84: ディジェイヌ
2026-07-19 23:55:24 NzY0ZTU2(69)
ハァ……だだっ広いグラウンドに狭しと沸き返る喧騒の片隅、長身ながらただでさえ猫背気味な体格を縮こまらせた影はジャージを頭から被りながら溜息を漏らす。
「聖櫻に限った話でもないが、何故学校は音楽祭だの体育祭だの、得手不得手をガン無視した行事を強要するのですか…暑さも本格化してる頃と言うのにこれでは拷問ですぞ…」
「・・・ま、まぁー、無理はするなよ渋木…」
ボヤく大一に微妙な表情で投げ掛ける淳…と、歓声が上がるなり彼はそちらに目を向け、既に見入っていた他のチームメイトも軽く一瞥する。
渾沌とする程にバラエティ豊かな行事を誇る聖櫻学園では、初夏の頃合に球技大会が開かれる。
新しい環境にも慣れた時期に、学年やクラスを超えた幅広い交流を目的とし、生徒達は多種多様な球技の試合を行うというものだ。
チームはクラスなどを関係無く編成されており、公平性の為に球技部員は当該球技の試合は当たらないようにと言った配慮もなされている。
「それにしてもスゴいね、吉川さんと酒井田先輩の白熱っぷり……」
...もっと見るそう介斗が感嘆する先ーー今、この野外の部で注目を集めているのは、運動部不所属ながらも運動能力を誇り、度々補欠として試合の出場を頼まれることが多い女子2人を中心とした試合だ。
「なんと言っても吉川殿は助っ人でありながらMVPを取ることも多いとお聞きしますからね!」
「ぷはは、夏海ちゃんも助っ人以前にそもそも根っからの筋肉バカやしな〜」
「ちょっ、アラタくん聞こえてるからねー!?」
感心するように漏らす隆に続いてあっけらかんとアラタが続くと夏海の抗議が飛んでくる。
ダッハハハ!楓太は軽く伸びながら満足げにそんな様子を笑い飛ばす。
「いっや〜、オレ運動は無理だけどこういうのは球技大会様々でワクワクしっぱなしだよな〜!なんつっても圧倒的 躍 ! 動 ! 感 !」
・・・不思議そうな顔の隆、呆れ気味な介斗、同調するように笑うアラタ…彼らをよそに首を振った淳は苦々しく口を開く。
「お前なぁ…ただでさえダメなんだから少しは動き方を学ぼうとしろよ。」
「でしょうな。フータ氏と来れば、1にお喋り2におっぱ「おりゃあ!」痛てぇ!?」
隣でボソリと何事か溢した大一は不意に楓太が投げつけた適当なボールが顔に当たり転げ回る。
「しっかしまぁ体育祭とは別に球技大会があるって聞いた時はビビったでぇ。」
そうか?頭を掻き、試合の数々を流し見しながら所感をそれとなく口走るアラタに楓太は聞く。
「おう、もういきなりそんなん言われたって『きゅー(急)ぎ』どないせぇ、って感じやわ。」
「ダッハハハ、それな!……フータとぉ!」
「アラタのぉ〜〜〜〜!」
\エブリデー・バカやで〜〜!!!/
拳骨拳骨ゥ!!!
「俺らの試合の時間なんだから早く行くぞ、バカ。」
瘤を作って項垂れる2人に舌打ちをひとつ、淳が引きずって行った……
『僕たちの聖櫻学園〜球技大会編〜』
―――――――――――――――――――
「GO!GO!Let's GO,SE・I・Oh!」
会場で少女達が眩しく舞い、誰でもなく、行事全体を鼓舞するような声が響き渡る。
元気付けられた者達も自身の戦場を駆ける足が加速し……
「うぉあっとぉい!?林田希羅チャンじゃん!」
「ちょっ、オイ槌野!!」
淳が怒鳴りつける先ーー約一名試合の真っ只中に足を止めて眼鏡を光らせたようだ。
「フータ氏、今っ、試合中、ですぞ〜!?」
「ぷはは、つっちー程々になぁ〜」
「イヤ和泉くん、そうじゃないんだけど…」
「試合中に足を止めるな、バカっ。」
口々に言いながらボールを追いかける面々、その脇で淳は楓太の腕を憤然と引きながら吐き捨てる、が…
「ちょおい串間、なんだよ!ちょうどオレらの会場の近くに林田チャンがいるんだぜ、見ないほうが失礼だろ!」
何をバカ言っているのだとお互い無駄な意地の押し問答を繰り広げる中、
「つっ、槌野殿ぉー!」
「つっちーあぶねぇっ!」
えっ…?隆とアラタの叫びを聞き不思議そうに彼らに目を向けようとした瞬間、
「ガァッ!?」
突如の重たい衝撃ーー顔面にボールが直撃して勢いよく彼は倒れた。
「槌野くんっ!」
「大丈夫ですか!?」
いってー…顔を擦りながら身を起こした楓太は駆け寄った2人に目を向ける。
「わ、わりぃ曽良、嶺堂……お前らもありが、ん…?」
「おおお、フータ氏、なんというザマに……」
「アカンわつっちー、ボク接着剤なら持っとるけど」
「おー、コイツはひでぇや……」
目を向けた先では、残り三名が転がるひしゃげた眼鏡を取り囲んで悲痛な声を上げているではないか……
「ってオイ!!」
\ピピーッ!/
―――――――――――――――――――
「さぁ、聖櫻球技大会、どこをとっても白熱した試合に目が離せません!」
モニター越しに実況をする明音の声が響き渡り、彼女は様々な様子を目で追いながらふと、1つの映像に目を留めた。
『さて、ここでZとSのチームの試合の様子を見てみましょう!』
「櫻井チャーン、そこは『つっちーフレンズ』って呼んでくれよぉ〜」
「呼ばんで良い…!」
スピーカーに声を上げる楓太に呆れたように口を挟んだ淳が追い抜き、相手が蹴るボールを刈り取るように奪って蹴り進めて行く……
『おっと!串間選手、流石のフットワークで相手を寄せ付けません!』
このまま押し切るかアラタに任すか……そんなことを考えていると不意に相手チームが迫ってくる。
おっと、咄嗟に思考を切り替えとりあえずとアラタめがけて勢い良く蹴り放つも、
「やべっ、距離が足りない…!?」
反射で動いたからか勢いが弱く、アラタに届くより先に奪われそうだ。
「じゅ、淳氏!?な、なんのぉ!」
フラついた足取りながらも近くにいた大一が咄嗟に蹴ると勢い良くボールが飛び、アラタに繋げられた。
「おわっと、行くでぇ!」
「サンキュ、渋木っ!」
「ほ!?あ、イヤ自分もまさか……」
『おぉーっと、渋木選手ナイスパス、お見事っ!』
えぇ!?自身を讃える面々に続く明音の声に彼は捻れた声を上げた。
「アイヤ、そのっ、櫻井氏!?ジ、ジブンは咄嗟にやってたまたまそうなっただけでして」
「し、渋木くん落ち着いて〜…!」
「渋木〜、そんくらいでデュフってんじゃねぇぞ〜!」
「何も、そそんなっ、ナイスと言えるほどのことなどジブンごときはですねぇ〜〜〜」
「し、渋木殿、前がッ!!」
ヴ!?ワタワタとした足取りで求められてもいない釈明じみた言葉を並べ立て友人の声すら聞こえていない彼は足がもつれ、勢い良く横面をゴールの柱に強打しふらりと倒れ込んでしまった。
「渋木ィーーーッ!!!!!!」
「だっ、大丈夫?」
「コイツいっつも女子に声かけられただけでデュフるからなぁ……」
\ピピーッ!/
―――――――――――――――――――
「なーなー、このコートなんか女の子のギャラリー多くね?」
試合が白熱(?)するなか、アラタが不意に疑問を浮かべる。
そこまで色めいた試合でもないと思うが、目を向ければチラチラと女子の観客が多い。
「えっ、和泉くん知らないの?」
「串間けっこーモテんだぜ。」
えぇ!?介斗と楓太の返答に思わず妙な声が出る。
「なんだかんだ高1まではバレンタインでも間宮氏や嘉村氏雪風氏には及ばずながらもそれなりにもらっていましたからな〜。」
はぇー…彼らの解説に思わずアラタは驚きを見せる。
「意外…て程でもあらへんけど、割と暗めやしそこまでとは思わんかったわ〜」
「和泉言い過ぎだろ!まぁ流石に島田チャンと会ってからそんなにベタついてくる奴もいなくなったけどな。」
お前ら……口々に話題に出された当の本人が苦々しい声を後ろから投げ掛ける。
「試合中なんだから無駄口より手…つか脚動かせ。」
ーー淳せーんぱい!ーー
と、不意に一際立つ声が上がり、思わず淳もそちらに顔を向けた。
「泉…!」
「頑張ってー!」
手を振る彼女ーー泉に柔らかな笑顔を見せ、彼は走りながらも手を振り返す。
「ふふっ、串間くんがあんな風に笑うなんてね…」
「あそこまで串間と距離詰めるんだからほんと島田チャンはすげぇよなぁー」
「しかも氷河期の長かったN枠からの今や売れっ子の富田美憂女史とくれば…まさにシンデレラガールですな(オタク特有の早口)」
「だぁからお前ら、無駄口じゃなくて…いって!?」
バシッ、呆れた彼は不意に痺れるような痛みを感じ、表情を歪めて腕を押さえた。
『ハンド!』
どうやら飛んだボールが淳の肘に直撃したようだ。
「待てよ、ぶつかっただけだろ!?」
「槌野くん、わざとじゃなくても肘に当たったらハンドになるんだよ…」
「淳先輩、大丈夫!?」
「大変、串間くんの肘が…!」
「早く連れて行かないと!」
「いや、ちょ、待て!?ただ肘ぶつけただけだから…!」
「大丈夫ですか、串間殿!?」
「しっかりせぇジョー!」
「串間くん!」
「淳氏!」
「串間ァ、オレ達がついてんぞ〜!!」
チームメイトはおろか、泉を筆頭としたギャラリーの女子陣まで駆け寄ってくるではないか。
「待て待て待て、そんなもんじゃねぇから来んなって、おまっ、お前ら、お前らァーッ!!」
\ピピーッ!/
―――――――――――――――――――
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