女子生徒を口説きに学園の行事をたびたび荒らし回る不審者。
時を同じくしてまことしやかに囁かれだした
「聖櫻都市伝説『仮面の男』」
そんな噂が絶えないながらも行事が豊富で楽しげな校風の「聖櫻学園」に転校してきた一人の男子生徒「和泉アラタ」。
飄々とした変わり者な彼により、全ての真相が明かされる......
「たすけて!マイヒーロー」を題材とした青春レイドシリーズ(?)4月、5月、6月編収録。
※今作は、かなり些末的な部分だけではありますが、「魔法先生ネギま!」との微クロス要素があります。
あらかじめご了承ください......
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※サークルより見辛く各EPを探すのが大変と思われる為、下記タイトル一覧をハイライト及びページ内検索等用いてお探しください。
EP0「仮面の男」-1
EP0「仮面の男」-2
EP0「仮面の男」-3
EP1「少年が脱ぐ!」
EP2「超聖櫻級の核弾頭」
EP3「Encount!!」
EP4「A MASKED MAN
~仮面を着けてい『た』男~」
EP5「Burst Field」
EP6「『独りで静かで豊かで』
そんな時も良いけれど」
EP7「小さなヤクソク」
EP8「さくらいろ」
EP9「不穏」
EP10「俺達と金色の大連休血戦
~The Power Battle Fighters~」
EP11「俺達と金色の大連休血戦-2
~ナニユエニ....~」
EP12「俺達と金色の大連休血戦-3
~謎の覆面番長~」
EP13「新 郎 挨 拶 (大 嘘)」
EP14「胸中」
EP15「 ウ ォ リ ヤ 」
EP16「Cop X Scientist~黄色い悪魔~」
EP17「秀才は機械仕掛けの鎧を脱ぐのか」
EP18「揺れる心」
EP19「託されたおもい」
EP20「因縁の邂逅、謂れ無き怨恨」
EP21「悪男の舘」
EP22「MASTER GENIUS」
EP23『ビネツアメ』
EP24「いつかまた....」
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「やっぱりジェーンのシュートは最高ね。」
「そんなことない。皆がパスを繋いでくれたお陰だよ。」
所変わってニューヨーク、女子バスケットボールの試合で好成績を修めたチームが互いへの称賛を送り合いながら控室へ戻ってきた。
思いきり動いた後ということもあって各々にハイな状態で、不意に響く拍手に振り返る。
「イヤハヤ。君達実に素晴らしいね?」
「アラ、ナンパの方かしら、ミスター?」
なんのステップも置かず、スーツ姿にターバンを覆った色黒の男がアタッシュを提げながら入ってくる。
「良い試合を見せてもらったからね。是非君達のようなスポーティガールに会って欲しい者が居るんだ。」
...もっと見る「私達に会いたい?」
「世界大会かしら?」
不思議がる彼女達にひとつ思い出しながら男は懐をまさぐった。
「おっと、大事なことを忘れていた。私は石油と始めとする多様な事業を手掛けるドバイの大会社で働く、チャドラスという者でね。君達に会って欲しいのは、会長なのだが.....」
「おい!何をしている!?」
マズイ!!名刺を取り出した矢先、会場警備員に怒鳴られ、慌てて飛び退き後ずさる。
「怪しいな、そういえば聞いたことあるぞ?胡散臭いスカウトマンがどーのこーのと.....」
「チィ!勿体ない逸材だが仕方ない!さらばだ!」
部屋の窓を開け、飛び降りる彼を警備員が追おうとするが、小型ヘリに乗り込むなり、颯爽と消えてしまった.....
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ドバイにそびえる宮殿のような建物『ショーンカンパニー』.....
その会長室の前に立つチャドラスは、軽く扉を叩く.....
入れ、その言葉に促されて一言添えながら重々しいドアを開けると、広々とした空間が広がり、遥か前方の玉座のようなソファに少しだけ近づくと跪いた。
「ニューヨーク女子バスケに出向いていたチャドラスです。会長、誠に申し訳ございません!交渉より先に嗅ぎ付けられました!!」
・・・しばし沈黙だった男.....不精髭が色黒な顔を覆い、ターバンとガウンを着用した会長ーーショーンはひとつため息を吐くと首を振る。
「そうか。最近は他の問題もあって『セルジュ・ジャン・ルメール』をはじめとした国際的な連中の目も厳しいからな。休め。」
「ハッ!ありがとうございます!!失礼致します。」
チャドラスは深々と頭を下げると部屋を後にする。
ショーンは物思いに耽りながらワインを注ぎ、軽くあおった。
油田を当て、開拓の果てに富を得た私だが、満たされない。
理由はひとつ、昔からの夢を未だに叶えられないまま、歳ばかり喰っていくのだ。
叶えるだけの力を得たハズなのに、どうしても理解の足りない奴等の妨害ばかりで遂には警戒警報まで出される始末だ。
「私の中のリトルが、今も尚求める物は、もうできないというのか.....?」
ーーそんなコトあーりマセーンーー
!?不意に声のする方向に向き直ると一人の欧米系男性.....
面会には厳重な手続きを踏ませてあるはずだ。
ソレをこの男は、ノックどころか気配すら感じさせず......?
「い、いつの間に...?」
「アナタの夢、ぜぇひワターシに聞かせて頂けマースカ~?」
両手を広げ、微笑みながら男は歩み寄った....
ーーーーーーーーーーーーーーー
志藤はアタシが麻帆良で働いてた時の体育の担当でな、運動が苦手なもんだからたまにマンツーマン指導してやってたんだよ。
葉月庵の座敷スペースでバンバンと領也の背を叩きながら政子は高笑いする。
「マサさんうるさいですよ。迷惑です。」
ハハッ、ジョッキを勢いよく煽ると追加オーダーしだす彼女に呆れながら、唖然と蕎麦を啜る雛菜とアラタにニッと笑いながら彼は言葉を繋いだ。
「和泉クン、今日は折角だ。二人ともサイドも好きに頼みたまえ。新垣クンも遠慮しなくて良い。しろかは少し自重しろ。」
はぁ.....落ち着かない様子で雛菜は領也の隣の少女を見る。
しろかは領也に促される前から次々と当店のデザート枠を注文していく。
「つっても蕎麦屋だからあんまないんだけどねー。」
「おしっ!ほなら遠慮は要らんのぅ!ゆっちゃん唐揚げお願い!!」
ハーイ!元気な後輩の声が響いた後、アラタは政子の話の続きに流を戻す。
「んで、じゃあアレ?りょーやさんと畑山センセが旧知言うのは分かったけど、お互いボクと知り合うことになるってのは知らなかったん?」
「んあーそうだぬぁ。まさかアダシが軽く教えただけのヤロウが、他の奴の修行なんかできるとぁ思わねーよ~。」
「あーもう、マサさんぐっちゃぐちゃじゃないですか。まぁそうだね。ワタシの身体能力はジーニアスで補強してあるからね。まさか聖櫻に転任してるとは知らなかったよ。...サンは要らない.....」
「おむぇ地域新聞読んでぬえな?」
首に腕を回して悪絡みをする彼女を気だるげに牽制する領也に笑いながらアラタは続ける。
「ははっ、なるほどなぁ。まぁ教えられた言うても、基本的には基礎を教えられたら自由にやっとったからなぁ...てか雛菜ちゃんももっと頼めや。」
「いや、悪いし...それにあらたんと違って私はこれで充分なのっ」
「そっか。ゆっちゃん、ビールビール!!」
「ダ メ で す ! !」
悪ノリするもキッパリと切り返され、適当にサラダを頼むアラタと雛菜の様子を見ると、どことなく領也の口元が緩んでいた.....
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
...町の隅、中年後半と思われる目の細い男が、自分の経営する店を閉めると奥の畳に胡座をかき、ミョウガ漬けをかじりながら酒を呑む。
今日も疲れたな...そんなことを思いながらも、自分の求めた理想と現実の相違にひとつため息をもらす。
「毎日毎日こんなことやってるのは良いが...なんつーか女がなかなか来ねぇなぁ....若いコで賑わう店にするのが、そもそもの夢だったのによ....」
テレビをつけ、色々とチャンネルをいじるうちにひとつの特集に目がいくが、すぐつまらなそうに電源を切る。
「しかもなんだ最近はナイトアクアリウムだの。馬鹿かってんだ...!」
どうしたものか、そう考えていると、突然部屋の電灯が点滅したと思えば、電気が落ちて薄暗くなる。
「...停電か?」
元々安物だ、もう限界だったろうと特に気にするでもなく天井を見上げる....と、
『女性受けの良いモノをご用意しては?』
「オナジミの生っちょろいチェーンがやってるようなヤツか?冗談じゃねぇな、あんな邪道はよ。」
不意に聞こえた声に無意識に答えると、ソレは更に続ける。
『若い女性は健康にこだわりますからね。最速の鮮度で提供すれば良いじゃないですか。』
「バカ言え。こちとら提供者の一角として鮮度にはイの一番に気を使ってらぁ...つか、誰だオメェ...てっ、な、なんでぇこりゃあ!?」
やがて違和感に気付き振り返る男だが、それ以上の衝撃を受ける。
確かに自分は部屋に居たはずだ。
しかし、目の前に広がる光景はさながら海か...言うなれば、水槽の様子を水槽の中から見ているような不思議な光景....
呆気に取られながら見ると、前に立つ影ーーぼんやりとした真黒な姿は、辛うじて表情を読める目元をニヤリと歪めて言葉を続ける。
『私の名など、この際いいじゃないですか...ヤカタの力は偉大デス.....』
「ヤカタぁ?」
要領を得ない言葉に思考が止まるがやがて、はっと我に帰るとそこはいつもの部屋で、寿命を迎えたと思った電灯も何事もなかったように点灯していた...
夢か?そう考えながら何気なく手に目を向ける。
「!?な、今度はなんだ...!?」
手に握られた赤黒い、不気味な実のようなもの...
更に気配に振り向くと、赤青緑三色の影が数人、網やタモ、釣竿を携えてたたずんでいた...
「な、なんなんだよ、オメェらはよォ...」
ーーーーーーーーーーーーーーー
「ハハッ、どうだったよ。アイツ。」
夕食を終え、領也の部屋で、落ち着いた政子が懲りずに缶ビールを開けながら領也に聞く。
「そうですね。もう少し負い目みたいなモノを感じるかと思いましたが、一切気にしていないようで何よりですよ。」
それに.....悪戯っぽく笑みながら写真を数枚取り出し、政子としろかも適当に取って眺めてみる。
アラタと雛菜が談笑してる写真が殆どだが、どこかアラタからは安心感のようなものが滲み出ているように見られる。
「和泉クンが新垣クンと居るとき、他とは違う、身を預けたような緩さが顕著に見られるようになった。『アノこと』への負い目や近衛学園長達への恩返しから張り詰めてばかりと思っていただけにこれは良いことですよ。」
なるほどなぁ、ニッカリと笑う政子の脇で
「おぇえええ↑、こんなんどうみてもアラタ君のするツラじゃないよね!?気持ち悪いよ!ついでに隠し撮りしまくってるオマエもキモーい!」
「ハッハッハ、口の減らない悪い子だなぁ。」
「さわるなーへんたーい」
領也がひきつりながらしろかの頭をガシガシと掴み、その手を掻かれている脇で
「志藤、もう今日泊めてくれ、おやすみー!」
政子は酔った勢いで倒れ込み数秒で熟睡しだす。
賑やかな一夜が明けると共に新たな月が幕を開く.....
EP17ーーENDーー
「おはよう、心実ちゃん、明音ちゃん。」
「笹原先輩...!」「おはようございます!」
朝、共に登校していた椎名 心実と明音の後ろから、笹原 野々花が声をかけてくる。
三人が談笑しながら登校し、校門を抜けてしばらくしたところだ.....
「キミ達。人を訪ねたいのだが、ちょっと良いかな?」
?ガシャリと音を立てながら佇む姿に三人は振り返る.....
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「アラター!大変だよ!!」
んあ?教室で頭にペットボトルを立てたままウトウトと項垂れていたアラタが、つぐみの声に目を覚ます。
ペットボトルは落ちた。
「なんか、変なロボットみたいなのが椎名さん達に近づいてたよ!なんか危ない感じだった!」
ナニ?眠気を払い、アラタは立ち上がる....
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「そうか、2Cね、ありがとう.....」
「コラァア、何してんねん!」
三人にそう答える機械的な人物ーーマスタージーニアスはふと、遠くから迫る大声に振り返る。
激しい勢いで駆けてくる少年。
手間が省けたというヤツか、ニヤリと笑いながら掌を開き、
「え、ちょっ!?」
驚く明音をよそに中央の砲口からアラタにエネルギー弾を射ち放つ。
それを切り払いながら、アラタは木刀を勢いよく振り上げ飛び上がった。
「何をしようとしたァっ!!」
.....が、次の瞬間、ジーニアスは腕で木刀を防ぎ、額から泡を放出する。
うおっと、撹乱されたアラタは思わず距離を取るが、軽く手首を回すと再びジーニアスに殴りかかる.....
「おっと、流石だね!」
!カウンターで振り出された拳に、慌てて腕をクロスして防ぐその瞬間、アラタの身体に妙な感覚が走る。
「(この拳圧、まさか......)あんた......!?」
「い、和泉さん、その人は......!」
[エアシューター]
胸部のファンが展開すると数発の小型竜巻を生成し、少年向けて吹き付けるが、彼も再び木刀を抜くなり風を切り裂き、距離を詰めた彼の拳を軽くはじきながら懐に拳を叩き込み、
「そぉら!」
お返しと蹴り返されて宙を舞うも、そのまま急降下蹴りを咬ますと、奴はやはり腕で防ぎ、アラタももう一息と踏み込むも、競り合いの果てに何かを察したか、後ろに跳んで着地するなりニッと笑う。
「.....前より格段にキレが良くなったじゃないか。だが.....」
「やっぱアンタやったか~。」
「去年の夏祭から相変わらず考えるより先に突走るのは感心しないな。」
「ひっさしぶりやな、りょーやさんっ♪」
パワードスーツを解除した男.....取り出した白衣を羽織った、結わえた黒髪の青年にアラタがニッカリと言うと、
「サンは要らないぞ、和泉クンっ。」
そう彼は小さく微笑み返した。
EP17「秀才は機械仕掛けの鎧を脱ぐのか」
志藤 領也(シドウ リョウヤ)
麻帆良でも優秀な成績を修め、科学実験でも賞を取ったことがある男で、今の和泉アラタが在る切掛けになったと言っても過言でない人物だ。
言ってしまえば、とある危機からアラタを救い、その実力を見出だし、聖櫻への斡旋及び一年間の鍛練まで面倒を見たのが他ならぬ彼なのだ。
「しっかしまぁまさかりょーやさんがわざわざ来てくれるなんてなぁ。ボクと別れて寂しくなったん?」
「ハハハ、自分で始めたこととは言えヤンチャボーイがいなくなったことで研究がしやすくなったよ。
因みに、岩本クン達に発明を渡し、しろかをキミの現場に向かわせたのもワタシだよ。」
「あれりょーやさんやったんか。」
サンは要らない、ぼそりと付け加えながら領也は背負っていたケースを下ろすと錠を外していく。
「和泉クン、以前手軽な移動手段を欲していただろう?」
あー、聞くなりアラタは思い出したように頷く。
「せやせや。靴にターボ内蔵してても疲れるし、せいぜいがダチのバイクくらいやからな。」
そんなキミに朗報だ、にやっと口角を曲げると、彼はケースからモノを取り出し、アラタは目を丸くする。
赤い機体をベースに、黒い装甲とブースターの具わったジェットボードらしき機械。
「な、な、りょーやさんソレまさか.....!」
フフ、少年のリアクションに満足したのか、誇らしげな表情を浮かべると領也は言葉を続ける。
「アーカイヴズ『DRSS(ドクターライトサポートシリーズ)』より、いわゆる『アイテム2号』を元にしたボードさ。バイクより飛行性の方が好みだろうと思ってね。サンは、要らない...」
「オオオありがとぉ!りょーやさん好き!しゅき!大しゅきぃい!!」
「ハーッハッハ、サンは要らないぞ~和泉ク~ン!」
なお、樹達に贈った発明はこれの開発の片手間で造ったらしい。
笑顔で飛び付くアラタの頭をほれほれと撫で回すが、やがて思い出したように彼は新たな話題に移る。
「しかし驚いたよ和泉クン。よもや動物のような思考回路のキミがここに転入してすぐにキスなどしだすとは。」
ぷぇ?唐突な領也の言葉に、アラタは不思議そうな顔で首をかしげた。
「キス?そんなんボクしとらんよ?」
「おいおい。ちょうど四月末辺りに、近くの公園を女子と歩いていたじゃないか?」
んんん?ますます混乱するアラタはしかし、なんとなく整理しながら彼の意図を探っていく。
「確かにその頃女の子とおったけど......?てりょーやさんなんで知っとるん?」
「なに。気紛れで聖櫻近辺を視察していたら、偶然見かけたのさ。」
「なんだよー。声かけてくれりゃええやん。」
つまらなそうに口を尖らせるアラタに領也は疑念を抱く。
まさかこの少年は自分が敢えて声をかけなかった意図を読めていないのか?
いや、元々恋愛とかは無頓着な方だが(ワタシもだが)まぁ声をかけなかった理由は無論ある。
「そりゃ、サプライズでボードを渡すためにね、作製しなきゃいけなかったからさ。で、どうなんだね?」
どうなんだね言うても....不満と疑問が晴れないアラタだが、
「あらたーん、会わせたい人って?」
「オ、来た来た。」
遠くから歩いてくる少女を呼び、隣に立たせると領也はピンと来たようで納得して頷き、雛菜も彼を目にすると少し背が強張る。
「こんにちは。あらたんと仲良くさせて貰ってる、新垣雛菜です。お話は聞いてますよ、志藤さん、ですよね?」
「ああ、如何にも。始めましてだね。大体のことは聞いていると思うがワタシが志藤だ。よろしく、新垣クン。」
あとサンは要らない、会釈する雛菜に微笑みかける彼を見ると、アラタは雛菜に向き直る。
「なぁ雛菜ちゃん。ボクらキスしたことあったっけ??」
な!?ビクリと硬直し、雛菜はアラタの肩を掴む。
「ちょ、ちょっと!?な、な何言ってるのイキナリ!?」
「えー。だってりょーやさんが、花見でボク達そんなことやっとった言うんよ。」
ええ!?動揺する雛菜と対照的なマイペースのアラタは話にならん、元凶の男に顔を向けると、
「公園のベンチに座ってて暫くしてから、キミが和泉クンの前に立ったじゃないか?和泉クン、サンは要らない。」
「へ?」
次の瞬間、雛菜は抜けたような声を出す。
当時の状況が鮮明に甦る。
忘れもしない、初めて二人で出掛けた日、それなのにブレザー姿だった彼。
そしてそのことに気付いたキッカケ.....
ア、アノ、志藤さん.....火照りが治まらないまま彼女は口を開く。
「なんだね?サンは要らないよ。」
「ソレ、ネクタイと襟直しただけ、デスヨ.....」
え?今度は領也が呆気に取られた。
よくよく考えれば道理で、アラタがあまりにも動揺しなさすぎる訳だったのか。
ハハ、ハ.....苦笑を浮かべながら彼は言う。
「ハハハハ、そっか、そういうことか。イヤー驚いたねぇ~、ハッハ。」
「ドスケベりょーやさん恥じぃゾ~コレ。」
「うるさいよ和泉クン、サンは要らない...!」
ボソボソと言い合う二人をよそに、紅い頬をおさえ、内心穏やかでない雛菜は軽く呼吸を整える.....
と、
「おーい騒がしいぞ和泉~、て.....」
政子が呆れながらやって来たが、いつもの二人と共に佇む人物に目を丸くし、その人物も相当驚いたようだった。
「マサさん!」「おまえ志藤か!?」
え?間をおかず声を上げる二人にアラタと雛菜は呆然としていた。
ーーーーーーーーーーーーーーー
はぁ、結局言えなかったなぁ.....
そんなことを思いながら雛菜は少し寂しそうに帰路を進む。
あの後、いつも通り顔を合わせることはあったが、結局話を切り出そうとしても難しく、なんら変わり映えの無い雑談ばかりだ。
加えてアラタは放課後には姿を消していた。
大方いつもの件だろう。
「どうしよう。ドレスは着たいし、せっかく着るなら、ねぇ.....」
撮影とは言えど、お互い妙な意識を植え付けてしまうかもしれないから心配だ。
「あら、新垣さんっ.....」
...もっと見るん?その声に振り返ると髪の長いクラスメイト.....
「あ、るいちゃん。部活とかは?」
「今日は無い日よ、理駆君は用事。」
ていうかもうその呼び方がデフォルトなのね、ぼそりと加える一言に悪戯っぽく舌を出して笑う彼女の隣に立つと同じく歩を進める。
「で、なんか考えてたみたいだけど、どうしたの?」
あ、うん。それがね.....雛菜は口を開く。
ふぅん、しばらく聞いていたるいは相槌を打ちながらなるほどと首を振る。
「大体、和泉君もそういうの無頓着よねぇ。」
「うん.....だからこそ、そういうの興味無さそうな分言いやすいかなって思ったんだけど、やっぱり一方的に意識しちゃうよ~。そういえばるいちゃんはどうするの?」
な!?軽く引きつりながら一瞬たじろぎ、腕を組んで思わず顔を逸らせたるいは言葉を続けた。
「ワ、私は別に、なんとも言えないわよ。あの人だって普通の学科生より忙しいみたいだし.....」
なんだかんだ似た者同士、かなぁ.....不満気に溜め息をもらす彼女に苦笑しながら雛菜は内心そんなことを呟く。
が、忙しい、その言葉に心当たりを感じてふと思案を巡らせようとした.....
ーーぽたり.....ぽた、ぽた......ーー
「あ.....」「やだ。雨、ね.....」
水滴が頬を掠めたとき、雛菜とるいは空を見上げ、傘を開くと同時にその勢いを増した空模様は明確な雨天へと変わった.....
「予報にはあったけどこんなに.....」
「もう、なんでこうなるのよ....!」
困った、口々に言ってもやむ気配はない、いっそのこと先に行こうとした矢先だった。
「雨はいつだって気紛れだ、こうして僕を困らせる.....」
?不意に聞こえた声に振り向くと、明後日の方向を見据えながら、すらりと長身な青年が佇んでいた。
「雨に困っているのは、君達も同じだね。」
「な、何を言ってるの.....?」
しっとりと話す声に反し、いまいち要領を得ないことばかり並べ立てる彼にるいは思わず口を開くが、彼は特に気にするでもなく続ける。
「こんな雨の日は、僕が君達の傘になろう。女の子の心に降る雨の、ね?その悲しみも、この雨で流してしまいなよ。」
「はぁ!何言ってるの!?」
不穏。
その二文字だ、いよいよ勘が確信に近づく雛菜だが、敢えて聞いてみる。
「傘ささないと、風邪ひきますよ?」
傘?小さく笑うと髪をかき上げ、ふっと微笑む。
「うっかり忘れたよ、うっかり、ね。」
でーも、足を一歩踏み出すと身体をひねり、彼はこちらを向いた。
「濡れた僕って.....魅力的だろう?」
少し長い茶髪を雨濡れでオールバックに撫で付け、やわらかな笑顔で笑みかける青年は、言うなれば俳優やモデルのように文句の無い美形だった。
しかし二人の心は動かない。
無論、二人にとって容姿だけでは語れない想いがあるのは言うまでもないが、問題は彼の言葉に加えてその服装だ。
上半身にはインナー無しに加えて露骨にはだけた白いカッターシャツを着用しており、突然の大雨に打たれた跡が濡れて貼り付き、包まれた肌色を所々剥き出しにしているではないか。
「透けてるじゃないの気持ち悪い!」
「い、行こ、るいちゃん.....」
そう言って二人は背を向け去ろうと歩を進め
「おっと、遠慮は良いんだよ。雨に震える仔猫ちゃんっ♪」
うわぁ、二人を遮るように前方に飛び出した男が両手を広げ、すました顔で空を見上げる。
「ああ、もぅっ!傘あげるから大人しく...」
「ああ~、傘はいらないよ。君が濡れちゃうだろぅ?」
「貴方の気が済んで帰ってくれるなら別に良いわよ!」
「その時はるいちゃんは私が入れるし」
「え?あ、ああ。その、ありがと.....」
思いがけない言葉に詰まりながらもぼそりと答えるるいに雛菜はくすりと微笑む。
しかし、問題の雨男は首をすくめ、眉は下がるが笑顔を崩さない。
「おいおい。君達も聖櫻生なら清涼祭とかやってるだろうし解るだろう?この、濡れ感の良さ.....」
「いや、皆シャツとか着てるからね?」
「そもそもそういう気持ち悪い行事じゃないわよ、この変態!」
「さぁ、この胸に、飛び込んで、お、い、で....?」
「それ矛盾してるよね?」
「そんなとこ入ったら結局濡れるじゃない、バッカじゃないの!?」
ふぅ、困っちゃったなぁ~頭を掻き、苦笑しだす彼が、次はどんな言葉をかけるべきかと考えたその時だった。
ーードンッーー
「きゃぁあ!!」「ひっ....!!」
「・・・・え?」
彼のすぐ近くにけたたましい轟音と共に落雷が響き、二人の悲鳴を余所に男は呆然とする。
...が、すぐに一帯で次々と立て続けに雷が落ちてきた。
「きゃ!」「ちょっと、どうなってるのよ!」
「うぉおおヤメロォオ!!痺れる、痺れるっ!!」
三者各々に逃げ惑っているうちに、無防備な雨男は逃げるように走り去ったが、まだ落雷は収まらないようだ。
流石に不審だと思ったところで、その正体は判明した。
角のある真赤なアフロを着け、虎模様のタンクトップで輪状の太鼓を担いだ男がドンと鳴らす度に雷が発生する。
「ヘェッハッハァ!!嵐を呼ぶ男だぜ!」
「雨男の次は雷男!?」「なんなのよ今日は!!」
待ちやがれー!!戸惑い、声を荒らげる二人をよそに別の、それも聞き慣れた声が近づいてきた。
「クソォ、いつまでも追いかけて来やがって~!!」
「コラァ、飛ぶんじゃねぇ!!」
「あらたん!」「和泉くん!」
言うなり黒雲を両足に纏って浮き上がる奴を追っていた人物ーーアラタに二人は声をかけ、アラタは軽く息を切らせながら立ち止まる。
「お、雛菜ちゃんにるいちゃんやん、お疲れ。」
い、今の何なのよ?手を振る彼へ挨拶もそこそこに、るいが聞く。
「あぁ、なんや異様に雲行き怪しくなったらしくてな、不自然な土砂降りと雷が出たから探ってたらアイツがやっとったんよ。」
「え?土砂降りもそっちだったんだ。」
雛菜の言葉に首を傾げた彼に、雨男の説明をすると、なるほどとアラタは確かめるが、
「ほな、ボクは早くアイツ追わないかんから、風邪引かんようにな~?」
ジェットボードを取り出すと乗り、雷男目掛け飛び立った.....
「.....私達もいい加減帰りましょうか。」
「うん.....そうだね.....」
なんだか色々と疲れたが、こんな日は早く帰ろう。
そう思いながら二人は次こそ家を目指して歩き始めた.....
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
流石にここまでは追ってこれねぇだろ。
そう思いながら足元の雲を散らし、どこかの屋上に降り立った雷男は一息つく.....
「甘いわぁ!!」
「ぬぉ、ナニィ!?」
束の間、先程の少年が謎のジェットボードに乗って姿を現し、軽々と降り立つではないか。
「お前、どこまで邪魔すりゃ....!!」
「こっちの台詞や。こんなことしてどうなるんや?雨降らせられても女の子にはモテへんで?」
どうでも良い!!男は眉間をひそめ、怒鳴り返す。
「俺はなぁ、自信満々に、今日には嵐のような雨が降ると予言したんだ。なのに実際には霧雨程度!これでキレずにいられるかぁ!」
いや、キレるなキレるな、笑いをこらえながら言うアラタを無視し、男は続ける。
「俺様の大予言を嘗めやがって、もう許さねぇぞ。そんなことを思っていたらこの素晴らしい力を貰ったっつー訳だ!派手に暴れて予言を現実にしてやらぁ!!」
冗談じゃねぇ!アラタは木刀を構えると、雷男が飛ばしてきた雷撃を弾きながら近づいていく。
「そんなアホな理由でクッッソ不便な生活を強いられてたまるかぃ、ボケ!!」
「うるっせぇ!文句は俺の自信を打ち砕いたクソ空に言え!!」
続け様に太鼓を打ち鳴らすと、段々と太鼓に雷が灯っていき、すべての太鼓が発電した途端、一気にアラタ目掛けて撃ち出された。
この!間髪入れず襲いかかる雷光をどうにか木刀で防いでいくが、
「ぐぁああ!!」
対処とは別の雷に当たり全身を駆け巡る。
悲痛な叫びと共に膝を着くアラタはしかし、行動不能には至らずに木刀で支えて立ち上がる。
「こんくらいならまだまだ大したことねぇわ。」
「クハハ、強がるとくたばっちまうぜ?そらよ!」
やってみるか.....相変わらず雷を飛ばす相手に余裕の表情で、アラタは機械的な器具を手首に嵌め、ボードの足固定台と接合すると、手甲や盾の要領で構え、雷を防いで歩み寄っていく。
考えやがったな、だが.....雷男は浮かぶと、空に漂い、アラタ目掛けてバチを向ける。
「それじゃあ空には来れねぇだろ?ホォラ」
ドンドンと落雷を生成し、少年に直撃させようとするが、当の本人はボードを持ったまま身を翻して避けていく。
「残念やったなぁ....多少のウェイトトレーニングは基礎やろ!?」
でぇい!雷男目掛けて回転を利かせながら木刀が飛んできて、
「うぉっと!?」
慌ててかわすがこちらに迫る風圧に気が付いた。
「な、何!?」
腕に嵌めたボードをそのまま噴射させ、奴目掛けて飛行した勢いを乗せたまま、
「おらぁ!」「ガァア、クソ!!」
鳩尾に空いた手の拳を叩き込んだ。
そのまま抱えられ、屋上に気絶した男が投げ出されると同時に太鼓が砕け、激しかった雷雨は段々と鎮まり、予報の霧雨をも消し去った晴れ空に変わった.....
やーれやれ。首を回しながらビルを降り、学校に戻ろうとすると
「あらたん!」
いつも見かける公園に通りがかったところで雛菜から声が掛けられる。
「あれ、雛菜ちゃん、帰っとらんかったの?」
「あ、うん.....あらたんが心配だったから。それより、ほら。拭かないと風邪引くよ?」
「んお、ありがとー」
そうタオルを渡されるなり軽くぬぐい、肩にかける。
「いいのいいの。」
「え、洗うで?」
「大丈夫。」
が、雛菜がタオルを取ると、バッグのポケットに入れる。
「そっか。まぁ、その.....ありがと」
「うん。さぁ行こ。」
アラタの笑顔に一瞬どきりとしながらも、自分も笑顔で返す。
そんな中でも、ひとつの思いが頭をよぎる。
そうだよね....
あらたんは、忙しいんだから.....
EP18ーー E N D ーー
「へー、それ作りゃいーんだね?」
「ああ、頼むよ。だから何だってせびってくれて良い.....」
「じゃーさーシドー。ひとつ良いかなー?」
「なんだね、和泉クンかい?」
「いや、雛菜さんのことなんだけどさー.....」
「あ.....」「やだ。雨、ね.....」
水滴が頬を掠めたとき、雛菜とるいは空を見上げ、傘を開くと同時にその勢いを増して空模様は明確な雨天へと変わった.....
EP18「揺れる心」
"June-Bride"
6月にとつぐ花嫁は幸福に恵まれる、とは古くから言ったものだ。
そんなまじないにあやかってか、最近では様々な高校で、ウェディングドレスおよびタキシードのモデル撮影が行われている。
...もっと見る当然、行事への目が鋭いコチラ、聖櫻学園とて例外ではない。
今一度互いの仲を確かめたい者、あわよくばこの撮影を告白の正念場としたい者、単純に着たい者とか趣旨の通り縁結びや成就の運気を上げたい者とまぁ、恥も体面も気にせず申請する人数は結構多い。
まぁ、中には誘いたくても誘えない者もいるようで.....
「雛菜チャーン、おはよー。」
「!!あらたん!」
朝、何やら考え込んでいた雛菜に不意に声がかかる。
いつものことなのだが、今日は特に強く意識していた人物なだけに思わず、いつもよりびくりと反応してしまう。
そんなことを意にも介さず、当の少年は、先日知り合いからもらったらしいジェットボードを乗り回し、彼女の隣まで滑空するとひょいと降り立つ。
「おっはよー!」
「うん、おはよ。また朝練?」
「いやぁ、今日はコイツのテスティングやで。ちゃんと扱い馴れとかんといざっちゅうとき困るしな。」
言うても割りとすぐコツは掴んだけど、機嫌よく笑うアラタに軽く返事をする雛菜は、言いたいことを切り出そうか悩んでいた。
「そや、せっかくやし乗ってこうや、ほい。」
不意にアラタが言いながらボードを置き、取手を握った状態で片膝着いてしゃがみ、雛菜につかまるよう促す。
流されるように後ろにしゃがみ、彼の背に密着して腹に手を回した雛菜は、その距離感に内心ドキドキとしながらも、意を決して口を開く。
「あのさ、あらたん....「おーし、行くで。」え?」
次の瞬間、ジェットが噴き出すと共に飛び立つと激しい風に襲われ、彼女はアラタによりきつく腕を回した。
「きゃぁあ!高い速い!!怖い~!!!」
「ホラホラホラホラ、ええゾ~コレェ!」
・・・
「いっやー、ウン最高やな。」
「はぁ......もぅ。」
一人でけたたましく笑うアラタをよそに、雛菜は少し機嫌悪そうに髪を整えながら校門をくぐる。
が、
「ところで雛菜ちゃんさ、」
「ん?」
「さっき何か言おうとしとらんかった?」
「えあ!?いや、なんでもない、なんでもないよ!あはは」
アラタの問い掛けに思わず慌て、笑いながらごまかした。
そっかぁ、特に気に留めるでもなく、校舎に入る彼の背を見ながら思う。
いつもならこんなこともなく、言いたいことは大体言えるんだけどねぇ.....
さすがにウェディングドレスの撮影なんて誘いづらいよ~.....
はぁ...ひとつ溜め息をついた。
「ウェディング、か。」
「なんだ岩本、お主興味あるのか?」
「そんな訳なかろう。自分達には関係の無い話だ。」
「であるな。かようなことを言ってるうちに本当に一生の無縁になるかもしれぬなぁ」
「ハハハ違いない。」
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「・・・」
ここにも一人、ウェディング撮影の告知を眺め、ドレスに見とれる者がいるが、やがてひとつ息をもらす。
「マツリの場所はここか.....?」
「うわぁ!?て、アラタ君!」
足音を消し、いきなり背後から声をかけたアラタに少女、2Bの加賀美 茉莉は勢いよく跳び上がる。
「わざと気付かれないようにするのやめてくれる!?」
「ハハッ、こんなの見てるとこボク以外に見られたらもっとメンドいことになっとったで。」
「な!たまたま掲示にひととおり目を通していただけ.....デスヨ。」
普段ならなかなか見られぬ様に顔をしかめ、アラタを睨み付ける彼女に、けらけらと笑いながら言葉を続ける。
「まーまー、ボクは茉莉ちゃんなら遅かれ早かれこういうのに食い付くと思っとったし。」
「食いついてない!なんでそう思ったのよ?」
「だぁって、ウェディングドレスってよう(良さとか)わからんけどメルヒェンな感じするやんけ~」
大きなお世話だよ!頬を脹らませる彼女に耐えられず爆笑するためその場でぐるぐると追いかけ回される。
茉莉は厳格な家庭で育ち、誰にも礼儀正しく敬語を崩さない、勉学もテニス部も上等にこなす文武両道の優等生だ。
が、アラタに対して割と砕けているのは、別に彼に懐いたとか、そんな(GFプレイヤー的に)メタフィカルな事情ではない。
元々、始終ふざけた言動で、言ってしまえばクソみたいな絡み方ばかりしてくるアホな彼にまでお高く止まった出方をするのが馬鹿馬鹿しいと悟ってはいたのだ。
その矢先、本屋で、彼女が家族にすら理解されず、学校でも体面を気にして隠していた趣味...所謂メルヒェンや御伽と言った類の書籍を物色していた様を目撃され、どうこう言われなかったこともあり吹切れてしまったらしい。
尤も、事情がどうあれ、聖櫻生が自分に態度を軟化させること自体がアラタの思う壺なのは言うまでもなかろう。
「なんでぇ、出ちまえばええやん。」
「イヤ、ほら、それはアレだよ....」
段々と声が小さくなりながら、アラタに小さく手招きをし、彼が顔を寄せると言い淀みながら口を開く。
「相手がいないし.....」
フッ!思わず勢いよくフいたアラタを何よと睨み付けると苦笑しながら彼は答えた。
「いんやスマンスマン。そんなことかよと。モデル撮影なんやし、ソロで行けや。」
「それは、なんか...勿体ないし。なんか、一人でウェディング着ても虚しいし.....」
「おいおい。なおなおとか見習えや。もっと言やぁかなたさんとかヤーマダかて面白そうとか言ってソロ撮影やでぇ。」
「ほ、本当のモデルとか無邪気な人と比べてどうするのよ。」
なるほど、これがロンリーガールズレクイエムか.....ぼそりと言いながら溜め息をつき、彼は引続き笑いながら彼女に目を向け、頭から足元へと視線を流していく。
「ん~、俺は正直、茉莉ちゃんのウェディングドレス単独写真拝めりゃ夜通しハッスルグォアアアアア!!!!」
言い終わるより先に乾いた音が響き、手を振り抜く彼女の足元にアラタは めり込んだ。
「マ、茉莉チャン.....スマッシュの感覚でビンタ張るのやめてもらえませんかねぇ.....」
「自分が悪いんでしょ、最低な変態。」
冷やかに言い放つ少女に、ビクビクと足を痙攣させるアラタはしかし瞬時に起き上がる。
「ま、冗談は置いといてよ。出たいならボクがタキシード役の臨時引き受けてもエエんだで。」
「馬鹿。キミには私なんかよりやることがあるでしょ?」
へ?呆れる茉莉の言葉を不思議がるアラタだが、ふと携帯電話を点けるとそのメッセージに声を上げる。
「うぉあ、超越不審者反応!ホンマや。ありがとな茉莉ちゃん、じゃ!」
・・・
はぁー、彼が去った後に、彼女はいよいよ幻滅のような溜め息をついた。
「そうじゃないわよ。新垣さんも可哀想ね....」
べーっだ、彼と仲の良い女子生徒を思い浮かべ、彼女への同情も込めて内心アラタに悪態を示す。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
喫茶店コスモス。
領也と雛菜が向かい合って座ると、軽くコーヒーを啜りながら領也から口を開く。
「さて、新垣クン。早速だがキミの心情を当てさせてもらおう。」
え?戸惑う雛菜をよそにルーズリーフを取り出すと彼はシャーペンを数行走らせ、彼女に向ける。
内容は大方、雛菜がアラタとウェディング撮影に臨みたいが、超越不審者に対応している彼を思うとそれどころではないと諦めかけている、と言った旨で、思わず絶句してしまう。
「!!な、なんで.....?」
「なんのことはない、しろかからその事で思い詰めてるから頼むと言われてね。」
「しろかちゃん?あのコ.....」
...もっと見るさて、雨打つ窓越しに外を軽く眺め、再び彼は口を開く。
「さて、キミには話しておこう。題して、『転入と和泉クンと学校生活』としておくか。」
はい.....おそるおそるながら雛菜が頷くと、彼は口を開いた.....
和泉クンが超越不審者の鎮圧のために編入したことは、もう聞き知っているだろう?
ーーーーーーーーーーーーーーー
「完ッ全に上昇気流だ!最ッ高の気分だねぇ!!」
くるりと舞い踊るように身を翻し、その度に纏まった雨が次々と横殴りのように打ち付けてくる。
「くっ、とう!この野郎、アホか!水遊びにゃ寒くなりすぎとるわ!!」
「あはは、甘美なレイニーシャワー!良いよね良いよね!?」
アカン、完全にクレイジーや。
頭を軽く掻きながら、次々と降り注ぐ攻撃的な雨を避け、あるいは木刀で切り払いながら、軽快に跳ね回る雨男との距離を掴みあぐねていた。
「ん~、君は少しせっかちだねぇ。この雨で、日々のストレスも洗い落としてさっぱりすれば、気持ちいいよっ!」
「馬鹿野郎、こっちはオマエのせいでイライラじゃい!」
なんかムカついた勢いで殴り飛ばされ、身体をバウンドさせながら転倒するも、雨男は流れるように立つとひとつ指をはじき、同時に雨が少しおさまる。
「なんやお前サービスのつもりかコラ。」
呆れながらここぞと奴にもう一発見舞ってやろうと駆け寄るが、合図と同時に急に土砂降りの勢いを取り戻してアラタの頭を無慈悲に叩いていく。
「うっほあ、冷てぇ言うとるやろがい!!」
満足そうに雨天を爽やかな面持ちで見上げる雨男に、アラタは走り出す.....
ーーーーーーーーーーーーーーー
そうだな.....今は多くを話すつもりはないがね、和泉クンはワタシや知り合いに助けられた縁から、こういう、つまりー......ウン、それこそPAのような問題を解決する活動に協力してくれるようになったんだ。
しかし、彼は進路というモノがうまく考えられなかったらしくてね、それにある種の"逃げ"を見出だしていたのかもしれないねぇ。
「そういえば、聞いたことあります。なんか進路に困ってて投げ槍な時もあったっ、て。」
雛菜の言葉に肩を竦めながら領也は言葉を続ける。
そうだね。それはちょっと困った事態でね、ワタシとしては和泉クンには、あくまでも一人の少年として生きることを第一として欲しかった。
学園長殿や顔馴染みの教員と相談し合った結果.....学園の手伝いとして、『学園側の管轄外にして世間の脅威』則ち『超越不審者』の鎮静を依頼、そのために最も不審者の報告が多い聖櫻学園との提携から、今に至るわけさ.....
そんなことが......そう雛菜が驚くのも無理がないだろう。
しかし話が逸れたか、再び思案して本題を辿ると、領也は紅茶を呷る。
「つまり、ワタシ.....と言うより学園長殿達としては、和泉クンには高校生活を、なんでもない日々を最優先で楽しんでもらいたいと思っているのさ。」
故に、雛菜の肩を軽く叩き、
「......だからこそ、キミは彼がPA絡みで忙しいからと、何かを悩み躊躇うことなんてないんだ。なんならキミにこそ、時として和泉クンが一人の少年であると思い出させ、昔のことなんて忘れさせて欲しいと、ワタシとしては思っているしね。面倒事なら和泉クンが居らずともワタシもいる。まぁ、後は好きにしたまえ。」
会計を済ませるなりひらひらと手を振りながら彼は店を出ていく。
「志藤さん.....ありがとう、ございます.....」
サンはいらないっ、気取ったように笑みながら完全に扉を閉める彼に会釈をし、彼女も立ち上がった.....
ーーーーーーーーーーーーーーー
「見てろよー、このヤロー。」
腰に下げていた巾着を裏返すなり勢いよくはたいて広げ、見るまにレインコートとしての全貌を現したソレを羽織ると右拳を左掌に軽く打ち力を込める。
「おいおい、そんなものを着たら折角の雨が勿体無いだろう?水も滴る良い男が台無しじゃないか。」
うるせぇ!雨も気にせず一気に蹴り込んで雨男を飛ばしたアラタは間髪入れずに裏拳で叩き落とした。
「滴るどころかもうずぶ濡れやろ、アホか!!」
「なっ、君も男なら解るだろぅ?この、濡れ感の良さ!」
腕を横に薙ぐとまたしても集中的に雨の束が降り注ぎ、身体に打ち付けられるも腕を交差させることで耐え抜きながら一歩ずつ進み、
「知るか、ええ加減にセェ!!」
勢いよくビンタを咬ます。
「なんで......そんなに僕の邪魔をするんだ!男は、女の子を守り抜いてずぶ濡れになることこそが護った勲章じゃないか!
これでも満足できないなら降水確率・100%.....!!」
どこか沈んだ表情で俯いたまま両手を挙げ、一気に横に広げる......と、
「ん??......ワァアアなんーやコレ!!!!」
文字通りバケツを倒したと言うべきか、もはや滝と形容できる程の水量が空一面から『落ちて』くるではないか。
「今日の天気予報だよぉ!うんざりするくらい楽しんでもらえなかったら雨が可哀想じゃないかぁ!アァーハハハハハ!!!!」
目を見開き、狂気に充ちた笑いを浮かべて雨男は空を仰ぐ。
全てが絶好のステージ、自分という男が遺憾無く輝けるハレ舞台.....
ボタボタボタッ
「アガッ!?クゥオオオオ!?」
......が、その目に数滴の大雨粒が入った瞬間、恍惚とした表情を一瞬にして苦痛で歪めて目元を拭いだす。
「くぅううう、雨の飛沫が、眼に!!」
「何度も言わせんな、お前はアホかァ!!」
いよいよ頭に来たアラタは奴の頭を軽く叩いてから髪を掴んで投げ飛ばす。
いったい!叫びながらふらふらと立ち上がる雨男は、苦笑しながらも余裕の笑顔を取り戻しつつアラタを見据えた。
「キミは、強いね......でも、僕も.....」
瞬間、ビクリと身震いした奴が咄嗟に顔をおさえてから横にそむけ、
「ェッックシィッ!!ぼ、ぼくも、女の子を、諦め、ない.........!」
何事もなかったように、びしりと指を突きつけて声高に宣言を叫んだ。
しばらくその姿を呆然と眺めていたアラタだが、
「テ、テ、テ......」
その顔を不機嫌そうに歪めて拳をキツく固め......
「テェエンメェエエエエ!!!!」
眼と歯を剥き出しに叫びながら一気に駆け寄ると、
「ウッ、ゴッ、ボッヴァ、ブォオオホォ!!?」
「偉そうなこと言って、フツーに冷えてンじゃねぇかクルァアア!!!」
覚束無い彼の全身に容赦なく両の拳を連続して叩き込み、
「フザッッけんじゃねぇええええ!!」
「ほぐぅううう!!」
顎から一気に突き上げると、捻れた声を上げる雨男は白目を向いたまま地に叩き付けられ、徐々に蛇口を緩めるように青々とした空が広がっていった.....
「っったくよぉ~。コイツ、顔は良い、つかフツーにイケとるのに、結局何がしたかったんだよ.....」
呆れながら気絶する雨男の身体を拭いていると、
「な......何をやってるんだ、君は......そんな、内面的なところで......差をつけようだ、なんて」
ウルッサイ、額を指ではじいて黙らせると、とりあえず近くの診療所に放り込んで置いた。
理由が理由なんでぬかるみで川に足を滑らせたつっといたけどな。
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「よく晴れたなァーっっ!!」
公園の築山で仰向けになり、眩しそうに陽を眺めながらアラタは言う。
「これならまぁーすぐ乾くわなぁ~.....」
あ、いたいた!不意に聞こえる、馴染み深い声にアラタが身を起こす。
「あらたん、何してるの?」
「おーう、雛菜ちゃん。見ての通り、服とか乾かしとるんよ」
「そっか、お疲れ様っ」
そう差し出された手を取って起き上がるアラタは軽く肩を伸ばす。
「ところでさ、あらたん。
ちょっと、いいかな.....?」
「んあ?どうしたん?」
言いにくそうな雛菜に促され、並んで歩きながらアラタは耳を傾ける.....
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「え、写真撮影?」
「うん。やっぱり、憧れって言うか、さ.....」
なるほどなぁ、気まずそうに目を逸らす雛菜に対し、抜けたような声を出すアラタは
「別にええよー」
え!驚いた声をあげながら雛菜が振り向く。
「い、いいの?」
「だって、別に断る理由もあらへんし、撮影なんて、なぁ~」
「ありがと!さ、帰ろっ!」
なんややけに上機嫌やな、そんなことを思いながらアラタは雛菜と共にまた歩きだした.....
EP19ーー E N D ーー
試験管の二色の液を混ぜると、ビーカーのそこに凝固した粒が生じていく.....
しろかはその物質を取り出すなり磨り潰しながら、一人呟く。
「いきなりこんなもんを頼むなんて、アイツどうしたんだろなー.....」
ん?何気無く、領也のデスクに散らばるルーズリーフを拾って目を通すと、『仮説』から始まる図や文章の他、下に連なる羅列を見るなり不思議そうに首をかしげた。
・レモン
・シーソルト
・メロン
・アップル
・ピーチ
・ライム
・チェリー
コレ以降は省くが他にもキャラメル、バニラ、グレープとまぁ、研究に関係なさそうな字面ばかりなのが極めて不可解だ。
買い物メモ?ぼそりとツッコむしろかだがしかし、すぐに目の前の任務に取りかかろうと、再び二本の試験管に液体を注ぎ入れた.....
朝、雛菜は昨日の複雑な気持ちを抱えたまま登校する。
ふと、いつもよりも何やら騒がしいことに気付き、喧騒の現場へと駆けつけると、そこはよく立ち寄る公園であった.....
「あらたん......!」
「オイオルァ、お前らまぁた悪企みしやがって!」
アラタが啖呵を切った連中、ぞろぞろと三色の影が寄り集まった集団ーー便宜上、読者諸氏には、YAKATAカンパニーの平社員に属する彼らの『ヤカタトルーパー』という呼称を明かしておこうーー
奴らは案の定アラタに邪魔されまいと抵抗の意を示して彼に絡み付いて行った。
オルァ!!が、アラタが勢いよく木刀を振るうと呆気なく吹飛ばされていく。
「数だけ多くたって、鬱陶しいだけやで!!」
...もっと見る次々と殴りかかるトルーパーを投げつけ、追い払っていくが相変わらず切りがない、面倒臭い。
そんなことを思っていた矢先、頭上をひとつの影が掠め、周囲にエネルギー弾を撒き散らした。
「よ~アラタ、朝から元気そうだな。」
大振りな黒い銃のトリガーに指を通し、軽々と回す少年に、アラタは驚いたでもなく気さくに声をかける。
「おーナツ、おはよー」
お互いそんな一言をかわすなり、何事もなかったように群れへ走り込んで行く。
「あ、そうだ。そーいやナツさ~」
立て続けにトルーパーを斬り飛ばしながらアラタが思い出して口を開く。
「んお、どした~?」
少年は流れるように銃を放ちながら応える。
来栖 夏騎。
紹介遅れるが以前から何度か登場頂いている彼は、アラタ同様に彼らが二年生になった春先の転入生だ。
ハンター学科生であり、以前はひときわ凶暴な晶魔の棲息する、所謂『帯の外』と称される地帯で生活しており、特に手強いRED種を仕留めた人間では現最年少と、ハンターとしてのキャリアは並の高校学科生のソレを越えており、やはり噂では学科代表候補だとか既になっているだとからしい。
つまるところ、トルーパーでは障害物にもなり得ないのは確かだ。
「こないだ狩った奴の晶殻なんやけどさ、」
「んあー、アイツな。どうした?」
お互い言葉を交わしながら倒れたトルーパーを積み上げていく。
「やぁっぱボクには晶殻の使い道解らんから、ナツに預けるわー」
「そうか?わかった。」
おっと、アラタが影を蹴り飛ばしながら幾つか鉱石を放り投げた様を確認すると夏騎は長剣、ナイトフェンサーに持ち換えざまに回転を効かせて敵を斬り捨てながら晶殻の落下点まで滑り込むと全て掴み取り、アラタと同時に剣を振るうと風圧に巻き上げられたトルーパー達は全滅した。
「いっや~ええ運動になりよったわ~」
「良いアドレナリンになった。布団入りゃ秒で寝れるな~これは。」
もう寝るんかい、けらけらと笑い交わしながら公園を出たところで雛菜を見かけ、合流登校になったが、談笑するなかで、彼女が今見た光景は考えに拍車が掛かっていた。
うん.....
やっぱりあらたんは忙しいんだよ.....
いつも見てたから知ってるのに、ね。
EP19「託されたおもい」
よし、ウェディング撮影は忘れよう。
放課後、頭を軽くふるった雛菜は立ち上がり、2Cへ出向く。
いつも通り、私は健康管理をして、疲れている彼のサポートをするだけだ。
そう思いながら教室を覗くと、今日もその姿はない。
「アラタ君なら、不審者を探すって言って帰っちゃったよ。なんでもビショビショのシャツを見せびらかす残念イケメンだって~」
「そうなんだ。ありがとっ」
アノ人か、昨日の妙な男を思い返すと、明音に礼を言って校門へ向かう。
はぁ....ひとつ溜め息をもらす。
忘れよう忘れよう。
そうだ、久し振りに本屋に行こうか、新しいファッション誌くらいあるはずだ。
「お悩みのようだね、新垣クン。」
!ふと後ろからかけられた涼しげな声に振り返ると、アラタの保護者?らしい白衣姿の青年が軽く手を振る。
「志藤さん.....!」
「サンは、いらない.....」
フッと、領也は小さく微笑んだ
ーーーーーーーーーーーーーーー
「こんにちは、僕を程よく濡らす、良い雨だね.....」
「うわ、誰!?」「ちょっ、下着着なさいよ!」
戸惑う女子生徒二人にうっとりと目を閉じて首を振り、二人を見据える。
「仔犬のように震えているね?大丈夫。僕を怖がらないで。」
「アンタが気持ち悪くて震えてるわよ!」
相変わらず、この男の顔を見てなお、女子生徒達の対応は冷やかだ。
しかし、雨男はそんな彼女らの言葉を流しながら微笑みかける。
「ほら、僕と一緒にこの気紛れな雨を散歩しないかい?水も滴る良い男って、言うだろ?空が泣いてるよ、君を憐れんで、ね?」
「滴りすぎなのよ!あとアンタがあわれでしょ!?」
「雨なんかじめじめしてて濡れて、苦手なの。」
大丈夫!突然声を張り上げた彼に一瞬たじろぐが、お構い無しに青年は言葉を続けた。
「僕に掴まってて!どんな大雨でも、君達を守ってみせる!」
「だったら大人しく帰らせてくれない!?」
呆れきって怒鳴ると、
「僕と!この土砂降りを楽しんじゃいなって!!」
髪を粗く掻き上げ、高笑いをしだす彼はもはや聞いちゃいない.....
「お前かー!!」
うわっと!いきなり木刀を振りかざしたアラタに飛び掛かられ、慌てて退けるとそれを追いかけながらなんども木刀を振り回す。
「ちょ、やめたまえ!濡れて透けて落ち着こう!?」
「うるっさいわボケー!!」
少年に追い回され、雨男が去った後で彼女達は呆然としていたが、やがて歩を進めた....
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「こんな雨の日は、君より女の子といたいなぁ。」
「女の子は嫌がってるらしいんやけどソレは.....」
アラタがぼそりと言うと不思議そうな顔をする雨男だがしかし、不意に小さく微笑んで困ったように俯く。
「ごめん。濡れた僕が、人目を惹いてしまって......」
はぁ?公園に追い込んだ彼からの一声にアラタは唖然とする。
「女の子を魅了してしまう僕が悪いんだ。君も、僕みたいになりたいと思ってるんだろう?」
「いや、ヤダ。ゼッテーヤダ。」
一人で演劇のようにそこらを回りながら高説を始める彼にツッコミを入れるとしかし何てこともなく淡々と喋り立てる。
「君も男なら解るだろぅ、この濡れ感の良さ、美しさ、素晴しさ。ぷぁ!?」
だぁから解らんのやってばー、痺れを切らしたアラタに頭を叩かれ、つんのめるが、すぐに体勢を立て直す。
「い、痛いじゃないか!すぐ感情的になっちゃ駄目だぁ!?」
やっかましーわ、抗議もむなしくアラタから腹に頭突きを咬まされると雨の中で尻餅を突くがしかし、すぐにふらりと立ち上り、
ねぇ、そう聞きながら妖しい笑みを浮かべた。
「この雨がやまなければ....て思ったこと、ない?」
「無いよ。」
「梅雨が明けると、ゲリラ豪雨の季節だね.....?」
「え、そうなん?」
それは初耳と、不思議がって訊ねると、彼は手を高くかざす.....
雨が寄り集まるように強風が渦巻き、立て続けにアラタを突き刺すように水柱が落ちてきた。
「ハハハ、君もこの台風と踊ろうよ!!!」
「つめった!いよいよ正体現しよったか~」
気だるげに木刀を取り出すと、軽く回してから雨男へ向かって行った.....
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
憮然と世界樹のふもとを眺める影は視線の先、少年が勢いよく跳ぶ様を逃さず、拳銃を向けた.....
「クルァ、タツミヤ!!なんだってンなことすんだよ!」
「貴方も世界樹のことは知ってるだろう?和泉さん。あと麻酔銃だから安心したまえ。」
長身で浅黒い少女、タツミヤは顔色を変えずにアラタを見据えた。
「願いが叶うってか?それがなんの関係がある?」
「一般人の手前、貴方に深くは言わなかったんだがね、こうなれば仕方ないか。まず『世界樹の下で願いを言うと叶う』は本当だ。」
...もっと見る「だろうよ。魔力でも宿ってなきゃ"斬れる"訳がねぇ。ボクもそのお陰で助かったんやしな。」
ただし、アラタの言葉を気に留めず彼女は続けた。
「有効なのは人の精神に干渉する場合、則ち『相手に行動をフる』タイプの願いだ。」
「んー?つまり?」
「まぁ、代表的なのは『告白』。あとは『三回回って犬の真似しろ』とか『代わりに宿題』とかその辺だ。願いを叶えると言うが、世界樹の魔力にやられるから完全な支配でしかないのだよ。」
それがなんだ?しかしアラタは首を捻った。
「雛菜ちゃんには関係ねぇやろ?」
「っ!?だからそういう行動を起こそうという者に麻酔を撃って阻止していたのだ!」
コイツ馬鹿か?言葉なく語れるような表情を一瞬出すタツミヤだが、呆れたようにため息をつきながら話を戻した。
「もしあの子がコク......何か変なことをあそこで貴方に頼んだりしたら、自分でない傀儡となるんだぞ?」
「そんな柄じゃねぇよ、アイツはよ。」
「まだ三ヶ月で何が判るんだい?それに.....」
やれやれと首を振ってタツミヤはアラタの肩を軽く小突いた。
「もし本当につまらない願いを口にしたとして、和泉さんは意思なくそれをこなさねばならず、その反動で彼女は本当の願いを逃すかもしれない。大切な友達、だろう?」
.....なるほどなぁ、苦笑する彼女を見てアラタはようやく納得して頷くが、すぐに真剣な眼差しを向けた。
「それもそっかぁ....って!ならそんときはボクが自力で回避させる!だから射つな!!」
「フン、甘い、甘いぞタツミヤッ!」
ほう、これはこれは.....意外な答えに感心を見せる矢先、声の方向を振り返ると、黒いローブを羽織り、槍を提げた男がカツカツと歩み寄ってくる。
「サモン.....!」
「回りくどい方便で形だけ穏便に済ませるよりも、直球で終わらせるべきだ。和泉アラタ、不要な世界樹の事まで知ってしまったお前は、やはり聖櫻生としてリセットすべきだ。」
「なっ!?リセットやとぉ?」
「ご存知だろ?貴方を快く思わない『過激派』だよ。」
男、サモンに銃を向けながらタツミヤは淡々と語る。
「愚かな。俺はせめてもの情で、聖櫻学園生徒としての記憶を消すつもりはないんだ。失われるのは俺達との関係や.....なんといったかな?"超越不審者"討伐の任を受けていること。」
「な!?御免だわ。それでエエちゅうなら、最初っから選んどるやろ!!」
「高校生として、素敵なガールフレンド(仮)と学友に囲まれた生活は変わらないんだぞ?まぁ、抵抗するなら拒否もしていられなくするさ。来い、アスタロトォオオオ!!」
ひたすら語りながら槍の石突で地に紋様を書き、勢いよく叫ぶと、彼の後ろが黒く澱み、大きなひずみが生ずる。
まずい.....!!攻撃用のライフルに持ち替えるタツミヤをよそにひずみから大きな影が顕現した。
「ゴォオオオオ!!」
四足の竜を思わせる胴から、髭面の偉丈夫の上半身を備え、長鎌を携えた紅い魔性、アスタロト。
肩の翼をはためかせながら旋回する奴にサモンは飛び乗り、高らかに笑う。
「さぁ、痛い目を見ないうちに降参するんだな?」
まったく勝手なことを.....タツミヤが頭をおさえる一方で、アラタは木刀を軽く掌に打ち付けてからバッターのように突き付ける。
「ぜってーヤダ、ヴァーカ!」
ならば!アスタロトが鎌を振り上げてから勢いよく地に叩き込み、咄嗟にタツミヤとアラタがかわす。
最初に反撃に出たのはタツミヤであった。
彼女が両手に銃器を構えるとすかさず両のトリガーを引き、立て続けにアスタロトに向けて発砲する。
弾を避けアスタロトが滑空すると、横凪ぎに払った鎌から真空刃を飛ばしタツミヤを襲うが、本人は避け、アラタが木刀を振るって打ち返した衝撃波に相殺された。
「和泉さん?滞空措置が無いのだから無茶はよすんだ!」
「なーんや今の見たやろ?ボクは飛んでる奴でもなんら問題ねぇ!それに、手段はもうひとつあるからなっ!」
投げつけられたメモに軽く目を通した後、彼女はそれを握りつぶしてポケットに入れ、ニヤリと笑う。
「なるほどな、"ソレ"がなんなのかはわからないが、貴方を信じてつき合ってみようか。」
「ハハハ、タツミヤ!ソイツに手を貸して良いのか?後でどんな対応を受けるか.....」
「それはこっちの言葉だよ、サモン。もう和泉アラタのことは合意で協力者として認定したハズだ!貴方達過激派が変に手を出さないようにするのも私の仕事だし、そっちこそ知られたらどうなる!?」
「フン、後は野となれ!単純に俺達はソイツが気に食わないだけだ!」
互いに言葉をぶつけ合いながらアスタロトはタツミヤを斬りつけんと迫り、対する彼女は距離を取りながら手を止めず連射を繰り出す。
対するアスタロトも鎌を回して弾き飛ばしダメージには至っていないようだ。
そーらよ!足元近くまで跳び上がったアラタが木刀を振り上げる様に気付くと慌ててサモンが槍で迎え撃つがアラタも只では起きぬと落下する前にアスタロトの足を蹴りつけて奴から離れた。
タツミヤァ!!叫ぶアラタの声を皮切りに、タツミヤは両手に拳銃を持つと間髪入れずに散弾を咬まし、突然の猛攻に戸惑うサモン達を我武者羅に撃っていった。
弾切れを起こしてはガトリング、ライフル、果てはバズーカと持ち換え、敵を飲み込む様はもはや弾幕だ。
......ちょいちょい"谷間"から取り出す件については触れないでおこう.....
「くう!このっ!!コイツも魔力の弾か!アスタロトォ、怯まず切り抜けろっ!」
自棄を起こすサモンだが、やがて違和感に気付く。
無理もないだろう、タツミヤに声を掛けた当のアラタは木刀を構えるだけで傍観しているてはないか。
「貴様、抵抗はやめたのか?ちょうど良い!」
無理矢理弾幕から横に逸れ、アラタめがけて襲い掛かろうとするが、彼はそれでも次の行動に移らず、
「なぁに、ちぃと助けを待っとってな。」
こんな状況でか!?いよいよおかしがって大笑いする瞬間、勢いよく身体がぐらつき、アスタロトが叫ぶ。
アスタロトの脇腹にフックで抉るように直撃した存在......ジェットボードに呆気にとられるうちにニッと口角を上げたアラタは2号に飛び乗り、タツミヤもその後ろに着いて正面から突進をかけた。
「小癪なぁ!!」
アラタが振り上げた木刀をアスタロトの鎌が競り合うが、タツミヤが羽根を狙って狙撃の体勢にはいったことを気付くのが遅かったようだ。
痛みにたまらずアスタロトは高度が弱まったところで魔力切れを顕すように時空の歪みに消え、投げ出されて狼狽えるサモンに、
「クッソ......な!?」
「うりゃ、メーンッ!!」
木刀が直撃して倒れこんだ.....
一息ついたアラタと肩を回すタツミヤだが、不意にアラタのケータイが鳴った。
[大変だよあらたん!パレードの恐竜が!!]
何!?アラタの復唱に驚くタツミヤとサモンだが、彼等が学園祭本来の責務を全うせんとする前にアラタは駆け出して行ってしまった。
「スマン、じゃぁなタツミヤ、また会おうぜ。」
「・・・・」
あの男はァア!!サモンは怒りを滾らせるが、追おうとする姿を制し、携帯モニターを見せる。
「なぁ、サモン。彼は力とか正義とか、そんなものはどうでも良いんだ。私には解らんが、報酬も無しにただ困っている人の力になりたい、そういう心があるんじゃないか?」
私達のことも含めてね、仮面とローブを纏い、暴走する恐竜ロボットを転倒させ、停止に追い込むアラタを見てタツミヤが語ると、サモンは頭をかく。
「どれだけ強かろうと結局は一般人、何も『麻帆良』に来て意味の解らない奴等相手に危険を味わう義理なんて無いだろ。」
「あの調子じゃ他校に育っても遅かれ早かれこういうことに首を突っ込んださ。それこそハンターにだってなれただろうね。学園長が認めた男を信じてみないか?」
フン、ため息を漏らすと立ち上がり、サモンは背を向ける。
「俺は降りるぜ?過激派ゴッコもバカらしくなった。」
けどな、小さく微笑むタツミヤに依然として睨み付け、サモンは続けてから去っていった。
「他の奴に啓発するつもりはないぞ?この麻帆良で一般人に特殊事情が受け持たされたのは俺達は蔑ろ、株を奪われたようなモノだからな。納得行かないのは事実だ.....」
フフッ、そういうことと向き合い、どう折り合いを付けるかも彼の問題さ.....やれやれと笑いながらタツミヤもまたその場を後にした.....
EP20ーー E N D ーー
そうか、『過激派』が.....
飴玉をひとつ口に入れ、領也はアラタの話に小さく唸る。
.....弱った。過激派を納得させるには超越不審者を解明し、鎮圧しなくてはならない。
しかし現状はどうだ?
なぜ、どのようにどこから超越不審者が現れるのかは見当がつかない。
連中の力の源は何か.....
見つけるべきものは尽きないが、奴等を倒しても何ら尾を掴めないのが現状だ.....
「さて、どうしたものか.....?」
ーーその願い、叶えて差し上げましょうか?
!?振り返る領也の視線の先、人形の影.....標識に用いられるピクトグラムが立体化したような存在が丸い目を光らせながら佇んでいるではないか。
「おや、なんだね、キミは?」
「いえいえ、私は貴方の願いを満たしたい、それだけの者です。貴方が望むなら、私を手伝って下さい。」
[マスタージーニアス]
きっと答えが......にっこりと目を細める矢先に電子音が響き、瞬く間に領也を包み込んだ。
「ふぅん、もし拒否をしたら?この間襲ってきたボーソー族とジャージ男の知合いなのだろう?」
やれやれ、首を振りながらも影ーーワイズは笑顔を崩さずに歩み寄る。
「確かにそうかもしれませんが、だから何でしょう?なんだって良いじゃないですか。貴方は私と組めば、きっと目的が達成される。」
「ははっ。随分な自信だね。ワタシに言わせればキミみたいなタイプは絶対にろくなことを考えない、なんとなく解るから似た者同士なのかな?」
おどけるジーニアスに、懐から取り出したスコープゴーグル状の機器をちらつかせながら、ワイズは気にせず再び言葉を発する。
「まぁ、良いでしょう。いずれ拒否なんて出来なくなるんですから.....」
いよいよ来るか.....!エネルギーを収束させようと掌を開いて突き出した瞬間、その四肢を一斉に掴まれた。
「!?いつの間に.....!?」
大勢のヤカタトルーパーにギッチリと組み付かれて戸惑うジーニアスに目を歪ませるワイズが近寄って行く。
「キミ達ィ、何を考えている?」
「ノー、クールダウン。私達ワァ、ユーと仲良くなりたいダケデェス。」
!!完全に挟み撃ちだ、背から聞こえる気配に身構えることもできないまま声の主の男はマイクを手に彼の耳元へ近付いた。
ーーWelcome To, YAKATA.....
Rrrrrr.....
「Oh,テレフォン?」
YAKATAビルのブリーフィングルーム、Mr.プレジデントは携帯電話を取出し応対に出る。
「ヘロー、モシモシ?オウ、ハニィ!?」
は!?その言葉に、ロウダーとアタッカは唖然とした顔で電話に頭を抱える彼を見つめた。
「リラァックス!ミーはユーの従順なハァズバンドデェス、HAHA.....」
「ウォイ、プレジデントー?」
先程からカケラも想像したことのなかったやり取りをする彼に、思わず通話中に構わずロウダーは声をかけてしまう。
「今すぐニ、ケチャップとサムヴェズィタヴォーを買ってこい!?オォウ、バァット....Noooo!クールダウン、マイハニィ!?ハリーアップでドゥーイングですカラァ~!」
オイ待て!?ロウダーの制止より先に、慌ただしく立ち上がったプレジデントは小走りにルームを出ていってしまった.....
...もっと見る
「えええ、あのオッサン大して活躍しないまま帰っちゃったんだけど~.....?」
アタッカは呆れたように頭をかくが、すぐに顧客リストを見て満足げに笑う。
「それに引き換えトゥナードの奴は結構楽しんでるみたいだねぇ、にっしし。」
「ああ、まぁ~六月九月はアイツの領分みてぇなモンだからなぁ。」
おっと通信だ、ロウダーが手元のブザーを聞くなりスクリーンを立ち上げてボタンを押すと、また聞き覚えのある不敵な笑い声が響く。
[お久し振りです、皆さん。]
「あ、ワイズだ。」
「まだ1ヶ月たったくらいだぞ。」
で、ボソリとこぼしてからロウダーが用件を聞き直す。
[いえいえ、少し開発に余裕ができまして。片手間にちょっと面白い実験を出来そうだったんで、本社に戻る予定なんですよ。そのため連絡しました.....]
「ちょうど良かった、アノ白人特に見せ場もないまま帰っちまったから困ってたんだ。」
[フッフフッ、そうですか。今回持ち帰る開発はかなりのモノになりそうなので、それでは.....]
通信を切るワイズの言葉が気になりながらも欠伸を1つ、二人はめいめい部屋を出て今日やることを探しに社内を廻りだした.....
EP20「因縁の邂逅、謂れ無き怨恨」
「わぁー、すごい.....」
「また、来るとはな.....」
賑わう喧騒、おおよそソレが一学園の文化祭であろうなど、一目では誰も思わぬであろう、大掛かりな山車や恐竜型ロボットのパレードに、遊園地と見紛う本格的なアトラクションの数々.....
麻帆良学園文化祭、こと『麻帆良祭』。
少年はどこか感慨深く辺りを見回した.....
「それはそれとして、何そのカッコ?」
雛菜から困惑気味に聞かれ、アラタは軽く笑う。
何故かパーマヘアのウィッグを頭に乗せ、円いサングラスをかけた彼の姿には無理もないだろう。
「ははは、まぁこっち来て色々見つかったりしたらめんどいしなー」
「イヤ、却って目立つと思うんだけどぉ.....」
良いんだよ、アラタは笑いながら言う。
「いざって言うときは守るから任しときって!」
そういう問題じゃないから、溜め息を吐く雛菜をよそに、彼は先日の領也との会話を思い出す.....
ーーーーーーーーーーーーーーー
「え、麻帆良祭?」
「ああ、折角やるんだ、新垣クンでも連れて行ってみたらどうだね。」
なんでまた.....口を尖らせるアラタに領也は続けた。
「ホラ、キミは新垣クンに、昔のことを殆ど話したことがないじゃないか。キミの思い出の一端でも、この際だから曝け出して良いんじゃないかな。」
そりゃそーかもしれんけどさー、ひとつ欠伸をしながら蚊を追い回す彼を呆れて見ながら悪戯っぽく笑う領也は言う。
「キミ達はウェディングドレス撮影とかやり始めるくらいにはベストパートナーなんだ、あんなことがあったとは言えキミは多くを語らなすぎる。そういうことをやるならもっとお互いを知っておくべきだ。」
「イヤ、ただの撮影やろがい。それに、中学ン時の学校見せられても困惑やろ。それに......」
それに?聞き返す領也にアラタは溜め息を吐く。
「しれーっと麻帆良に帰って、連中に見つかったらあぶねぇ。」
それなら大丈夫だ、領也は応える。
「『彼ら』のことはワタシ達もいつも見てるからね。迂闊に変なことは出来ないようにはした筈さ。」
ーーーーーーーーーーーーーーー
「そんじゃ行くかっ」
ハズかよ、ボソリと漏らしながらもアラタは気を取り直し、雛菜に声をかける。
「ここは大学の研究会がやっとる奴やな。実際にマジの遊園地とかにも携わってるらしいわ。」
「え、本物の!?ちょっと、行ってみない?」
「うっわ、これスゴい美味しいよー!
......何してるのあら「ココデハソノナデヨブナー!!」
「えぇ、別料金で!?ここ中等部の肝試しだよね!?て、わわ、ちょっと!?」
「ハーイ、ココメッチャコワイッテヒョウバンダカラネー。ヒナチャンアルケナクナッチャウヨー?」
「いや、歩けなくっ、てか怖さ選べるって!」
「エラベテモコワイコワーイ」
彼は行く先々の出展や施設の紹介をし、雛菜もその度に感心したり驚いたりツッコミを入れたりと、まぁ満喫しているようだ。
尤も、中華屋台では変装が露骨になったり女子中等部がやっているらしい、別料金でその......まぁ、所謂オサワリができるらしい肝試しの近くを通るときは不自然なまでの素通りしたりと奇妙な行動も目立ったが気にしたら負けなのだろう。
ふぁ....欠伸をひとつこぼすと、極力人目を避けながら雛菜と並んで歩く。
「それにしてもスゴいねー、ここ。もしかしてさ、学園祭の規模とか聖櫻以上なんじゃないかな?」
「んあ?まぁーせやな。聖櫻は行事の頻度とか内容とかは異常やけどやること自体はよくある高校くらいやと思うしなぁ。やってること異常やけど。」
笑いながら返すアラタはふと、広場に出たことに気付き、目の前に落ちる花弁に足を止める。
「・・・・」
「どうしたの?あらたん。」
いつの間にここまで来たのか......神妙に目を細める彼の視線の先、人気のない広場の中央には、
「え?うわ、大きい...!大きくない?」
雛菜も目を見張るほど、異様な胴回りの太さを誇る幹がそびえ、遥か上方には淡い色を放つ花が満開でそよいでいた。
「世界樹。この学園の名物みたいな木やな。コイツには長いこと世話になっとるわ.....」
世界樹......復唱しながら雛菜は見据え、
「やっぱり、この木も何かスゴいことがあるの?」
「おう、せえやな。なんやったかな、文化祭にこの木の近くで願いを言うと叶うらしいで~、アホみたいやろ?」
「ね、願い!?」
「おーう。まぁ、そんな噂が立つくらいにはそれなりの力はあるんやろなぁ。」
なんたって.....軽く指をはじくとアラタの足下に一振りの木刀が突き立った。
「いつものコレはコイツの枝を加工したもんやしなぁ.....」
「へぇ、だからあんなに色々できるんだね。」
「多分な。」
淡く光る木刀と満開の花を順に眺める姿に、雛菜は一度固唾をのんで口を開く。
「あ、あのさぁ、あらたん?」
ん?不思議そうに顔を向ける彼の横に立つと目を細める。
「最近、毎日が充実してるんだよね。今までよりも学校が楽しく感じられて、気付くとあらたんのことを見ちゃうんだよね。」
暇人かい、呟くアラタに気まずそうに手を振りながら彼女は笑った。
「そ、そりゃ寝癖が気になるってのもあるし、キミの髪もセットのしがいがあって、そういう意味では勿論、もっとそれ以上の.....あらたんと過ごせる学園生活が嬉しいんだ......」
願いが叶うと言うのなら.....!
「だからねっ.....!」
瞬間、雛菜が向き直り言葉を終える前に、彼女の真横を裂くようにアラタが腕を振り下ろした。
「あら......たん......?」
戸惑う彼女の肩を軽く叩き、目付き鋭くアラタは近くの校舎の屋上を鋭く見据える。
「スマン、めんどいことになりよった。どっかのカフェで待っててくれへん?」
え?困惑しながらもその目付きが真剣であることを察すると頷き、
「その......チャキーンと済ませてほしいけど、無理はしないようにね!?」
去る彼女に手を振り返すと緩く笑う。
.....ま、無理するような相手じゃねえからよ。
「なんーやここ!?」
広がるのはシックな紫色の絨毯に、燭台を模したような電灯、長々と続く廊下とまぁ、さながら洋館のようだ。
「なんやろ、地下に肝試しでもあるんかな。スーパーの一部とは思えへん。」
そう思いながら領也と合流すべく出口を探しているとふと気付く。
「これがホントの『画廊』ってヤツか?でもなんで.....絵がないんやろ.....」
両壁には狭しと額縁が並んでいるのだが、不思議なことに、付いているのは額縁のみで肝心の絵画は無い。
それにしても胸がざわめく。
ーープラネタリウムの次は画廊とは、かえすがえすも訳がわからんなぁ.....
ん......?
...もっと見るそういやGWマンや去年のアノ野郎にしてもそうやけど、超越不審者は何かしらに固執したようなヤツばっかりやなぁ。
さっきの宇宙男も宇宙に行きたいとかヌかしよってて宇宙飛行士の真似事やらプラネタリウム.....
しまった!ハッと思考を切り替え、違和感と仮説の正体を感じたアラタは、二枚の額縁が回転を聞かせながら交互に飛んできた様子を見るなり避けようとするもぶつかってよろめいたところで、
「ま、マズッうぉお!?」
目の前から文字通り己を呑み込まんばかりの大波が押し寄せ拐われてしまった。
「ゴホッ、水!?」
「我がアトリエへよぉ~こそォ!!」
勿体振ったように声を上げ、手を広げる者は歓迎をしているようだ。
トランクス一枚にブーツという出で立ちこそレスラーのようだが、奴はそれ以上の存在感を放っていた。
襷掛けに大きな黄金の額縁を背負い、派手に染めた肉体には『富嶽三十六景』の大波を胸元に、ポーズを付けて見せつけた背には不安を煽る表情.....所謂ムンクの『叫び』がデカデカと描かれているではないか。
「やっぱ出やがったかぁ!」
「キミはアートの入門者、かな?」
誰がや!荒く返すアラタを笑って流しながら絵画男は一人頷く。
「わかるぞぉ?なんと言っても私こそが最先端アートの頂点、今の若者のなんと芸術に関心薄きことよ!」
「イヤー、芸術やなくてお前に興味ないだけやと思うんすけど.....」
「だからこそだッ!何故芸術に関心があるなら私という芸術を見ない!?もっと近寄って眺めなさァいィ!」
「えぇ、お前ヤベェよ、頭ぶつけた?」
うるさい!苦笑するアラタに勢いよく指を突き付けると、トランクスから筆を取り出すなり男は声を張った。
「何れにせよ、私の邪魔をする貴様にはここで解って貰わなくてはなぁ、"私"その芸術をだ!」
壁際の額をひとつ取るとザカザカと手際よく筆を動かし、男は一枚の絵を走り描きしたようだ。
「ったく、芸術っつか芸人やろ.....てうお!?」
ボヤくアラタの横を、一筋の矢が飛び抜けた。
奴の描いた絵、それはギリシャの馬脚人ケイローン。
そのつがえた弓が絶え間無い矢を放っているではないか。
遅い!矢に狼狽しながらもかわす最中、二枚の額縁をブーメランの要領で投げつけられ、回避の間もなく直撃してしまった。
「こ、コノヤロッ!」
「このアトリエにおいて私は無敵だぁ。」
そう余裕ぶる隙を突いて一思いに跳んで拳を叩き込むが予め描いたのか、盾の絵を翳すとむなしく防がれる。
「もっとだ、見せてやろう。私のアートに、センスについてこられるか!?」
迂闊に近づけねぇ、首を捻るアラタは不意に奴が放つオーラに異変を感じ、禍々しく歪む床を見ると一瞬たじろいだ。
「ウワワ!?お前なんでもありかよぉ!」
通路のそこかしこに深い丸穴が発生し、どうにも動きづらそうな空間をキョロキョロと見回しながらアラタは汗を拭う。
「どーうだ?芸術的なセンスさえあれば、私のチカラは無限大に広がる。発想と芸術への理解の差で手足も出ない感想はどうだね?」
「テメェ好き勝手やりやがって~ボクかてこんくらいちぃっと頭使いや.......!」
まっ、良いよ。気さくに手を振って絵画男は後ろに距離を取る。
「もう邪魔しないなら、全部水に流すよ?そう、全部、ね!」
胸元に襷掛けの額縁を当てると大波が揺らぎ、大量の水が溢れ出てきた。
「な!?冗談じゃねぇ!」
穴を必死に飛び越えながら怒濤から必死に逃走を図るアラタ。
しかし逃げ続けても切りがない。
......?ふと脇に目を向けると左に開けた通路を見つけ、
「これや!!」
勢いよくそちらの方向に転換するとほぼ同時に大波が天井まで届くほどの水位そのままに流れて行った.....
痛ってぇー、顔を歪め額をさすりながら、びしょ濡れのアラタは通路の広がる空間に手を"添えた"。
「ちくしょ、トリックアートかよ.....トリックアート......?」
コンコンと廊下の『描かれた』壁を叩き、辺りの落とし穴を見据え、先程の矢と怒濤を思い返す。
そして軽く目を向けたのは壁にかかる一枚の額縁.....
「すぅばらしい!このまま私のドリームミュージアムを拡大していけば!私という芸術は永劫に安泰!!さぁ、このことをYAKATAに知らせなくぬぉあ!?」
高らかに語って上機嫌な矢先、勢い良く数発の銃撃を背に受け、慌てて振り返る絵画男の視線の先.....
少年が威勢良く声をあげながら右手に持つ拙いデザインの拳銃を連射させながら左手の木刀を振りかざして壁という壁の額縁を叩き割り、廊下中の穴をモノともせず踏みわたるようにまっすぐ駆け抜けてくるではないか。
「やめろ!その額をなんだと思っている!?いや、その下手糞なピストル。まさか貴様.....!?」
その通り!ニッカリと笑いながらアラタはポケットからひとつ爆弾らしき物体を取り出すと男目掛けて投げ付ける。
「まずボクは横に曲がる通路で回避しようとして間抜けにも頭をぶつけてしもうた!そしてこんだけ穴だらけなのに全く水が分散されへん!!そして気付いたんよ。」
な、小癪なぁ!?たじろぐ絵画男に飛んできた爆弾が次々と爆風を上げ、視界が妨げられていくなかでもどうにか、もう一度怒濤を起こそうとする奴をよそに、彼は言葉を続けた。
「オマエ、この額縁なきゃ絵に効力出せへんのやろ?基本的に額の効果の先入観とプラシーヴォ便りのトリックアートでも、一発見破られちゃ敵わへんのや。」
急ブレーキをかけてから反動で山積みになった爆弾の絵画を投げ付けると激しく爆発を起こし、
「ノォアアア!!やめてくれぇ!!私のアートを!私という芸術をォオ!?」
衝撃に耐えきれず額縁が砕けた様を確認するなり木刀を胸元に叩き付け、後方に転がって踞る姿を皮切りに背を向けて
「......」
一息つき、こうしてはいられないと歩を進め、
「ッッガァッ!?」
ようとした矢先、いきなり後頭部を殴られよろめいたところを背から蹴り飛ばされた。
な!?慌てて体勢を直すも、佇む影はゆらりと掴みかかり、二度三度と腹に拳を打ち付けられる。
「う、うっそやろ?な、なんの.....」
その言葉を、おかしがるように笑いながら、ソイツはアラタが着いた手を踏み躙る。
「なんっの、つもりやァ、りょーやさん!?」
「フフッ、ハッハッハハ!!情けないなぁ和泉クン!キミほどに都合の良い子供、大好きさ!」
今度は掴み起こしてから後ろに倒すと、人物ーーマスタージーニアスは胸に足を添えてグリグリと嫌味たらしく捻らせる。
赤く光るスコープはどこか嘲笑うようだ。
「クルァりょーやさん、どーいうこっちゃ!?」
「どうも何も、より強大なるチカラを得るにはYAKATAカンパニーとのコネクトが必要さぁ。そのためには条件としてキミを叩きのめす。それだけのことなのだよォ!」
来たまえ、手首を引っ張り上げてぞんざいに立たせると、抵抗する彼をこともなく延々とどこかへ連れて行った.....
「りょーやさんっ!りょーや、サンッ!!」
モールとしてのカモフラージュはもはや無意味と自覚しているのか、どの階へ上がっても明るく賑やかな雰囲気は無く、どこをとっても紫を基調とした薄暗い怪しげな雰囲気ばかりが広がっていくなかで、呼び掛けても無視され失意のまま連行されるアラタは違和感を感じていた。
ひとつのドアを開け、彼を放るように突き放すと
言葉を続けた。
「YAKATA執行部の皆さんは強く有能な者が好きでね、君みたいな砕くべき邪魔者さえもヘッドハンティングしたがる質なんだ。」
どういうこっちゃ!?声を一層荒らげるアラタにふぅと一息つくと少しいつもの穏和な雰囲気を滲ませて返す。
「ま、お偉いさんに頭でも下げたまえ。そうすればキミはいつも通り聖櫻で生きられるし、ワタシ個人の感情としてもこれ以上キミを痛めたくない.....」
そう背を向け、ジーニアスは立ち去る。
「馬鹿野郎.....」
つもりだったが、後ろで荒々しく足を踏み鳴らして奮起する音に振り返ると、
「領也サァァアン!!」
悲哀の眼差しで殴りかかるアラタを極めて冷静ーー否、もはや冷徹な手捌きで喉を押さえ、心臓目掛けて手刀を尖らせる.....
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「しろかちゃん、イライラしてる?」
「!?.....べっつにー?」
聖櫻学園保健室、鞠香から不意に問われたしろかは表情を強張らせながらも、どうにかといった様子で返事をする。
「だってなんか落ち着きが無いっていうか、キーボード打つのもちょっとうるさいし.....」
「なーいなーいなーい!わ、私はいつもどーりだー!?」
怪しい.....悪戯っぽく横目で見てくる姿に観念したのか、しろかはため息をつきながら首を振る。
「ま、まぁーね。今、私の製薬力とプライドが試されているような時だからねっ」
「なにそれ、実験?」
ま、まぁそんなとこー、そうパソコンに向き直り、カルテを打ち込みながらも、ふとその視線を手元の携帯電話に滑らせながら、
「(ホント頼むよ......?)」
そう脳内で彼女は呟いた.....
EP21ーー E N D ーー
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「...!?......っ!! 」
一瞬、ジーニアスの挙動が固まり、手刀を緩めてから握った拳をその鳩尾に抉り込ませた勢いで少年を投げ棄てた。
「......サンは.....いらない。」
冷酷に言い放ちながら部屋を後にする領也を見届けるアラタ。
乱心する彼には、ジーニアスのスコープに灯る眼光の赤さが和らいだことなど知る由もなかった.....
朝、起きたら顔をあらい、うがいをする。
健康的な生活はここから始まる。
良い天気ね.....目を細める夫人は自宅側の美容室裏口にある郵便受けを開くと、滑り落ちた一枚のチラシに目を向ける.....
--YTK(ユタカ)マート、本日ニューオープン!!ーー
EP21「悪男の舘」
「.........マジか.........マジで......!?」
冷蔵庫の中の虚空を意味もなくまさぐってからアラタは頭を抱えて膝を床に打ち付ける。
...もっと見る「マジだッショーウタイム!!!」
しばらくぼーっとしていたがしかし、現実から目を背けるようにチラチラと冷蔵庫を開け閉めしてはため息をつく.....
「気が付いたら買い置きが無くなってた.....まだまだ大丈夫だと思っていたのに.....何故だ?坊やだからさ。」
遠い目を見据えるアラタは独りでブツブツとこぼしながら着替えるとスーパーのチラシを適当に漁って赤丸を書き込んでいく。
「うーん、まずお茶やな、自販機サイズの箱買い。後は.....」
「和泉クン、買い物かい?」
おっと...!後ろから聞こえた声に少し驚きながら後ろに立つ人物に軽く首を振って彼は応えた。
「ああ、ちょいと食料が無くなってもうてなぁ。」
「なら、ここはどうだね?オープンセール中だよ。」
領也が懐から出したビラに目を通すと、アラタはなんだこりゃと不思議そうに眺める。
「ゆたかまーと?そんなん出来たんか.....」
「ああ、ワタシも偶然、ヒトコトで知ったよ。どうだい?」
「んんん、でも新開店なら混みそうやし.....まぁ見るだけでもええかもなぁ.....ところでさ.....」
ぼそぼそと考え事をしたアラタが不意に声をかけた領也は振り返る?
「なんだね?」
「りょーやさんなんで既に『ジーニアス』なん?」
「.....ああ、油断してたときに生身のとこをやられてね、暫く警戒中なのさ。」
「そういうの早よ言ってくれや。神崎センセ辺りに言えばケガはなんとかなるやろ。」
「ハハハ、そんなに大した傷も無いさ、ホラ早く行くぞー。腹が減ってはなんとやら、キミが勝つにも食事は不可欠なんだ。」
なんーか変やなぁ......一人首を捻りながらアラタは領也に押されるまま歩き出した.....
ーーーーーーーーーーーーーーー
YTKマート、名前を聴いたときは訝しんだモノだが、実際に入ってみるとまぁ綺麗な内装で品揃えも良いじゃないか......
「てーか最早モールやなぁ~」
緩く笑いながらアラタは適当に必要なものを籠に放り込んで行くと、ふと自分のモールと言う言葉に反応し、領也に向き直る。
「せや、りょーやさん、薬局行くで?一先ずの絆創膏とか包帯とかは買った方がええねん。」
「良いんだよ、そんなことは気にしなくて。ワタシがこう見えて丈夫なのはキミも知っているだろ?」
「ジーニアス着てからならまだしも、その前に襲われた言うから心配なんやろ。そのままでも目立つしそれにさぁ.....」
なにそれ?ジーニアスのマスクを指すと、アラタはひとつの違和感の正体を小突く。
マスタージーニアスのモノアイ表示の目元には、スコープを思わせるゴーグルのような機具が取り付けられているではないか。
コンコンとマスクの米噛を軽く指で弾いてから領也が口を開く。
「これはだね、センサーさ。超越不審者の放つ気配をより的確に感じ取り、確実に対処するための、ね。敢えて言わなかったが、実を言えばそのテストも兼ねていたのさ....って!和泉クン、後ろだ!!」
な!?不意に声を荒らげる領也にたじろぐアラタはすぐに後ろで聞こえる叫びや奇声を感じ取ると、勢いよく飛び込んで来た何かを一跳びに避けた。
「ウォアアアア!!!!フゥッフーッッ!!!」
間一髪、胸を撫で下ろすアラタに反して影はUターンを掛け、再びブースターを勢いよく噴射させる。
「お前かぁ、お前がアイツラの言ってたジャマモノってぇヤツかァ......」
......リーゼントヘアが突き抜けた、小型のロケットとも宇宙船ともつかない外観から宇宙服の手足が飛び出たような男が、銀河無敵と書かれた旗を構えながら仁王立していたが、すぐに目を張り叫び出す。
「ジャマさせねぇぞぉぉ!!可愛いコと宇宙に行くのは俺だぁあ!!!姉ちゃん月行こうぜぇええ!!」
「なっ!?こんなとこで暴れたらアカン.......よし......!!」
「ガッ!?テメェ邪魔すんなァ!!」
りょーやさん!!!客側に突っ込む宇宙男を後ろから木刀で斬りつけ、睨まれたところでアラタが声を張り、駆け出した。
「ボクがコイツはどうにかすっから、りょーやさんは避難誘導お願い!!」
任せたまえ!その声を聞いたアラタがいよいよ走る速度を上げた時、いきなり足場が崩れ出した。
「な、ちょっ!うわぁあ!?」
「オラよっ!」
「和泉クン!!」
戸惑う隙を逃さなかった宇宙男が推進力に任せたタックルをかけ、穴へと落下する様を見届け呆然とする領也の後ろで、避難していた利用客達は一様に笑い、ヤカタトルーパーへとその姿を変じさせていった......
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
......暗い。
驚くほど真暗な部屋の中でアラタは尻をさすって立ち上がる。
幸い、落ちる拍子に目を閉じたお陰か多少視界は良い方だが...と考えていると、不意に眩しい光が灯り、見回すと満点の方のようにチラチラとした光が散りばめられた空間......否、奥に映された光景ーー太陽系の姿を見ると紛れもなく宇宙なのだろう。
「プラネタリウム......?しまった.....!」
先の状況を思い直し我に帰るより早く、激しい風圧が彼の身体を掠めた。
「野郎、まぁだいやがったかぁ......!」
「こっちのセリフだ!俺はさっさとお前をブッ倒して宇宙へゴイッショしてくれる可愛いコを探すぜぇ。」
言うが早いか、ヤツは再び勢いよく突進をかけるなり、避けるアラタに小回りを効かせながら何度も直進してくるではないか。
「ヘッヘヘ、すばしっこいヤロウだなぁ。けどよ、これだけじゃないんだぜぇ?」
!?懐から、先端がパラボラアンテナ風な構造になった、SFでもよく見かけるタイプの光線銃を取り出すなり、一筋の閃光がアラタ目掛けて走る。
ぎゃぁ、思わず叫ぶアラタが怯む隙をついて頭から突っ込む相手をなんとか押さえ込みながらも、思わず後退りを強いられていく。
「コイツ、大人しくしやがれ!」
「へっ、負けてんのはお前だ、さっさと降参しな!!」
「うるせぇ誰が敗けた!」
いよいよ痺れを切らしたアラタに腹を蹴り上げられ、宇宙男が思わず立ち止まって一思いに距離を取ると体に付いたランプの点滅と共にサイレンが響いた。
なんだ!?突然の雑音に思わず辺りを見回すと、耳障りな高い音を伴いながらなにかが飛来して来るではないか。
ふわふわと近づいてきたソレらはアラタ目掛けて派手な色合いの閃光を2,3度打ち出す。
よく見てみればリーゼント頭で目付きの悪いクラゲのような生物(?)が円盤を乗り回して追撃してくるではないか。
「なんーやコノ古くさい宇宙人は!来るなぁ~!」
「ハァッ、ぶっ飛べェ!!」
円盤に翻弄される最中に宇宙男がブースターを吹かせながら回転を付けて飛び込む様を見るなり、アラタはその目の前に円盤を木刀で逸らして衝突させ、
「うお!?ッブネ!」
そのまま速度が落ちたタイミングでブースターを叩き潰すと失速して躓いた奴を一思いに蹴り飛ばした。
「そらよっ!」
「ガァア!!」
ヒクヒクと踞る宇宙男をよそにプラネタリウムが消えた殺風景な部屋呆れたように見回し、そこを出たアラタは驚きの顔を浮かべる。
※ ※ ※
「ま、前田、岩本!?」
颯爽と二人に肩を貸した彩賀と樹にアラタが声を上げる。
「まったく、那須野のGPSがなければ完全に詰んでいたぞ!」
ありがとう、ぼろぼろなまま領也は二人に歩幅を合わせ、途切れ途切れに言う。
「このまま、地下を、目指してくれ!そこに、行けば......!」
「馬鹿を言うな貴様!」
「そうであるぞ、目先に囚われる暇はない!」
「目先も何も!!それさえ成し遂げれば状況は好転するんだぞ!」
...もっと見るりょーやさん!声を荒らげ、アラタは笑う。
「ボクもりょーやさんもこんな身体な上に今ごろはウォリヤのヤツがあの辺は守ってやがるやろよ。なら、また次が来るまで地道にPAブッ倒して待てばエエ。それに.....」
先程受け取った小箱を見せ、彼は続けた。
「これが『チカラ』なんやろ?やったら間違いなく好転はしたやんけ、な!」
和泉クン......彼の笑顔に微笑み、困ったように首を振ると、
「サンはいらないよ。」
社屋から飛び出し、しろかが待つ三輪に一同が飛び乗る。
「おっせーなぁ。振り落とされるなよー?」
「クッソ!」「この!」
が、発進する彼らを逃すまいとロウダーとアタッカがトルーパーと共に追うが、
「自分に任せろ!」
樹が飛び降りホイッスルを鳴らすと、ミリタリー系の歴史研究会員が銃を構え、隊列を組んで対峙する......
「ハンッ所詮一般人、臆するなぁ!」
そう叫ぶロウダーを皮切りに一同が突進しようとする......が、
[お待ちなさい、ロウダー、アタッカ!もう良いでしょう。一旦建て直しです。]
「ワイズ!?ニッシシ、命拾いしたね?」
全員ロウダーの車輪に乗り込み、撤退する様を見届けると、樹達もその場を去った.....
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「あーもう滅茶苦茶だよぉ。」
ウンザリそうに言いながらアタッカが瓦礫を寄せ集め、
「小童、また我輩との試合に無粋な添え物を.....!!」
「オメェ遅れて来たじゃねぇか!」
憤るウォリヤにロウダーが悪態をつく。
フフフ、そんな中、不意に笑うワイズは
「さすがやってくれましたねぇ、マスタージーニアスーー志藤領也に邪魔者和泉アラタ......!ここまで嘗められようとは、良いでしょう。このままで済ませると思わないで下さいヨォ、ハ、ハ、ハ......!」
狂気を帯びた目でかすれたように笑い、夕陽を見据えるワイズにヒきながらも、アタッカがぼやく。
「つーかさー、アノ演説男はともかく、トゥナードの奴どこふらついてんのさー、全然帰ってこないじゃんかー。」
「アタッカ、あの気紛れに門限とか規則性とか求めるな。って、なんだ?」
何気無く外を見ると、黒塗りのリムジンがビルの前で停まっているではないか。
アタッカとロウダーは慌てて降りていく。
...ターバンを巻いたスーツの男が後部ドアを開き、屈みかけたところで、
「カーペットはいらん。」
その声を聞いて留まる。
そして降り立った人物は......
ターバンを巻き、カンドゥーラと呼ばれる中東の白いローブを纏った、浅黒い髭面の男。
見るからに富豪のオーラを漂わせた人物だ。
「セ、石油王ォオオオ!?」
「だ、誰だアンタ!?」
思いもよらない人物像に困惑する二人に
「誰だも何も、御社に声をかけられたショーンだ。話だけ聴きに来たぞ?」
「オーウ!お待ーチしておりマーシター、HAHA!」
あれ!?後ろから響く声に、更に二人は困惑する。
「プレジデント!?」
「いつ帰って来たのぉお!?」
突然の出来事にたじたじな二人をよそに、プレジデントはショーンと握手を交わし、社内へと戻っていった.....
ーーーーーーーーーーーーーーー
「なるほど、しろかが、ねぇ.....」
聖櫻の病院で顛末を聞き、アラタは長い息を吐き出した。
今回のような事態を想定した領也はしろかから予め作ってもらった『精神増強剤』を飲んでいたらしい。
薬が後から効いたことで洗脳が途中ーー厳密にはアラタを空部屋に放り込んだ辺りから解除されたようだ。
「ハハッ、じゃぁ今朝のときはまだ素で操られとったんやね。」
「ま、まぁ情けないがそういうところだねぇ。」
[ったく、無茶しやがって馬鹿野郎。]
ディバイス越しに政子が怒り気味にため息をつき、領也は苦笑する。
「しっかしまぁ、コイツが『チカラ』かぁ.....」
アラタは驚きながら箱を開け、中にある紅黒い"実"をまじまじと見詰めた。
「あまり見てはいけないよ、危険だからね。」
諌める領也に思わず箱にしまい直し、もうひとつの箱と並べる。
「一応しろかに箱を渡しといたけど、まさか外にも『カジツ』を隠し持っていた平社員がいたとはね......」
[けどよシドー、ソイツがホントに超越不審者の正体なのか?]
ええ、領也は頷き、一息ついてから口を開く。
ーーコイツからは確かに超越不審者の放つエネルギーと同じ気配を微弱ながら感じました。
このカジツの気配は、歪んだ欲望を持つ者の心に強く訴えかけ、求めるようになります。
そして、口にした者は身体的な潜在力を増強され、超人的なチカラを得て、欲望に対するこの上ない全能感に見舞われるようになってしまう.....
「りょーやさーん、潜在力とか全能感ってなにさ。解るように言うて~?」
「はぁ、キミに解るように言えば『なんかイケる気がする』ってヤツだ、サンはいらない。」
なるほどなぁ.....うんうんと頷くアラタは興味深げに箱に目を向ける。
[お二人とも、お見事です。ご協力頂きありがとうございました。]
[うむ、和泉君さえ傷が深いのだ、ゆっくり休んでくれたまえ。]
[和泉の諸々はアタシが手立てすっから安心しとけよ、じゃな。]
モニターに軽く手を振り、通話終了してからアラタはさてと向き直る。
言うまでもなく、二人はヒュプノスプログラムの高圧電流にやられ、しばらく入院ということになってしまった。
「で、カジツはどうするん?」
「ん?ああ、ワタシは巧いこと逆用すれば、連中ーーYAKATA執行部めに一泡吹かせられるんじゃないかと踏んでいるよ。」
「でも危険なんやろ?」
大丈夫、立ち上りぎこちなく背筋を伸ばしながら彼は言う。
「ある程度仮説も立ててみたからねぇ。あとは分析と実践さ。というわけで......」
「きゃっ!」
ナースクン!ベッドを整えていた看護士に詰め寄り、
「今の話を聞けば大方事情は解ったろう?さぁ、即刻ワタシに退院許可を!」
「だめですー!ハタヤマ様より絶対に院の判断じゃ無しに退院させるなと承っております!」
言ってる場合じゃないのだ!力説し言い合う二人を見て笑いながらアラタは立ち上がる。
「無理もないでりょーやさん。ただでさえ生身の耐性低いのに電流モロ喰らってしもうたんや。それに引き換え、ボクは鍛えとるしな、やからボクなら」
「二人ともダメです!」
何クソ見てみろとムキになるアラタはその場で包帯だらけの手足を振り回し、体術捌きを連続で披露し、やめろやめろと看護士が口を出す。
後ろで病室のドアが開いたことにも気付かずハイキックの素振を見せるアラタだが、
「どーうだ、これでも退院できないんかぁ??」
「ちょっとこらあ!」
「何してるのよ!」
「ダメ、そんな格好で!!」
「ワアア!!?」
いきなり怒鳴り付ける三つの声に慌ててベッドに潜り込み、アラタはそちらをおやと窺う。
全くもう、声の主ーー雛菜、由紀恵、鞠香を筆頭に、
「オウ、シュンと浮橋も後で来っからよ。」
夏騎に
「随分とやられたんだな、大丈夫か!?」
「うわぁ、痛そう~....」
「め、珍しいね.....」
「何があったのよ.....」
ミカドに陽歌、ハジメりさ、
「ったく、こんだけ動けりゃ心配するもんでもなかったな。」
「まぁまぁ北斗さーん。」
「そうだぞ素直になれ。」
うっせー、北斗に七星、雅一郎とぞろぞろ入ってくるではないか。
「イヤ、来すぎやろ!なんや非公式ファンクラブかぁ?サインはやってへんでぇヴッ」
「うるさい、さっさと寝ろ!」
いってぇ!由紀恵から見舞籠を顔に投げつけられ倒れるがすぐに起き上がって抗議をし、思わず皆が笑う。
その姿を見て領也は口許を緩めた。
「キミは来ないのかい?」
[あー、別にいーよー私は。シドーもさー、今回のことどー思った?]
ワタシか?笑いながら領也は答える。
「そりゃぁ、今回のワタシは許してもらおうとは思わないが、正直彼にこの一連が重荷でないかと思うことは時にはあった。が.....」
ベッドであぐらをかき、由紀恵の手厳しい苦情にハハハと頭を掻きながら皆と笑い合うアラタの姿を軽く見てから再び言葉を返した。
ーーあんな光景がみられるなら彼が超越不審者と戦ってきた意味は確かにあったじゃないか。
さて、速いところカジツに手をつけたいが、だからこそ今は直ぐにでも完治することに専念しよう。
そう考えると彼は賑やかな隣をよそに眠りについた.....
EP22ーー E N D ーー
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「どーうなったかなぁ?」
頬杖を突きながらアタッカはぼーっとテレビに見入る。
「馬鹿野郎が、ジャマモノが失せたうちに仕事しろ。」
へーいへい、渋々リストを取り出し、顧客情報を整理している傍らでワイズはモニターに映る倉庫の箱を数えていた。
「さてさて、彼らはこれからどうなりますやら。喜びの握手か、悲しみの失意か.....」
...もっと見る[警報!乱闘発生!!勃発元は空部屋XXX!周囲のトルーパー全滅!!]
「.....あらあら。結局彼は、友を倒してまで我々と対する道を取りますか.....」
バァン!サイレンも気にせず物憂げに遠い眼をするワイズのもとへ、ノックもせず駆け込んだトルーパーが必死を示すような動作で訴えかけてきたではないか。
「......!!......!」
「どうしたワイズ?」
「オレは客取りに行ってくるぞ?」
な!?驚愕するワイズに二人が問うと、彼は混乱したように頭を押さえ、眼を見開きながら返す。
「ジ、ジーニアスがッ!和泉アラタと共にトルーパーを殲滅、ヤツを連れ出し部屋を出たようです......!!」
「ハァ!?」
「な、何ィー!?」
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「すまない!それによくここまで耐えてくれた、和泉クン。ありがとうっ!」
[エアシューター]
腹にファンが開き、打ち出された旋風がトルーパーを吹き飛ばした。
「今更気にすることちゃうわ!エエってことォ。」
対するアラタも晴れやかな笑顔で木刀を振りかざし、阻む連中を壁に叩き付ける。
敵わないなぁ、小さく笑いながら領也は肩から外したメタルブレードで敵を薙ぎ払いつつ、アラタに言葉を続ける。
「和泉クン!地下に厳重セキュリティを付けた扉があった。恐らくアレが『超越不審者』の源に通じている!そこを壊すんだ!!あと、これを持ちたまえ!」
「ん、なんやこれ?まぁ今はエエか、あいよ!」
投げ渡された箱を不思議がるが、そう合点して更に駆け出そうとした矢先、
「チェエエストォオ!!」
「ッ!!」
勢いよく飛び込んだ何かによって爆風が上がり、咳き込むなかで二つの影が立ちはだかった。
「ちょっとちょっと!滅茶苦茶にして帰られちゃ困るんだけどぉ!?」
「よくも荒らしてくれたなぁ!?」
「なんやコイツら!?」
「YAKATA執行部アタッカだよ!」
「ロウダーだァ!!」
挨拶もそこそこにアタッカがアラタに距離を詰めると殴り付け、ロウダーがタイヤを纏うと体当りを仕掛けて二人に襲いかかる。
アラタやジーニアスも応戦するが、奴らの拳やスピードに拳やエネルギー弾をはじかれてしまい、思うように行かない。
「コイツら、速い!」
「フッハハァ!この間のオマエはオレ達を避けただけだったからなぁジーニアス!真っ向なら敗ける気はねぇ!」
「お前ら、この感覚.....ウォリヤと同じや!」
「ピンポン!アイツも執行部だよ!」
冗談じゃねぇ!アラタは呆れながらアタッカの拳連打に防御をとる。
「こんなの四人もいて堪るか!?」
「ハァッ!まぁだまだいるけどなぁ!!」
タイヤでスピンを効かせながら近寄ったロウダーの蹴りでよろめいたところへアタッカが勢いを強めていく。
「そらそらそらぁ!!」
「ハッハッハッ、せっかく『チカラ』を与えたのに、こんなもんですかぁ?」
ワイズ!?遅れて来た人物に一同が驚く。
「チカラ?ソイツは、コレのことかい!?」
しかし眉ひとつ動かさずにジーニアスは取り出した鉱石をワイズめがけて投げつける。
「......」
避けた先で砕けたソレを見据えながら黙り込むワイズに、ジーニアスは笑った。
「そんなの只の魔晶石に細工をしただけではないか。ワタシが意のままだから何をあげても良いと思ったのかい!?」
「くぅ、貴方に偽のチカラを授けたのは正解だったみたいですねぇ。しかしいつからプログラムが無効に......!?」
教えないねぇ、焦るワイズにエネルギーを射ち放ちながら執行部から距離を取ったジーニアスとアラタは木刀を叩き付けた衝撃波で撹乱し、目的地へと急ごうとする。
「フッ、フフフ。さすがですねぇマスタージーニアス。やはり一筋縄では行きませんか.....」
ワイズ.....見つめるアタッカとロウダーを追い立て、奴は装置を取りだし、力を込めてひとつボタンを押した.....
「グッ!?ガ、ガァアアア!!?」
「りょ、りょーやさん!?」
いきなり膝を着き、頭を抱えながら、全身に迸る電流に領也が苦しみだす。
「サンは、いらないぞ和泉クンっ!ワタシに構わず先に行け!」
「ワタシが手中に納めてもなお、報酬に偽のチカラを授けるような方をォ.....単純な構造のヒュプノスプログラムだけで手を打つと思いましたかァ!?」
狼狽えるアラタに苦しむ領也、柔らかな物腰を保ちながらも、どこか威圧的な物言いでワイズが追い付いた。
「甘いんデスヨォ!!ヒュプノスプログラムには先の先を読んで処罰の機能もあります!姑息な離反でどうにかなると思わないことですねぇ!」
狂ったように笑うワイズに苦々しく視線を向けるがしかし、こんな状態ではどうにもならない。
「りょ、りょーやさん!」
「和泉クン!速く行きたまえ!あそこさえ台無しにすれば、奴らは暫く休業せざるを得ない!」
その声を聞き、彼の切実な物言いに思わずアラタは駆け出し、先を急ごうとした.....
が、足が動かない。
当然だ。
敵の言う『チカラ』の為に今自分が切り落とそうとしているものはなんだ......?
それを思えば、考えている暇などない。
アラタは切り返し、叫び、領也に手を伸ばした。
「!?!?よせ、和泉クン!!!」
「やめねぇよ!アンタさっきいきなりボッコボコに不意討ちしたやろがい!!」
「馬鹿者、言って、る、場合、か!?」
グガアアア!!電流の迸る中、アラタは躊躇なく彼のスコープゴーグルーーヒュプノスプログラムを掴み、感電に巻き込まれた。
「ぶっちゃけアン時、グッ、ウォアア!!ムカついたからな!仕返しに今は、アッ、今はりょーやさんの言うこと聞いてやらんわ!!クォオオオオ!」
「アッハッハッ、愚かですよォ、ガッチリ設置したヒュプノスプログラムを素手でなんて、プログラムの本体を見破ったところで、なんにもなりませんよぉ?」
「う、る、せぇええ!!」
「和泉クンンンン!!」
歯を強く噛み、脚と腕に力を込めて勢いよく引き抜くと、メリメリと嫌な音を立てながらスコープが剥がれ、放り捨てたところで一思いに木刀で叩き潰す。
爆炎が上がる様子に狼狽える執行部達と息を切らせてへたり込む二人。
休む暇はないと勢いよく立ち上がり、アラタとジーニアスは少しでも地下へと近づくために足を運んだ......が、
「遅れてすまん、行かせぬわ小童ァ!!」
目の前にそそり立つ巨体、ウォリヤに歓喜する三人と対照的にいよいよ敗けのため息を吐こうとするアラタ達......
「うわっ!」「な、ナァ!?」
「なんだこりゃ!」「何!?」
と、急に煙が立ち込め、四人が突然のことに困惑するなか、煙が薄まると、アラタとジーニアスの影は消えていた.....
[ようこそ、本日はYAKATAカンパニーにお越し頂き、誠に感謝申し上げます。]
!?不意にひとつの壁に張られるスクリーンに一同が驚きながら振り返ると、ひとつの影が事務デスクのようなものに腰掛け軽く手を振っていた。
影、とは人影ではない、文字通り存在そのものが影で構成されているような.....いうなればアラタが日頃相手にしている、超越不審者の添え物の群と同じ姿ーーしかし決定的な違いが二つあった。
ひとつ、群もといヤカタトルーパーと違い、彼にはこちらから認視できる眼がある。
そのお陰で表情が豊かなようだ。
ふたつ、
[あっ、ご紹介申し遅れました。私、当『YAKATAカンパニー』執行部の『ワイズ』と申します。]
喋った。
トルーパーは言葉も発しないが、コイツはわざとらしく気取った語調を利かせてにっこりと微笑むではないか。
...もっと見る「YAKATA?執行部?どういうこっちゃ!?」
んーー、指で軽く顎を突いて何かを迷いながらワイズは返した。
[本当は言うべきじゃありませんよねぇ。ですが.....君のことはマスタージーニアスから色々とお訊きしました。]
「な、なんやて!?」
「ですから、アンフェアの解消として少しだけ、お教え差し上げましょう。聖櫻学園高等部二年生、弊社お客様を次々手に掛けている『和泉 アラタ』君?」
なっ!?身構えるアラタをいなしながら、彼は引出しから原稿を取り出した。
ーー弊社『YAKATAカンパニー』は顧客の"心"に寄り添うビジネスでございます。
お客様の抱える悩みの解消願いの成就、そのために我々『執行部』がプランを立て、社員めらには実行に当たってのサポートを担ってもらい、成功させるのです。
.....マスタージーニアスもねぇ、色々悩んでいましたが背中をお押しさせて頂きましたところ、めでたく私達と歩んでくださったのですよ。ーー
尤も.....懐から出したチップに顔をしかめるアラタを気にせず奴は続けた。
[私は自分で言うのも難ですが執行部ではブレインで通ってましてね、的確に動いて頂くためにこちらの『ヒュプノスプログラム』は組み込ませて頂きました。]
「テメェ......!」
[あっ!!今少し期待する顔してましたね!?]
はぁ!?たじろぐアラタを楽しそうに指さしながらワイズは笑って言葉を続けた。
[ざぁんねんっ。私めらにジーニアスが就いたこと自体は間違いなく彼自身の意志、志願です。そのうえで心変りとかされては厄介なので念押しに埋め込んだんですよぉ!ですから、単純に勝つとか倒すって問題ではございませんよねぇ?]
歪な本性を顕すように眼を見開き、
「そんな、ヒドイ...!」
「この野郎.....」
[愉しいものですよ、期待した人間を突き倒すのは。私からの等価交換は以上です。迎えが来るまでお待ちください、では.....]
抗議する雛菜とアラタを嘲るなりプツリとモニターを落とす様を見届けると、雛菜たちは心配そうに少年を覗き込む。
「あら、たん.....?」
「・・・」
「アラタちゃん....」
きっと大丈夫、そう諭す婦人になお、無言で俯いたままのアラタはふと立ち上り、一言放つなり、
「雛菜ちゃん、もう帰った方がええ。奥さんも、御主人も......」
「え、帰るって、どうやって...?」
その言葉を待つ前にドアの反対側ーー恐らく外壁であろう方向へ進み、すらりと木刀を構えた.....
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「あー面白かった。」
「........」
ブリーフィングルームで眼を細めながら席を立つワイズはいやはやと手を叩きながら口を開く。
「実に素晴らしい。チカラを引き出したオキャクサマを2名、けしかけておけば疲弊くらいするだろうとは思っておりましたが.....まさかここまですんなりと進むとは......」
流石ですね、無言で佇むジーニアスに微笑みかけるもしかし、彼は興味無さそうに目すら向けてこないようだ。
「.....ヒいたな。まさかあそこまでやるとは。」
「うん、ヒいた。でもマッ、これくらいやってくれるのは嬉しいかなぁ。」
ヘルメットの上からもその苦々しげな表情が伝わりそうな語調のロウダーに対し、苦笑しながらアタッカが頷く。
「.....で、これからどうするんだい?」
ん?軽く笑いながらワイズは応じた。
「ああ、彼の審判を貴方に任せます。『Yes』ならめでたく和解を、『No』なら最期の絶望を......ね?」
そうか......窓の外、トルーパーのトラックが入っていく様を眺めながらジーニアスは思い出したように向き直った。
「それはそうと。わかっているね......?」
あっ.....どこか気まずそうに横目を向け合うロウダーとアタッカをよそに、
「...まー、ヤクソクですからねぇ。勿論ですよ。」
どうぞ、懐から鉱石の塊のような物を取り出すと、それをジーニアスに手渡す。
「一先ず、ジャマモノを叩き伏せたので報酬でございます。」
「・・・ありがとう。」
「ニッシシ、意外と思いきり良いんだねぇ。もうちょい渋るかと思ったよ。」
「約束なんですから、当たり前でしょう。では、引き続きお願い致しますね。」
悪戯っぽく笑うアタッカをいさめ、手を振るワイズに同じく振り返し、ジーニアスは部屋を出た.....
「・・・・・」
ーーーーーーーーーーーーーーー
「......っおお!!」
「うわびっくりしたぁ!」
携帯で起動していた何らかのアプリで赤いランプが点ると、しろかが勢いよく飛び上がる。
ホントにどうしたの??もはや心配そうに訊ねる鞠香に彼女は先程までと変わって上機嫌になにやら支度を始めた。
「なーに、ちょっと出掛けてくるよー。」
ど、どこに?その言葉に何故か黒いハットとスーツ、サングラスをかけ拳銃を構えるとしろかは不敵に口角を曲げた。
「私はこれからね、シマをひとつ潰す悪党になる......」
ーーーーーーーーーーーーーーー
トラックの止まった裏口から、中で箱を積み終わったトルーパー達が出ていくと、最後に出た者はどこかそわそわとしながら施錠をし、社内に戻る。
なにか怯えるように周りを窺うトルーパーは、数階散策し、適当な手洗い場を見つけると、本来自分には無縁な空間へと入っていく.....
「......!!!」
緊張しながらトルーパーは懐から何かを出した。
紅黒く艶気がある物体は、歪ながら丸みのある、まるで果物のようだ。
緊張を通り越し、興奮の域に入りながらそれをしげしげといじっていたトルーパーはやがて、意を決したように口を開け、まさに齧り付こうと手を運んだ.....
「おっと、何やっているんだい?」
「!!?」
急に腕を掴まれ、奴は狼狽え、そして自分をぼんやりと見下ろす赤い光に振り返った。
「勝手なことは、赦されないんじゃなかったかい?」
......ワタワタと焦るトルーパーがどうにか打開を考えていると、突如けたたましいブザーが響いた。
[警報!空部屋No.XXXで破壊活動アリ!!]
その声に驚く赤い光は一瞬手を緩める、トルーパーもそろりと腕を外そうとするが、すぐに先より強い力で掴み直され、こちらを見据えてきた。
「....!!......!!!」
焦燥、恐怖、汗、あらゆる感情がぬるりと全身にまとわりつき、トルーパーは思考もままならず小刻みに震えだす.....
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
何度も何度も木刀で壁を打ち、最後に勢いよく一刃を繰り出すと壁が崩れ、その間に呼び寄せたジェットボードに雛菜達を乗せたアラタは言う。
「オートムーヴや、安全なとこで下ろしてくれるから安心しぃ。」
「えっ、あらたんも行かないの?」
ああ、心配そうに見つめる雛菜に彼は笑う。
「ボクにはやらないかんことばっかやしな。安心せぇ、りょーやさんも、この状況も、なんとかしたら帰るわ。」
「雛菜ちゃん?」
「う、うん.....気を付けてねっ!」
耳障りなサイレンの中、遠ざかるボードに軽く手を振ると一息吐き、近付いてくる足音に眼を閉じ、軽く首を振ってから覚悟を固めた.....
「やぁ、和泉クン。随分と暴れまわってくれたねぇ?」
気さくに手を振るジーニアスの背には、ヤカタトルーパー達がゲバルトのような出で立ちで威圧をかけているようだった。
「ッたりめーよ。これから始まること考えりゃ、大切な人らにはもう帰ってもらわんといかんしなぁ、りょーやさん?」
「ほほぅ、逃げないんだねぇ。決心はついたのかい和泉クン。サンはいらない.....」
「あんたはチカラ欲しさにYAKATAに飛び込みよった。ならもうボクの選択はただひとつ。」
つかつかと歩み寄り、ジーニアスの前に立つと深呼吸をひとつ、アラタは振り絞った右拳を一気に彼の頬に飛び込ませた。
「ッーーー!」
拳圧のままに倒れ込み、頭から叩き付けられたジーニアスは頬をさすりながら、マスクの裏で笑い、起き上がる。
対するアラタも迷いなく、ニッカリと笑っていた。
「フフッ、それで良い.....流石だねぇ和泉クン。良い答だ。さて、と.....」
始めようか。開いた右掌の孔にエネルギーを集束しながら軽く首を回すと、ジーニアスは横目に見ていた後ろのトルーパーに呼び掛けた.....
いってきまーす.....一人の少年が昇星高校の寮を出た.....と、
「あ、瞬ちゃん!お出掛けですか?」
「あ、おぅ明日香。ちょいと聖櫻の病院にな。」
明日香に声をかけられた少年ーーハンター学科で特晶班の霧島瞬介は軽く手を上げて応じる。
「病院?どうしたの?」
「ああ、ちょっと.....うわっ!?」
「きゃあ!」
瞬間、二人の間を突然の突風が吹き抜け、明日香は慌てて服をおさえながら狼狽える。
「な、なに今の風!?」
「な、なんだぁ.....?まいっか。そうそう。さっきナツから連絡あって、なんでもアラタのヤツがな.....」
...もっと見る話を聞くなり瞬介と同行する明日香、
「......ひゅるるー.....」
そんな二人をぼーっと見つめる影、晴天に何故かレインコートを羽織る少年は一息つくと棒飴を一舐めしてから反対へと歩を進めた.....
EP22「MASTER GENIUS」
「......んっ!あらたんっ!」
...?この声......ふとアラタは状況を思い出す。
スーパーに出掛け、二人の超越不審者を撃退した矢先、猛攻に叩きのめされたことを。
そしてその犯人が他ならぬ悪友のような男、領也だったことを。
彼に頭を冷せと、独房なのかも判らない部屋に投げ込まれ、失意の果てに失神していたようだ。
そして今目が覚めると聴き馴染みのある声の呼び掛け.....
「雛菜ちゃん....!?」
「あ、良かった起きた。」
「アラタちゃん!」
「どうした、怪我だらけじゃないか!」
「御主人、奥さん!皆なんでこんなところに?」
思わぬ場所での一家との遭遇に驚くアラタが問うと、どうやら新開店だったこの(元)モールに来ており、この休憩スペースに来ていたようだ。
そっか、まだ騒ぎとかは知らんのか.....
首を振りながらアラタは言う。
「ここは.....超越不審者の巣や。」
え!?驚く三人にアラタは言葉を続ける。
「恐らく店のフリしてボクを呼び込むのが目的だったんやろな。」
「じゃぁ、あらたんはPAにやられて......?」
「不審者、あんなんじゃねぇさ.....りょーやさんだよ。」
え!?驚きを隠せない雛菜に、領也が力に溺れ凶行に走ったらしきことを話した。
「そんな、なんで志藤さんが....?」
解んねぇよ、頭を擦りながらアラタは立ち上り軽く肩を伸ばす。
「ボクにはなーんも解らんわ。前っからそういうヒトやしなぁ~。」
そういえば、違和感がもやもやと渦巻きながらもひとつ思い出し、彼は言う。
「ひとつ確かなのはあのヒト、『ヤカタカンパニー』とか言うとったわ。」
「ヤカタ......」「カンパニー?」
「ええ、立て続けに襲ってきた超越不審者供に『ユタカ』という店名もアナグラム的につけたんでしょうね。恐らく、ここかと.....」
困ったなぁ...一向に止まない大雨、屋根の下に居ても跳ねる水にシャツの貼り付く不快感....
帰り道の途中で予報もなかった大雨に遭い、当然傘も無く、避難場所すら見当たらない地点での災難に、どうにか見つけた四阿で待つも、雨は嵐へと変わるばかりだ。
「はぁ、どうしよう...髪にも悪いし。」
「雛菜ちゃん!?」
!!聞き慣れた声に目を向ける....
「あらたん!」
何してんねん、そういう彼の姿もずぶ濡れな上に、所々掠り傷のような痕がある。
大方いつものコトだろうか。
「いやぁちょっと...傘も建物もないところで急に降られちゃってね、えへへ....」
...もっと見る雛菜は舌を出し、苦笑しながらやれやれと手を広げる。
「兎に角、こんなとこおったら風邪引く...ッ!!す、すまん....!」
肩に手を添えるアラタだがしかし、すぐに勢いよく顔を反らし、決まり悪そうに呟く。
?何かあったろうか自分の身辺を見回し、
やがて視線を真下におろす....
濡れそぼって透けたシャツに滲む肌と、淡く色鮮やかな....
「...!!!あ、え、ううん!気に、しないで....!?」
理解するなり顔が紅潮し、慌てて腕で覆うように身体をおさえると、雛菜もぎこちなく返す。
「ああ、おう。なんにせよここならボクの巣の方が近い!ちょいと濡れるけど許してな。」
「え、あらたんの、お家?」
いやイエじゃねぇ、笑いながらも雛菜を横抱きにかかえるとジェットボードに飛び乗って学校へと向かっていった.....
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なに、これ?
『そこ』に着いた雛菜は開口一番がこうだった。
尤も、自分の学校の、広いが人の滅多に来ないスペースに散乱する生活感をーー敷かれ放しの布団に乱雑する本や食器類、なんだったらゲーム機まで備わったテレビまである状況を見れば妥当であろう。
ようこそ、やな。アラタが悪戯っぽく笑う。
が、今はそれどころじゃない。
適当にタオルを数本取り出し雛菜に渡すとアラタは階段を下りる。
「んじゃ、拭いときーよ。服は仕方ねぇ。ボクのでこらえてな。」
「えっ、どこに?」
「体育館、シャワールームのドライヤー借りてくっからよ。」
それだけ答えて駆け降りる彼を見送る雛菜は呆然と部屋を見回すがすぐに冷えを感じて身体を拭き始める。
ひたすら水滴を拭い去りながらしかし、やがて胸元に目を向けたとき、再び頬に熱を帯びながらタオルに顔を埋める。
「うぅ......言ってる場合じゃないけど、見られちゃったかなぁ。」
落ち着かない気持ちで思わず座り込むと不意に携帯が鳴り響く。
[雛菜チャーン終わったー?]
「何が?」
[着替え]
「ちょちょっと待ってー!?」
そうだ、ハッと我に帰ると慌ててシャツとスカートを脱ぐがしかし、思わず手が止まる。
あらたんの、シャツを、着る...?
いや、勿論言っている場合ではない。
アラタとはいえ在られも無い格好を晒すわけにはいくまい。
かといって渋っていたら住人のアラタが戻ってこられない......もう!
意を決してアラタのシャツを取ると恐る恐る身体を通し、余る袖から手を出して立ち上がる。
次は...と思うがこちらは難しい。
こうなったら......一計を案じた雛菜が促すと着替えを済ませたアラタはその格好にたじろぐ。
「ちょ、雛菜ちゃんなんやねんそれ!」
ごめんごめん、場都悪く返す雛菜はシャツこそ着ているが下はパレオのようにタオルを巻いただけだ。
「いやぁ、だって......座ったらズボン濡れちゃうし、流石に干しとくわけにも行かないしねぇ......」
「いや、ズボンくらい気にせんから安心せえ。」
「あらたんが良くても、ズボンが湿っちゃったら、ホラ.....」
?いまいち要領を得ないアラタだが、彼女の言いにくそうな様にああと手を叩く。
「パッと見もら「セリャァ!!!」
迅速に雛菜から額に鋏を打ち込まれて倒れた.....
・・・
「実はここに転入したとき、畑山センセ達と掛け合って、非常時に駆けつけやすいちゅうことで居住区にしてもろたんよ。」
「相変わらず無茶言うねぇ~。ずっと内緒にしてたの?」
「まぁヒトに来られたらダルいしなぁ。しかも更には夏騎とかミカドとかあの辺にも言ったことないんよ。」
だからよ、飄々と語りながらアラタは続ける。
「黙認者以外でここ来たのは雛菜ちゃんが初やな、おめでとう.....」
「あっ、そうなんだ。なんか、嬉しいかな。えへへ.....」
そうおどけてながらも彼女は隣でもたれる少年に微かな哀愁を抱く。
「すぐ駆けつけられるようにって.....キミがこの学園のためにそこまで全力になれるのはなんで.....」
そう問いかけた矢先に、肩に少し重みが乗る。
ちらりと見れば彼は項垂れ、寝息をたてるではないか。
確信する、やはりここにいれば嵐が止むまで出掛ける必要ない彼が、ずぶ濡れになって私と偶然会ったのは、つまりそういうことなのだろう。
冷えるだろと体格差故に被せるように着させられたブレザーをぎゅっと寄せながら雛菜も一つ欠伸を漏らす。
土砂降りから解放された疲労感と、この部屋の暖かさからくる安心感が一気に襲ったのだろう。
アラタに頭を寄せ返すようにもたれ、やがて彼女も目を閉じた......
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「畜生、こっちもやられた!!」
「なんてこった、ふざけやがって!」
様変わりした商店街に怒声が響く。
そんな状況を影から笑う男は小さく首を振る。
「俺のシンフォニィが理解できない、哀れなお前達には...ガイアの囁きも届かない.....」
そうこぼす影ーーキャップもシャツも派手な色とりどりの粉末にまみれ、肩がけの鞄にはカラースプレーが詰まった男が踵を返して満足げに立ち去ろうとする矢先だった。
「へぇ、俺は好きだけどね。」
!?慌てて振り返ると黄色いジャージの男が飄々と笑い歩み寄って来る。
思わず鈍い汗を垂らし、反射的に適当に掴んだスプレーを突き付けた。
「通報か......?」
「まぁーさか。君の作品、気に入ったよ。その才能、俺達と組めば絶対開花する!」
何!?予想外の言葉にたじろぐ男にニタリと笑むとアタッカは更に詰め寄る。
「自分の力をもっと面白いことに使えんだよっ?」
フフッ、フ......しばらくひきつるように笑っていた男だが、やがて一息つくとスプレーを納めて自ら相手に近付く。
「ノったぜ。赤色、青色、俺色.....さてどれにするぅ?」
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
.....寝ちゃったみたい.....雛菜は目を覚ますと肩を伸ばす。
そして、何気無く窓から景色を見上げ
「晴れたァアァアァア!!!」
「うわあ!?ちょっともう! 」
突然隣で跳ね起き開口一番に叫ぶアラタに怒りを見せる。
「イッヤー長い雨もやみ、夕方近いけど気持ちの良い晴れ空になったなぁ~」
「うん、まぁそうだね。そうだ。その.....ありがとっ。」
先程出会ってここに来てから言っていなかった言葉を思い出し、微笑む雛菜にアラタも笑う。
「気にすんなって.....せや、銭湯行くか。ホラ、伊吹ちゃんの。」
え?突然の提案に首をかしげる雛菜にアラタは続ける。
「まだ拭いただけで冷えるしよ。服も粗方乾いとるからついでにランドリーでとどめ刺そうぜ。」
ほらよ、投げ渡されるズボンをしかし、首を振って返すと干したスカートを手に取る。
「いいよ。それくらいの距離ならこれで大丈夫。だからほら、先に行った行った。穿き換えるんだよ?」
そうかよ、待つこと程なくして来た雛菜と校門を潜り二人は商店街へと向かっていった.....
EP23ーー E N D ーー
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
大風吹き荒ぶ街中、水溜まりを踏み散らしながら少年は駆ける。
「ったく。なぁんやコレ。裏がありそう言われて色々探してみたけど見えてこんな......!!」
聖櫻だけに余りにも不自然な局所的嵐、恐らく超越不審者の筋だろうか。
しかし雨男や雷男は既に鎮圧しており、そもそも今降り頻る悪天は連中の比ではない勢いだ。
と、なれば.....考えながら走るなか、進むごとに雨の勢いが増していることに気付く。
大本は近いか!?
呼び出したジェットボードに飛び乗り、風に逆らいながら一体を見回すと、やがて、一つの竜巻が柱状に立ち上っている場所を見付ける。
「あれは......!っと、だんだん雷まできよったか!」
...もっと見る竜巻に向かいながら、次々と降り注ぐ落雷をかわすと公園に近づくが、不意に一筋の閃光が機体を掠めてバランスを崩した。
「うわっ!?ヤッッベ!!」
投げ出されながらもなんとか着地し、公園に入ると確かに中心部のようだ他より風も雨も強く、見通しが悪い。
「やれやれ。何がどうなっとるんや......て!」
あれは.....!?やがて見据えた先、小柄な影が遊具の上に腰掛け、足を軽く振りながら空を見上げているではないか。
「な、なんやお前!!」
思わず駆け寄るとそいつは不思議そうにこちらへ顔を向けてきた。
「......?あんた だれ?」
レインコートを羽織った小柄な少年が棒飴を咥え、虚ろな眼でアラタを見つめるなり降り立つ。
「お前こそなんや?もしかしなくてもこの嵐雨、お前がァアア!?」
ひゅるるー、ヤツが一息吹くとアラタの身体が一気に後退させられた。
「ヤバイ、こいつマジだわ....じゃなくて、なんでこんなことしとんねん!?」
雨の中、問われた少年は首をかしげ、淡々と言葉を語りだす。
「こんな こと?おれ は あのお方 と みんな の ため に がんばってる だけ だよ。」
「みんな、YAKATAカンパニーか!?」
「うん。それ と お客様」
「なんでや、こんな何もでけんくらいの雨を望むヤツがおるか!!」
詰め寄る彼になお、キョトンとした風で話を続けた。
「こえ が きこえた。」
聞いたところによれば、気紛れなヤツはいつも通り何気無くこの近辺を歩いていた際に通りがかりの中高生の会話が耳に入ったらしい。
『アーアチィ...ダルくてやってらんねぇ。』
『梅雨なんだからいっそのこと嵐来て休みになったりすりゃ良いのになぁ。』
『ついでに風強くなってパンツ見えねぇかな。』
「・・・これ を すれば、よろこぶ ひと が いる?」
はーいストップ、少年を遮るようにアラタが叫ぶ。
見るからにその表情は呆れが顕れていた。
「まてまてまておかしーなー?既に意味わからんなコレ。そんなんでよろこぶヤツの方が少ないんやぞ。」
「でも、よろこぶ ひと も いる。」
「嫌がるヤツの方が多いんだよっ。」
良いからさっさとやめろ、不思議そうな少年に言うとしかし、顔をあげ、
「やめる?やめなかったら?」
「わりいが物理で説得さしてもらうわ。」
「おれ は トゥナード。あんた おれ の じゃま するの?」
「ああ、この嵐止めないんやったらな。」
じゃぁ、さぁ .....
ふわりと跳ぶと勢いよくアラタ目掛けて指をはじくと閃光が走り、とっさに横に転がった。
「っぶねぇなお前!?」
「たいくつ してた。おれ と あそんで?」
立っていた場所が穿たれ、煙が昇る様を見詰めるとため息をつき、木刀を手に取る。
「やるしかねっか。」
言うより先にトゥナードは全身に風を纏わせて突進を掛けてきた。
おっと、どうにか避けるもヤツが動きを緩める気配は無く、文字通り縦横無尽に駆け巡る様に思わず面食らう。
これでは手の出しようがないではないか。
.....と、不意に止まると手を空にかざし、アラタに向けて勢いよく振り抜くと勢いを増した雨が打ち付けるように襲いかかった。
「おわっ、つめてぇなコラ!またこのパターンか!?」
「ひゅるるー」
息を吸ってから吹き出すと強風が一気に飛び出してくる。
アラタもトゥナードの攻撃をかわしながら距離を詰めていこうとするがふわふわと飛び回るヤツには一向に近付く兆しが見えない。
「Fall for you!!」
再び手を掲げ、今度は指をはじいたと思えば、次々とアラタ目掛けて雷撃が落ちていく。
跳んで避けるアラタはやがて、落雷に気を取られているトゥナードが静止していることを見抜き、一気に駆け寄る......と
「そらよ!」
「うわ!?」
その身体に木刀を打たれ、倒れこんで怯むと同時に雷がおさまった。
そこ!隙を逃さず狼狽えるトゥナードに飛び乗って押さえると不敵に笑いながら言う。
「オラッどうやコラ!さっさとこの大雨止めんとヒデェぞ?」
しかし威嚇にもなおボーッとしていたヤツはまた勢いよく息を吹く。
「うぉ、寒!!」
その異様な冷たさと強風に思わず顔をそらした隙に少年を押し退けたトゥナードは再び飛んで辺りに季節外れの白い息を吹き散らしながら回転し出す。
呆気にとられるアラタを次に襲ったモノはバラバラとつぶてのように当たる痛み.....ヒョウだ。
「うわ、いったいいてぇ、流石に悪ふざけも大概にせぇよ!?」
「あんた あそんでくれる いったじゃん」
怒号もお構い無しで息を吸い込むトゥナードの口に、今度はヒョウが取り込まれていき、軽く仰け反ってから一気に氷粒混じりの強風が放たれた。
「ギャァア!地味に痛いんよコレェ!!」
「ひゅるるー ブリザード ブレース!!」
口ではふざけたようなリアクションを取りながらも、アラタは内心、先程から防戦一方であることにおののく。
「(コイツ、あんなナリでもやっぱ執行部なんやな.....まずい、こうなりゃ多少無茶しても.....!!)」
力強く木刀を構え、意識を集中させる.....
とその矢先、だんだんと雲が一層黒く染まっていく空模様に気付いたアラタは嫌な予感に汗ばむ。
「おれ たのしく なってきたー!!」
無気力な表情から一転、目を見開いてニッカリと歯を見せながら口角をつり上げると両手を挙げ、静電気がほとばしり......
ヤベェ......!!アラタが悟るより速く、ヤツの呼び寄せた雷が雨を媒介に広がっていき力を増して公園全域に落ちた......
「Foooooooo!! あれ いない ?」
眩い光が辺りを覆った後、高揚するトゥナードは相手の消失に気付く...と、
「おいトゥナード!何してやがんだ。」
探すより先に頭をはたかれ我に帰るヤツは後ろに佇む男ーー青いヘルメットをかぶった同胞を見る。
「あ ロウダー。へん な やつ と あそんでた。」
「あーそうかよ、程ほどにしとけ。今YAKATAビルが軽く崩壊して石油王が来てよく解らんことになってんだ。いつまでもほっつき歩いてんじゃねぇ!」
キョロキョロと消えた相手を探すトゥナードを気にせず、ロウダーは引っ張ってホイールに乗り込む。
そんな様を公園の外ーーちょうど死角になる角から窺っていたアラタは息荒く胸を撫で下ろす。
幸いダメージも少なく身体の自由が利いたため、衝撃で投げ出されたもののとっさに脱することはできた。
トゥナード.....ヤツの気が済んだのか、雨がだんだん弱まってきている。
今のうちに早いところ家へ戻ろう、そう駆け出してからしばらく
「ん、あれは......!」
ーーーーーーーーーーーーーーー
「アーラター....」
「ナツっミカド...今日はおのおの一人か。」
「どーゆー意味だっ」
「拗ねてるらしいから来たわ。三角トスでもやろうぜ。」
「コノヤロ、ボクが球技苦手なの知ってぇ~」
|
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「どぉおして貴方達はすぐにそうやってぇ!!」
度々看護士の怒号がロビーに響く日々も終え、"彼"が復学してから数日が経った....
...もっと見る
・・・・・
"湿気"!!
圧倒的"湿気"!!!
アラタはその気候に苦悶した。
「(こんなら今日くらい朝練は中で良かったかもしれんなぁー)」
空を映したように爽やかな淡い青を放つ氷菓を口に突っ込んだままボーッと歩いていると、不意に声が掛かる。
「ちょっと、朝っぱらからだらしないわよ?」
「転んだらどーすんの?おはよっ」
「んばっ、おーう由紀ちゃん雛菜ちゃん。喉イッたくらいでボクは逝かないから大丈夫や」
棒を引き抜き、二人に笑いながら応えると彼女らは呆れてため息をつく。
「全く、生身で全身感電したのに一週間するかしないかで退院って、どういう身体してるのよ....」
ため息をつく由紀恵の肩をポンと小突くとアラタは軽快に笑う。
「アハッハ、まぁホラ。ボクが居っても居らんくても、由紀ちゃんが右往左往するのには変わらんし~ブバァッ!!?」
言い終わるより先に頬に迅雷の如く拳がめり込んでアラタがひっくり返った。
「アンタが来ると苦労が二倍になるわよ!」
「もぅ。退院早々に何してるの?」
白眼で転げ回る彼の後襟を掴んでやれやれと首を振りながら雛菜はアラタを引き摺って歩を進める....
「それにしてもまだ6月なのにホンット暑いわね。」
「うんうん。これは異常気象だよねぇ。もしかしてこれも不審者の仕業かなぁ?」
「そんーな、暗黒結社やないんやからさって言いたいけど、充分に在りうるわなぁ。雷男雨男の次は日照男かぁ?」
そんな三人の会話に呼応したのか?不意に空が陰り、一瞬にして彼らの視界も薄暗くなるばかりか、程好い風が吹きはじめて絡み付くような湿気も和らいでいった。
「ふわぁ、だんだん涼しくなってきたね~」
「おー、ええやん。話の解る空で助かるわー」
「いや、いくらなんでも不自然すぎると思う....て、ちょっとなによコレ!流石に風強すぎでしょ!!」
そんな由紀恵の訴えを聞き入れる筈もなく、風は段々と勢いを増して道並の窓もガタガタと音を立てていく.....
「た、たしかに、これはちょっとぉ.....うわわ!?」
「きゃあっ!?」
慌てて裾を押さえるも虚しく強風は二人の制服を巻き上げて、
「......ッッ!!!」
アラタは息を呑んでたじろいだ。
本来なら決して見られぬ鮮やかな色遣いの広がった2つの世界に目を背ける判断もままならず、少年は眼を見張った.....
そんな彼に、少女たちは気恥ずかしげに紅潮しながら睨み付ける。
ーーも、もぅ...馬鹿。ーー
ーー責任、と、取りなさいよ....?ーー
EP23『モロテニフラワー』
\うそですっ!/
「・・・うーん、頭と目が重いよー.....」
「最ぃー悪.....」「バーカ.....」
冷淡に言い放つ由紀恵と雛菜の後ろから、所々に刺さったハサミを引き抜きながら、瞼に干渉するほど腫れ上がった顔のアラタがフラフラと手探りで続いて行った.....
EP23『ビネツアメ』
「疲れた。」
白いスーツを着た金髪の少年が肩を回しながらボーッと帰路に着く。
警備員で夜勤を終えた彼はひとまず食事を取ってから仮眠に入ることを考え、街中の店を物色する。
と、黄色い看板に力強く書かれた文字が目に入るではないか。
『Majiナンバーワン』
「カレー専門店マジワンか......たまには悪くないか。」
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いらっしゃいませ、マスターの声が歓迎するなり手を軽く振り、カウンターに腰を下ろしとりあえずオーダーを入れる。
「いやー久々の夜勤は疲れたな。さっさと食って寝るか.....」
何の気なしに店内のテレビに目を向けると...
『ラッカーマンの被害、相次ぐ。』
[最近、首都圏の商店街で、次々と落書き被害が出ており、住民も頭を抱えているようです。]
テロップになんだと顔をしかめると、淡々とキャスターが読み上げながら、派手なスプレーを巡らせたアメリカンストリートよろしくの光景となったシャッターに憤る住民の姿が映る。
[なお、ラッカーマンと呼ばれておりますが、未だに犯人の顔も判らず、足取りも掴めておりません。]
「ほぉ。随分な小者だなぁ。」
しかし怪しいな、軽口を漏らしながらも彼はいぶかしむ。
大掛かりで文字通り目立つ事件を起こしているのに顔すら割れていないとは......
いや、やめておこう。
眠気でマトモに思考を纏められる筈もない。
そこまで考えると、不意に一筋の強烈なにおいが漂うと共に目の前に出来立ての皿が置かれた。
一瞬面食らいながらも一匙口に運ぶが、その味は至って普通、匂いもそそる程好い味わいで先程の感じたものとは違う.....
マスターが出てきた厨房に目を向けると、暖簾の向こうでボコボコと煮える音に、湯気までほのかに赤く色付いた鍋があるではないか。
恐らく暖簾に扇がれてこちらにきたのだろう。
思わずマスターに声をかける。
「すまない。今凄く刺激のあるにおいがしたんだが.....」
「おや、不快でしたらごめんなさいね。裏メニューですよ。」
裏メニュー?少年に頷くと彼は言葉を続ける。
「常連さんで一人だけいつも食べる変わったお客さんがいましてね。そもそもその方の要望で始めたんですよ。」
なるほどなぁ.....苦笑するマスターの話に相槌を打ちながら彼はスプーンを進める。
当然、今の話から何かを感ずる由もなかった...
[次のニュースです。聖櫻地区の一帯で不安定な暴風雨が発生中です。区内や近隣の方はご注意ください。]
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「愛はお金じゃ買えないから、考えたんだよ?女の子はサプライズが好きだって、聞いたのに。」
「なんも考えとらんやんけ。」
箱から伸びるリボンを木刀で斬り捨て、アラタはボソリと呆れながら返す。
辺りはヤツが散らかした箱の跡で四角く抉れたり凹んだりと散乱している。
こうしていつまでもだらだらやるわけには行くまい、今日は早期決着の予定だ。
「ラッキーボックスチャーンス!僕はどーこだっ!」
両手を振り翳し辺りに箱を降らせたりアラタを閉じ込めんと発生させていたヤツはやがて自らを箱で覆いつつ辺りにもゴチャゴチャとキューブを落とした。
「チッ、めんどいなコラ。」
...もっと見る適当にひとつ、木刀で箱を殴り付け、手応えをみたその刹那、爆風がアラタに被った。
「・・・」
プッと煤を吐き捨て、燕尾服を脱ぎ捨てたアラタは一気に2,3個の箱を木刀で薙ぎ払った。
いくつかの爆風が直撃しても気にせず、少年は手当たり次第に箱同士をぶつけ合い、誘爆させながらその数を減らしていく。
「そんな、バカな!?あんなボロボロになってもお構い無しで!?差詰めキミは式へ向かう途中の花婿だったハズ、ナニ考えてんのぉ!?」
どこからか聞こえる箱男の困惑する叫び。
それを聞くアラタはニッと笑いながら言葉を投げつけた。
「ハッ、そう思うんならスッ込んどれアホ!少なくとも今はンーなこと気にする暇もないくらい焦っとるわ、そらよ!」
残り少ない箱目掛けて勢いよく木刀を叩き付けると、地を這う衝撃波が直撃し、本体の箱もろともに爆破を引き起こした。
「うわわ、うわぁ!!ゲッホ、このぉ!」
「な、クソしまった!!」
躓きながらも持ち直したヤツが再びリボンを放ち、ふらつく隙を突かれたアラタは手足を絡め取られてしまう。
おわり!誇らしげに箱男が叫んで手を握りしめると、アラタの身体の周りを一瞬にしてエネルギーが覆い、長方形のキューブがただそこに直立していた。
「さぁ、ここからが僕の最後のプレゼントタァ~イム。満身創痍のキミを見て僕の花嫁さんはどんな顔するかなっ。『あんだけ啖呵切って情けない男!』なぁんて、やっぱ僕のが良いわ~、なんてね!」
ーーどんな顔するかーー
縛られたままアラタはその言葉を反芻し、もはやはしゃぐ箱男の戯言は耳に無かった。
ーー「え、写真撮影?」
「うん。やっぱり、憧れって言うか、さ.....」
「別にええよー」
「い、いいの?」
「だって、別に断る理由もあらへんし、撮影なんて、なぁ~」
「ありがと!さ、帰ろっ!」ーー
雛菜、ちゃん.....意を決したようにお願いしてきたあのコの輝く程に嬉しそうな顔.....
「さぁ、欲しいのはパンチにキックにチョップ、悪役に相応しいのは~.....ぎゃあ!?」
箱の周りを歩く箱男目掛けて、いきなりアラタを入れた箱が倒れこみ、ヤツを弾き跳ばす。
アラタ一人が入るサイズに調整したキューブは、手足の利かない彼が全身を使って転げ回るには逆に丁度良い大きさだった。
我武者羅に跳ね回り、自分自身が後ろに倒れる覚悟で跳ねて相手を蹴りつけ、上半身ごと殴り付ける。
「うわーん、もうおしまい!」
突拍子もない猛攻に堪らず、指を弾くとキューブが解け、縛られたアラタは勢いよく倒れ、
「ふへへー、僕の勝ち!」
新しく作ったキューブを彼の上から落とし、激しい爆発が起こる。
「こうして、度重なる妨害にも屈することなく立ち向かい続け、悪を打ち倒した暁に愛しの花嫁と共に新たな人生を歩む、僕なのであった。」
爆風を背にうっとりと微笑むと、ナレーションのように独り言をもらし、先程の控え室へと戻ろうとする.....
ーーありがとよ......!ーー
!?背から爆風に紛れて聞こえた声に思わず振り向くと、ヤツが"走ってきた"。
「な、な、なんってことだァア!?」
次の瞬間振り抜かれたふたつの拳が箱男の頬と鳩尾を捉え、目が飛び出そうな顔で驚愕する奴を吹き飛ばした。
くぅぅ、まさか爆発性キューブにしたばっかりにリボンを千切ってしまうとは.....
いや、それ以前になんであれだけのダメージでここまで動けるんだよ!?
そこまで考え、こちらを見据えるアラタと目が合うと立ち上がり......
「もういい、ママに言いつけてやる。お前なんかと遊ばないよーだ。」
ひとつ、大きな箱を生成すると入り込んで蓋をしてしまった。
「ごめんねぇ、ここに入っちゃったらもう大体の衝撃には強いんだぁ~」
おどけた言葉に偽りはないようで、アラタが木刀で力一杯殴り付けようともビクともしない。
やれやれ、アラタは肩をすくめると声をかける。
「敵わへんわ。でもよ、大体の衝撃言うたら、限界はあるんやろ?」
「そうだねぇ~、特に勢いの強い衝撃だと、流石にどうなるか僕も判らないかなぁ~。キミには無理だと思うよ?」
余裕であろうか、ベラベラと得意気に喋る様に内心フきながら彼は続ける。
「よせよ、心配しとるんや。」
心配?いよいよ爆笑寸前になりながらも真顔を保って箱男に言葉を返した。
「こっちにダンプが突っ込んでくるのが見えるわ、しかもあの感じ、多分晶力搭載でめっちゃスピード上げとるなぁ。このまま行くとお前の箱直撃するんやけど、大丈夫か?」
「・・・え!マジで!?」
慌てて蓋を除け、飛び上がった箱男を当然逃すまでも無く、
「アホがぁっ!」
「うわっずるい、それズルい!!」
顎から一気に蹴りあげ.....
「こうして理想の花嫁さんに会えないまま僕の人生、後半へ~続く~!!」
「ィやっかっまっしィ!!!」
そのまま木刀の一振りで斬り飛ばした......
はぁ.....落下して気絶する箱男を気にもせず、ひとつ舌打ちをして燕尾服を着直すと、ふと、携帯の新着トークに気付く。
『@8tuka; 新垣さんのためだもの、教えてあげる。
時間がどれくらいかかるかわからないけど急ぎなさいよ?』
由紀ちゃん.....アラタは添付された地図画面と会場の外観写真に軽く目を通し、苦笑する。
「ありがとな.....」
ーーーーーーーーーーーーーーーーー
「あらたん.....」
心配そうに空を眺めていた雛菜は小さく呟く。
「ありゃー、来なかったね。」
結局時間を迎えるも彼が来る気配はない。
残念そうに言う奈央に彼女も頷く。
まぁ、仕方ないか.....言い聞かせるように思いながら雛菜は前の撮影者と入れ替わりで歩きだした......時だった。
「すまーーーーーん!!!」
!待ちわびた声を上空から聞き、思わず振り返った。
飛来する赤いジェットボードから身を投げるように飛び出した影はそのまま芝生に打ち付けられ、転がりながら立ち上がる。
「.....あらたん!」
「ヒヒッ、悪りぃ雛菜ちゃん。お待たせっ。」
笑い、軽く手を振る彼に顔を綻ばせながら歩み寄る雛菜は、ふとなにかを気付き、彼の頬に手を添える。
「んあ?お、おいその手で触ったらアカンよ。」
「もぅ顔中煤だらけだし、髪もグシャグシャだよ、ちょっと動かないで。」
場都悪く言うアラタに、雛菜は照れくさそうに笑い、櫛を取り出した....
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自室の机で、雛菜はぼーっと写真を眺めて口許を緩める。
自分を横抱きに抱えるアラタの姿...
その首に笑顔で腕を回す自分。
思い返すのは撮影後のことだ.....
※
「ねぇねぇ、着替える前にヴァージンロード歩いてみても良いかな?」
「え、ええよ?」
特に深く考えないアラタの言葉に甘え、一歩一歩、踏み締めて歩く。
うわぁ、やっぱりただ歩くだけでも緊張するなぁ.....そう思っているうちに歩き終え、くるりとアラタに向き直ると、まだ大事なことを聞いていないと思い出した。
「ねぇ、どうかな、このドレス?」
ん?アラタはその言葉にあーっと少し考えてから口を開いた。
「まぁ、ドレスのことはよくわからんけど、こういうのとか珍しいな思うし、君らしくてエエと思うよ。」
「っ!あ、ありがとう.....そう、この帽子に合う髪型を考えてたからね。そう言ってもらえるのは嬉しいな。」
彼女のドレスの最大の特徴たる、レースのついたハットのアクセサリを軽く直しながら彼女は得意気に笑う。
ねぇ、こんな格好で二人きり、黙ってもいられず雛菜は再び言葉を繋いだ。
「あらたんが本当の新郎さんになった時も、へアセットは私に任せてほしいな.....ダメ?」
「あー....別にええけど。そんな日がホンマに来るかはわからんで?」
ハハハと笑う彼に流されるつもりもない、
「じゃあ、そんな日を迎えられるように私は応援してるからさ.....キミも、私のことを応援しててくれる?」
「んあ?キミの夢ならいつも応援しとるよ?」
そうじゃなくて.....言いにくそうに少女は少しずつ口を開く。
「私は旦那さんの髪も毎日セットしてあげるのも夢だからねぇ.....そうだね、いつかまた、私がこの格好を出来るように、さ.....」
ーーそして、その時一番近くで...隣で見ていてくれるのが、今と同じ君でありますように.....
「せぇやな、夢のために頑張る奴を応援するのは好きやからな。」
勢いで出しかけた言葉を押し留めても気づくハズも無く、彼と私は笑い合う。
そう、いつかまた、ね....
EP24ーーE N Dーー
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「わぁ、すごい.....」
鏡を前にして、雛菜は思わず息を呑んだ。
ドレスに合うヘアアレンジを自分でやったとは言え、普段とは大きく印象が異なる姿が鏡面には在った。
「私でも、こんなに変われるんだ.....」
少し、気分の高揚を押さえながらその場で一回りしてみる。
ふわりと翻るドレス、そして周りにも同様の姿でそれぞれに浮き立つ学友達.....
...もっと見る綺麗だな.....雛菜は想いを巡らせた。
皆華やかで、楽しみにしてたんだよね。
今はただの衣装撮影だけどいつかはみんな.....
もしかしたら私も.....なんて。
はぁ、憧れちゃうな。
思わずため息を吐きながら 不意に頭に馴染みの顔が浮かぶ。
ホントこの学校、可愛いコ多いよね。
.....目移りしてないかな?
「なーんて、何を考えてるのかなぁ。」
自ら呆れ半分に笑った彼女は暫く、予定通り他の参加者のヘアアレンジも談笑を交えつつこなしていく。
そろそろ番だと部屋を出て会場へ向かった後、入れ違いで戻ってきた数名が談笑に入った。
「いやー、スゴかったねぇ。」
「ほんとほんと。まさかあんなに本格的だとは思わなかったよー」
そう応える陽歌に明音は悪戯っぽくニヤついて言葉を続ける。
「ふふっ、陽歌ちゃんはまさかあそこまでやるとは思わなかったでしょ?」
「ちょ、ちょっと明音ちゃーん......」
「オーウ、明音サン陽歌サン、お疲れ様デス!」
「あ、クロエ先輩!」「お疲れ様でーす。」
やっぱりこういうのサマになるなぁ.....ドレスをヒラリと回しながらはしゃぐクロエに二人がうんうん頷くと彼女はキョロキョロと部屋を見回しながら口を開く。
「それにしても、高校生でウェディングドレスを着られるナンテ、ニッポンはホントに発想がユニークデスネ!」
「そ、それは.....」
「私達もココ入って初めて聞いたような」
でもまぁ、様々な生徒の個性を尊重するように用意された、撮影用の小道具やリボンのかかった色とりどりなプレゼントボックスの数々を眺めて顔を見合わせる。
「流石にここまで凝ってるのはウチくらいかも知れないけどねぇ。」
あっ!ふとクロエが入ってきた二人の姿に手を振って駆け出す。
「文緒サン、 美知留ー !」
「クロエさん.....」 「あっ、ちょ、裾が.....!」
ワワワ!?勢い余って前のめりになるも辛うじて明音と陽歌が受け止めたため転倒は免れた.....
しかし、思わずつかんだ紐、一際目立つ異様に大きな箱のリボンがそのままひゅるりと外れてしまった.....
ーーリボンをほどく瞬間の、ドキドキをどうぞ~ーー
「大丈夫ですか?」
「ビックリさせちゃいマシター」
「もう、危ないですよ。」
そう笑い合う彼女らの誰ともなく微かに聞こえた声を不思議がっていると、ゆっくりと大きな箱の蓋が横に滑り出した......
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「アラタくん、そろそろ時間よ。」
うわ!?由紀恵がドアを開けて言うがすぐにその光景にたじろぐ。
「やぁ、和泉クンなら出掛けてる....というかワタシが行かせた。」
パソコンを弄りながらカップ麺を啜る領也の一言に思わず彼女はムッと目をつり上げる。
「ちょっ、なに勝手なことしてるんですか!」
「しょうがないじゃないか。『奴等』が現れた。」
っ、でも....!納得しそうになる心を呑み込み、由紀恵は詰まりながらも返さずにはいられなかった。
「そしたら新垣さんの気持ちは......」
「安心したまえ、"悪気"レベルとしてはそんなに強力な奴ではなかった。だからこそさ。彼の行くという言葉を尊重したに過ぎないよ。」
「っ・・・もう.....!」
悪く思わないでくれ、無愛想に出ていく由紀恵を眺めながら領也はひとつ息を吐いた。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「今日ぉ~うはふた~りの結婚んん式ぃ♪僕が貴女にあげたもの~♪それは僕! 」
その異質な光景に、控え室の女子達は困惑しながら後退りする。
「リングにブーケにキャンディに、クッキーもマシュマロも捨てて、ただ花婿を~、僕だけを、どぉ~ぅぞっ♪」
「いらんわー!てか誰だー!」
調子の外れた歌を愉しげにがなる奴に耐えかねた 美知留が声をあげる。
大きな箱から這い出してきた刈上げマッシュカットの男は白いシャツに大きなリボン、黒いサスペンドの短パンと典型的な坊っちゃんスタイルだがその手足は武骨に絞まり、ニタニタと笑む顔も紛うことなき中年男性そのものだった。
「フフフ、僕は愛のプレゼンター、花嫁さん以外の女の子が嫉妬し羨むプレゼント。自慢して良し、愛して良し、それが僕だよ!」
いや、そうじゃなくて!続け様に口を開いたのは明音だった。
「何しに来たのか訊いてんの!」
「おいおい、冗談はよしてくれ。僕の運命の花嫁さんに会いに来たに決まってるじゃないか。本物のサプライズをキミに、あげるよ!」
いらないよ!ドン引きながら部屋の隅まで飛び退く明音に頭を掻き、歩み寄っていく。
「僕をいらないって?遠慮はいらないのにぃ。いったい!ちょっと痛いよ!?」
「イヤ、来ないで!」
彼女が思わず投げつけた箱が直撃しながら箱男はうめく。
「なんでさ、僕が貰えるんだよ?」
だからいらないってば~!!明音に加勢するように 美知留も辺りの小道具を投げ付けて牽制をかける。と、
「ノンノンデスヨ。明音サンは嫌がってマス!」
ふと振り返ると毅然とクロエが指摘を入れる。
「いや先輩逃げて!?」
明音のツッコミも他所にクロエに向き直った箱男はやれやれと首を振る。
「大体、要るとか要らないとか、僕はモノじゃ無いんだぞチクショ......君なんかに僕をやるもんか。と、い、う、わ、け、で.....」
箱から花束を取り出すと彼女の前にピョンと踏み出す。
「僕との結婚祝いに僕を貰えるんだよ、おめでと~ぅ!頭の先から足の先まで、キミに捧げるよ。」
「ンン?文緒サ~ン、結婚で花婿サンを頂けるのはアタリマエじゃないんデスカ?」
「いえそんなことより早く逃げてください.....」
いまいち流れが読めていないらしくぽかんと首をかしげるクロエに文緒は蒼白しながらその手を引いた。
「義理じゃなくて、本命だよ?さあ、受け取って!!」
「させるかぁっ!!」
ぐはぁ!?両手を広げて踏み出す箱男に美知留の跳び蹴りが直撃し転がった。
「イッターい!婚姻届に名前を書くのが、そんなにイヤなのぉ?なんでもするからさぁ、僕を貰って頂戴よ~。」
「いい加減にせんかこのオッサンはー!」
な、な...狼狽えながら奴は周りを見る。
この部屋の一同が一様に拒絶の滲んだ眼を向ける。
「僕を、僕を許否!?ゥWHHHHHHHYYYY!?ブグゥウウ!!!」
瞬間、男が背中に強い衝撃を受けながら放り出された。
その視線の先.....白い燕尾服姿の少年が拳を突き出し、鋭く箱男を見据える様に思わず明音が声をあげる。
「アラタ君!」
「いったた.....あれぇ?今日、キミと遊ぶ約束してたっけ?」
知るか.....背中を擦りながらも起き上がった奴は不思議そうに眼を白黒させるがアラタは無関心に近付き、途中ちらりと時計に目を向ける。
あと30分か.....
「それとも僕の花嫁さん候補に、何の用かな?」
「んなもん、いねぇ!お前こそなんのつもりや。」
近くにあった蛇腹ハンマー(通称ピコピコ、ていうか何故あった...?)で勢いよく箱男をはたくと奴はそれでも懲りずに応酬を続ける。
「可愛いヒトに、僕を貰って欲しいだけなんだよぉ。貰って貰って貰ってぇ~ん、僕を貰って!!キミからも説得してよ!」
手足をバタつかせながら言う箱男が手渡した紙を見る。
招待状...のつもりだろうか。
「・・・・」
軽く流し見したあと、目の前で躊躇いなく、そして勢いをつけてソレを引き裂くとあんぐりと口を開け、両手で頬をおさえて箱男は奇声を放つ。
「し、しょしょ、招待状を破り捨てるなんて、マナー違反だあ!!」
抗議を耳にもせず窓を開けてから奴の肩に手を置き、
「......お前を、倒す......!!」
言うが早いか窓から殴り飛ばすと、追うようにアラタ自身も躍り出た。
「ちょ、ちょっとアラタ!?たしか時間的にそろそろ....!?」
美知留の声が届くより先に走り去る様を見て、明音達が心配そうに時計を見た。
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ゴロゴロと転がりながら暫くして立ち上がった箱男は土を払い、目の前の少年を睨む。
「クソゥ、素敵な結婚式になる予定だったのに。」
「なるかアホが。」
「まぁー良いや、幸せを前にすると女は臆病になるって言うし.....ちょっと盛り上がりに欠けたからなぁ....ようこそ、悪役が足りなかったんだ。」
一変して楽しそうに喋りながら両手を広げると、アラタ目掛けて壁状のオーラが集束し、咄嗟に退いた彼のいた空間にひとつのキューブを造り上げた。
「キミには、敗北という贈り物をあげるね。」
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
.....わぁ、素敵。
次には私もこんなことするんだよね。
うー、ドキドキする.....
思わず強張る雛菜の脇に、撮影を終えた奈央が座った。
「ふふっ、雛菜ちゃん緊張してるねー。」
「な、奈央。だって私、こういうの慣れてないし.....」
気まずそうに応えると、奈央がからかうように笑い、それにしてもと時計を見据える。
「あと30分なのに、アラタ君来ないねぇ。」
そういえばそうだ、 会場だって結構遠い。
撮影の関係で携帯を置いてきてしまったため連絡も取れない。
でも.....
「あらたんならよっぽどなことが無きゃ遅刻とかしないから、やっぱり何かがあるんだと思う。」
雛菜ちゃん.....ふっと微笑みながら奈央が言う。
「信じてるんだねぇ。」
「あ、当たり前でしょ。そりゃあ」
「撮影、誘うくらいだしねぇ。」
ちょ、ちょっと奈央!?思わず頬を赤らめる雛菜の頭をくすくす笑いながら彼女は撫でる.....
「んーーー......」
前から気になってたんだけど....雛菜がふと口を開く。
手元にあるのは紐のついた白い円筒缶...所謂自販機サイズの物が数個だ。
「よく外国のドラマとかでも見るよね、車の後ろに付いてる缶。コレどういう意味があるのかなってさ~」
さぁー、対するアラタはあくびをひとつ、
「幸せですアピールやないのぉ?外国人は派手なの好きやし。」
夢がない、頬を膨らませる雛菜に頭を掻く彼は渋々ケータイを取り出す。
「...祝福と魔除けやってさ。」
「へぇ、なるほど~...だから音を鳴らすんだ。でもちょっと騒がしいし、気を遣うよねぇ。目立つし.....」
...もっと見るけど、デフォルメ調の自身の似顔絵を描き込んだ缶を見せながら彼女は笑む。
「発想がお洒落で私は好きだな、ウェディングカー。それにしても撮影にピッタリの良い天気、テンション上がるよ~。」
言葉通り、青く晴れ渡った空に、衣装体験もといモデル撮影とはいえ被写体を祝福するように太陽は爽やかな光を注ぐ。
「最近ずっと天気が不安定だったから正直心配だったんだぁ。」
「ああ、せやな....しっかし雛菜ちゃん元気やなー」
背を伸ばす雛菜に対し、実に6月らしい刺客達の数々を思い返すアラタは複雑そうに返す。
それにしても雛菜は嬉しそうだ。
思わずそんな言葉を出すと雛菜は呆れた目を向けてくる。
「当たり前でしょ。折角の機会なんだもん、全力で楽しまなきゃ。皆のヘアセットも私がさせてもらうの。」
ほぅ、なるほどそれもあるのかとアラタは彼女の言葉を聞きながら小難しい羅列の刷られたプログラムに目を通す。
「スプレーにカーラーと準備はばっちり!本当の式はもっと大変なんだろうなぁ...今日の撮影何するんだろ。」
ひょいと隣から覗き込む雛菜は度々感嘆をもらす。
結婚式ねぇ...その様子を見るに色々と詳しいみたいだが生憎自分はサッパリや、流れるままに動くしかねぇなぁ。
そう思っていたアラタはふと、
「あ、そうそう。私は皆のセットが終わってからだから少し遅くなると思う。私のは着替えてからのお楽しみだからねっ」
「アッ!!」
ど、どうしたの?突然の叫びと共に軽く手を叩く彼に思わず雛菜も驚くと、少年は力強く立ち上がり思い出したように言う。
「 誓 い の キ ス ! ! !」
「そんな冗談言ってると丸刈りにするよ~。」
EP24「いつかまた....」
「いーのっ、私のことは気にしないで....!」
「だぁって、寂しそうなんやもん。」
軽くあしらう女子の後ろをそれでも付きまといながらアラタは言う。
「茉莉ちゃんだって出たいんちゃうの?」
・・・出たい....アラタの言葉に茉莉は一瞬たじろぐ、が、
「でも、私にだって拘りがあるの。」
「そのコダワリで貴重な体験ひとつ潰してもか?やりたいこと抑えるのはあかんで。」
ウンと頷く彼女はひとつため息をついて言い返すと、
「そこまでして何を求めてるの?」
途端にアラタも弱ったように頭を抱える。
「イヤ、"患者"に脅されとるんよー、茉莉ちゃん参加させなきゃブッ飛ばすってぇ~」
「ダウト、大体カンジャって何よそれ.....じゃあ私行くねっ。」
聞いて損した、どことなくそんな感情を滲ませたように言う茉莉にアラタはムッとする。
「へん、なんーやアホ!アホアホアホー、お前なんか成績よくたってアホなんやからなー!」
ベェー!舌を不気味に蠢かしながら悪態を放つアラタだったが後ろから掛けられる声に振り返る。
「どうしたんだよアラター、ギャーギャーうるせぇなぁ。」
「アッ、えーと....男子Aいって、いて!!」
言う端から叩かれ顔を向けると、彼は怒りを露に声を荒げる。
「串間 淳だ!勝手にジョーとか呼んで忘れんな!」
しょうがねえじゃん。頭をさすってアラタも返す。
「呼び方は別にええやろ。まぁちょいと揉めてな。ところで泉ちゃんはどした?」
「どーせろくでもないことやったんだろ。もう俺らは終わったよ。」
ほっとこ、淳の呆れる声に不貞腐れるアラタだが、
「あ、こんにちはアラタさんっ。」
元気の良い声に顔を向けると思わず息を飲んだ。
フリルが幾重に備わった鮮やかなヴェールに、結び綺麗に纏まった美しく長い銀髪、それをより際立てるヘアアクセサリー.....
「ゆ、ゆーりや、ちゃん......!?」
「ふふっ、どうですか?その...似合ってますか?」
すげー、ドレスの裾を軽く摘まんで会釈をするユーリヤに感心する脇で、アラタはワナワナと震えだし、淳は不審がる。
「おいおい、どうし「早く準備せぇ!!」
また始まったか?言葉も聞かずに叫ぶアラタにやれやれと首を振ると言葉を続けた。
「今度はなんだよ、花束か、スーツか写真撮れってか?それとも神父?」
ちげーよ!面倒臭そうに聞く淳に怒号を飛ばすアラタにますます困惑すると彼は答える。
「アホか、この場合『 御 祝 儀 』に決まっとろうがァアア!!!ワァアー!!!」
「わわ、ど、どうしたんですか?アラタさん!」
唐突な号泣に狼狽えるユーリヤと暴走するアラタ、淳は首を振るとアラタの肩に手をかけ深呼吸をひとつ、
「これ以上は危険だ......!」
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「なーにが御祝儀だ、アホはお前じゃい。なに後輩の晴れ着姿モデルに泣いてんだよ。」
苦々しく吐き捨てられると、頭に瘤を作ったアラタはグスグスと目元を拭いながら途切れ途切れに言う。
「だって、ユーリヤちゃんの、あんなカッコ見たら...なんや、きっとあのコにもそんな日が、来るんやなって......」
「イヤ何の目線なんだよ。親父か!?」
場都の悪そうな面持ちと裏腹に突拍子も無い返答を受け、いよいよ呆れるが、アラタは当然のように力強く返す。
「姪に対する叔父のような目線だ。」
「ニッチだな、初めて聞いたわそんな思想。」
「叔父様って呼ばれたい。」
「お前末期だよ」
アラタの発言に思わず匙を投げると、
「あ、いた!!」
向こうから勢い良く近付いてくる影に2人は気付き、それが瞬時に距離を詰めるとアラタの袖を掴んで颯爽と引き返し出す。
「ちょっ、由紀ちゃん!?由紀ちゃーん!」
「ったく、何やってんのよ、ふらつくんじゃないの!」
「おおい!ジョー!!由紀ちゃん鎮めてくれ!」
・・・アラタの懇願に困ったように顔を見合わせる彼だったが、
「まぁ、八束サンなら大丈夫だろ。多分...」
頬を掻いて二人を見届けていた。
ハイ!ひとつの部屋にアラタ放り込んだと思えば、あろうことか由紀恵は施錠までしてしまったではないか。
「全く、着替えてもいないのに勝手に歩き回っちゃダメでしょうが。撮影時間まで大人しくしなさい!」
何!?流石に焦るアラタがガチャガチャとドアを揺すっても手応えがない。
「出してぇ!!由紀恵さん!出してくれ!由紀恵さァアん!!俺は俺の場所に帰らなきゃ!!」
叫ぶ彼に深いため息を吐くなり由紀恵は去ろうとした歩を止めて戻ってくる。
「別に出したって良いわよ?」
その言葉に一瞬表情を緩めると対称的に彼女は不敵に口角をつり上げる。
「けど、場所がどこにあるか、判ってるのかしら? 」
ゲッ、自分の言葉におずおずと後退するアラタに気さくなウィンクを向けて由紀恵は良い放った。
「時間になったら案内するから、待ってなさいよ?」
「・・・」
出不精な犬がリードをつけられたように項垂れ、泣きそうな視線を彼女に向けながらアラタは沈黙した。
「ンだよもっと見たかったのになー」
やむを得ずどうしたものかと思案する彼の許へ、しばらく後に通信が響くのだがコレはひとまず置いておこう.....