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「わぁ、すごい.....」
鏡を前にして、雛菜は思わず息を呑んだ。
ドレスに合うヘアアレンジを自分でやったとは言え、普段とは大きく印象が異なる姿が鏡面には在った。
「私でも、こんなに変われるんだ.....」
少し、気分の高揚を押さえながらその場で一回りしてみる。
ふわりと翻るドレス、そして周りにも同様の姿でそれぞれに浮き立つ学友達.....
...もっと見る綺麗だな.....雛菜は想いを巡らせた。
皆華やかで、楽しみにしてたんだよね。
今はただの衣装撮影だけどいつかはみんな.....
もしかしたら私も.....なんて。
はぁ、憧れちゃうな。
思わずため息を吐きながら 不意に頭に馴染みの顔が浮かぶ。
ホントこの学校、可愛いコ多いよね。
.....目移りしてないかな?
「なーんて、何を考えてるのかなぁ。」
自ら呆れ半分に笑った彼女は暫く、予定通り他の参加者のヘアアレンジも談笑を交えつつこなしていく。
そろそろ番だと部屋を出て会場へ向かった後、入れ違いで戻ってきた数名が談笑に入った。
「いやー、スゴかったねぇ。」
「ほんとほんと。まさかあんなに本格的だとは思わなかったよー」
そう応える陽歌に明音は悪戯っぽくニヤついて言葉を続ける。
「ふふっ、陽歌ちゃんはまさかあそこまでやるとは思わなかったでしょ?」
「ちょ、ちょっと明音ちゃーん......」
「オーウ、明音サン陽歌サン、お疲れ様デス!」
「あ、クロエ先輩!」「お疲れ様でーす。」
やっぱりこういうのサマになるなぁ.....ドレスをヒラリと回しながらはしゃぐクロエに二人がうんうん頷くと彼女はキョロキョロと部屋を見回しながら口を開く。
「それにしても、高校生でウェディングドレスを着られるナンテ、ニッポンはホントに発想がユニークデスネ!」
「そ、それは.....」
「私達もココ入って初めて聞いたような」
でもまぁ、様々な生徒の個性を尊重するように用意された、撮影用の小道具やリボンのかかった色とりどりなプレゼントボックスの数々を眺めて顔を見合わせる。
「流石にここまで凝ってるのはウチくらいかも知れないけどねぇ。」
あっ!ふとクロエが入ってきた二人の姿に手を振って駆け出す。
「文緒サン、 美知留ー !」
「クロエさん.....」 「あっ、ちょ、裾が.....!」
ワワワ!?勢い余って前のめりになるも辛うじて明音と陽歌が受け止めたため転倒は免れた.....
しかし、思わずつかんだ紐、一際目立つ異様に大きな箱のリボンがそのままひゅるりと外れてしまった.....
ーーリボンをほどく瞬間の、ドキドキをどうぞ~ーー
「大丈夫ですか?」
「ビックリさせちゃいマシター」
「もう、危ないですよ。」
そう笑い合う彼女らの誰ともなく微かに聞こえた声を不思議がっていると、ゆっくりと大きな箱の蓋が横に滑り出した......
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「アラタくん、そろそろ時間よ。」
うわ!?由紀恵がドアを開けて言うがすぐにその光景にたじろぐ。
「やぁ、和泉クンなら出掛けてる....というかワタシが行かせた。」
パソコンを弄りながらカップ麺を啜る領也の一言に思わず彼女はムッと目をつり上げる。
「ちょっ、なに勝手なことしてるんですか!」
「しょうがないじゃないか。『奴等』が現れた。」
っ、でも....!納得しそうになる心を呑み込み、由紀恵は詰まりながらも返さずにはいられなかった。
「そしたら新垣さんの気持ちは......」
「安心したまえ、"悪気"レベルとしてはそんなに強力な奴ではなかった。だからこそさ。彼の行くという言葉を尊重したに過ぎないよ。」
「っ・・・もう.....!」
悪く思わないでくれ、無愛想に出ていく由紀恵を眺めながら領也はひとつ息を吐いた。
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「今日ぉ~うはふた~りの結婚んん式ぃ♪僕が貴女にあげたもの~♪それは僕! 」
その異質な光景に、控え室の女子達は困惑しながら後退りする。
「リングにブーケにキャンディに、クッキーもマシュマロも捨てて、ただ花婿を~、僕だけを、どぉ~ぅぞっ♪」
「いらんわー!てか誰だー!」
調子の外れた歌を愉しげにがなる奴に耐えかねた 美知留が声をあげる。
大きな箱から這い出してきた刈上げマッシュカットの男は白いシャツに大きなリボン、黒いサスペンドの短パンと典型的な坊っちゃんスタイルだがその手足は武骨に絞まり、ニタニタと笑む顔も紛うことなき中年男性そのものだった。
「フフフ、僕は愛のプレゼンター、花嫁さん以外の女の子が嫉妬し羨むプレゼント。自慢して良し、愛して良し、それが僕だよ!」
いや、そうじゃなくて!続け様に口を開いたのは明音だった。
「何しに来たのか訊いてんの!」
「おいおい、冗談はよしてくれ。僕の運命の花嫁さんに会いに来たに決まってるじゃないか。本物のサプライズをキミに、あげるよ!」
いらないよ!ドン引きながら部屋の隅まで飛び退く明音に頭を掻き、歩み寄っていく。
「僕をいらないって?遠慮はいらないのにぃ。いったい!ちょっと痛いよ!?」
「イヤ、来ないで!」
彼女が思わず投げつけた箱が直撃しながら箱男はうめく。
「なんでさ、僕が貰えるんだよ?」
だからいらないってば~!!明音に加勢するように 美知留も辺りの小道具を投げ付けて牽制をかける。と、
「ノンノンデスヨ。明音サンは嫌がってマス!」
ふと振り返ると毅然とクロエが指摘を入れる。
「いや先輩逃げて!?」
明音のツッコミも他所にクロエに向き直った箱男はやれやれと首を振る。
「大体、要るとか要らないとか、僕はモノじゃ無いんだぞチクショ......君なんかに僕をやるもんか。と、い、う、わ、け、で.....」
箱から花束を取り出すと彼女の前にピョンと踏み出す。
「僕との結婚祝いに僕を貰えるんだよ、おめでと~ぅ!頭の先から足の先まで、キミに捧げるよ。」
「ンン?文緒サ~ン、結婚で花婿サンを頂けるのはアタリマエじゃないんデスカ?」
「いえそんなことより早く逃げてください.....」
いまいち流れが読めていないらしくぽかんと首をかしげるクロエに文緒は蒼白しながらその手を引いた。
「義理じゃなくて、本命だよ?さあ、受け取って!!」
「させるかぁっ!!」
ぐはぁ!?両手を広げて踏み出す箱男に美知留の跳び蹴りが直撃し転がった。
「イッターい!婚姻届に名前を書くのが、そんなにイヤなのぉ?なんでもするからさぁ、僕を貰って頂戴よ~。」
「いい加減にせんかこのオッサンはー!」
な、な...狼狽えながら奴は周りを見る。
この部屋の一同が一様に拒絶の滲んだ眼を向ける。
「僕を、僕を許否!?ゥWHHHHHHHYYYY!?ブグゥウウ!!!」
瞬間、男が背中に強い衝撃を受けながら放り出された。
その視線の先.....白い燕尾服姿の少年が拳を突き出し、鋭く箱男を見据える様に思わず明音が声をあげる。
「アラタ君!」
「いったた.....あれぇ?今日、キミと遊ぶ約束してたっけ?」
知るか.....背中を擦りながらも起き上がった奴は不思議そうに眼を白黒させるがアラタは無関心に近付き、途中ちらりと時計に目を向ける。
あと30分か.....
「それとも僕の花嫁さん候補に、何の用かな?」
「んなもん、いねぇ!お前こそなんのつもりや。」
近くにあった蛇腹ハンマー(通称ピコピコ、ていうか何故あった...?)で勢いよく箱男をはたくと奴はそれでも懲りずに応酬を続ける。
「可愛いヒトに、僕を貰って欲しいだけなんだよぉ。貰って貰って貰ってぇ~ん、僕を貰って!!キミからも説得してよ!」
手足をバタつかせながら言う箱男が手渡した紙を見る。
招待状...のつもりだろうか。
「・・・・」
軽く流し見したあと、目の前で躊躇いなく、そして勢いをつけてソレを引き裂くとあんぐりと口を開け、両手で頬をおさえて箱男は奇声を放つ。
「し、しょしょ、招待状を破り捨てるなんて、マナー違反だあ!!」
抗議を耳にもせず窓を開けてから奴の肩に手を置き、
「......お前を、倒す......!!」
言うが早いか窓から殴り飛ばすと、追うようにアラタ自身も躍り出た。
「ちょ、ちょっとアラタ!?たしか時間的にそろそろ....!?」
美知留の声が届くより先に走り去る様を見て、明音達が心配そうに時計を見た。
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ゴロゴロと転がりながら暫くして立ち上がった箱男は土を払い、目の前の少年を睨む。
「クソゥ、素敵な結婚式になる予定だったのに。」
「なるかアホが。」
「まぁー良いや、幸せを前にすると女は臆病になるって言うし.....ちょっと盛り上がりに欠けたからなぁ....ようこそ、悪役が足りなかったんだ。」
一変して楽しそうに喋りながら両手を広げると、アラタ目掛けて壁状のオーラが集束し、咄嗟に退いた彼のいた空間にひとつのキューブを造り上げた。
「キミには、敗北という贈り物をあげるね。」
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.....わぁ、素敵。
次には私もこんなことするんだよね。
うー、ドキドキする.....
思わず強張る雛菜の脇に、撮影を終えた奈央が座った。
「ふふっ、雛菜ちゃん緊張してるねー。」
「な、奈央。だって私、こういうの慣れてないし.....」
気まずそうに応えると、奈央がからかうように笑い、それにしてもと時計を見据える。
「あと30分なのに、アラタ君来ないねぇ。」
そういえばそうだ、 会場だって結構遠い。
撮影の関係で携帯を置いてきてしまったため連絡も取れない。
でも.....
「あらたんならよっぽどなことが無きゃ遅刻とかしないから、やっぱり何かがあるんだと思う。」
雛菜ちゃん.....ふっと微笑みながら奈央が言う。
「信じてるんだねぇ。」
「あ、当たり前でしょ。そりゃあ」
「撮影、誘うくらいだしねぇ。」
ちょ、ちょっと奈央!?思わず頬を赤らめる雛菜の頭をくすくす笑いながら彼女は撫でる.....