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はぁ、結局言えなかったなぁ.....
そんなことを思いながら雛菜は少し寂しそうに帰路を進む。
あの後、いつも通り顔を合わせることはあったが、結局話を切り出そうとしても難しく、なんら変わり映えの無い雑談ばかりだ。
加えてアラタは放課後には姿を消していた。
大方いつもの件だろう。
「どうしよう。ドレスは着たいし、せっかく着るなら、ねぇ.....」
撮影とは言えど、お互い妙な意識を植え付けてしまうかもしれないから心配だ。
「あら、新垣さんっ.....」
...もっと見るん?その声に振り返ると髪の長いクラスメイト.....
「あ、るいちゃん。部活とかは?」
「今日は無い日よ、理駆君は用事。」
ていうかもうその呼び方がデフォルトなのね、ぼそりと加える一言に悪戯っぽく舌を出して笑う彼女の隣に立つと同じく歩を進める。
「で、なんか考えてたみたいだけど、どうしたの?」
あ、うん。それがね.....雛菜は口を開く。
ふぅん、しばらく聞いていたるいは相槌を打ちながらなるほどと首を振る。
「大体、和泉君もそういうの無頓着よねぇ。」
「うん.....だからこそ、そういうの興味無さそうな分言いやすいかなって思ったんだけど、やっぱり一方的に意識しちゃうよ~。そういえばるいちゃんはどうするの?」
な!?軽く引きつりながら一瞬たじろぎ、腕を組んで思わず顔を逸らせたるいは言葉を続けた。
「ワ、私は別に、なんとも言えないわよ。あの人だって普通の学科生より忙しいみたいだし.....」
なんだかんだ似た者同士、かなぁ.....不満気に溜め息をもらす彼女に苦笑しながら雛菜は内心そんなことを呟く。
が、忙しい、その言葉に心当たりを感じてふと思案を巡らせようとした.....
ーーぽたり.....ぽた、ぽた......ーー
「あ.....」「やだ。雨、ね.....」
水滴が頬を掠めたとき、雛菜とるいは空を見上げ、傘を開くと同時にその勢いを増した空模様は明確な雨天へと変わった.....
「予報にはあったけどこんなに.....」
「もう、なんでこうなるのよ....!」
困った、口々に言ってもやむ気配はない、いっそのこと先に行こうとした矢先だった。
「雨はいつだって気紛れだ、こうして僕を困らせる.....」
?不意に聞こえた声に振り向くと、明後日の方向を見据えながら、すらりと長身な青年が佇んでいた。
「雨に困っているのは、君達も同じだね。」
「な、何を言ってるの.....?」
しっとりと話す声に反し、いまいち要領を得ないことばかり並べ立てる彼にるいは思わず口を開くが、彼は特に気にするでもなく続ける。
「こんな雨の日は、僕が君達の傘になろう。女の子の心に降る雨の、ね?その悲しみも、この雨で流してしまいなよ。」
「はぁ!何言ってるの!?」
不穏。
その二文字だ、いよいよ勘が確信に近づく雛菜だが、敢えて聞いてみる。
「傘ささないと、風邪ひきますよ?」
傘?小さく笑うと髪をかき上げ、ふっと微笑む。
「うっかり忘れたよ、うっかり、ね。」
でーも、足を一歩踏み出すと身体をひねり、彼はこちらを向いた。
「濡れた僕って.....魅力的だろう?」
少し長い茶髪を雨濡れでオールバックに撫で付け、やわらかな笑顔で笑みかける青年は、言うなれば俳優やモデルのように文句の無い美形だった。
しかし二人の心は動かない。
無論、二人にとって容姿だけでは語れない想いがあるのは言うまでもないが、問題は彼の言葉に加えてその服装だ。
上半身にはインナー無しに加えて露骨にはだけた白いカッターシャツを着用しており、突然の大雨に打たれた跡が濡れて貼り付き、包まれた肌色を所々剥き出しにしているではないか。
「透けてるじゃないの気持ち悪い!」
「い、行こ、るいちゃん.....」
そう言って二人は背を向け去ろうと歩を進め
「おっと、遠慮は良いんだよ。雨に震える仔猫ちゃんっ♪」
うわぁ、二人を遮るように前方に飛び出した男が両手を広げ、すました顔で空を見上げる。
「ああ、もぅっ!傘あげるから大人しく...」
「ああ~、傘はいらないよ。君が濡れちゃうだろぅ?」
「貴方の気が済んで帰ってくれるなら別に良いわよ!」
「その時はるいちゃんは私が入れるし」
「え?あ、ああ。その、ありがと.....」
思いがけない言葉に詰まりながらもぼそりと答えるるいに雛菜はくすりと微笑む。
しかし、問題の雨男は首をすくめ、眉は下がるが笑顔を崩さない。
「おいおい。君達も聖櫻生なら清涼祭とかやってるだろうし解るだろう?この、濡れ感の良さ.....」
「いや、皆シャツとか着てるからね?」
「そもそもそういう気持ち悪い行事じゃないわよ、この変態!」
「さぁ、この胸に、飛び込んで、お、い、で....?」
「それ矛盾してるよね?」
「そんなとこ入ったら結局濡れるじゃない、バッカじゃないの!?」
ふぅ、困っちゃったなぁ~頭を掻き、苦笑しだす彼が、次はどんな言葉をかけるべきかと考えたその時だった。
ーードンッーー
「きゃぁあ!!」「ひっ....!!」
「・・・・え?」
彼のすぐ近くにけたたましい轟音と共に落雷が響き、二人の悲鳴を余所に男は呆然とする。
...が、すぐに一帯で次々と立て続けに雷が落ちてきた。
「きゃ!」「ちょっと、どうなってるのよ!」
「うぉおおヤメロォオ!!痺れる、痺れるっ!!」
三者各々に逃げ惑っているうちに、無防備な雨男は逃げるように走り去ったが、まだ落雷は収まらないようだ。
流石に不審だと思ったところで、その正体は判明した。
角のある真赤なアフロを着け、虎模様のタンクトップで輪状の太鼓を担いだ男がドンと鳴らす度に雷が発生する。
「ヘェッハッハァ!!嵐を呼ぶ男だぜ!」
「雨男の次は雷男!?」「なんなのよ今日は!!」
待ちやがれー!!戸惑い、声を荒らげる二人をよそに別の、それも聞き慣れた声が近づいてきた。
「クソォ、いつまでも追いかけて来やがって~!!」
「コラァ、飛ぶんじゃねぇ!!」
「あらたん!」「和泉くん!」
言うなり黒雲を両足に纏って浮き上がる奴を追っていた人物ーーアラタに二人は声をかけ、アラタは軽く息を切らせながら立ち止まる。
「お、雛菜ちゃんにるいちゃんやん、お疲れ。」
い、今の何なのよ?手を振る彼へ挨拶もそこそこに、るいが聞く。
「あぁ、なんや異様に雲行き怪しくなったらしくてな、不自然な土砂降りと雷が出たから探ってたらアイツがやっとったんよ。」
「え?土砂降りもそっちだったんだ。」
雛菜の言葉に首を傾げた彼に、雨男の説明をすると、なるほどとアラタは確かめるが、
「ほな、ボクは早くアイツ追わないかんから、風邪引かんようにな~?」
ジェットボードを取り出すと乗り、雷男目掛け飛び立った.....
「.....私達もいい加減帰りましょうか。」
「うん.....そうだね.....」
なんだか色々と疲れたが、こんな日は早く帰ろう。
そう思いながら二人は次こそ家を目指して歩き始めた.....
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
流石にここまでは追ってこれねぇだろ。
そう思いながら足元の雲を散らし、どこかの屋上に降り立った雷男は一息つく.....
「甘いわぁ!!」
「ぬぉ、ナニィ!?」
束の間、先程の少年が謎のジェットボードに乗って姿を現し、軽々と降り立つではないか。
「お前、どこまで邪魔すりゃ....!!」
「こっちの台詞や。こんなことしてどうなるんや?雨降らせられても女の子にはモテへんで?」
どうでも良い!!男は眉間をひそめ、怒鳴り返す。
「俺はなぁ、自信満々に、今日には嵐のような雨が降ると予言したんだ。なのに実際には霧雨程度!これでキレずにいられるかぁ!」
いや、キレるなキレるな、笑いをこらえながら言うアラタを無視し、男は続ける。
「俺様の大予言を嘗めやがって、もう許さねぇぞ。そんなことを思っていたらこの素晴らしい力を貰ったっつー訳だ!派手に暴れて予言を現実にしてやらぁ!!」
冗談じゃねぇ!アラタは木刀を構えると、雷男が飛ばしてきた雷撃を弾きながら近づいていく。
「そんなアホな理由でクッッソ不便な生活を強いられてたまるかぃ、ボケ!!」
「うるっせぇ!文句は俺の自信を打ち砕いたクソ空に言え!!」
続け様に太鼓を打ち鳴らすと、段々と太鼓に雷が灯っていき、すべての太鼓が発電した途端、一気にアラタ目掛けて撃ち出された。
この!間髪入れず襲いかかる雷光をどうにか木刀で防いでいくが、
「ぐぁああ!!」
対処とは別の雷に当たり全身を駆け巡る。
悲痛な叫びと共に膝を着くアラタはしかし、行動不能には至らずに木刀で支えて立ち上がる。
「こんくらいならまだまだ大したことねぇわ。」
「クハハ、強がるとくたばっちまうぜ?そらよ!」
やってみるか.....相変わらず雷を飛ばす相手に余裕の表情で、アラタは機械的な器具を手首に嵌め、ボードの足固定台と接合すると、手甲や盾の要領で構え、雷を防いで歩み寄っていく。
考えやがったな、だが.....雷男は浮かぶと、空に漂い、アラタ目掛けてバチを向ける。
「それじゃあ空には来れねぇだろ?ホォラ」
ドンドンと落雷を生成し、少年に直撃させようとするが、当の本人はボードを持ったまま身を翻して避けていく。
「残念やったなぁ....多少のウェイトトレーニングは基礎やろ!?」
でぇい!雷男目掛けて回転を利かせながら木刀が飛んできて、
「うぉっと!?」
慌ててかわすがこちらに迫る風圧に気が付いた。
「な、何!?」
腕に嵌めたボードをそのまま噴射させ、奴目掛けて飛行した勢いを乗せたまま、
「おらぁ!」「ガァア、クソ!!」
鳩尾に空いた手の拳を叩き込んだ。
そのまま抱えられ、屋上に気絶した男が投げ出されると同時に太鼓が砕け、激しかった雷雨は段々と鎮まり、予報の霧雨をも消し去った晴れ空に変わった.....
やーれやれ。首を回しながらビルを降り、学校に戻ろうとすると
「あらたん!」
いつも見かける公園に通りがかったところで雛菜から声が掛けられる。
「あれ、雛菜ちゃん、帰っとらんかったの?」
「あ、うん.....あらたんが心配だったから。それより、ほら。拭かないと風邪引くよ?」
「んお、ありがとー」
そうタオルを渡されるなり軽くぬぐい、肩にかける。
「いいのいいの。」
「え、洗うで?」
「大丈夫。」
が、雛菜がタオルを取ると、バッグのポケットに入れる。
「そっか。まぁ、その.....ありがと」
「うん。さぁ行こ。」
アラタの笑顔に一瞬どきりとしながらも、自分も笑顔で返す。
そんな中でも、ひとつの思いが頭をよぎる。
そうだよね....
あらたんは、忙しいんだから.....
EP18ーー E N D ーー
「へー、それ作りゃいーんだね?」
「ああ、頼むよ。だから何だってせびってくれて良い.....」
「じゃーさーシドー。ひとつ良いかなー?」
「なんだね、和泉クンかい?」
「いや、雛菜さんのことなんだけどさー.....」