「あ.....」「やだ。雨、ね.....」
水滴が頬を掠めたとき、雛菜とるいは空を見上げ、傘を開くと同時にその勢いを増して空模様は明確な雨天へと変わった.....
EP18「揺れる心」
"June-Bride"
6月にとつぐ花嫁は幸福に恵まれる、とは古くから言ったものだ。
そんなまじないにあやかってか、最近では様々な高校で、ウェディングドレスおよびタキシードのモデル撮影が行われている。
...もっと見る当然、行事への目が鋭いコチラ、聖櫻学園とて例外ではない。
今一度互いの仲を確かめたい者、あわよくばこの撮影を告白の正念場としたい者、単純に着たい者とか趣旨の通り縁結びや成就の運気を上げたい者とまぁ、恥も体面も気にせず申請する人数は結構多い。
まぁ、中には誘いたくても誘えない者もいるようで.....
「雛菜チャーン、おはよー。」
「!!あらたん!」
朝、何やら考え込んでいた雛菜に不意に声がかかる。
いつものことなのだが、今日は特に強く意識していた人物なだけに思わず、いつもよりびくりと反応してしまう。
そんなことを意にも介さず、当の少年は、先日知り合いからもらったらしいジェットボードを乗り回し、彼女の隣まで滑空するとひょいと降り立つ。
「おっはよー!」
「うん、おはよ。また朝練?」
「いやぁ、今日はコイツのテスティングやで。ちゃんと扱い馴れとかんといざっちゅうとき困るしな。」
言うても割りとすぐコツは掴んだけど、機嫌よく笑うアラタに軽く返事をする雛菜は、言いたいことを切り出そうか悩んでいた。
「そや、せっかくやし乗ってこうや、ほい。」
不意にアラタが言いながらボードを置き、取手を握った状態で片膝着いてしゃがみ、雛菜につかまるよう促す。
流されるように後ろにしゃがみ、彼の背に密着して腹に手を回した雛菜は、その距離感に内心ドキドキとしながらも、意を決して口を開く。
「あのさ、あらたん....「おーし、行くで。」え?」
次の瞬間、ジェットが噴き出すと共に飛び立つと激しい風に襲われ、彼女はアラタによりきつく腕を回した。
「きゃぁあ!高い速い!!怖い~!!!」
「ホラホラホラホラ、ええゾ~コレェ!」
・・・
「いっやー、ウン最高やな。」
「はぁ......もぅ。」
一人でけたたましく笑うアラタをよそに、雛菜は少し機嫌悪そうに髪を整えながら校門をくぐる。
が、
「ところで雛菜ちゃんさ、」
「ん?」
「さっき何か言おうとしとらんかった?」
「えあ!?いや、なんでもない、なんでもないよ!あはは」
アラタの問い掛けに思わず慌て、笑いながらごまかした。
そっかぁ、特に気に留めるでもなく、校舎に入る彼の背を見ながら思う。
いつもならこんなこともなく、言いたいことは大体言えるんだけどねぇ.....
さすがにウェディングドレスの撮影なんて誘いづらいよ~.....
はぁ...ひとつ溜め息をついた。
「ウェディング、か。」
「なんだ岩本、お主興味あるのか?」
「そんな訳なかろう。自分達には関係の無い話だ。」
「であるな。かようなことを言ってるうちに本当に一生の無縁になるかもしれぬなぁ」
「ハハハ違いない。」
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「・・・」
ここにも一人、ウェディング撮影の告知を眺め、ドレスに見とれる者がいるが、やがてひとつ息をもらす。
「マツリの場所はここか.....?」
「うわぁ!?て、アラタ君!」
足音を消し、いきなり背後から声をかけたアラタに少女、2Bの加賀美 茉莉は勢いよく跳び上がる。
「わざと気付かれないようにするのやめてくれる!?」
「ハハッ、こんなの見てるとこボク以外に見られたらもっとメンドいことになっとったで。」
「な!たまたま掲示にひととおり目を通していただけ.....デスヨ。」
普段ならなかなか見られぬ様に顔をしかめ、アラタを睨み付ける彼女に、けらけらと笑いながら言葉を続ける。
「まーまー、ボクは茉莉ちゃんなら遅かれ早かれこういうのに食い付くと思っとったし。」
「食いついてない!なんでそう思ったのよ?」
「だぁって、ウェディングドレスってよう(良さとか)わからんけどメルヒェンな感じするやんけ~」
大きなお世話だよ!頬を脹らませる彼女に耐えられず爆笑するためその場でぐるぐると追いかけ回される。
茉莉は厳格な家庭で育ち、誰にも礼儀正しく敬語を崩さない、勉学もテニス部も上等にこなす文武両道の優等生だ。
が、アラタに対して割と砕けているのは、別に彼に懐いたとか、そんな(GFプレイヤー的に)メタフィカルな事情ではない。
元々、始終ふざけた言動で、言ってしまえばクソみたいな絡み方ばかりしてくるアホな彼にまでお高く止まった出方をするのが馬鹿馬鹿しいと悟ってはいたのだ。
その矢先、本屋で、彼女が家族にすら理解されず、学校でも体面を気にして隠していた趣味...所謂メルヒェンや御伽と言った類の書籍を物色していた様を目撃され、どうこう言われなかったこともあり吹切れてしまったらしい。
尤も、事情がどうあれ、聖櫻生が自分に態度を軟化させること自体がアラタの思う壺なのは言うまでもなかろう。
「なんでぇ、出ちまえばええやん。」
「イヤ、ほら、それはアレだよ....」
段々と声が小さくなりながら、アラタに小さく手招きをし、彼が顔を寄せると言い淀みながら口を開く。
「相手がいないし.....」
フッ!思わず勢いよくフいたアラタを何よと睨み付けると苦笑しながら彼は答えた。
「いんやスマンスマン。そんなことかよと。モデル撮影なんやし、ソロで行けや。」
「それは、なんか...勿体ないし。なんか、一人でウェディング着ても虚しいし.....」
「おいおい。なおなおとか見習えや。もっと言やぁかなたさんとかヤーマダかて面白そうとか言ってソロ撮影やでぇ。」
「ほ、本当のモデルとか無邪気な人と比べてどうするのよ。」
なるほど、これがロンリーガールズレクイエムか.....ぼそりと言いながら溜め息をつき、彼は引続き笑いながら彼女に目を向け、頭から足元へと視線を流していく。
「ん~、俺は正直、茉莉ちゃんのウェディングドレス単独写真拝めりゃ夜通しハッスルグォアアアアア!!!!」
言い終わるより先に乾いた音が響き、手を振り抜く彼女の足元にアラタは めり込んだ。
「マ、茉莉チャン.....スマッシュの感覚でビンタ張るのやめてもらえませんかねぇ.....」
「自分が悪いんでしょ、最低な変態。」
冷やかに言い放つ少女に、ビクビクと足を痙攣させるアラタはしかし瞬時に起き上がる。
「ま、冗談は置いといてよ。出たいならボクがタキシード役の臨時引き受けてもエエんだで。」
「馬鹿。キミには私なんかよりやることがあるでしょ?」
へ?呆れる茉莉の言葉を不思議がるアラタだが、ふと携帯電話を点けるとそのメッセージに声を上げる。
「うぉあ、超越不審者反応!ホンマや。ありがとな茉莉ちゃん、じゃ!」
・・・
はぁー、彼が去った後に、彼女はいよいよ幻滅のような溜め息をついた。
「そうじゃないわよ。新垣さんも可哀想ね....」
べーっだ、彼と仲の良い女子生徒を思い浮かべ、彼女への同情も込めて内心アラタに悪態を示す。