[ようこそ、本日はYAKATAカンパニーにお越し頂き、誠に感謝申し上げます。]
!?不意にひとつの壁に張られるスクリーンに一同が驚きながら振り返ると、ひとつの影が事務デスクのようなものに腰掛け軽く手を振っていた。
影、とは人影ではない、文字通り存在そのものが影で構成されているような.....いうなればアラタが日頃相手にしている、超越不審者の添え物の群と同じ姿ーーしかし決定的な違いが二つあった。
ひとつ、群もといヤカタトルーパーと違い、彼にはこちらから認視できる眼がある。
そのお陰で表情が豊かなようだ。
ふたつ、
[あっ、ご紹介申し遅れました。私、当『YAKATAカンパニー』執行部の『ワイズ』と申します。]
喋った。
トルーパーは言葉も発しないが、コイツはわざとらしく気取った語調を利かせてにっこりと微笑むではないか。
...もっと見る「YAKATA?執行部?どういうこっちゃ!?」
んーー、指で軽く顎を突いて何かを迷いながらワイズは返した。
[本当は言うべきじゃありませんよねぇ。ですが.....君のことはマスタージーニアスから色々とお訊きしました。]
「な、なんやて!?」
「ですから、アンフェアの解消として少しだけ、お教え差し上げましょう。聖櫻学園高等部二年生、弊社お客様を次々手に掛けている『和泉 アラタ』君?」
なっ!?身構えるアラタをいなしながら、彼は引出しから原稿を取り出した。
ーー弊社『YAKATAカンパニー』は顧客の"心"に寄り添うビジネスでございます。
お客様の抱える悩みの解消願いの成就、そのために我々『執行部』がプランを立て、社員めらには実行に当たってのサポートを担ってもらい、成功させるのです。
.....マスタージーニアスもねぇ、色々悩んでいましたが背中をお押しさせて頂きましたところ、めでたく私達と歩んでくださったのですよ。ーー
尤も.....懐から出したチップに顔をしかめるアラタを気にせず奴は続けた。
[私は自分で言うのも難ですが執行部ではブレインで通ってましてね、的確に動いて頂くためにこちらの『ヒュプノスプログラム』は組み込ませて頂きました。]
「テメェ......!」
[あっ!!今少し期待する顔してましたね!?]
はぁ!?たじろぐアラタを楽しそうに指さしながらワイズは笑って言葉を続けた。
[ざぁんねんっ。私めらにジーニアスが就いたこと自体は間違いなく彼自身の意志、志願です。そのうえで心変りとかされては厄介なので念押しに埋め込んだんですよぉ!ですから、単純に勝つとか倒すって問題ではございませんよねぇ?]
歪な本性を顕すように眼を見開き、
「そんな、ヒドイ...!」
「この野郎.....」
[愉しいものですよ、期待した人間を突き倒すのは。私からの等価交換は以上です。迎えが来るまでお待ちください、では.....]
抗議する雛菜とアラタを嘲るなりプツリとモニターを落とす様を見届けると、雛菜たちは心配そうに少年を覗き込む。
「あら、たん.....?」
「・・・」
「アラタちゃん....」
きっと大丈夫、そう諭す婦人になお、無言で俯いたままのアラタはふと立ち上り、一言放つなり、
「雛菜ちゃん、もう帰った方がええ。奥さんも、御主人も......」
「え、帰るって、どうやって...?」
その言葉を待つ前にドアの反対側ーー恐らく外壁であろう方向へ進み、すらりと木刀を構えた.....
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「あー面白かった。」
「........」
ブリーフィングルームで眼を細めながら席を立つワイズはいやはやと手を叩きながら口を開く。
「実に素晴らしい。チカラを引き出したオキャクサマを2名、けしかけておけば疲弊くらいするだろうとは思っておりましたが.....まさかここまですんなりと進むとは......」
流石ですね、無言で佇むジーニアスに微笑みかけるもしかし、彼は興味無さそうに目すら向けてこないようだ。
「.....ヒいたな。まさかあそこまでやるとは。」
「うん、ヒいた。でもマッ、これくらいやってくれるのは嬉しいかなぁ。」
ヘルメットの上からもその苦々しげな表情が伝わりそうな語調のロウダーに対し、苦笑しながらアタッカが頷く。
「.....で、これからどうするんだい?」
ん?軽く笑いながらワイズは応じた。
「ああ、彼の審判を貴方に任せます。『Yes』ならめでたく和解を、『No』なら最期の絶望を......ね?」
そうか......窓の外、トルーパーのトラックが入っていく様を眺めながらジーニアスは思い出したように向き直った。
「それはそうと。わかっているね......?」
あっ.....どこか気まずそうに横目を向け合うロウダーとアタッカをよそに、
「...まー、ヤクソクですからねぇ。勿論ですよ。」
どうぞ、懐から鉱石の塊のような物を取り出すと、それをジーニアスに手渡す。
「一先ず、ジャマモノを叩き伏せたので報酬でございます。」
「・・・ありがとう。」
「ニッシシ、意外と思いきり良いんだねぇ。もうちょい渋るかと思ったよ。」
「約束なんですから、当たり前でしょう。では、引き続きお願い致しますね。」
悪戯っぽく笑うアタッカをいさめ、手を振るワイズに同じく振り返し、ジーニアスは部屋を出た.....
「・・・・・」
ーーーーーーーーーーーーーーー
「......っおお!!」
「うわびっくりしたぁ!」
携帯で起動していた何らかのアプリで赤いランプが点ると、しろかが勢いよく飛び上がる。
ホントにどうしたの??もはや心配そうに訊ねる鞠香に彼女は先程までと変わって上機嫌になにやら支度を始めた。
「なーに、ちょっと出掛けてくるよー。」
ど、どこに?その言葉に何故か黒いハットとスーツ、サングラスをかけ拳銃を構えるとしろかは不敵に口角を曲げた。
「私はこれからね、シマをひとつ潰す悪党になる......」
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トラックの止まった裏口から、中で箱を積み終わったトルーパー達が出ていくと、最後に出た者はどこかそわそわとしながら施錠をし、社内に戻る。
なにか怯えるように周りを窺うトルーパーは、数階散策し、適当な手洗い場を見つけると、本来自分には無縁な空間へと入っていく.....
「......!!!」
緊張しながらトルーパーは懐から何かを出した。
紅黒く艶気がある物体は、歪ながら丸みのある、まるで果物のようだ。
緊張を通り越し、興奮の域に入りながらそれをしげしげといじっていたトルーパーはやがて、意を決したように口を開け、まさに齧り付こうと手を運んだ.....
「おっと、何やっているんだい?」
「!!?」
急に腕を掴まれ、奴は狼狽え、そして自分をぼんやりと見下ろす赤い光に振り返った。
「勝手なことは、赦されないんじゃなかったかい?」
......ワタワタと焦るトルーパーがどうにか打開を考えていると、突如けたたましいブザーが響いた。
[警報!空部屋No.XXXで破壊活動アリ!!]
その声に驚く赤い光は一瞬手を緩める、トルーパーもそろりと腕を外そうとするが、すぐに先より強い力で掴み直され、こちらを見据えてきた。
「....!!......!!!」
焦燥、恐怖、汗、あらゆる感情がぬるりと全身にまとわりつき、トルーパーは思考もままならず小刻みに震えだす.....
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
何度も何度も木刀で壁を打ち、最後に勢いよく一刃を繰り出すと壁が崩れ、その間に呼び寄せたジェットボードに雛菜達を乗せたアラタは言う。
「オートムーヴや、安全なとこで下ろしてくれるから安心しぃ。」
「えっ、あらたんも行かないの?」
ああ、心配そうに見つめる雛菜に彼は笑う。
「ボクにはやらないかんことばっかやしな。安心せぇ、りょーやさんも、この状況も、なんとかしたら帰るわ。」
「雛菜ちゃん?」
「う、うん.....気を付けてねっ!」
耳障りなサイレンの中、遠ざかるボードに軽く手を振ると一息吐き、近付いてくる足音に眼を閉じ、軽く首を振ってから覚悟を固めた.....
「やぁ、和泉クン。随分と暴れまわってくれたねぇ?」
気さくに手を振るジーニアスの背には、ヤカタトルーパー達がゲバルトのような出で立ちで威圧をかけているようだった。
「ッたりめーよ。これから始まること考えりゃ、大切な人らにはもう帰ってもらわんといかんしなぁ、りょーやさん?」
「ほほぅ、逃げないんだねぇ。決心はついたのかい和泉クン。サンはいらない.....」
「あんたはチカラ欲しさにYAKATAに飛び込みよった。ならもうボクの選択はただひとつ。」
つかつかと歩み寄り、ジーニアスの前に立つと深呼吸をひとつ、アラタは振り絞った右拳を一気に彼の頬に飛び込ませた。
「ッーーー!」
拳圧のままに倒れ込み、頭から叩き付けられたジーニアスは頬をさすりながら、マスクの裏で笑い、起き上がる。
対するアラタも迷いなく、ニッカリと笑っていた。
「フフッ、それで良い.....流石だねぇ和泉クン。良い答だ。さて、と.....」
始めようか。開いた右掌の孔にエネルギーを集束しながら軽く首を回すと、ジーニアスは横目に見ていた後ろのトルーパーに呼び掛けた.....