後ともよろしくぅ!イヤしかし考えてみるとアレやな!」
「うわ立ち直り早っ!?」
友人に向けて発砲した真一に多穂が語気を強めるが、あっけらかんとした様子で起き上がって呑気な言い分を見せるアラタの姿には程なくして真太郎共々驚きを見せることになった。
「するってぇとアレかぃ?真さんは半分はマーマンてことかぃ?」
「イヤ、真太郎は人間じゃぞ。」
邦夫が口を挟む。
「そもそもーーコレはわし自身も経験を経て知ったことじゃが、本来異種間の子は基本的にどちらかの親と同じ種が産まれるんじゃよ。」
え、そうなん!?邦夫から語られる話にアラタは驚きを見せるが、それを受けながら彼は続ける。
「うむ。わしの知り合いにも『鎌鼬』と『鬼』の夫婦とかもおるが、子供たちはそのどちらかしかおらんし、寧ろ世間的にイメージされがちな両親の性質を併せ持つ種族的ハーフのような子は極めてイレギュラーなケースなのじゃよ。」
はぇ〜……感嘆のような声を漏らしていたアラタだが、
「でもまぁそうよな、確かに人間と人魚やと下半身が変わるか泳ぎが上手いかくらいにしかならへんしな!ウンウン」
「キミのデタラメな強さはデリカシーと引き換えに開花したのかい???」
やがて納得したように腕を組んで頷くその姿に真一が呆れ返った声を投げ掛けた。
「しかしアレクの血は確かに継いどるぞ、真太郎はこう見えてバケモノ級の生命力を備えておる。」
「そうそう、そのうえ真太郎はお人好しで油断が多いからね…」
「ちょ、父さんっ、母さんまで…!」
本当にねぇ、追い討ちを掛けるように口を開いたのは多穂だ。
「思い切り貫かれたり、大っきい敵に咀嚼されて飲み込まれたり、何回も死んじゃったと思った時もあったのに、全部ピンピンして生還してたんだもん。協会でも単純な強さと実力以上にそっちが重宝されてるみたいなとこあるし…」
「おおおすっげぇ、さっすが真さん!!」
困ったように狼狽える真太郎に目を輝かせるアラタ…
・・・
アレ?ふと真一はそんな彼の姿に首を捻る。
「貫かれようが噛み砕かれようが死なない『ごく普通の』人間を俺は最近見たような、よく知ってるような…?」
うん面倒臭い、気の所為ということにしておこう、一人言い聞かせるように彼は首を振った。
「異種の子のことはわし自身まだまだわからんことだらけじゃよ、簡単な話じゃないのは確かじゃがね。もしも種族的ハーフが産まれたらそれはその子に重い因果を負わせるも同じじゃよ…特にマーメイドが脚を持つことは縁起が悪いとも言うしのぅ」
遠い目で空を見据えながら言う姿はどこか複雑そうな表情を浮かべていた。
「でも、体質だけ母さんから継いであとは完全に人間なんてあるのかな?」
いんや、不思議そうに漏らす真太郎に邦夫が応える。
「マーメイドの長寿の血は勿論じゃが、厳密にはわしの持つ魔力も影響しとるんじゃないかとわしは考えとるよ。」
何にせよ…、納得する真太郎をよそに引き続き彼は続ける。
「それに、わしらは母(アレク)が魔族じゃったから恵まれておるものの、母が人間じゃと魔族や妖怪の子を産むには膨大な生命力を消費すると聞いた……」
「おじいちゃん……」
「あの時は大変だったよね。あたしも、子供がマーメイドだったら本能的にどうにかなったかもしれないけど、人間だったら水中では産めなかったし。」
「あぁ、コレばかりはあの医者様々じゃな…」
「医者?魔界にもおるんか?」
不思議そうにアラタが聞くと、邦夫は再び応える。
「旅の途中で出会った『たかはし』先生という男でな。妖怪の医者を生業とする百々目鬼じゃよ。アレクは妖怪でこそないがその男も随分好奇心というか知識欲の旺盛な者でな、そのお陰で世話になったんじゃ。」
その名を出した途端、アレクが目に見えてムッと表情を顰める。
「…恩人は恩人だけど、あたしあのヒト苦手……」
まぁまぁ……真太郎と多穂が宥める姿になんやと疑問を抱くアラタに耳打ちするように真一が言う。
「俺もたかはし先生は会ったことあるんだけど、好奇心旺盛な上に生来のサイコ?マッドサイエンティストってのかな?って感じで、おばあちゃんのことかなり珍しい構造の人魚だって気になってる上に、お父さん出産の縁から予防接種受けてるのもトラウマらしくてね……」
「ヒッホー、いっつも注射の日は大ベソでクニオにしがみついてるんだホ〜……」
なるほどなぁ…魔族も色々あるんやなぁとアラタは感心したように頷く。
「ハッ、なぁ〜にがハーフは重い因果を背負うだか。」
「まぁまぁ〜」
おっ!?アラタにとって聞き慣れた2つの女性の声に振り向く。
片や頭や尾に鰭を具えた群青色のウミヘビのような姿。
片やビキニを纏った女性的なピンク色の亜人風な姿……
「おぅビィちゃんデモスちゃん久し振り。」
「アラタくん久し振り〜」
朗らかに手を振るデモスに合わせて尾を振って応じるヴィアだが、口角はケッと吐き捨てるように歪めたままだ。
「ったく、孫もいるB●Aが年甲斐もなく夜な夜なイチャこきまくりやがってなぁに言ってんのよ。」
「ちょビッ、ビビ、びぃちゃん!?」
・・・
あちゃーと頭を抱える真一、狼狽えるデモス、そして息子夫婦に宥められながらも拗ねていた様相から一転、アレクはじっとりとヴィアを睨みつけながらその周囲に髑髏の浮かぶ鬼火を漂わせ冷たく口を開く。
「何、僻み?そっか、そうだよねぇ。貴女、最後の希望の真一までも……」
あぁっ!?アレクが何事かを口走る前に語気を荒らげたヴィアが絡みついて頭に頭を突き付ける。
「テメェ水入れやゴルァ、枯れ専まな板人魚ォ!!」
「寸胴根暗ウナギ、オマエなんか海に沈めてやるー!」
「ちょっ、母さん落ち着いて、お客さんいるんだし…!」
「もぅ、ビィも子供の前で変なこと言わないでよ〜…!」
「なぁなぁ魔族くん、水棲種的な『オモテ出ろ』って『水入れ』なん?」
「いや知らないよ!?」
取っ組み合う2人を宥める真太郎と多穂、その脇で些末事にツッコミを入れるアラタと真一。
「やれやれ、やはりアレクはまだまだ若いの、敵わん…」
しかし、ふと一人呑気にその様子を眺めて笑う邦夫にアラタはそうだと歩み寄っていく。
「しなるセ〜ンセっ」
「ん?どうかしたかの?」
彼の問いに期待に満ちた目を向けながらアラタは続ける。
「夜な夜な云々って話、詳しくオネシャス!!」
ほぉ…小さく笑い、頭を掻きながら邦夫は口を開く。
「そうさな…例えばこの歯型は昨日の「ゴルァジジイ!」ぶぅっ!?」
首元を指しながら話を切り出そうとするより先に怒号が飛び、真一がこともあろうに祖父の横面に肘打ちを叩きつけるではないか。
「当たり前のように未成年相手にプライベートな話しようとすんな!?」
「ちょちょ!?魔族クン!?大好きなおじいちゃんになんたる仕打ちを…!」
「う る せ ぇ!てかそもそもお前も変なとこに食いつくなよ高校生!」
しっかしアレやなぁ〜…目を見開き声を荒らげる真一をどこ吹く風と顎を擦りながらアラタは一人振り返るように漏らす。
「お話聞くとそもそも最初は洞窟拠点にしてたんやろ?それにアレビキニやのうて鱗なんやろ?しかも8割くらい人間と近いと言えども人外に躊躇いなく…いやっはやかえすがえすもしなるセンセはドッ変態やな……」
ア゛ーー!捻れた奇声を上げた真一がアラタに襟元を掴むと玄関までズカズカと足音荒く引き摺り……
「うるっせぇうるせぇうるせぇ!オラッ今日はもうお開きだから帰れゴルァ!!」
「あぁ〜〜れぇ〜〜」
アラタを上空高く目掛けて放り投げ、聖櫻へと隕石のように飛んでいく姿を見届けた。
「もぅ!2人共いい加減に!家が!壊れますっ!!」
「きゃぁああ!?」「プギャッ!?」
「ちょっ、多穂ちゃん!?って、アレクちゃん、びぃちゃん!?」
「多穂の聖女の魔力は根底的に魔族と相性が悪いからね、こんな風に暴発すると、アレ?アラタくん…???」
「ヒホヒホ、地獄絵図だホ〜」
・・・こうして彼の自由研究は幕を閉じた。
しかし冷静に考えてみよう。
友人の家庭環境に踏み込んだ話ばかりを聞いてしまった手前、コレをまとめたらただタチの悪いプライバシーの侵害と同じだ。
こんなモノを自由研究として出せるハズも無い……
と、言うわけで!職員室にアラタの声が響き、話し相手の政子は呆れ顔を頬杖で支えて彼がノートを突き付ける姿を見据えていた。
「まぁ流石にコンプラが危ないんで、自由研究は聞いた話を参考にツンデレウナギと人間の官●小説のラフ案を書いたんよ、とっとと読んでくりゃりんこ。」
・・・
数秒の沈黙の後、すっくと政子が立ち上がるとその手に脇の竹刀を掴む。
「まぁ、アタシとしちゃ色々ツッコミたいことはあるが……」
「畑山センセ?部活行く前に見てってちょーらいよ、自由研究出せ言うたのは他ならぬ「コンプラ云々なんてのは一番最初に気づけやダボッ!!」グギャァアア!」
力説するアラタの脳天に政子の怒声と竹刀が力任せに叩きつけられ、職員室はアラタの血と肉片に染まり上がった……
しろか「アラタてめー私に内緒で多穂先生に会ったのかよ●すぞ!?」
串間「失礼します。課題のノート集めまし…うわきったね!?」
『真一誕生〜松の木の謎〜』ーー E N D ーー
プラスアルファ( モ ノ の つ い で )
「Q・しなるセンセがご夫婦生活で一番大変だったことは何ですか?」
「そうじゃな、アレは共に生きると決めて数週間ぐらいの時じゃったかのぅ……」
『ね、ねぇ、クニオ。どうしよう…』
『ん?どうかしたか…て、ア、アレク!?』
その姿を見た邦夫は途端に熱を帯び、思わず顔を逸らす。
『換鱗期が来ちゃったみたい……』
そういう彼女の姿は基本的には普段通りだが、胸元と腰周りの鱗が剥げ落ち、隠された柔肌が露わではないか……
『と、トトトっとにかく!わしの服を着ておれ!』
『クニオ!?大変、顔から血が出てる!?さっきの戦いでケガしたの!?』
『イヤ、違っ、て、近い近い!少し落ち着け…!』
「キャーッ♥キャーッ♥」
「……とまぁあの時ばかりは今までで一番大変じゃったよ(Θ3Θ)」
瞬間、銃声が2発鳴り響き、邦夫とアラタは眉間から銀の煙を漂わせながら白目を剥いてブッ倒れた。
「だぁからコイツ相手にそんな話すんなつっとんじゃクソジジイ!何度も言うけど俺と同じ未成年(じゅーなな)ぞ!?」