困ったなぁ...一向に止まない大雨、屋根の下に居ても跳ねる水にシャツの貼り付く不快感....
帰り道の途中で予報もなかった大雨に遭い、当然傘も無く、避難場所すら見当たらない地点での災難に、どうにか見つけた四阿で待つも、雨は嵐へと変わるばかりだ。
「はぁ、どうしよう...髪にも悪いし。」
「雛菜ちゃん!?」
!!聞き慣れた声に目を向ける....
「あらたん!」
何してんねん、そういう彼の姿もずぶ濡れな上に、所々掠り傷のような痕がある。
大方いつものコトだろうか。
「いやぁちょっと...傘も建物もないところで急に降られちゃってね、えへへ....」
...もっと見る雛菜は舌を出し、苦笑しながらやれやれと手を広げる。
「兎に角、こんなとこおったら風邪引く...ッ!!す、すまん....!」
肩に手を添えるアラタだがしかし、すぐに勢いよく顔を反らし、決まり悪そうに呟く。
?何かあったろうか自分の身辺を見回し、
やがて視線を真下におろす....
濡れそぼって透けたシャツに滲む肌と、淡く色鮮やかな....
「...!!!あ、え、ううん!気に、しないで....!?」
理解するなり顔が紅潮し、慌てて腕で覆うように身体をおさえると、雛菜もぎこちなく返す。
「ああ、おう。なんにせよここならボクの巣の方が近い!ちょいと濡れるけど許してな。」
「え、あらたんの、お家?」
いやイエじゃねぇ、笑いながらも雛菜を横抱きにかかえるとジェットボードに飛び乗って学校へと向かっていった.....
|
|
|
なに、これ?
『そこ』に着いた雛菜は開口一番がこうだった。
尤も、自分の学校の、広いが人の滅多に来ないスペースに散乱する生活感をーー敷かれ放しの布団に乱雑する本や食器類、なんだったらゲーム機まで備わったテレビまである状況を見れば妥当であろう。
ようこそ、やな。アラタが悪戯っぽく笑う。
が、今はそれどころじゃない。
適当にタオルを数本取り出し雛菜に渡すとアラタは階段を下りる。
「んじゃ、拭いときーよ。服は仕方ねぇ。ボクのでこらえてな。」
「えっ、どこに?」
「体育館、シャワールームのドライヤー借りてくっからよ。」
それだけ答えて駆け降りる彼を見送る雛菜は呆然と部屋を見回すがすぐに冷えを感じて身体を拭き始める。
ひたすら水滴を拭い去りながらしかし、やがて胸元に目を向けたとき、再び頬に熱を帯びながらタオルに顔を埋める。
「うぅ......言ってる場合じゃないけど、見られちゃったかなぁ。」
落ち着かない気持ちで思わず座り込むと不意に携帯が鳴り響く。
[雛菜チャーン終わったー?]
「何が?」
[着替え]
「ちょちょっと待ってー!?」
そうだ、ハッと我に帰ると慌ててシャツとスカートを脱ぐがしかし、思わず手が止まる。
あらたんの、シャツを、着る...?
いや、勿論言っている場合ではない。
アラタとはいえ在られも無い格好を晒すわけにはいくまい。
かといって渋っていたら住人のアラタが戻ってこられない......もう!
意を決してアラタのシャツを取ると恐る恐る身体を通し、余る袖から手を出して立ち上がる。
次は...と思うがこちらは難しい。
こうなったら......一計を案じた雛菜が促すと着替えを済ませたアラタはその格好にたじろぐ。
「ちょ、雛菜ちゃんなんやねんそれ!」
ごめんごめん、場都悪く返す雛菜はシャツこそ着ているが下はパレオのようにタオルを巻いただけだ。
「いやぁ、だって......座ったらズボン濡れちゃうし、流石に干しとくわけにも行かないしねぇ......」
「いや、ズボンくらい気にせんから安心せえ。」
「あらたんが良くても、ズボンが湿っちゃったら、ホラ.....」
?いまいち要領を得ないアラタだが、彼女の言いにくそうな様にああと手を叩く。
「パッと見もら「セリャァ!!!」
迅速に雛菜から額に鋏を打ち込まれて倒れた.....
・・・
「実はここに転入したとき、畑山センセ達と掛け合って、非常時に駆けつけやすいちゅうことで居住区にしてもろたんよ。」
「相変わらず無茶言うねぇ~。ずっと内緒にしてたの?」
「まぁヒトに来られたらダルいしなぁ。しかも更には夏騎とかミカドとかあの辺にも言ったことないんよ。」
だからよ、飄々と語りながらアラタは続ける。
「黙認者以外でここ来たのは雛菜ちゃんが初やな、おめでとう.....」
「あっ、そうなんだ。なんか、嬉しいかな。えへへ.....」
そうおどけてながらも彼女は隣でもたれる少年に微かな哀愁を抱く。
「すぐ駆けつけられるようにって.....キミがこの学園のためにそこまで全力になれるのはなんで.....」
そう問いかけた矢先に、肩に少し重みが乗る。
ちらりと見れば彼は項垂れ、寝息をたてるではないか。
確信する、やはりここにいれば嵐が止むまで出掛ける必要ない彼が、ずぶ濡れになって私と偶然会ったのは、つまりそういうことなのだろう。
冷えるだろと体格差故に被せるように着させられたブレザーをぎゅっと寄せながら雛菜も一つ欠伸を漏らす。
土砂降りから解放された疲労感と、この部屋の暖かさからくる安心感が一気に襲ったのだろう。
アラタに頭を寄せ返すようにもたれ、やがて彼女も目を閉じた......
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「畜生、こっちもやられた!!」
「なんてこった、ふざけやがって!」
様変わりした商店街に怒声が響く。
そんな状況を影から笑う男は小さく首を振る。
「俺のシンフォニィが理解できない、哀れなお前達には...ガイアの囁きも届かない.....」
そうこぼす影ーーキャップもシャツも派手な色とりどりの粉末にまみれ、肩がけの鞄にはカラースプレーが詰まった男が踵を返して満足げに立ち去ろうとする矢先だった。
「へぇ、俺は好きだけどね。」
!?慌てて振り返ると黄色いジャージの男が飄々と笑い歩み寄って来る。
思わず鈍い汗を垂らし、反射的に適当に掴んだスプレーを突き付けた。
「通報か......?」
「まぁーさか。君の作品、気に入ったよ。その才能、俺達と組めば絶対開花する!」
何!?予想外の言葉にたじろぐ男にニタリと笑むとアタッカは更に詰め寄る。
「自分の力をもっと面白いことに使えんだよっ?」
フフッ、フ......しばらくひきつるように笑っていた男だが、やがて一息つくとスプレーを納めて自ら相手に近付く。
「ノったぜ。赤色、青色、俺色.....さてどれにするぅ?」
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
.....寝ちゃったみたい.....雛菜は目を覚ますと肩を伸ばす。
そして、何気無く窓から景色を見上げ
「晴れたァアァアァア!!!」
「うわあ!?ちょっともう! 」
突然隣で跳ね起き開口一番に叫ぶアラタに怒りを見せる。
「イッヤー長い雨もやみ、夕方近いけど気持ちの良い晴れ空になったなぁ~」
「うん、まぁそうだね。そうだ。その.....ありがとっ。」
先程出会ってここに来てから言っていなかった言葉を思い出し、微笑む雛菜にアラタも笑う。
「気にすんなって.....せや、銭湯行くか。ホラ、伊吹ちゃんの。」
え?突然の提案に首をかしげる雛菜にアラタは続ける。
「まだ拭いただけで冷えるしよ。服も粗方乾いとるからついでにランドリーでとどめ刺そうぜ。」
ほらよ、投げ渡されるズボンをしかし、首を振って返すと干したスカートを手に取る。
「いいよ。それくらいの距離ならこれで大丈夫。だからほら、先に行った行った。穿き換えるんだよ?」
そうかよ、待つこと程なくして来た雛菜と校門を潜り二人は商店街へと向かっていった.....
EP23ーー E N D ーー