女子生徒を口説きに学園の行事をたびたび荒らし回る不審者。
その糸を引いていたことが明るみに出た謎の裏企業
『YAKATAカンパニー』
そんな悪意渦巻く世界を鎮静すべく、「聖櫻学園」に転入してきた一人の男子生徒「和泉アラタ」。
時に頼もしき者達と交流し、時に知らぬ世界から肥大した恐るべき闇と向き合い、彼の闘いは激化していく....
「たすけて!マイヒーロー」を題材とした青春レイドシリーズ(?)7月、8月、9月編収録。
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※今作は、かなり些末的な部分だけではありますが、「魔法先生ネギま!」との微クロス要素があります。
あらかじめご了承ください......
※
「あーもしもし、アタシやけど....なんかちぃとおもろいことになってきたわ。それでな.....」
不意に聞こえた声に耳を向けた先のベランダに入ると、日々喜が携帯片手にニヤつくではないか。
「んま、そういう訳やから。夜頃には準備頼むでー。」
「姐やんどったん?」
わお!驚きながら振り返った日々喜は軽く手を振って笑った。
「なになに。ちょいと友達と電話しとってなぁ。せっかくこんなとこに来たんやから自慢したろ思うたんよ。」
そーかい、拍子抜けしたアラタがふと顔を上げると通りがかった男ーー雅彦が見つけたと言わんばかりの顔をして寄ってきた。
「やぁアラタ君。調子はどうだい?」
...もっと見る「金ちゃん館長。まぁ色々聞いとるけど謎は深まるばかりやなぁ~。」
そうか.....雅彦は一息ついて続けた。
「すまないね。実は君が助手として連れてこられるというのは割と直前でね、志藤君が呼ばれていない者を同伴すると聞いたとき、共犯かとどこかで疑っていたんだ。」
「ま、まぁまぁホラ。言うたら勝手について来てネームバリューで居座っとるアタシも充分怪しいしなっなっ?」
そうなん?アラタが言うと気まずそうに日々喜が割って入ったが彼は続けた。
「でも、君がセレスティアについて訊ねた純粋な眼。アレを見て君が本当に詳しく知らずに来たって解ったんだ。ごめん、コウノトリ。」
ブッ!瞬間、アラタが爆笑しながら雅彦の背を叩くと気さくに返した。
「いんや気にすんなや。友達が危ない目に遭わされたって時や。コウノトリって、ウヘヘヘ....」
待てよ...笑い合う二人に呆れる日々喜、次に聞こえた渋厚な声はレンだ。
「和泉が依頼状読まなかったからって、シドーの野郎がセレスティア狙いじゃないとは言えねぇぜ?気紛れな奴なんだ。」
「そうかなぁ?ボクはりょーやさんがそんなん欲しがるとは思えへんのやけど。」
「私情を挟むな和泉クン、確りとした根拠を以て説明するんだ。サンはいらない。」
自分でやればエエのに...ふらりと領也が現れて言うと肩を竦めアラタは面倒臭そうに言葉をまとめる。
「そもそもよ、和泉にゃ依頼状が出てねぇ筈だ。シドーが渡したのは手筈でも書いてあったんじゃねぇのか?」
え?
レンの言葉に目を円くしたのはアラタ自身だ。
今一度懐から依頼状を取り出して目を通すと、一層驚きの表情を浮かべて瞬いた。
「うっわホンマや。りょーやさん宛になっとる...」
キミホントに読んでないんだね!?むしるように頭を掻いて呆れる領也に笑って誤魔化すと
「アッハハじゃないよ!」
「それに、事件起きたんは6/XXやろ?その日はしろかと実験しとって遊んでくれんかったからなぁ。」
実験?レンの問い掛けに答えたのは領也自身だった。
「うむ。敵のチカラについて色々と、ね。おまけにあの日はまだ感電から退院したばかりであまり無茶には動けなかったよ。」
「そやそや、ずっと家おったわ。何回電話でもーいーかいしても二人して拒否られたし。」
なるほどな...根拠として強いものは無いが一応長い付き合いだ、信じてみるか。
最後に、レンは前置きを付けて再び口を開く。
「そもそも、なんで和泉を独断で連れていこうとしたんだ?」
ああ、領也は手を叩くと不敵に笑って返した。
ーー元々はワタシだけのつもりだったんだ。
でも、もしかしたら超越不審者が絡む可能性と、状況的に冷静な対応が求められるであろう事態だ。
和泉クンは割と突っ走るタチだからねぇ、こういう場所で思考を鍛えるのもある意味修行かと、前日近くに思い付いて同伴させたのさ。
「はぇー、突っ走る、なぁ...」
ご協力感謝しているよ、笑いながら締めて去っていく領也に複雑そうに笑うアラタ、と、今度は日々喜が強気にレンを指した。
「さぁ、アホタの誤解は解いたんや。にーさんもこの際やし経緯言うてくれへん?」
ん?ああ。それもそうかと壁にもたれ、彼は口を開いた。
ーー俺は元々5月にここの募集受けててな。
そん時は『セレスティアはじめ家宝の保管庫を一新するための工事における護衛、警備』だったんだ。
まぁその縁で今回もどうか呼ばれてな、稼ぎが良いからノッたっつぅ訳よ。
それは私も保証するよ、雅彦がレンの肩を叩いて言葉を繋ぐ。
「確かに彼はお連れさんと一緒に来てたよ。その時の工事は無事終わり、様子を見ていた私も安心していた矢先であの事件だ。あの日付の紙で怯えていた竜斎が心配で今日もこうしてきたわけさ。何か役に立てるつもりも無いがね。」
「金ちゃん館長、ナーバスな時に寄り添えるヤツが一番嬉しいもんやで。」
「アラタ君...」「館長...」
「つぅか、豊永こそなんで来た?」
アタシか、妙な空気の二人を放って得意気に胸を反らせると日々喜は前に踏み出した。
ーーウチのホテルでウェイトレスの服がスゴくエエとこあったから無理言って着させてもろうてたんよ。
んで、一緒に働いとったら丁度オーダー持ってった席がアホタでな。
話聞いたら面白そうやったしついでについて来たんよ。
依頼状無いけど身分証明したら入れてくれたわ。
「いや...ザル過ぎねぇか?」
「まぁ、ここのセキュリティ建築携わったのウチらしいしな、そこは信頼してくれとるんやろ。」
ああ、そういうことか...納得したようにレンが頷いた。
※
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「よぅ、儂じゃぁ!久しいのぅ!実はちぃと手を貸して欲しくてな.....」
「おっ、クイック!」
アラタ、何やら笑いながら電話をかける鬼ヶ島の横で見かけた彼の姿に駆け寄るとアラタは切り出した。
「なぁ、色々話してたんやけど、ちょいと気になることがあってな。」
数秒受けた耳打にほぅとクイックも少し驚くと、ニヤリと笑った。
「実は俺も気になっていたんだ。」
「キミ色々詳しいみたいやしさ、なんか掴めるかな思うたんよ。」
「OK、任せておけ。じゃぁ、夜にな。」
気取ったウィンクを見せて笑むクイックに笑い返すと、アラタもニッカリとサムズアップを向けて別れた.....
「でもぉ、なんか忘れとるよーな......?」
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「念入りに締め切った社長の家。判ったぞぅ!つまり今夜事件が起きれば犯人はッ、この中にいるッ!!」
そらそーや、日々喜が呆れながら呟いた。
夜のミーティングルーム、警備に回っている鬼ヶ島とレン、メイドとして勤しむセラを除いた立会人達が並ぶと、状況整理を始める。
少なくとも今回のメンバーに動機が見当たらないこと、警備員とメイドが経験した人数が合わない現象。
色々纏めていく中でアラタが口を開いた。
「やっぱり何か強行突破か紛れたかしたんやないの?」
「いや、状況からしてそれはあり得ないんだ。」
切り出したのは優都だった。
ーーここのセキュリティはうちの警備会社とトヨナガの協力で造り上げたモノでね。
当然、無理に塀を破壊したり上空から乗り込もうモノなら宝物館とは別に問答無用でサイレンが鳴るんだ。
よし、断言しよう!!
一旦集まったミーティングルームにて、開口一番の声に視線が集まる。
得意気にパイプを吹かす智大はひとつ咳を払い、真上に挙げた指をそのまま垂直に下ろしビシリと突き付けて言い放った。
「狙われたのはっ!ズバリ、"セレスティア"だッッ!!!」
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EP28「Mystery Ballet『Debate』
~Enigma Labyrinth~」
アホか、やれやれとため息を洩らしたのは日々喜だった。
「今そのことについて話をまとめて行くんやろ?」
「イヤー、すまないね。前回(サッキ)までタイトルでしか言及されてなかったから一応と思ってね。」
ハハハと頭を掻く彼に一同も思わず苦笑する。
なぁ、次に口を開いたのはアラターー一連のやり取りで一人表情も変えずキョロキョロと見回していた少年だ。
「セレスティアって何や?」
・・・
智大に呆れていた彼らの大半が、今度こそ勢いよくその場でズッコけだした。
「和泉クン、依頼状読んでないのか!」
「読んだよ?前置きが長かったからとりあえず力を貸してってのは把握しとるわ。」
オイオイ....叫ぶ領也の言葉にキョトンと返すアラタを一瞥したレンが肩を竦めた。
「アホター、セレスティアくらい今回完全部外者のアタシかて知っとるで。」
「やれやれ、俺が解説してやるよ。」
日々喜のヤジに続けてクイックが立ち上がると指を弾いて言葉を続けた。
ーー『セレスティア』
正式名称は『人魚の涙』
紅く艶やかな輝きを放つ宝珠の原石だ。
海底で長年眠り続けたソイツを買い取った竜斎社長の命名であり、海底にあったこととその神秘的な光沢に由来している。
海外に紹介される際に訳された
『 Seiren's-Tear(セイレーンズティアー)』
から半ば略される形でセレスティアと呼ばれるようになった訳だ。
「俺が主人だったら迷いなく雅さんに捧げたい逸品だねぇ。」
「なるほど、つまりあんさんにはセレスティアを狙う動機があると。」
なッ!?流すように呟いた日々喜の言葉に視線が集まるクイックが思わず方をすくめる。
「馬鹿を言うな、雅さんは堂々とされている御方だ。奪ったモノで喜ぶ筈がない。打倒鳳と息巻くキミならわかるだろう?」
ステイステイ、静かなる熱気に苦笑しながら手で制すると日々喜は返した。
「ほんなんジョーダンに決まっとるやん!『ボケる勇気、ツッコむ優しさ』言うやっちゃ。」
・・・悪趣味だ。少し熱が籠ったか、苦笑するクイックにしかし日々喜は悪戯っぽい顔を戻さずまた口を開く。
「でも、久仁城のハートは宝石くらいでオチんで?」
「そうじゃないんだよ、俺があの方にそうしたいだけだ。」
なんだって良いよ!ドンと机を叩いたのは本件依頼人、社長・竜斎だ。
「ワシは犯人探しがしたいんじゃないしなんでも良いから人魚の涙の護りを固めてくれぇ!」
ジタバタ机を叩いて泣きそうな声を上げる彼にふざけすぎたかと反省し、その場は一旦解散となった。
ーーーーーーーーーーーーーーー
「・・・」
ズカズカと巡回をする男ーー鎧戸ガイは淡々と辺りを見回して歩を進めていたがやがて、後ろから迫る気配に気付き、飛び込んで来た脚にガードを取った。
うりゃぁ!蹴り込んできたのはアラタだ。
応戦するように固め技を掛けようとしたガイをひらりとかわし、更に迫る拳を拳で叩き返す。
「ちょっと!何してるんですか!?」
かわされるも横からアラタにハイキックを見舞い制した巡査・楠葉が声を荒らげると悪びれる風もなくアラタは軽やかに笑う。
「いっやーボディガードの鎧戸さん、鬼ヶ島警部が強い強い褒めとったからどんなもんか試したくてなぁ。」
「警部がやってたの腕相撲ですけど!?」
アラタにツッコむがしかし構わず少年はガイに目を向けた。
「しかしホンマ強いなぁー。ところであんたボクの方見てビックリしてたっぽいけどアレなんで?」
・・・フン、一息洩らすとガイは口を開く。
「お主には関係無いことだが。お主の軽薄そうな態度と裏腹にデキる気配を感じ取ったまでの事よ。」
へぇー、彼の応えに舌を出してアラタは得意気に笑うが彼は厳かな無表情のままだ。
「ハハッ、褒められてしもうたー。」
「いつ来るか判らぬのだ。気を抜くな...コ、小僧。」
一瞬 引っ掛りを抱き 神妙な表情を出すがすぐにニッと笑って手を振りながらアラタは去って行く。
※
「ほほう、八人でそれぞれ一階と二階に別れて手洗、浴場、居間、応接室、会合室、庭園、門付近、社長の自室付近...と。」
浮かない顔で当時の同僚と振り返りをしていた庵とセラの話に、智大はメモを記して相槌を打つ。
「で、居間の付近で俺とセラさんが出くわして危ないから送っていこうとしてたんすよ。」
「なるほど、つまりは偶然にも全員、位置関係的に芳村が近かったから一番に来られただけで特別宝物館に近い奴は居らんかったわけじゃのぅ!」
はい.....ですが、庵は心配そうに鬼ヶ島を見返し、話を続けた。
「なんか皆妙に食い違うところがありまして....当時の連中に召集かけたら2,3人くらい九人いなかったかって。さっきのお話通り集まったのも八人なんですけどね。」
え!?驚いたのはセラだ。
心なしか顔も青く見える。
「芳村さんも、ですか....?実は私もその日のメイド内の担当では買出しでお昼頃四人で行った筈なんです。でも、二人が五人いたようなって.....」
でも!首を振り先程のメイド会合を思い返すと力強く言った。
「確かに全員本来の持ち場に着いていたのは確認できたんです!」
「花井さんまで!?どうなってやがる...」
「うええ、ここに来て幽霊騒ぎですかぁ~?」
ゲンナリと愚痴る楠葉と汗を滲ませる庵の脇でノートを取りながらアラタが首をかしげる。
「警部殿。」
「んん?オメェさんか。」
と、鬼ヶ島が振り向いた先にはクイックだ。
こちらへと彼が呼ぶと二人は居間へと歩いていった。
「そうだ、そん時変な紙が残されてましてね?お巡りさん持っていてください。」
庵が楠葉に差し出した紙を眺めると、
「どれどれ?」
「わ、ちょっと志藤さん!」
彼女の後ろから伸びた手がするりとメモを取って一頻り眺め出すと小さく笑う。
「サンはいらない。コレは和泉クンの方が良さそうだ、持っていたまえ。」
勝手なことをと顔をしかめる楠葉をよそにアラタも目を通した。
デカデカと書かれた『Y』一文字の脇に線で潰された『20XX.6/XX』の表記と書き加えられたのであろう『20XX.7/XX』の表記。
後者が今日であることを考えると前者は事件当時だろうか。
「なんやこれ」
少年は首を捻る。
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どうやらクイックは最悪の事態を想定して人魚の涙のレプリカを作製したらしい。
手口としては何の変哲もないガラスの塊と....
「いやはや驚いたわい。特晶班にはどんな大層な技術師でもおるんかと思ったら、こーんなちみっこい奴なんじゃからのぅ。」
鬼ヶ島が感心しているのは掌におさまっている自動車のミニモデルーー楠葉が補足するには『カラフルコマーシャル』という特晶班所属の者らしい。
彼(?)は精巧なホログラムを生成する力を有しており、鬼ヶ島の要請に応えてガラスを伴ってやって来て、後はクイックの懐からガラスに人魚の涙のビジョンを被せることで敵を欺いた、ということだ。
「いっやー、いきなり荷物に擬態してクイックさんに渡すなんて怪しまれないかとヒヤヒヤしましたが....流石です!」
「ふふっ、貴女は経験として同行したというのに簡単に眠らされてしまったようですがね。」
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な!?苦い顔をする楠葉と同じく、乾いた笑いを浮かべた警官ーー堀壽も鬼ヶ島の部下で聖櫻の交番に勤めているらしい。
というか....
「そういや春頃酔っ払いのおっさん届けた時対応してくれたのって。」
「はは、気付きましたか。」
なんとなく思い出すと悪戯っぽく笑いながら彼は手を振り返す。
「しかしまぁ今回は皆お疲れじゃったのぅ!どうじゃ和泉、志藤。どうせ聖櫻なら乗せてくが?」
「うーん.....いや、ボクは旅半分電車で帰ろかな。」
「そうかい。ワタシはお願いするよ、少し寝かせて頂きたい。」
「では、ご協力ありがとうございました!」
「また聖櫻でお会いしましょう。」
領也が乗り込むのを確認すると三人が軽く敬礼をし、発進させたパトカーに軽く手を振って見送る....
※
「なるほどなぁ、この子がアツんぐぅ!?」
まじまじと興味津々に眺め回す少女、アネットが何か言いかけるが慌てて日々喜が口をおさえて苦笑する。
輪田優都達の属する警備会社は彼女の家系の唐澤グループのスジらしい。
「アハッハ、どうや、やっぱアホタ強いやろ~?」
「なるほどなぁ、日々喜はんが楽しそうに話すのも納得やわぁ。」
日々喜とアネットが何やら絶対言うなだのまだだの言い合う傍らで感心する八重、その三人の昨晩の立回りを思い返したアラタはふと何かを思い出す。
トゥナードの風を逆用して纏い拳を叩き込むアネット、流れるような鉄扇の動きでアタッカを制する八重、そしてハリセンを剣のように豪快に振るってロウダーの突進を打ち返す日々喜。
数日前聞いた通り、彼女らは関西でもトップクラスのハンターらしい、ならば....
なぁ姐やん達、改まった切り出しに不思議そうな顔をする三人に彼は口を開く。
「ボクのダチに強いハンターがおるんやけどさ、ソイツここ数ヵ月色々大変なことになっとるみたいなんよ。やからもしかしたら三人にもお世話になるかもしれへん、そん時はよろしくな....」
三人、顔を見合わせてからアラタに向き直ると小さく微笑み、ポンとアネットが肩を叩いた。
「まかせとき!私らスカーレットカメリアの実力、見せたげるからな!」
「せやせや、アタシらを誰だと思っとるんや。」
「まったく、また面倒ごとに乗っかってしまうんやさかい....」
じゃあそろそろと向き直ると車を用意した優都が溜め息を吐く。
「和泉君、今回はお嬢様の我儘に付き合わせてすまなかったね。」
「あっ、あーまぁボクも勝手に連れてこられたんは一緒やし、それに、姐やん達のお陰で助かったからあんまり言わないどいてな?」
「ありがとぉアラタちゃん!」
「ほらな、アホタも言うてるんやしぃ。」
「図に乗らない。」
八重から扇で小突かれる二人に頭を掻くと優都は返す。
「まぁ、今回は三人がいらっしゃらねば難航した部分は大きい、そういう意味では結果論とは言え日々喜様にもアネット様にも八重様にも感謝します。が....」
今一度顔を上げ、じとりと見据えながら彼は続けた。
「各位社長や家主より叱られても庇い立てはできませんよ?」
「まあそれはええわ、じゃ輪田ちゃん安全運転お願いな。」
「アラタはんもお元気で。日々喜はんがお世話になりました。」
「八重ちゃんが言わんでええやん。ほなねー、また落ち着いたら会おうな、友達のことも任しときー」
あの三人ならナツを託せそうやな、車が遠ざかってから力強く満足げにアラタは笑った....
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とはいえ....
[なぁ、やっぱ妙だと思わないか?]
[まったくだぜ、改めて考えると茶番も良いとこだ。]
帰ってからもクイックとレンはどうにも今回のことが気になるらしい....
「うーん、そんなにか?いつものYAKATAと不審者って感じやったけど。それにしてもあの人が、なんてなぁ....」
[大体よぉ、鎧戸がアンタを知ってるならなんで計画を中止しなかった?]
[そうだぜ。むしろ俺達が異常無しで解散した後に一気に攻めた方が争奪計画としては上手くいった筈だ。]
!?言われてみればそうだ...なにもなければ皆帰るなら無理してあの状況下で派手に攻めてくる必要もなかった。
[加えて、明川探偵は正直そんなにPAとして強い印象じゃなかった。それこそ探偵という肩書きだけで同行する意味があったのかも俺にはわからん。]
[ハハッ、下手すりゃアイツ通さねぇでロウダーつったか、アイツら辺が直接持ち逃げした方が成功したんじゃねぇか?]
違いない、レンの軽口に笑い合うクイックだがしかし、やがて真面目な声で話を戻したレンにアラタも神妙な顔をする。
[もしかしたらよ、YAKATAの連中は超越不審者供がチカラを振りかざして暴れること自体に意味を置いてるんじゃねぇのか?]
「え...?なんやその怪獣が出てこそヒーロー番組が成り立つみたいな」
[アラタ、真面目な話だぞ。なるほど、真意は解らんがカジツに含まれるエネルギーの発散、か...?]
「そう言えばYAKATAの奴ら、中途半端にPAを助けようとしないこともあったなぁ。」
物思いに耽る三人だがやがて、今しばらくは良いかと肩を緩め通話は解散となった。
続けて来ていた不在着信に繋ぐと、今度は少し懐かしささえ感じる明るい声がスピーカーに響いた。
[あらたんお疲れ!ヒトコト見たけどもう帰ってきたんだよね?その....良かったら夕飯一緒に、どうかな?]
「ん、なんでまた?」
[いやぁほら、今日お父さんもお母さんも遅いし、それに....『約束』のこともあるから、ね?]
「......はは、せやな。」
「ありがとっ、待ってるね!」
約束....ふとその言葉を思い出し、緩く笑うと彼女は嬉しそうに礼を言いながら通話を切る。
さてと、立ち上がるなり今日貰った報酬金を探りだす。
結局竜斎は人魚の涙が手元にあるならなんだって良いらしく、あれだけの襲撃を受けながら元の提示額を変動しなかったようだ。
気前が良いにも程があるとは思うがまぁありがたいことだ、どういう系の店がすきなんやろ、そんなことを思いながらアラタは学校を出ていった....
EP29ーーE N Dーー
とろろ昆布....意外と趣味が渋いんやな、そう思いながら味噌汁を軽く飲み、他のおかずも程好い味付けで堪能していると向かいで雛菜が嬉しそうに微笑む。
「どう、かな?」
「んっ、旨いわ。どっか行くんか思うたら、わざわざありがとな。」
「ありがとう。まぁそりゃそうでしょ。」
「え、そうなん?」
「そう。」
そっか....でもま、雛菜の言葉に笑いながら答える。
「まぁ拍子抜けはしたけどさ、やっぱ高いホテルだの料理だのってのはどうにも馴染まんよ。こういう普通の飯がボクは一番好きやな。」
「ッ!あ、ああ、うん。その、ありがと。えへへ....」
?不意に気まずそうにはにかむ彼女を不思議がりながらも、暫くは平和な談笑と夕飯を楽しんでいた....
※
「"探 偵 ・ 明 川 智 大"さんよぉ。」
これが俺達の答えさ、ニッと笑いかけられた男ーー智大は暫く呆気に取られていたがククッと笑い返しながら口を開く。
「おっとぉ、コレは一体なんのミスリードかなぁ?箇条書き的にそれらしいことを並べ立てれば素人は納得させられるけど、結局それは全て推測じゃないか。確固たる証拠には至らないね。」
その通りだ、肩を竦める智大に意外な程清々しい言葉をクイックが返す。
「あくまでも推測だからな。貴方が犯人と仮定して、もしそうならトンだミスをしてると教えに来たんだと言ったのさっ。」
「はっはーん、さては負け惜しみかい?mon-ami(※盟友)」
そう気取るも、クイックが渋らずに得意気に見せつけたモノをみると智大は驚愕した。
...もっと見るバカな、何故それを!?慌ててまさぐった懐から取り出したソレが確かに手元にあるのに向こうにも.....
「実は俺は前もって社長から本物を隠し持っとけと言われててな。俺に言わせりゃアンタこそなんでそんな偽物持ってるんだ?」
「......なっ、あっ、あーっ!!」
嵌められた、今更気付くも仕方ない。
目の前の少年が持っている『本物の人魚の涙』を奪い取ってこんな場所からは退散させてもらおう。
「フンッ、『僕の心を盗むと言う、罪を犯してしまったね。』そう言いながらいつか巡り会える素敵な助手にプレゼントするためにこの人魚の涙はうってつけだったのさ。そして僕は助手と幸せなディテクティヴライフを満喫する最高のプランがあったんだ!」
「......宝石で靡く女って虚しくないか?」
「僕に解けないのは乙女心だけさ。それを知るために色々と試すのは当然だろう?」
「いやぁ、あんたもうだいぶオッサンだし難しくないか?あとさ....」
溜め息を吐き、クイックは智大の足元に指を向け....
「流石にスケボーはアウトだろ!」
彼の言葉の通り、智大が高速道路を疾走していたモノ....それは異様な威力で爆走するスケボーではないか。
「僕に不可能は無いっ!いつかはこのスケボーで、助手とドライブするためにチューンアップしたのさァ!大体走って追い付いてるキミも異様だぞ!?」
ずっと気になっていたのであろうクイックの言葉に智大は得意気に笑う。
「フッ、脚には自信があるんでねっ。あと意味わからんしとにかくスケボーはダメだと思うぞ。」
「なんだって良い、君が持っているセレスティアを今度こそ頂くよ!バーティツ!」
どこからか杖を取り出し、クイックに迫って一気に突き付けると彼も負けじとかわして脚を振り抜く。
「そんな実態もいまいち不明瞭な体術が効くか!」
「うぉ!?ぶって良いのは、その覚悟がある奴だけだ!」
バランスを崩した智大が声を荒らげながら右手を突き出すと、ブレスレットから一筋のエネルギーが勢いよく射出された。
[アカン、クイック避けろ!]
言われるまでもない、身を翻し次々と射ち出されるエネルギーをかわすと、得意気に笑ってクイックは再び口を開いた。
「アラタから聞いた話と今の状況から見てわかってるぜ?ソレ、催眠効果あるんだろ。」
襲撃したウォリヤに鬼ヶ島が対応している間に狼狽える竜斎達を昏睡させ、その陽動の傍らでトルーパー伝てに人魚の涙を受け取って逃亡ーーあの状況下で彼らが眠り落ちていたのはこのようなトリックなのだろう。
「ったく、スケボーどころか催眠弾とは、ふざけてるにも程があるぜ!ん.....?」
後方から響く騒音に目を向けると巨大なタイヤが荒々しく転がりながらこちらに向かってくる....更にそれを追って阻もうと滑空するジェットボードに乗るアラタに、主導のロウダーが声を荒らげた。
「ハンッ、ここまで来てお前らなんかに負けるかよ!」
「お前らの相手はボクがしたるわ!」
[すまねぇクイック!連中逃げやがった。]
[和泉君は追ってくれたが心配だ。私が車を!]
[その心配はあらへんで!]
?優都とレンに口を挟んだ日々喜が得意気に笑う....と、向かいから響く雄叫びに目を向けると、びっしり停まったパトカーを含む車両の数々からサングラスとインカムを着けた黒スーツの集団や警官がトルーパー達と組み合う。
更には二つの影が飛び出し....
「ひゅるる!?」「ぬぉあ!?」
「てりゃぁ!まったくぅ、私らに内緒でこんな可愛い子と面白いことしててずるいわぁ。」
銀髪の少女が突風の流れに委ねるように身を翻しながら拳を叩き込まれるとロウダーとトゥナードが後退してから身構え、
「これは次の狩りは少し大人しくしてほしいおすなぁ。」
「おっと、鉄扇術は初めて見たね。にっしし!」
黒髪の少女が殴りかかるアタッカの拳を二振りの扇で捌いて溜め息を吐く。
「嵯峨椿の唐澤と三条か....!」
[おーきに、後で埋め合わせたるから堪忍な。]
一方、ウォリヤと剣を交えるアラタ目掛けて次々とトルーパーが躍りかかるがそれらがすぐに撃墜され目を向けた先には、気だるげな目付きの警察官が六連銃を構えて佇んでいた。
「警部殿、 堀壽 秀人(ホリス シュウト)。対象を捕捉致しました、任務を開始致します。」
[おお堀壽!!来てくれたかァ!!]
突然の加勢に思わず口笛をひとつ、睨み会う智大に笑いかけるとクイックは言う。
「さぁ、言っちまえばチェックメイトだ。降参するかい?それともおっと!」
「助手は、絶ッッ対可愛いコにって決めてるんだよ!ここでキミなんかに出し抜かれる訳にはいかないのさ!」
なるほどなぁ、あくまでも俺の持っているセレスティアを狙って攻撃しようと....流石に笑いが込み上げてくるがもう少し泳がせてやろう。
相変わらず振り上げてくる杖に蹴りを叩き込んではじき返し、スケボーにも蹴り込んで距離を取る。
負けじと奴がブレスレットから射ち出した催眠弾も流れるように回避し、再び急接近で踵を振り下ろす。
だが敵もそう易々とは引き下がらないようだ、スケボーを巧みに扱って後退すると、ブースターを噴き出しながら杖を構えて一気に突進してきた。
咄嗟に腕を構えて杖の一突きを辛うじて防ぐとつかみ返し軽く回して投げ飛ばした。
「いい加減諦めるんだな、探偵サンが窃盗じゃ格好つかないだろう?」
「助手の為なら危険も犯す、それが僕さ!迷宮入りしちゃえばどうということは無いんだからね、デェイ!!」
智大の足元にエネルギー球が生成されたかと思えば、スケボーの回転の勢いを乗せてソレをクイック目掛けて蹴り飛ばして笑う。
「あーもう!スケボー催眠弾からのサッカーシュートかよ、擁護できんぞ!?」
対するクイックは呆れて頭を掻きながらも軽く跳んで球を横に蹴り弾いた。
やれやれ、もう良いか。
「フッ、ハハッハッ....」
「おやぁ?いよいよ勝ち目はないと悟った諦めの苦笑いかな?さぁ、探偵に『本物の』人魚の涙を見せてごらんなさい。」
心でそう呟いたクイックが不意に笑い出すと、智大も不思議そうに不敵な笑みを浮かべて歩み寄る.....
「あんたらの作戦が極めて上手くやれてたのか俺には見当はつかんがね、だが力押しながら良い線行ってたと思うんだ。余計なことをしなけりゃね。」
「ほう、余計なこと、か。キミは物分かりが良さそうだし、教えてくれるなら副助手くらいにはしてあげようかなぁ~」
「簡単さ、最初俺が話しかけた時にご丁寧に反応しちまったろう?つまり」
こういうことさ!言うと同時に距離を取って高く跳ぶと懐から出したセレスティアを手放すなり、具足を展開した右足を力一杯叩き付けた。
「あああ、なんて事をォ!?」
ヒビが広がり、粉砕する破片に驚愕するとしかし、近くに散らばったソレらを眼にした奴は一層困惑した。
破片は赤い輝きを瞬く間に失い、無色透明な物質ーーガラス片と変じていた。
「俺は最初っからニセモン持ってんだよっ!」
「なっ、だ、騙された!?完璧なる作戦が敗れた!?何故だ、この僕の...桃色の脳細胞がッハァアア!?」
降下の勢いを付けて脇腹に蹴りを入れるとバランスを崩した智大は吹き飛び、勢い良く倒れこんだ。
「ほーらなっ、本当に余計なことだったろぅ?」
反動で懐から飛び出したセレスティアーー紛れもない本物を掴み佇んで笑むと、フラフラと立ち上がった智大が表情を緩め、
「あぁ~ンれれぇ~?なぁんか、おっかしいーぞぉお~?」
うわ言のようにこぼしてから再びガクリと伏した......
YAKATAカンパニーはやれやれと姿を消し、パトカーのサイレンがけたたましく響く閉鎖された高速道路が鎮静するのに朝までかかったようだが、こうして宝珠・人魚の涙を巡った悶着は終わりを告げた.....
ーーーーーーーーーーーーーー
フフフ.....実に愉快だ、思わず笑いが込み上げてしまう。
当然か、こんな猿芝居で見事にトントン拍子が進むなどとは思うまい。
僕に不可能はない....そんなことを考えながら、奴は高速道路を疾走していた。
後は適当に話を合わせればこちらの勝ち、つまりは全て筋書だ。
全くこの程度で乗せられてしまうのが恐ろしい。
ーー僕が殺人犯でなくて、みんな本当に幸せだなぁ.....そう、完璧なんてこの世にはない。僕を除いてね。ーー
「随分と機嫌良いね。」
!?彼はクイックと言ったか。
...もっと見る確かあそこにいた連中の中では特に頭が回るらしい、先程も危ないところまで踏み出された。
もう随分屋敷から距離を離した筈だがそんな彼が後ろから飄々と声を掛けたことに動揺を隠せない、しかしここは取り繕わねば。
「やぁ、キミか。あんな所は危ないからね、お役に立てそうもないし僕はもう居られないよ。」
キミもそのクチかい?おどけて言うとクイックは首を振りながら不敵に笑って返した。
「犯人に目星がついたから...ついでにソイツのミスを見つけたのでね、貴方にもお伝えしようと思いまして。」
※
さて、状況ゆえに「怪盗事件」のつもりで見てきた今回のことだが、結論から言えば「強盗」こそ現れたものの、「怪盗」はいなかった。
しかし....たしかに『犯人はこの中に居た』のだ。
まずは発端の犯行について考えようか。
なんてことはない、犯人は警備員に擬態したYAKATAトルーパーで間違いないだろう。
恐らく奴は警備員の格好をすれば怪しまれないと判断し、『人魚の涙を奪う』という任務を果たすつもりだった。
どこまでが想定内かはわからんが、恐らく宝物館に入った時点で予想外の事態になった訳だ。
それが『宝物館に入ったらブザーが鳴った。』
これは後程輪田警備長にご説明頂くが、金庫に触れたでもなく、関係者がーー況してや巡回の警備員が立ち入っただけでアラートが出るとは思わなかったトルーパーは狼狽した。
慌てて身を隠してからもう一度見に行くと既に宝物館には警備員が押し寄せ大騒ぎになっていたため、上の指示を聞いた通りに動いたと言うことだな。
ドジって宝物館に入る以上のポカはやらかさなかったために、アラートは鳴れどそれ以上の襲撃等の形跡は見られなかった訳だ。
補足するでー、通信から声が響いたのはアラタだった。
ーー多分指示出したんはワイズやな。
アイツのことやし、むしろ面白くなりそうだと思てわざと日付の書かれたメモを落とさせたんやろな。
それが怪盗よろしく計画性ある犯行かのように、アホかいな。
んで、そもそものトルーパーの侵入と翌日脱出手段はもう言うまでもないな、『メイドに擬態する』一択やろ。
メイドは出入りチェックが少しやさしめらしいのとワイズのチカラでどうにかしたんやな、買い出しから戻ったメイドに紛れて潜入し、同じ手筈で買い出しに出たメイドから離脱することで脱走した....花井さんや芳村さん達が当時の人数が曖昧っちゅーのはそういうこっちゃ。
ついでに、続けて通信を入れたのは優都だ。
ーーセキュリティのアレコレについても私から話しておこう。
何故、警備員の姿で入れなかったか...どんな技術でコピーしたかは知らんがカードキーを翳して開いたのに鳴られちゃあ驚くだろうな。
「つまり、それだけじゃダメな穴ーー『特殊な条件』ちゅうのがおっちゃん達の警備服にあるんやろ?」
日々喜様の言う通り、これを機にまたシステムを変更するからお話しします。
警備服には全員バラバラの場所に認証チップが内蔵されていてね、コレを着ていなくては宝物館のセンサーに反応せずアラートが鳴るようになっていたんだ。
カードキーや服装のような外面的な部分を真似ても、結局このトップシークレットを知らなかった彼らは失敗をしたのがコトの顛末だろうね。
「んまっ、そこはしぶといしぶといYAKATAカンパニーやな、セレスティア狙ってあの手この手とド派手にやらかしまくったわけや。」
呆れたように笑うアラタが再び切り出して言葉を続ける。
ーー事件後神経質な社長さんを襲いやがったジャージ、これはもう紛れもなくアタッカやろ。
んで、その場を鎧戸ガイが救ったのをきっかけにボディガードとして迎えたらしいけど、何となく気配とかで感じ取った通り、案の定鎧戸はウォリヤが擬態してたんよ。
つまりはアタッカを撃退したことで怯える社長に安心感を持たせて取り入るっちゅうヤラセだったわけやな。
しかもご丁寧にボクの前で堂々と宝石強盗をすることで件のメモと合わせてボクと、ボク経由で皆にコイツら自身がセレスティアを狙ってると印象付けて撹乱させたわけやな。
ちなみに鎧戸もといウォリヤがボク見てビビったのは呼ばれてないのにおったからやろ。
ーー概ねアラタが言ったのがYAKATAの手口だが、アラタの話通りならYAKATAの奴らはセレスティアを自ら狙うかのように偽装しただけで、『依頼者』のためにやっていたのには変わらない.....
で、その依頼者と言うのは言うまでもないな。
騒ぎの間にセレスティアを遠くまで運んだ後、皆が起きる頃にはシレッと居合わせてセレスティアはYAKATAに奪われたと誤認させて真相を藪に埋めるつもりだった者.....
『経歴不明でYAKATAの構成員が化けていたボディガード鎧戸ガイの旧知の仲』
『真偽はともかく職業上疑われるリスクが低かったからこそ敢えて同行させた者』
『そして今進行形で現場から逃げ出している.....』
「あらあらぁ、もう始まってはるねぇ」
竜斎邸に通ずる高速道路を封鎖しぞろぞろと停まる車両の数々の中、ひとつの前に佇む一人が爆炎上がる豪邸を見て呟く。
「さてぇ、そんじゃあ私らも行こか!」
もう一人が楽しそうに声を弾ませてボンネットから勢いよく立ち上がるが制止され口を尖らせた。
「連絡いれるまで待機しとき言うてはったやないの。」
「ズルいなぁあのコばっか楽しんでぇー」
「・・・」
二人の会話を聞き流しながら、黒服と共に佇む警察官は神経を研ぎ澄ませていた.....
...もっと見るEP29「Mystery Ballet『Resolution』
~夜戦攻防~」
「ひゅるるー!」
ふわりふわりと宛もなく跳ね回りながら手招きをするように腕を振ると、外壁の崩れた穴から豪雨が吹き込んでくる。
「こぉーらガキンチョ!悪いやっちゃな!」
バシン、そんなトゥナードの頭をハリセンではたき、襟からつまみ上げた日々喜が声を荒らげるが....
「ひゅるるー!」
「うっわ冷た!夏はこれからやぞ!?」
いきなりトゥナードが顔に吹きつけた冷気にたまらず手放すと奴はまた距離を取り始める。
「和泉君、なんなんだコイツらは!」
「YAKATAカンパニー。ご存知超越不審者を唆してる愉快犯供やで!」
優都とアラタがトルーパーを退けていると、所狭しにタイヤで迫ってくるのはロウダーだ。
「フッハハァ!言ったはずだ、宝石は頂くとなぁ!!」
「ロウダー、この家ブッ壊す気かコルァ!」
「どーうだっていい!オレ達ゃセレスティアさえ取れりゃこんなとこ用済みなんだからなぁ!」
そうヤツは息巻くが今はそれどころじゃない。
早く宝物館へ向かわなくては問題の人魚の涙が危ないと、アラタは焦るがこの狭い道では潜り抜けるのもままならない。
[バブルリード]
聞こえた音声と共に泡がタイヤの前に散らされると踏みつけたヤツはそのまま滑ってバランスを崩し、中庭へと転がり落ちていった。
振り返ると領也ーージーニアスが案の定手を振りながら澄ました声をアラタにかけた。
「さて、和泉クン。ヤツはワタシ達に任せて宝物館へ急ぎたまえ。恐らくキミの予想はアタリだ。輪田警備長!」
「すまんな、サンキュー!」
領也と優都がロウダーの落ちた中庭へと飛び降りて向かっていく様を見届ける暇もなく、アラタは宝物館へと走って行った.....
ーーーーーーーーーーーーーー
「ドォリャア!!!」「デッヤー!セェイ!」
目元から静電気を散らしながら鬼ヶ島が次々とトルーパーを殴り飛ばし、楠葉も続くように蹴りから正拳突きへと流れる動きで捌いていく。
「ぬぅ、どけどけぇ!ワシの家宝に手を出すなぁ!」
「お、落ち着け竜斎。警部達はご覧の通り、優れた力の持ち主だ。この騒動だってすぐに終わるはずさ。」
取り乱す竜斎を宥める雅彦、彼らを尻目にどうすべきかわからず半泣きのセラと、混乱する事態を見据える智大は右手首を擦りながら考え込む。
「随分と派手な手口だな。ここまで清々しいと一周廻って裏があるんじゃないかとさえ思えてくる...いや、難事件あるところにこの僕アリ、絶対に真相を....ん!?」
彼を我に返した轟音、それとともに壁が崩れるとけたたましいサイレンが響き、煙から現れる影に一同が蒼白した。
「な、なんじゃぁ、コイツゥ!?」
「フッハッハッハッ、遅かったな。」
聳えるように佇む影ーー紅い甲冑姿の巨漢は機嫌良く笑い、背の大剣を抜いて迫る。
「チィ....翌檜ォ、オメェさんは雑魚供蹴散らしてさっさと社長達と逃げろォ!コイツは儂が相手したるわァ!」
はい!楠葉が返事と共に竜斎達を連れて去る様を見届けると、振り下ろした大剣に、電流を迸らせた両腕を構えて受け止めると鬼ヶ島は言葉を続ける。
「オメェさん地下から来やがったのぅ。鎧戸の奴ァどうしたんじゃ!?」
「鎧戸?ああ、結構粘ってはおったがどかすのに苦労はしなかったぞ。」
距離を取ってから電流を纏った拳を引き絞り、一気に鬼ヶ島が叩き込むと後退した巨漢、ウォリヤも剣を構えて再び距離を詰める。
互いの拳と剣がぶつかり合い、競り合いながら牽制するなか、ひとつの影が飛び込んでウォリヤに一発叩き付けた。
「大丈夫か、鬼ヶ島警部!」
「おお、和泉!」
「久しいなぁ小童。うぬから来てくれるとは嬉しいぞ。」
己を見るなり目元を歪める奴とは対称的にジトリと睨むとアラタは声を荒らげて二撃を狙って飛び掛かった。
「ウォリヤこの野郎ぉ、つまんねぇ知恵使いやがって!」
「フン、なんのことだ?我輩は指揮に従って動くだけよ!」
和泉ィ!呼び掛ける鬼ヶ島に振り向くと、彼は電流の走る手で木刀をなぞる。
途端、バリバリと音を立てながら同じく電流を纏った木刀を構えると2人、頷き合ってウォリヤへ駆け出した。
ーーーーーーーーーーーーーー
「このぉ!なんなんですか貴方達は!警官の質問くらい!応えなさぁい!」
「クソ、キリが無い。何がどうなってやがる...?」
次々と迫るトルーパーが無言で迫り抵抗を確認するや否や、楠葉も負けじと拳を叩き込み、通路を確保していく。
前方を護れば横や後が空き、そこを攻める連中にも庵達警備員と共に対処していくが、トルーパー達は一向に減る気配がない。
そんな中で、ふと庵はひとつの違和感に気付いた。
警備員の数人が倒れている姿、それだけならトルーパーに押されたかと心配しながら覗き込むが、
「おい、お前ら。何こんなとこで寝てんだ!?」
まるで場には似つかわしくない面持ちで寝入る面々、更には後ろで驚嘆の声も上がり出す。
「しゃ、社長さん、金城さん!?メイドの皆さんまで、どうしたのですか!」
そう周りを揺さぶる智大の言葉の通り、警備員同様に竜斎達も眠りに落ちているではないか。
「一体何が....?て、させません!」
隙を突いて襲ってきたトルーパーを掴み振り払うと退け、再び後方を向く....
「て、芳村さん!?」
思わず驚いた視線の先、庵までもが地に伏せる姿に嫌な予感を抱き、まさかと視線を向けたその先に、奴は不敵に笑っていた。
ッ!!驚くも束の間に楠葉の意識が闇へと沈み、トルーパーへの対抗者の消えた現場には静寂が広がった....
ーーーーーーーーーーーーーー
「そらっ、クイック!」
レンのヨーヨーがアタッカの眼前を過り、隙を突いたところでクイックが蹴り込むが、アタッカも怯まずに脚を振り上げて打ち付け合う。
「にっしし、やるねぇ~。和泉アラタちゃんじゃないのはちょっと残念だけど、キミらもなかなか楽しめるねぇ。てぇりゃ!」
突き上げた拳に跳んで後退するとクイックはその勢いで踏みつけるように連続で蹴りつけるが、当然のように打ち返されてしまう。
レンが援護で放ったヨーヨーもアタッカが掴んで投げ返すと、彼は受け止める。
「和泉の言う通りだな。こないだの金色野郎とは訳がちげぇ、か....」
そうこう追いかけ合っていると不意に、裏庭に面した窓からとある光景がクイックの眼に写った。
見覚えのある人影がそそくさと駆け、何か妙なオーラを放ってから壁を垂直に滑るように門を乗り越える姿....
そういえばアラタはアイツが怪しいと言い、彼も経歴がよくわからない上に確か....
そういうことか!
ハッと閃いたクイックは通信を起動すると小声で一人に呼び掛ける。
「豊永、来てほしい!」
[なっ!?アタシかて変な雨降り小僧の相手中やし...!]
「なんとなく話が読めてきたぜ...!後で皆にも話す、ノってくれ!陽動には、陽動だ....!」
わかった!程無くして日々喜が飛び込むと、追いかけてきたトゥナードのためにアタッカが窓をカチ割り、暴風雨を吹き込ませた。
「にっしし。チームワークでやっちゃうの!?」
「ひゅるるー おれたち くませて いいの ?」
知らんわ!ハリセンを突き付けると日々喜は強く言い放つ。
「どーでもえー、邪魔するならドツいたるわコラァ!にーさん頼むで!」
「フッ、見せてもらうぜ?スカーレット・カメリアさんよぅ。」
トゥナードによる落雷を駆け抜け、拳を引き絞るアタッカに日々喜がハリセンを、レンがヨーヨーを一気に振りかぶった.....
ーーーーーーーーーーーーーー
しばらく後にウォリヤは爆風を巻き起こしながら逃亡し、鬼ヶ島が追う間にアラタが宝物館の安否を確かめに行っていた。
ようやく立ち止まって振り返る奴の姿が晴れる煙から現れると、再び2人は抗争を始める....
「アカン!鬼ヶ島警部!」
階段を駆け登って戻ったアラタが、ウォリヤと組み合う彼に声を上げた。
「人魚の涙はとっくにソイツが持ってやがる!」
「なんじゃと、鎧戸の奴は!?」
んなもんいねぇ!声を荒らげるアラタに疑問を浮かべると、彼はウォリヤに斬りかかる。
「コイツが鎧戸ガイなんやからなっ!」
「フッハハハハ!流石と言ったところか小童ァ!」
得意気に笑うヤツに鬼ヶ島共々蹴り込むと剣で防ぎ、距離を取りだす。
「ったく。ジャージ野郎から社長を助けただぁ!?笑わせんなや、オマエの濃い気配なぞすぐ感じたわ!あと演技下手すぎんよ!」
「フン!なれどうぬとて確証を得るまでは手を出せなかったのであろう?ことが起きてから動いただけで勝った気になるなよぉ!」
うるせぇ!アラタは跳びながら木刀を振り上げる。
「人魚の涙取り返せばボクらの勝ちなんやからな!」
どうであろうな!そうウォリヤが剣を勢いよく地に突き立てると強い衝撃と爆風が生じ、二人の視界を遮ってしまった。
姿を消した奴を追って煙を払う二人、しかしその先にあったのは....
「な、なんやこれ!?」
「なんじゃあ?翌檜、芳村、しっかりせい!」
楠葉や庵達警備員が通路に倒れ寝入っている姿だ。
まさかと思い少し探索すると案の定、竜斎や雅彦、セラといった非戦力の面々も同様の状況に陥っており、アラタが一人一人揺する横で、鬼ヶ島は顎をさすりながら違和感を抱く。
「全員無事なようじゃが、和泉!アイツはどこじゃ!?」
アイツ....?倒れる面々の確認をしてからそういえばと整理するなか、一人の男が思い当たる。
そう言えば彼はアイツの....
「ナァー、マジか!?」
慌てて立ち上がりキョロキョロと辺りを見回すと通信が入る。
[皆、クイックだ!犯人が逃走した、俺はソイツを追っている。]
なんやて!?驚くアラタを宥めながら、クイックは続ける。
[なーに、俺ならすぐ追い付くさ。それよりそろそろ整理しようぜ?真相ってやつをなっ]
[そやそや、アタシもずっと気になっとったわ。ってコラァそんな風吹かすな!]
[日々喜様、集中してください!]
[はん、俺は読めてきたぜ....]
[和泉クン、キミはクイッククンを追いたまえ!]
「そうじゃな、和泉!この辺の雑魚は儂に任せろォ!!」
領也に促され、鬼ヶ島の言葉を受けたアラタは彼らを残すことを渋りながらも強く頷き、ジェットボードを取り出した.....
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「かくれんぼ上手いねぇ。でも、ポルターガイストを前にして、やり過ごすなんて出来るかい?」
アラタ達が隠れる教室に面する廊下に例の使い魔が溢れかえり、花男はあぶり出しのためにポルターガイストを起こし、ニタニタと待ち構える......
「どりゃあッ!!」
不意に、勢いよく掛け声が響くと、突然ひとつの教室がドアを弾きとばしながら爆風が生じ、一帯にいた使い魔が一掃される。
「やぁっと会えたねぇ~。」
目の前で木刀と拳銃を構える男女の姿を見た男は嬉しそうに声をあげるが、
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「もう遊びは終わりよ.....」
「バーカ、鬼ごっこもかくれんぼもしまいや。」
「ええ!じゃあ降参だね♪細かいことは水に流してさあ~。ぼくたち三人仲良く、一緒にトイレで暮らそうじゃないかぁ。」
「アホ、オレらがオマエを捕まえるんだよ、鬼さんコチラーッ!!」
「一生、トイレで困ることはないんだヨォ?ぼくなら涼ぅしくしてあげられるのにぃ。」
冷ややかな物言いを聞いてもなお、上機嫌を崩さない様を前にしてアラタが言い放つと、そのまま木刀を薙ぎ払い、使い魔を切り捨てると、そのまま花男を取り囲む連中へと斬り込んでいった.....
「ほな、頼んだでほむらちゃん!」
「ええ、私の本当の戦場はここじゃない。早く終わらせましょ......」
言うが早いか、ほむらもショットガンを取り出すと構え、次々とまとわりついてくる奴等へと撃ち放つ。
「ウォオオオッ!!どおおおしてぼくを虐めるんだぁあッ!!トイレの守神とはぼくのことなのにィ!」
いよいよ冷遇に堪えきれなくなった花男が激情し、ランドセルから三本のリコーダーが姿を現すと、少女めがけて一直線に突進を繰り出す......が、
はぁっ!もう一挺の拳銃を取り出すと同時に乱射して撃ち落とす。
「でも、なんでリコーダー......?」
「小学生に『好きなコのリコーダーをくわえる奴が一人はいる』ちゅう、ある意味花子さんなぞよりよっぽど怖ええ都市伝説やな、そらよッ!!」
次々迫り来る人体模型を殴り、生首ボールを次々と蹴り飛ばしながら飄々と語るアラタはひとつ指をならすと、
「ダラッシャァアッ!!」
地に木刀を叩きつけて衝撃波を再び起こし、更にほむらが放った乱射も相俟って視界不明瞭な煙が立ち上る。
「ごぉぅほ、ごほっ!皆どこいるんだよぉ。なんやかんや逃げたり、ホントはぼくが怖いんだろぅ?強がるなよォ!一生トイレが詰まるようにしてやるぅ!」
煙を払い、見通しを良くしようと努めながらも勝ち誇る花男だが、
「うるっさいねん、気持ッち悪いわぁッ!!」
不意にどこからか響いた声に狼狽えると、突然背中に強い打撃が走り、前に倒れこんでしまう。
なにすんのさ、そう背中を擦るが、ある違和感に気付いた。そう、
「あれ!?ぼくのランドセルはぁ!?」
「へっへー、これでやかましい手下は呼び出せへんやろッ!!」
「ぁあ!よくもぉおッ!!いったい!痛ッ!!」
真二つにされひしゃげたランドセルに激昂するも、顔に投げつけられて怯んでしまう。
突如、ほむらの名を呼びながら駆けていくアラタを確認した彼女は、花男の足下目掛けて威嚇するように銃を乱射し、
「ぼくを虐めて、祟りが怖くないのかぁい?」
そうあわてふためく花男にも、
「ええ。私が怖いのは、大切なものを失うことと、今は、この関係ない世界を『魔女』に巻き込むことだけよ...」
和泉君...後ろから勢いよく駆けてくる少年の姿を確認すると、彼女は相手目掛けてバズーカを構え、アラタはスピードを落とさぬままに全速力で花男との距離を詰める。
「あ、あ、一人は暇なんだ...ぼくはただ一緒に居てほしいだけなんだよぉ...片隅でずぅっと独りぼっちは、寂しすぎるだろう...?」
消え入るように気弱な声をもらす花男に躊躇うことなく、その鳩尾へと、
「あぁ、せやからお前のこともこの力から解放したるわ...!」
「ぐっはぁあ!?」
勢いよく拳を叩き込み、白眼を剥いて項垂れたところへ突き放し、顎を突き上げる。
「ほむらちゃぁんッ!!」
花男の口から、おぞましい形相を浮かべた炭色のモヤの塊が尾を引きながら飛び出すと共に、少女へ喰らいつかんと飛び込んでいく....
「『孤独』の魔女、と言ったところかしら。それ故に彼と惹き合ったのね。」
しかし少女ほむらは動じることなく、構えたバズーカのスコープから魔女の眉間を定め、二発三発と大弾を撃ち込み、その体を貫いた......
オマケや!アラタが叫ぶと1つの袋を奴の近くに放り投げ、それを勢いよく切り裂く....
瞬間、白い粉状の霧が身体を覆うように霧散し、それに触れた孤独の魔女が滅するように溶け崩れ、おぞましい声を上げながら苦悶の表情で暴れ狂う。
「オラァ、念入りのッ!!千斬り万斬り、無量大数斬りィッ!!!!」
最後に行動力が落ちたところを見計らったアラタが際限無く魔女を切り刻み、
「霊でも出たらと思て塩を持ち歩いとったんよ、まさかコイツに効くとは思わへんかったけどな!」
最後の大きな一振りによって、元凶『孤独の魔女』は完全に消滅した...
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「ほら、大切なもんなんやろ。」
「ありがとう.....」
魔女の後に残された、針状の突起がついたアクセサリー風な物質『グリーフシード』をほむらに渡すとアラタはニッと笑いながら言う。
「いっやー、今回はさ、ほむらちゃん居らんかったら魔女にどうしよもなくて詰んどったと思うわー、ありがとな。」
「私こそ、和泉君と遭わずに闇雲に突き進んでいたら、あの男に手を下して...他ならぬ貴方の手を焼くことになっていたかもしれない...魔女討伐の御協力、感謝するわ.....」
で...何気なく首を回し、ほむらが見向いた方向にアラタも目を移すと、
「彼はどうするの?」
「んまぁボクが、行き倒れってことで交番に運んどくよ。」
「今からだなんて、ご苦労様ね。さて、私ももう行かなきゃ。皆を待たせられない...」
間抜けな顔で大の字の花男だった男性の肩を担ぎ上げるアラタが振り返ると、ほむらは、腕の砂時計が具わった円盾に手をかざし、眩い光が放たれていた。
「そや、キミと話すのも、なんやかんや楽しかったわ。それでさ.....」
・・・・・・
「......!」
彼の言葉にほむらは目を見開いて驚きを示すが、やがて頷き......
「さようなら.....」
なんだ、良い笑顔してんじゃねえな。
微笑みかける彼女にアラタが軽く手を振ると、今度こそ光は互いを認視できぬほどの輝きを放った......
ーーーーーーーーーーーーーーーー
ーーーーーーーーー
ーーーー
ー
「えへへ、ありがとう。」
「おーう。奥さんからもらった大事なもんつわれたらな.....」
預かっていたハサミを渡すと、雛菜が嬉しそうに微笑む。
「うん。言ったでしょ、私にとって命だって。」
命、か...どこかぼーっとした風に少年は辺りを見回す。
いつも通り、真っ直ぐに伸びた廊下、真っ青に夏を彩る空、何よりも整然と机の並べられた教室たちは、昨晩の激戦地であったことなど、ただの一人を除いては信じられないであろう。
だが同じく、彼には...彼だからこそ、あの事が夢ではないというのも分かった。
何よりも忘れられるだろうか。
「そーいや雛菜ちゃんさぁ...」
ん?不意に呼ばれ首をかしげる雛菜に、アラタは口を開く。
「もし、ボクの無事か美容師への道か片方を選び、片方を手離さなくてはならないなんて時が来たらどうするよ?」
「え!そ、それは.....」
へらと緩く笑いながらの質問だが、予想外に言いよどむ雛菜を見るとつい苦笑して、
「いや、べつに答えを決めなくてええよ。もしものことは実際に起きたときに考えりゃええ。」
「も、もう。急にどうしたの?怖いよぉ。」
すまんすまん、冗談のつもりが、そんなに悩むことかと苦笑しながらも、前を歩く雛菜に続くアラタは青空を見上げて考える。
...いや、忘れられないだろう。
「貴方ってどこまでも甘いのね。」
アイツ...
「魔女は、絶望と負に蝕まれた魔法少女の成れの果て。人間の生まれ変わりよ...」
あの時の...
「そんな結末も私は見てきた。だから私は最悪の結末を回避するために、何度も時間渡航を繰り返すのよ...!」
あの顔...
...いいや、世界が違ったって......
ーーーーーーーーーーーーーーーー
数秒してから彼女は、見慣れた街中に佇んでいたことを認識した。
あの出来事は.....そう思って右手を見ると真新しいグリーフシード、そこには『孤独』の刻印が施されている.....
やはり夢ではないのね。
何気なく黄昏ると、自分を呼ぶ声に気付き振り返る.....
『そや、キミと話すのも、なんやかんや楽しかったわ。それでさ.....』
「ほむらちゃん!」
「! まどか.....」
『どんなに辛いときでも、酷い目に遭う仲間を見てもうた時でも.....』
「よかったぁ、こんなところにいたんだ。」
「ええ....」
『いつでもキミにゃあ身近で支えて、心配してくれとる仲間が居るってことは忘れんといてな。』
「強力な魔女の反応を追うって言って、昨日から全然見つからなかったから、ホントに心配してたんだよお~。」
「っ!!ご、ごめんなさい.....」
『そだ、まぁたまにはボクのことも思い出してくれてもええんやで。』
「でも、その様子だと勝てたみたいだね、良かった。」
「ええ、勿論.....」
『世界が違ったってボクはキミが、キミにとってのベストエンドを掴めるよう健闘を祈っとるからさ。』
「さてと、じゃあ行こうかっ。」
「ええ、そうね.....」
「ありがとう.....」
「え?」
「何でもないわ、行きましょう...」
EP30ーーENDーー
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
ーーだーるまさんが、こーろんだ.....ーー
ーーだーるまさんが、こーろんだ.....ーー
気配を辿るごとにその声が次第に近くなっていき、やがて、棟を結ぶ渡り廊下でその正体を目撃する。
「...!あれは...!」
「!?子供?でもこの気配...」
「だーるまさんが、こーろんだ。」
...もっと見る赤いランドセルを背負った小さな影は二人が背後まで近づくと同時に歌い終わり、歩を止める。
「可愛い女の子かと思ったあ?」
ゆっくりと振り返るソレは白シャツの上から赤い吊りスカートを着用し、
「ざぁ~んねん...」
黒いおかっぱ頭に黄色い帽子をかぶった...
「ぼぉくだよぉおお!!」
見る間に筋肉質の大柄な男へとシルエットが膨れ上がり野太いダミ声を轟かせた。
「やっぱそういうこったか。」
「...気配通り、魔女ね.....」
「え?どう見ても不審者、てか男やんけ。」
「擬態しているのじゃないかしら、確かにコイツが魔女の気配の正体なのよ?」
互いに食い違いが生じ、一瞬たじろいでいたところで、男が大声をあげた。
「おらぁ、花男さんだどぉ~、元気だどぉ~!久しぶりにお友達が来たゾ~!」
「やっかましいわ、気持ち悪りぃ!」
「みんな何して遊ぶぅ?」
ニタニタと不気味に微笑みながら花男が二人に近づいてくるが、一発の銃声が鳴り響き、男は静止、アラタもその主、隣で拳銃から煙を吹かす少女に息を呑む...が、やがて、
「貴方と遊んでいる暇はないわね.....」
「ヴェエ!?」
「ちょ、おま。ナニいきなりブッ放しとんねん!マジでヤってもうたらどうするんよ!?」
「和泉君、魔女に情けをかける必要はないわ、言ったでしょう?甘い考えは捨てなさい、と...」
コイツ...自分の言葉にも冷淡に返すほむらに思わず眉をしかめるが、
「イヤだゾー!花男さん皆と一緒に遊びたいゾ~!せっかく『賑やかなお友達』が来てくれたんだゾー!」
「いやお前はうるっさいちゅうねん!」
その沈黙が破られた...が構わずアラタはツッコミを入れ、再びほむらに眼を向ける。
「魔女の気配があろうと人間は人間やろ!」
「貴方はどれほど私を邪魔すれば気が済むのかしら...」
「ぼくだけ混ぜてくれないなんてひどいゾひどいゾ~!びぃえええええッ!!」
「こっちの台詞や!てかお前黙れ気が散るぅ!」
わからず屋と意味不明に駄々をこねる中年オヤジ、二人の対応に目まぐるしく言葉を返すアラタだがこれでは埒が明かない。
どうしたものか考えていた時、
「ならば聞くけど、あれが魔女じゃないと言うなら、何故この結界が生じているのかしら?」
「仲間外れはいけないんだゾォ!君達なんか、夜中にトイレも行けないくせに!」
結界?そういえば、先ほど空がオーロラのような不気味な色を放ち、廊下が紫に照らされていたことを思い出し......
!気がつけば、校舎内の作りが歪み、廊下や天井がぐにゃぐにゃと曲がっているではないか。
「なんやコレは、たまげたなぁ...この違和感、魔女の仕業やったんかぁ。」
「ええ、そして恐らく犯人は...」
そうだ!ぽんと右掌を拳で軽く打った花男に二人が振り返ると、満面の笑顔で口を開く。
「二人がそんなにぼくを避けるなら、鬼ごっこしようよぉ。ぼくが鬼だから十秒数えて迎えにいくよぉ。まぁ...」
もはやツッコミからも無視されたショックから立ち直ったように言う花男のランドセルの蓋が開き、
「ぼくの『静かなお友達』は待ってくれないけどねえぇ!!」
数体の小さな影が飛び出す。
それは人型の抽象画、あるいは子供の落描きを実体化させたような見た目であり、ある者は人のようだが右半分は赤く、抽象的ながら人体模型を思わせる容姿をしており、またある者は頭がなく、自分のもげた頭部でドリブルやリフティングをしているようであり、一斉にこちらを見ると迫ってきた。
「使い魔!?くっ!!」
こっち!咄嗟にほむらが拳銃の引き金に手をかけ、三連弾で蹴散らした様を見計らうと、アラタはその手を牽いて階段を駆け降りる。
「やっぱり魔女の証拠じゃない!だから言ったのに......!」
苦々しげに言う少女と対照的に、アラタはひとつの疑問が浮かぶ。
「なぁほむらちゃん。今二階に居たんだけどさぁ....」
「何...?」
「さっきからこれで三階分くらい降りとるんやけど.....地下に行けるのは専用のエレベーターだけのハズやし。」
「え...?」
きょとんとしながら言い出す彼の姿に思わず思考停止してしまうが、
「ぼくの想いからは逃れられないのさ、どうだい?ぼく自慢のエンドレスステアはぁ~。トイレの過ごし方、教えてあげるぅ~!君達の個室も用意するからさぁ~永遠の幸せを、育もうよぉお...!」
後ろから響く声にアラタは
「くそぅ、花子さんならぬ花男に人体模型、生首ボールときて無限階段かよ!どうせ外に出れねぇならどっかの教室で対策考えるか!」
階段から廊下に躍り出ると、彼は教室を探し、
「音楽室美術室ぁダメやな、絵から視線を感じる.....」
そう考えるなかで、追いかけてきた使い魔に気付いたほむらは拳銃を乱射して多数を消滅させると、アラタが木刀を地に叩きつけた衝撃で残りを一掃、ほむらに時間稼ぎを任せて彼はどうにか教室をピッキングして入り込む。
「次会った時、覚えてろよぉお!!」
・・・・
互いの知識が少し足りんかったな.....
壁にもたれ掛かりひと息つくと、アラタは互いの標的の特徴について改めて確認することを提案する。
概ね、超越不審者は欲望につけこまれた一般人が超常的な力を得た者であり、魔女は負の感情の塊で使い魔や異空間を作り出せる...
「つまりは、原理ルーツはわからへんけど、魔女と超越不審者が融合してもうたんかもしれんな。」
どうりで女装オヤジなわけだわ。
一人納得して頷くアラタをよそに、ほむらは神経を尖らせて相手の気配との距離感を測っているようだ。
「確かに『喋る魔女』だなんて引っ掛かってはいたけど.....でもこれでわかったでしょう。これ以上の手出しは無用。関係ない人を魔女との戦いに巻き込むわけにはいかないわ.....」
「なんでや、超越不審者と融合してる言うたら関係あるやろ。」
笑いながらツッコむ少年に呆れながら、ほむらは言葉を続ける。
「聞いたところ、魔女の方が貴方の相手より強力なのは確か。魔女の側面が勝っているならそれはもう...それに、時間が経てばアイツは本物の魔女になるわ...」
え!?彼女の一言に衝撃を受けたアラタは慌てて立ち上がり、
「じゃあさっさと行かねぇと!それこそ魔女を剥ぐのがめんどくならぁッ!!」
「無理ね。」
「なぁんで!」
「魔女になってしまったら、正気には戻れない、呼び掛けにも応えてくれない...」
徐々にとげとげしくなる口調に違和感を抱くアラタは、
「お前、何を隠しとるん...」
「多くは語れないわ。でも魔女は...」
「ッ!!ならさっさとアイツどうにかしねえと!魔女になってまう前に!」
貴方ってどこまでも甘いのね。
ほむらから聞いた真実に焦りを抱いたアラタがその腕をつかみ立たせると、またしても重い言葉を投げ掛けられる。
「超越不審者、というのが欲望につけこまれ、口車に乗った存在で...挙げ句にその力で周りに害をなすならそれは自業自得じゃないかしら。そんなのを無理して助ける必要があるのかしら?」
「バカオマエ、あるに決まってんだろ!人間だぞ!」
さすがに言っている言葉の意味がわからん、いよいよアラタも苛立ちを見せるが、
「私の知り合いも、そんな甘い考えで魔法少女になり、理想との相違に苦しみ錯乱し、最後には魔女へと変わり果てたのよ。」
彼女は親友の声すらも届かず暴走し、最終的にはもう一人が相討ち覚悟でトドメを刺す選択肢しかなく、親友の心すら荒んでいった.....
他にも、その親友自身が最悪の魔女と化し、彼女自らに懇願を受けて自分が始末してしまったことも、初めて会った冷静な印象からは想像できないほど、感情的にほむらは語っていた。
「そんな結末も私は見てきた。だから私は最悪の結末を回避するために、何度も時間渡航を繰り返すのよ.....!」
拳を固め、震える彼女の背を見て、アラタは長く息をつく。
「無愛想で辛辣やと思ったけど、キミはキミなりに苦労しとるんやなぁ。そんなキミがこの世界に来たのは間違ったとボクは思わんで。」
「...?」
「ボクにとって必要とされてるのはさ、『超越不審者を倒すこと』やないんよ。『聖櫻を守ること』なんやで。連中が力を得るのは、アイツらの意思の弱さだけやない。奴等をそそのかすバカが居るってのもあるんよ。だから、ノせられた奴を更生させるのも大切なことなのさ.....」
それに、そうほむらに向き直るアラタの眼は
「完全に魔女になったときに出る幕が無くなるなら大変や。キミだけを危険な目に遭わせられんからさ、ボクが魔女退治を手伝えて、二人で戦える内にシメたろうやないかい!だからほむらちゃんも、ボクの超越不審者討伐を手伝ってくれへんか?」
軽い口調と裏腹に真剣で....
「......」
瞬間、教室中の机椅子が一斉に浮かび上がった...
ーーーーーーーーーーーーーーーー
「かぁわしたやぁっくそくぅっ、わすれっな、なんやねん.....」
暑さを紛らすように口ずさみながら気だるげに教室に入ると、明音やつぐみ、由紀恵らがこちらに視線を向けてくる。
どうやら聞いた話では、昨晩見廻りの者が最終チェックを終えた頃に、不気味な声が聞こえてきたらしく、学校に霊がいるのではないかと噂になったそうだ。
また、以前よりどこからか気配がした、声が聞こえたと噂にもなっているようだ。
そこで、何をしでかすか分からず神出鬼没な面を持つことからアラタの仕業ではないのか、という考えが彼女らに浮かんだというのだ。
「アホかッ!!ボクがそんな暇なことするわけあらへんやろ!その頃多分うたた寝しとるわ!」
...もっと見る「アハハごめんごめん、さすがに冗談だよ~」
笑いながら言う明音にいさめられるアラタだが、
「最近つったか?何を差し引いても、ボクが察知できなかった言うのは少し引っ掛かるなぁ。ホンマの幽霊なんちゃうか....学校の霊、花子さんかな?」
昼休みになると神妙な顔で件について考え出す.....が、いかんせん考えることは元々苦手な故に結局単純な結論に行着く堂々巡りを繰り返していたのでとりあえずオカルト研究会へゆららを訪ねていた。
「うーん...なかなか浮かんでこないねぇ。」
はい、水晶玉を渡され覗き込むアラタだがわかるはずもない。
「あっ、本題を念じてね。」
付け足された言葉に従い顔を近づけ目を閉じる...
やがて妙な輝きを放ったそれにアラタは目を向けるが依然として光景こそ見えないがピンク、黄、黒、青、赤と不規則に変色して光っていた...
「あらぁ部長、先輩。どうしたんですかぁ?おっとと」
と、入ってきた燈が暢気な声をかけるが少し躓いて占具のカード束が崩れてしまったため水晶玉の異様から目を離した。
「あっ、すみません邪魔しちゃって」
「おーう気にすんなや、ん...?」
そうカードを拾う燈に続きアラタも散らばったカードに手を伸ばすが近くに落ちた数枚に目を止めた。
弓、銃、盾、剣、槍
見事に武器の絵柄ばかりが寄り集まった状態...
なんやこれ...?
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
ところ変わって聖櫻市街の路地裏で....
突如、空間が歪むと共に、強烈な光が発せられ、それが晴れたあとにはひとつの人影が佇んでいた......
ここは.....その人物は違和感を抱きながら街道に姿を出し、しばらく歩くが、
「.....違う.....」
やがてその感覚の正体に気付き、
「ここは私の知っている『世界』ではないわ。何故こんなことに.....」
人物はそう思考を巡らせるが、すぐに考えを振り切り眼を鋭く細める。
「いいえ、させない。間違った世界軸で『奴等』の好きにはさせないわ.....」
ーーーーーーーーーーーーーーーー
ーーーーーーーー
・・・・・・
「...あ゛っっっづいっッ!!」
深夜の聖櫻学園校舎、その一角の未使用スペースで住人、和泉 アラタは勢いよく跳ね起きて窓から顔を出す。
やはり夏休み間近ということもあって気温も湿度も高く、まさに熱帯夜と言った状態なのだ、寝ようにも寝られない 。
「はぁー、死んでまうわこんなん。」
てかやっと1時かよ、そうボヤくとアラタは上体を起こし腕を組む。
こんな調子で5時間も続けられては堪ったものでない。
なんとか対策を打たねば、そう考えていたとき、不意にひとつの答えに行着いた。
「ア、そうだ。てけとーにどっかのクラスでエアコンつけて寝よう。さてさて」
そう言うなり立ち上がり、歩を進めるうちに、あることを思い出す。
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「は?ハサミだ?」
「う、うん....」
それは19時頃、雛菜から一本の電話が入ってきたのだ。
なんでも、彼女が日頃使う散髪バサミを教室に忘れてしまったようで、
「イヤ....机に入れてあるなら明日取りにくればええやん....」
「でも...君に預かっててもらえると、安心だからさ.....」
「でもなぁ.....わざわざクラス違うボクが持っとると二度手間になるやんけ。」
アラタがそこまで言うと、彼女は一息ついて言う。
「あのハサミはね、お母さんがくれた...私にとって命みたいなものなんだ。それに、例の幽霊騒ぎ?もあるから、ちょっと心配なんだよ...」
「......」
そう語る彼女に少年はしばらく黙って耳を傾けていたが、その表情を不意に緩めると、
「わかった。今日は安心して寝ろ。」
小さく微笑んでそう口を開く。
「ホント!?ありがとう。じゃ、おやすみっ!」
声を明るくし、そう彼女が返して電話を切ったことを確認するとアラタはひとつ伸びをする。
「ボクも寝るか...」
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「はっは、そやったそやった。んーなことあったわ~。ほなら今日は2Aで寝ましょうね。」
しれっと、とんでもないことを忘れていた気もするが、恐らく気にしたら負けなのであろう。
アラタは2Aに入ると彼女のハサミを回収し冷房を起動、そのまま班組みにした机の上に寝そべりタオルケットを巻く......が、
「...ん?足音か...?」
不意に、不審な靴音らしきものが耳についたように感じると起き上がり、教室を出た。
そのまま眼を閉じると気分を落ち着かせ、気配を感じる方向へと歩を進める。
それにしてもだ...
「なんや気持ち悪いわー。夜とは言え、こんなに分かりやすいくらいに紫色に見える影なんてそうそう現れへんやろ.....」
それに空も、まるでオーロラに覆われたようだと彼は表情を強張らせ、ロクでもない夜の到来を多少なりとも覚悟した.....
・・・・
案の定気配を追ってみれば、曲がりかどから人影が延びている様がこちらに見えているではないか。
となればこちらも当然、相手に認識されているだろう、少年は木刀を握る手に力を入れると勢いよく踏み込み...
「誰やッ!!」
「......!!!」
その切先を相手に突き付け、相手もこちらに拳銃の銃口を向けているのが認視できた、が......
「お、女の子......???」
その姿を見ると思わず驚愕する。
こちらを冷たく睨む少女はしかし、アラタが木刀を下ろしてもなお、その手を退くことはなく、
「何故、貴方はこんなところにいるの?答えなさい.....」
「キミこそなんで。一般人、じゃああらへんみたいやけどさ.....あ、ボクはアラタ。和泉 アラタや。」
黒い長髪を、何故か無風の熱帯夜の中でなびかせながら問う彼女にただならぬ気配を感じると、とりあえずアラタは自分の身の上を話す。
自分は最近、迷惑行為を働く輩からこの聖櫻学園近辺を護衛するために転入したこと、そして学校に宿直警備員的にすんでいることとまぁ、必要最低限のことを教えたつもりだ。
そこまで話されると相手も納得したようで、彼女は口を開く。
名は暁美 ほむら。
多くは語れないが、どうも時間を操る力を持っており、その一環で世界、というか『次元』そのものが異なる場所ーーソレが"この世界"らしいーーへ来てしまったようだ。
「そして本来、この世界にはいないはずの『魔女』の気配を辿ってここに着いたのよ......」
そう言葉を締める彼女に、アラタはひとつの疑問を抱く。
「?『次元が違う』ちゅうのは色々見てきたから信じられるけどさぁ...この世界にも『魔女』は居るよ?まぁ表向きには伏せられとるけどな。魔法使いも普通におる。」
そうか、それを聞くとほむらは一息つき、彼にこう返す。
「違う。貴方達の言う、いわゆる『魔女』とは違って.....自分の作り出した異空間に人を迷わせて害をなす、負の感情の塊のようなものを『魔女』といって、こっちの世界では私たち『魔法少女』が討伐しなくてはならないのよ。」
彼女の発言から察するに『魔女』と『魔法少女』は違うものなのかと問おうとするが、その話題を出しかけた途端に、彼女からただならぬ重みを感じたアラタは思わず口をつぐみ、質問をやめた。
「.....でまぁ、その魔女がこの学園校舎内におるっちゅう訳やな。ボクも手伝うわ。」
しばらく校内散策をしながら異世界人を名乗るほむらへの案内がてら事情を把握したアラタはにっかりと笑い、手を差しのべる。が...
「....魔女との戦いの役に立とうなんて思わないで。甘い考えは捨てなさい。はっきり言って今、この学園は異常な状態よ....」
やはり彼女は冷たい態度をとるが、そんな様を見るとアラタはひとつ大きくため息をもらす。
「んあ?そら『現実化した特撮の産物』に『表皮が鉱石の獰猛巨大生物』『女の子を口説いてくる常人離れした変質者』なんぞ徘徊しとるんやもん。『今』のみ、『学校』のみならず元々この近辺は異常やで....」
「随分と狙われてるのね、ここ。」
今度は逆にほむらが驚くが、アラタは特に気にした風でもなく、
「ホラ。現にガッコに住んでるとか言い出すヤロウが、拳銃突きつけられても木刀持ったまま動じず、挙げ句キミの異次元論まですんなり鵜呑みにしとるやろ?実を言えばボクもなんとなく、超越不審者の気配を感じとるんよ今。」
「そう...貴方も、何かと戦う運命にあるのね...」
超越不審者、その言葉を聞くとある種同情をにおわせる物言いをするが、再びアラタは呆れたようにため息をついて立ち止まる。
「なぁにが運命や......」
「え......?」
「護る助けるっちゅうのはハートでするもんや。そんな強い気持ちが力になり、身体を突き動かすんだよ。使命だ任務だじゃねえ。」
「....私の知り合いと同じことを言うのね。でも.....もしかしたら貴方のその優しさが、甘さがきっといずれ貴方自身を傷つけかねないわ。」
内心たじろぎながらも表情を引き締め、そう話す彼女に、
「構わない。ボクは無意味に誰かが傷ついてほしくないから、ボク自身がどんな目に遭おうと、助けられるものは...イヤ、無理だとしても意地でも助けたい....」
...甘過ぎる。
魔法少女として生きる者であれば、間違いなく錯乱して自滅か、不意を突かれて命を落とすような考え方だ。
限り無いパラレルワールドのひとつにおいて、上述のような末路を辿った知り合い達の像を重ねながらも、しかし何故だろうか。
今隣にいる彼がその言葉を語るときの眼には揺るぎない力強さと、それでいてあまり深く重く考えていないように思われる柔軟さが窺え、彼女にはどこか複雑に映っており....
そう...、ほむらは一言返すしかできなかった。
ーーだーるまさんが、こーろんだ.....ーー
「ッ!!」「!!?今のは.....!」
と、不意にどこからか子供のような声が聞こえ、二人は身構える。
その時、お互いが狙う特有の邪気を感じ取り、引き寄せられる方へと走っていく....
「たしか、この辺りですね....」
鬱蒼とした森林、一筋の滝を臨める渓谷の一角へ、ひとつの真っ黒な影が姿を現す......
ヤカタカンパニー執行部、ワイズ。
彼は突如、現在調査に来た方向からただならぬ気配を察知してこちらまで出向いたのだが.....
「さてと、とりあえず先程より感覚が濃くなりましたね....これさえたどれば.....」
そう考えるなりワイズは辺りを見回し、オーラを元に直感的に歩を進めていくと、ひとつの物体が目につく。
...?それは針状の突起を地に刺して立っており、西洋美術風なディテイルが眼を引く、アクセサリのような球体であった。
「おや、これは妙ですね。まるで人が置いたかのように突き立ててあるなど.....しかし、間違いではなかったようです。」
拾い上げたソレからは、確かにドス黒いオーラが伝わっており、試しに眼を凝らすと、黒いもやのようなものが渦巻いている。
...もっと見るフフ.....瞬間、ワイズはその眼を狂喜に歪め、
「興味深いこの力、実に素晴らしいですよ、クッハハハハッ!!」
一人、その高笑いを木霊させた.....
EP30「BlackMagic-HorrorNightmare
~"新"なる出会いと激戦の"焔"~」
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「思うに、この物体の持つ気配は間違いなく、私達の欲する『負』でしょう。さて、ここで実験。ロウダー、『カジツ』を1つ取ってください。」
ヤカタビルの一室、ロウダーがカジツを渡すとワイズは不意にそれを例のオーパーツに近づける.....と、
「うぉ!?なんだこりゃ、カジツがこのオーラを吸い込みだしたぞ!?」
驚くロウダーの言葉通り、オーパーツから黒いもやが這い出し、カジツへと引き込まれるように入っていったではないか。
それを見ると、ワイズは再び笑い声をあげる。
「なるほど、判ったことは二つ。負の感情を煽るカジツと、コレから漂う負の感情は引き合いました。そして、この負には意思があるようで、望むようにカジツへ入ったのですね。」
なるほどなぁ...説明を受けてもいまいち分からん、首を捻るロウダーだが、
「ん?オイ、カジツが浮いてるぞ!」
自分と向かい合うワイズ越しに、一瞬眼を疑う。
それを聞いたワイズも、後ろでカジツが置かれたデスクへ眼を向けるが.....
「どうしました。....なにも起こってないじゃないですか。」
ロウダーが見たときに浮遊していたカジツは机に降り、ワイズには認識できていなかった、が....
ワイズが視線を戻したと同時に、不意にガラスの割れるけたたましい音が響き、振り返るとルームの窓が割れ、外を見れば、たった今実験に用いたカジツが邪気を纏いながらどこかへ飛んでいっていた.....
その光景を唖然と見つめていた二人だが、やがてワイズは、
「ほ、ほほうこれはこれは、まさか飛行するとは驚き。やはりあのオーラには意思があったと言えましょう、は、ハハハ。」
「オイ、ワイズ。」
汗を拭きながら苦笑するが、ロウダーに呼ばれ顔を向けると.....
「『浮いてるぞ』つったろうがッ!!」
思いきりはたかれた。
6月下旬に人知れず行われたこのやり取りから数週間後、聖櫻では妙な噂が立つようになる...
ーーーーーーーーーーーーーー
「ヒョッホホホ、いいぞぉ。計算通りだね!その調子だ!ホラ早く、致せ!咬ませ!!」
固く抱き締め合う少年と少女、その様子を下卑た面持ちで茂みから窺いながら影ーー先程アラタにドリンクを売った男は興奮混じりに口走る。
「え、どうしてあの二人があんな風になっちゃったかって?オーケイ、読者の皆にだけ特別に教えちゃおう!」
ーー我々、『和泉アラタによる麻帆良学園の実情に踏み込んだ動向反対派』の活動からサモンが抜けたのは記憶に新しいだろう。
恐らくはタツミヤめが姑息な入れ知恵をしたんだろうね。
だが、そもそもタツミヤや夜霧に志藤、デスメガネタカミチや...況してや学園長すらバックボーンで支援してるような和泉アラタへの対抗として大々的に実力行使で出ようとすること自体が間違っているんだ。
...もっと見る
でもヴォクは違う!
始めッから戦って勝つ気なんてサラサラ無いのさっ!
まず、奴のヒトコトを突き止めたヴォクは今日海に、アノいつものコと来ることを知った。
そこでドリンク販売を装って和泉アラタに絡み、ヴォクのドリンクを買って貰う完璧なプランだったわけだ。そして....
ここにこそこのヴォク、
魔法薬学科専攻のベノムス
が立案した計画としての真価が発揮されるのさ!!
ご明察の通り、ドリンクにはちょっとした隠し味を仕組んだよ。
そう、ヴォクが日々の空き時間を費やし作り上げた超激烈濃厚媚薬、" ロ エ ベ ケ ス "!!!
コイツを口にすると強い想いのある相手に向く意識、感情が跳ね上がり、始めは何気ないーーそれこそ指先が少し触れ合うくらいのことから段々と興奮作用が加速していき一線、また一線と越えていく!
因みに、三人いるなかでちょうどあの二人にピンポイントで渡せたのはなんでかというと....基礎の『意識を逸らす魔法』とロエベケスの魔力をリンクさせることで、ドリンクを配る和泉アラタが自分といつものコに『特製』を何気なく配れたんだ。
あの様子だと二人はもうキスしたらソレを皮切りにそのまま......ヒョッホホホ!!
そしてぇ!その様子をヴォクがバッツリ押えてリーク垂れ込みなんでもやって拡散することで和泉アラタの立ち位置は悪くなり聖櫻にもいられないッ!!
そうなれば超越不審者共を鎮圧する任務なんて背負えるはずもないからね、これを機に『見ちゃった』記憶は全て忘れさせてあげる訳さ!
あのコには可哀想だけど、これも和泉アラタと関わっちゃった運命だよ。
でもそうだなぁ、和泉アラタから記憶消したらこの辺の諸々全部皆から忘れさせて、せめて和泉アラタはただの聖櫻生として解放してあげようかなぁ。
ヴォクも鬼畜じゃないのさ、あの辺の記憶を忘れた和泉アラタや、巻き込まれたあの女の子にはその後で幸せになろうが、目的達成したヴォクにはなんだって良いからね!
....さぁ、というわけでぇ!
抱き締め合い、微動だにしない二人に息を荒らげながらベノムスはビデオカメラを構え待ち続けるが....
「なっ、あっ、ああ!?」
次に起きた光景に思わず声を上げてしまった。
「そんなバカな!?あの術式....!」
「魔法薬学科さん、こちらの界隈において媚薬の作成は違法のハズですけど?」
ギョ....後ろから投げ掛けられる声に恐る恐る振り向くと、長い金髪の女性が不気味な面と法衣を着けた影の集団と、右に箒を構えた少女を従えて佇んでいるではないか。
「オ、オマエはタカネ!?うるさい、ヴォクには覚悟があるんだ!然るべきスジを戻すために違反に走る覚悟がね!」
タカネと呼ばれた少女ーー魔法生徒間でも規律や正当性にうるさく面倒臭い、ベノムス達ヤサグレ者には特に厄介な人物であった。
「まったく、彼のことは学園長が既に快諾していることですのよ。それに背いている時点で充分なのに、更に違反を重ねてどうするの?...ありがとう。」
やがて、二本の三編みを垂らし、大きな眼鏡をかけた素朴な印象の少女が杖を片手に左につくとタカネが労い、ベノムスはより後退る。
「や、やっぱりアレはキミの仕業か、ナツメグ!のわぁ!?」
不意に手にまとわりつく感覚に眼を向けると、彼の両手首には手錠のように影が絡み付いていた。
「オマエら、ヴォクを脅す気か!?望みはなんだ!?そもそもヴォク達...君らが過激派呼ばわりする連中の意見も解るからこそ、この活動だって制限は受けてないハズだ!」
「どうでも良いですわ。ただ媚薬製作という違反には処分がつくだけのことです。」
「くぅ、何度も言わすな!こっちにも覚悟が...」
「覚悟とは言ったものだな、ベノムス。」
不意に響く冷めた声....いつの間にか佇むのはタツミヤとレンだ。
「志藤から聞いた彼のPA討伐記録だが...彼は以前意識を失うような敗北を喫してもなお、そのPAに立ち向かったらしい。止める友人さえも振りきってね....」
な、何が言いたい!?汗をにじませ、口元を歪めるベノムスに、レンがやれやれと首を振って言葉を引き継いだ。
「ソレがアイツなんだよォ...ボコられようが心配されようが手前の任務はきっちりカタつける。あのヤローの覚悟...甘く見んじゃねーぞ......?」
「まっ、覚悟があるというなら何でも甘んじて受けるんだね。」
「ッ.....」
冷たく睨み付ける彼らに悔しそうに歯噛みをするが、タカネが言い渡した言葉にすぐに奴は取り乱した。
「処分は、"当分の魔力謹慎"とのことです。」
「そんなぁ、冗談じゃない!魔法薬学科のヴォクから魔力取ったらナニが残るんだよ!考え直してくれよ!」
「それが謹慎というモノですわよ!」
「ヤァアダヨォオオオ!!!」
「オコジョにならないだけ我慢してください~!」
箒を持った少女に宥められながら引き摺られていくベノムスを見据えていた二人はやがて姿を消し、タカネにひとつの連絡が入る。
[ご協力ありがとう。感謝するよ。]
「.....言っておきますけど?私だって納得はいっていませんわよ。ただ学園長の御意向を尊重しただけのことですわ....」
[なんだって良いさ、彼らを守ってくれた。それで充分だよ。]
フン、バツ悪く無愛想に通信を切ったタカネは引き続き二人の少女とベノムスを引き連れ歩を進めていた.....
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「あら、たん...わたし、わたしは....」
「ひなちゃん、すまん。なんか、イヤな、予感が、するんよ.....」
お互い焦らされる感覚なのだろう。
一生懸命に雛菜と目を合わせないようにすると一層全身が疼いて熱くなり、息も上がってくる。
もはやどちらも自分が何を言ってるのかさえわからない、それくらいに感覚が不明瞭になっていくなか.....
ーー流水の縛り手・ウィンクドゥス・アクアーリウス!!
そんな声が聞こえた気がした。
なんやっけコレ....難解な言葉もこんな状態では何一つ感じ取れない、そう思っているとやがて、抱き締め合う二人の頭上から叩き付けるように何本もの水流が降りかかった。
「うわわ!?」「ウォ、冷た!?」
全身に覆われる冷たい感覚、ハッと我に返るように明瞭になる意識、慌てて互いの肩にもたれていた顎を離し濡れそぼった顔を見合わせる。
雛菜の表情もパッチリと目を開き、自我を感じ取れる面持ちだ。
「・・・ッ!ご、ごめん、あらたん!」
「あ、おああスマンスマン、すぐ離れるわ!」
やがて先の会話を朧気ながら思い返したのであろう、水で冷えたのがどこへやら、雛菜が瞬時にまた全身に熱を帯び、鼓動を高鳴らせながら口を開く。
思えば先とは違い、ただ熱いだけでなく確かな温もりを感じるがそんな場合でもない、応えるように離れようとするが、思惑と裏腹に雛菜はまた強く自分を抱き寄せてくるではないか。
「ごめんね。悪いんだけどもう少し、このままいさせてくれても良い、かなぁ...?」
.....先の様子は何かしらの作用があってのことだったであろうが、恐らく彼女が語った数々の言葉は本物だ、だからこそ少年は
「.....うん......」
「えへへ、ありがと.....」
そう一言だけ返し、胸元に寄せられた、うっすらと微笑む少女の頭に手を添えた.....
ーーーーーーーーーーーーーー
「雛菜ちゃん?」
「おーい、雛菜ちゃーん。」
「お顔が赤いけど大丈夫ですか?」
「っ!ご、ごご、ゴメンゴメン。ちょっと、ぼーっとしてた!」
膝を抱え無言だった雛菜に、陽歌、奈央、ユーリヤが心配そうに声をかけると彼女は慌てて返す。
背中合わせには同じく膝を抱えぎこちないアラタがミカドに心配されながら苦笑する。
「どうしたんだよ、戻ってきてから二人ともヘンだぞ?」
「イ、イヤまぁー、ボクが変なのは元からやしぃ、みたいな?」
「お二人のこの感じ、これがアーバンチュールなのですね!?」
違うと思う、あきれ混じりにミカドがユーリヤにツッコんだ。
ねぇ、そんな様子を見ていた領也の隣から、メイクの女性が小声で呼び掛ける。
「戻ってきてからずっとあの調子.....貴方何か吹き込んだの?」
「いや?ワタシは何もしてないよ。」
知らないとは言ってない、心でそう補足しながらも、やれやれと口数少なく背中合わせで膝を抱えて座り、硬直気味なアラタと雛菜にため息をひとつ、しろかとのチャットルームを開く。
さてどうしたものかと、帰りまでぎこちなく最低限のやりとりしかしない不自然な距離感の二人に領也は頭を軽く掻いた.....
EP31ーー E N D ーー
※ ※ ※
奈央達は仕事に戻り、ユーリヤはミカド陽歌と共に再び海へ向かったが、アラタはたった今のダメージの件、雛菜も予想外の出会いとイジリにドッと疲れたらしくもう少しだけ休むことにした。
が....
「......」「......」
特に会話があるでもなく、二人じっと並んで浜辺から喧騒を眺めるだけだが、確かな異変は迫っていた....
何気なく姿勢を直すと不意に、柔らかな感触が当たる。
互い、なんとなく眼を向けると、二の腕同士が軽く触れたらしい。
「!!?」「あ、す、スマン!」
...もっと見るごめん、そんな一言を交わして離れるのが普通だろうが、互いの腕の異様な熱さと不自然な高鳴りに襲われ、お互い勢いよく離れてしまう。
妙やな....雛菜の腕の熱さに疑問を抱いたアラタはなんとなく彼女の様子を窺う。
膝を抱えて座り、膝で隠すように口元を当てた顔はどこかボーッとした風であり、どことなく頬や腕も赤い。
もしかしてまだ休む言うてたのって...そう思いながらもふと、アラタの中にひとつの感情がよぎる。
ーーなんやろ、雛菜ちゃん見てるとなんか、こう.....
埒が明かんな、何の気なしに現れた雑念を払い、アラタは領也に向き直る。
「スマン、りょーやさん。ここ太陽強いし、雛菜ちゃんもちぃと暑いやろ?ちょっと裏の日陰行こか?」
「ひ、かげ.....?」
どこか上の空に復唱した彼女は数秒何か考えるとやがて小さく頷く。
「っ....!!」「っ!?すまん、ちょっと我慢してな」
抱き寄せて立たせる際、またしても異様な熱を感じ互いにたじろぐがなんとか思考を放棄して歩いていく。
「.....」
二人を神妙な眼で見送った後、領也はジーニアスディヴァイスを取り出した.....
ーーーーーーーーーーーーーー
少し離れた茂みにて、心地よい微風を感じながら二人並んで歩くとやがて落ち着いたのか、雛菜が離れた。
「しっかしスマンな雛菜ちゃん。付き合わせて疲れたやろ?」
ううん、眉を下げ頭を掻くアラタに首を横へ振り雛菜は笑う。
「海水浴って結構久しぶりだから楽しいよ。前行ったのって臨海学校とかだったかな?ユーリヤさんだって喜んでくれてるし、それに....」
それに.....言葉に詰まる様子にアラタが不思議がっているとやがて、彼女は言葉を繋いだ。
「お休みの日にキミと遊べるの、久しぶりだしねっ。」
そうか、怪我とか人魚の涙事件とかあって休日にこうして会うのは久しぶりな気がするな。
そんなことを考えていると、再び雛菜が口を開く。
「こうしてなんでもない休日を過ごせると、やっぱ良いなってさ....えへへ。楽しく過ごせるのが、一番だよね。」
言葉と裏腹にどこかたどたどしく、気まずそうな語調にいよいよ首をかしげると、やがて、口元を引き結んで少女は歩み寄ってきた。
ッ!!
瞬間、全身に灼けるような熱さと、水気を帯びた滑らかな感触が包み込んだ。
「ナッ、ひ、雛菜ちゃん!?」
「急に、ごめんね...?」
正体ーー不意に強く抱き締めてきた雛菜が弱々しく返す。
ーー本当は、いつも怖かった....
七夕の時も、あんなことがあっても行くってキミが言った時も、そんな矢先に仕事で関西行くなんて言った時も.....
ううん、それだけじゃない。
ビルで志藤さんに襲われたって時もあの後入院した時も。
キミがボロボロになる時はいつだって怖くて心配だった....
「雛菜、ちゃん...ゴメン......」
淡々と語る彼女の姿に、段々と心に突き刺さるような思いを感じアラタは返し、やがていつぞやの学園昏睡事件を思い出す。
とある陰謀の一環で在校者の殆どが眠りに落ちた際、同様の状態だった雛菜を確認した後、離れようとした矢先に彼女が呟いていた。
ーー...だめ。行かない、で....ーー
こんな時になんちゅう寝言を、当時は状況であっただけにその程度にしか思えなかった....
しかし、七夕で吐露された想いや、今聞かされている言葉のことを思うとつまりはそういうことなのだろう。
ねぇ.....
目の前の少女はどれ程の気持ちで自分を見守ってきてくれたのだろう....そう思っているとやがて雛菜が再び声をかけた。
「あの日キミは"絶対笑って帰ってくる"って、そう約束してくれたよね。嬉しかった.....」
「あ、ああ....当然や。もう、あんな顔はさせたかない。」
「ゴメンね。勿論、信じてるしわかってるよ。それでも、どうしても怖いし、不安なんだよ....!」
一層固く抱き締めた彼女の熱が、鼓動がより強く伝わってきてアラタも少し朦朧とした気だるさに襲われながらも強く抱き締め返す。
「今のあらたんスッゴく熱いけど、離れたくないんだ。ドキドキも伝わってくる....今の私も、そうだよね....?」
「せやな......雛菜ちゃんの、熱さ、鼓動、全部、伝わってくるわ......」
全部、冷ましてほしいの....
え...?消え入るように答える雛菜に少し言葉を飲み込むと、彼女は続けて少し爪先を伸ばして距離を詰める。
「あの約束があっても、事件に立ち会うキミのことを考えるとどうしても怖いから、こんな気持ちを安心させてくれる何かがほしいんだ...!」
「雛菜ちゃん....」
やがて、アラタは視線に吸い寄せられるように互いの前髪が触れ合う距離まで顔を近づける。
っ....緊張から逃れるように、雛菜がそっと閉じた目元がうっすらと滲み出す。
ああ、そうか...
自分でも驚くほどあっさりとアラタは悟った。
何も考えることはない、彼女の不安やつらい気持ちはアラタ自身が原因だ。
ならば彼女の怖さを和らげるのは自分の責任だろう。
それに....水着ゆえに全身に擦りつく雛菜の滑らかな素肌の熱さ、柔らかさ、強い心音、トリートメントだろうかーー甘やかな薫り....全てが心地よく感じる。
様子を見るに、恐らく彼女も今同じ感情なのだろう.....
同じく眼を閉じ、少しずつ口唇の距離を詰めていく。
そう、これで良い....
微かに触れ合うすれすれの感触、互いに感じる熱い吐息、そして意を決して互いの口を淡い感触が塞ぎ合う.....
「...?あら、たん...?」
「.....すまん。やっぱそんな訳にもいかへん、よな.....」
......寸前にアラタは顔を逸らし、自分の肩に雛菜の顔を抱き寄せた。
「なん...で?やっぱり私じゃ、こういうのは....ダメ、かな....?」
耳が痛いがここで屈してはいけない、消えかけた本能が違和感の正体を感じとり、精一杯に抗う。
「そうや、ない。ダメとかやなくて....なんか、おかしいんよ、この感じ。」
言うなれば、自分からも雛菜からも得体の知れない魔力が微弱ながら滲み出ているような感覚....
一体何故、少なくともこの先へ進むべきではないという潜在意識に集中しすぎて、その『正体』を突き止める余裕がないのだ。
切なげな訴えとソレを引き起こした罪悪感、そして本能的な危機感との葛藤の中、アラタは苦悩する....
※ ※ ※
「はぁっ、気持ちいいです。水の中も外も暖かいし、これはどんどん泳げちゃいますねぇ。」
「二人とも速いねぇ。私もあらたんのお陰で少しは速くなったかな?」
「さぁ、別にボク泳ぐの得意な訳やないし。てかとりあえず飲みモン買ってくるわ。」
さて、要望は特に無いらしいから適当に買ってくるか。
りょーやさんは自分でオールフリー買うとか言うてたな、そこまでして呑みたいんかアノおっさん。
そんなことを考えながら適当に屋台を探すと不意にひとつから声がかかる。
「ちょっとそこのお兄さーん、ドリンクだろ?ウチどうだい?」
眼を向けると、他より簡素な販売台にもたれる男ーーよれたTシャツには脱色を思わせる淡いシミがいくつも着いた、だらしない身なりの男だ。
...もっと見る「いっやーお兄さんモッテモテだねぇ、見えてたよ。」
品書きを取り出して渡されるなり目を通しながらアラタは緩く笑う。
「ハハッ、まぁボクは日頃の行いがエエからなっ。」
「オ?言ってくれちゃうねぇ~。ヴォクもあやかりたいよ羨ましい。」
取り敢えずよくわからないから適当にそれっぽいものを選び三本頼むと、見た目の印象とは裏腹に手際よくドリンクを作ると男はアラタに渡した。
「ハイッ、おまちどぉ!」
「おーう、サンキュー。」
会計を済ませ、ドリンク三本を運ぶ彼に手を振る男はやがて暫くしてから指先に集束させた光をデコピンの要領で飛ばしてアラタに当てる....
ーーヒョホホ、やったねっ。接触成功!!ーー
「お待たせー、これで大丈夫か?」
「ありがとうございます!」
「ありがとう、全然良いよ~。」
笑顔で迎える二人にそれぞれドリンクを渡し、軽い乾杯をするとようやく一息かとアラタは口を開く。
「しかしまあ、今更やけど雛菜ちゃん結構泳げるんやな。なんとなく意外やった。」
えへへ、嬉しそうにはにかむと彼女は返す。
「得意って程じゃないし、体力には自信無いから少しだけどね。それより、ユーリヤさんもスゴいね、大はしゃぎしすぎだよ。」
そう、ですかね...?首をかしげる彼女はやがてああと思い出したように一人頷く。
「そういえばロシア人は海水浴が好きだねってよく言われます。確かに、少し寒くても海に入る人は多いですけど...ロシアは広いから海が遠いことが殆どで、夏の海水浴は憧れなんです!だから今、とっても嬉しいんですよ。」
「・・・」「・・・」
ニコリと向けられた眩しい笑顔、思わず心が洗われるような感覚をあじわう....
「それはそうと、やっぱあらたんは慣れてるよね~。私もアドバイス貰っちゃったし。」
やがて雛菜がこちらに顔を向けると、アラタはと首を振る。
「まぁ泳ぐのはそんなやけどな。ただまぁ、水馴れも色々と特訓したからなぁ。」
そう、不意に声を上げた領也に一同顔を向けると彼は得意気に笑う。
「どんな敵がいつ来るか判らない。中には当然水中を領分とする者も出てくるのは間違い無いからね、水でも動きやすく鍛えておくように言っておいたのだよ。」
「まぁ今んとこ水中が得意なヤツなんて見たことあらへんけどな。金髪に変身する民族の誇り高き王子みたいな声で海パン穿いてたりするんかな?」
知らないよ、言うだけ言い終わった領也が適当に流して本に視線を戻すと、外から声がかかった。
「あー、雛菜ちゃんにアラタ君、ユーリヤさんまで~。」
「奈央!」「こんにちは、見吉さん!」
あれま、二人に続いてアラタが驚くと、どうやら彼女は撮影の関係で来ていたらしく、後ろにも数人同業者らしき女性が見えた。
「へぇー、貴方が和泉君ね。新垣さん久しぶり。」
うわ!?後ろからいきなりかけられた声に振り返ると、ウェーブ気味のショートヘアの女性が微笑みながら立っている。
「お姉さんイズ誰!?」
「あっ、お久しぶりでーす!ほら、前に話したでしょ?私がスタジオ行った時の...」
驚くアラタと対照的に明るく応える雛菜の説明でアラタは思い出す。
たしか、春休み頃に連絡ミスでヘアメイク担当が奈央も出る撮影に遅刻した際、奈央が居合わせた雛菜に代理を提案したことがあったらしく、彼女がその人なようだ。
その時のやり取りがきっかけで今もトークは繋がってるそうだ。
「あー、その時の。いやーはっはどーもどーも。天下無双常勝無敗のイズ」
「ちょっと、良いからそういうの!すみません。」
「こんにちは。.....へぇ、話は聞いたけどなかなか良い子じゃない。」
はいこんにちは、アラタの頭を押さえて眉を下げる雛菜に少し口角を緩めながら挨拶を返すとすぐに彼女の傍に寄って小声で囁く。
「!?ちょっ、そ、そんな!なんですか急に。」
「いっつもこうなんですよ~。一年からの親友として妬けちゃいますよぉ~。」
「こコラ、奈央っ!?」
メイクからの不意打ちと、隣で露骨に口を尖らせる奈央にますます紅潮しながらも抗議すると、更に覚えのある声が二人の意識を誘った。
「あれ~、雛菜ちゃんに見吉さん、ユーリヤさんも!」
「おっ、アラタじゃん!」
「陽歌ちゃん!」「うわぁ、ミカドやねん!?」
手を振る透き通った声の主、陽歌と隣に立つ銀髪の少年、皇ミカド。
アラタのクラスメイトであり、大の特撮好きな男子で、特にその趣味が高じてか、嘗てはハンターをやっていたとか、特撮だからこそ為せるようなハードな特訓を実践したりとか言った逸話も持っているらしい。
そしてご覧の通り、軽音部の歌姫と名高い風町 陽歌とは元より良好な交友関係だと噂だったが、こうして水着姿で隣り合って歩く姿が如実に物語っているだろう。
因みに彼にはアラタも知らぬもうひとつの顔が...これはまた別の機会で良いか。
「えへへー、夏休みも近いし夏らしい新曲を考えるにあたって何か良いアイディア見つからないかなって思ってね。折角だからミカド君にも来て貰ったんだ~」
雛菜達と嬉しそうに談笑する陽歌を脇目に、話題の少年は気まずそうに頬を掻く。
「ま、まぁ二人きりで海なんて正直緊張したけど、やっぱ頼まれたら断れないよな....」
ハハァ、小声のミカドにアラタは応じ、視線の先で笑う水着姿の陽歌を捉えながら彼の肩に腕を回して引き寄せるといししと笑いながら同じく小声で返す。
「まぁそうよなぁ。なんのかんの言うても陽歌ちゃんて結構、地味に実りが」
「うわぁぁあ!!!うわ、う、うわぁ!!」
言い終わるより前に顔を赤らめて叫びながらミカドがちゃぶ台返しのようにアラタを投げるとそのまま海に転がり込み、
「うわぁ!スマン、ミカド、待って!ゴメンボクが悪か」
「ウェーイィ!!」
もがき慌てるアラタの言葉も虚しく、電流のほとばしったヘラクレスホーンを半狂乱で海面に突き立て、
「ひぎゃぁあ!!」
けたたましい音と共に水柱がひとつ打ち上がった。
「え...?」
「な、なに、今の...」
「あー、気にしないで。どうせあらたんがまたやらかしただけだから......」
「....イヤ、アラタ。ホンットごめん...つい焦っちまった....」
「気にすんなミカド、今の完全にボクが悪いんやし、ほんまヒトが良すぎるで。」
手を合わせて頭を下げるミカドに、身体からぶすぶすと煙を吹きながらあっけらかんとアラタが笑った。
ーーキャーーー!!
照りつける太陽、人が賑わう砂浜、広大に広がる蒼....
白くしなやかな肢体を踊り出しながら彼女は駆け回ってその光景を見渡した。
まじまじと一頻り眺めるなり、少女は満面の笑顔で紫晶(アメジスト)を思わせる瞳をより一層輝かせながら声を上げた。
「うーーーーーーっ....みーーーーーーー!!!」
...もっと見るEP31「夏だ海だっ!アブナイA♥ENTURE」
大体一週間前くらいのことだ。
「今日も暑いねぇ。」
「それなー、でもこっからもっと暑くなるんやぞ? 」
やれやれと、今日も授業を終え雛菜とアラタはぼやきながら昇降口を出る。
「あ、アラタさん、新垣さん!」
暫く歩くうちに呼び掛けられる声に振り向くと手を振る姿...
陽が照り返る程に白い肌と長い銀髪、一層輝く笑顔...
「ユーリヤちゃんっ!」
「おつかれー。夏だしずっと暑いけど大丈夫?」
ハイ!少し気だるげな二人に対し、元気に返す彼女は言葉を続けた。
「私、日本の夏ってどんな感じなんだろうって、楽しみにしていましたから。」
「はぇー、そっか(抱き締めたい、この美白ッ!!)」
「やっぱりロシアにいるとこういう温度は新鮮なの?(守りたい、この美髪...!)」
各位邪念を抱きながらアラタが彼女の日陰となる位置に並び、雛菜が折り畳みの日傘を取り出すと彼女の隣を歩きながらかざす。
ありがとうございます、くすりと会釈するユーリヤは雛菜の問いに答えた。
「それもそうですけど...旅行ではここよりも暑いところも行きましたからそれに比べれば
というのはありますし、何より....」
何より?首をかしげると彼女は目を輝かせて写真を見せる。
「海です!私、日本の海に憧れていました。だから夏が待ち遠しくて...!」
「・・・」
ふふっ、嬉しそうに微笑みながら歩くユーリヤの横顔に見入ったアラタは決意した....
※
「なぁりょーやさん。」
なんだね、珍しくアパートの自室に胡座をかく少年に領也は不思議がる。
「海行きたい。」
「・・・ワタシは良いよ。構わず新垣クン辺りとでも行きたまえ。サンはいらない。」
いやそれがな...案の定素気ない彼にアラタは頭を掻いて事情を話す。
「...キミがやたら溺愛してるっていう留学生か。電車なりアイテム2号なり使えばワタシの運転より速いだろ?」
「ンッカァー解ってねぇ!ゴタゴタした街並みから段々外れて郊外に出て、自然が増えたなとか思ってる頃合いに差し掛かる見渡さんばかりの浜辺!!そこからが海水浴やろ!!ついでにアイテム2号は流石に三人乗って運転はできん!」
「(うっわ、そういや和泉クンもプロフィール上は旅好きとか言ってたか......)わかったわかった、アイテム2号使えるなら運転くらい大丈夫だろ、ハイ。」
突如ヒートアップするアラタにやれやれと首を振りながら領也が鍵を差し出した。
「そっか。まぁ車ありゃりょーやさんいらへんしぃ...てアホか!要るわ!アイテム2号は免許要らんくても車は免許要るやろ捕まるぞ!」
彼のノリツッコミに爆笑する領也だがアラタは構わず話を続ける。
「なんならこないだ楠葉おねいちゃんからアイテム2号にナンバープレート着けろとか言われたからな。」
「ハハハ、それでどうしたんだい?あとサンはいらない。」
「んなダセェ、着けるかいな。ホリッさんと鬼ヶ島警部のご理解と説得で納得してもらえたわ。」
さて本題に戻るか、一頻り喋ったアラタは座り直し頭を下げる。
「なぁーりょーやさんさぁ、頼むよぉ。わざわざニホンまで来てくれた可愛すぎる後輩なんやしエエ思い出できるだけ多めにしてあげたいやんかぁ。」
「車なら多分迅の方が馴れてると思うよ?」
「ア゛ー!今それどころや無いの知っとるやろが!明日から夏休み一杯くらいまでしろかの昼代と間食代くらい負担するから!!」
「・・・」
|
|
「うーーーーーーっ....みーーーーーーー!!!」
「...ゴハァッッ!!」
「わわっ、アラタさん!?」
「あー、気にしないで。ただの発作だから....」
不意に血を吐いて倒れたアラタにユーリヤが狼狽するも雛菜は呆れながら抱き起こす。
「フッ、フフ....世界よ、これこそが"笑顔"やで....」
「全く、なーにワケわかんないこと言ってるの。ってうわぁ!?」
「アラタさん、新垣さん、スパッスィーバ!!ありがとうございます!」
急にアラタと雛菜にまとめて抱きつき満面の笑顔を見せるユーリヤに雛菜が慌てる。
「ちょ、ユーリヤさん落ち着いて!」
「そんなの勿体無い、海は泳ぐところです。早速沖まで泳ぎましょう!」
「そんなに急がなくて良いから、あとそろそろあらたんが死んじゃう!」
え...?雛菜の言葉に恐る恐るアラタを見ると、首が反り返る勢いで口から噴水のように鮮血を噴き上げており、思わず離れてしまった。
「ああ、すみませんアラタさん!強すぎましたか?」
「ふふ...こうやって果てるならボクは本望やで...私のことはおじさまとでも呼んでくれたまえ....」
違う違う、ユーリヤにぼそりと雛菜がツッコむのをよそにアラタが返す言葉を聞いてため息をもらす。
「ハイッ、おじさま♪」
「いや、ユーリヤさんもいいからぁ。」
いやーそれにしてもとシートに座りながらアラタはバッグを漁り言う。
「嬉しそうなユーリヤちゃんを見てたら貧血になりました。」
「クルァ和泉クン!"不要不急のタンサン"を何本も飲むんじゃないよ!!バカッ!」
タンサン(炭酸ではない)を三本ほど取り出し一気に流し込む彼に飛ぶ怒号で思い出したアラタはユーリヤに向き直った。
「そやそや、礼ならこのアンちゃんに言うたってくれや。功労者やで。」
「志藤さん、スパッスィーバ!」
「いやいいよいいよ、ワタシは和泉クンに頼まれただけだしね。」
不意に手を握られ領也は空いた手を軽く振るがアラタが不意に詰め寄ってくる。
「JKに手ぇ握られてニヤけんなや。」
「うるさいよ。」
「しかもっ、ボクはハグまでもろてしもうたのに、ブクク...りょーやさん握手だけ、フッフフフ.....」
「知らないよ、子供にそういう趣味はないよ。」
適当にあしらいながら読書に更ける彼にニマリとアラタは口角を歪めて耳元に一層近寄った。
「じゃー鳴海センセとか深見センセら辺ならえーんですかー?アッ、ところで弥生センセはそういう意味ではアンタ的にはまだ子供なん?」
「そうかそうか...今の発言を月白先生と祐天寺先生に今後の教育の参考として送っとくよ。」
「あ゛あ゛悪かった、悪かったよりょーやさん!」
「わかればよろしい、サンはいらない。」
涼しい顔をして再び本に眼を落とす領也にチッと不貞腐れるとやがて雛菜達の楽しげな声が耳に入った。
「さてと、まずは日焼け止め塗るよ、髪用もあるからね。」
「わぁ、髪用まで用意しているだなんて、流石です!」
「ふふっ、日焼け対策は万全だよ。」
へいへい、アシカのように這い寄りながらアラタが口を挟んだ。
「おっけー、ぜ、ぜんっ、全身、ッハァー。全身、ボクがヌッ、塗ったるから、二人とも、安心ぐわぁ!!」
「はーい、私達先に塗ってるからちょっと待っててねー」
雛菜に流すように蹴られ、砂に上半身が埋もれて痙攣するアラタを見て領也が声を上げて笑った....
「クッソー、どいつもこいつも!ボクの扱い悪すぎんか、主人公!!」
良いもん、むくれながらアラタが雛菜のバッグを勝手に漁って他の日焼け止めを探す...と
「なにしてんの!」
「次はアラタさんですよ~」
雛菜に叩かれ、側に座るユーリヤにたじろぎながらアラタは言う。
「ほっといてくれ。日焼け止めくらい自分で塗るから、なんなら塗る必要もねぇしな。」
「ダーメ、塗っとかないと身体にも悪いんだからねっ。それに髪には塗らないつもりだったでしょ?」
「おーいおい、男なんやから髪は別に...」
「ユーリヤさん押さえてて。」
ハイッ!不意に羽交締めをかけるユーリヤ、突然の出来事ーーというか主に肩甲骨周りに密着する感触ーーにアラタは驚くが、
「ありがとっ、それー!」
「あっ、ちょ、雛菜ちゃん!?ユーリヤちゃん!?あっ、ちょ、待っ、アァアーーーッ!!!」
・・・
「コ、ココハテンゴクナノカナ....?」
「うん、最近の女子は恐ろしいな。」
柔軟運動を済ませ海へと進む二人を背に倒れるアラタ...先程からその様子をヒくような目で見ていた領也が呟いた。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
ーーーーーーーーーーーー
ーーーーーーーーー
ーーーーー
ーー
「くぅ、あの小僧、どこへ行った?」
「くまなく探せ、最悪こんな辺境なら"文字通り"炙り出せるだろ。」
「バカを言うなコリアンド、無駄な騒ぎを起こす気か。」
二人の影が口々に言う。
...もっと見る両者とも夏の真只中にスーツできっちり身を包みターバンを被った中東系の男であり、手には電熱ブレードや護身銃を思わせる火器を握りしめて辺りを窺っている。
そんな折り、片方が何やら違和感に気付く。
「おいクミン、こんなとこに川はあったか?」
クミンと呼ばれた男は呼び掛けるもう一人、コリアンドに返す。
「俺が知るか、ニホンの況してやこんな山奥。アノ変なガキ追って来ただけだろうが。」
そこまで言いながら彼の言葉の真意に気付いたときクミンは驚愕した。
なんだこれ!?そう足元に眼を向けると、ザブザブと溢れ返った水が足に浸かっているではないか。
「うわぁ!濡れて気持ち悪いぞ!」
「言ってる場合か、一体何が、あぁ!?」
二人してその異様に慌てるが次の瞬間、足元が固まった。
凍りつく水面、ふわふわと立ち上る白い冷気....
ーーそこまでだよっーー
!?小高い位置から聞こえる声に二人表情をひきつらせて視線を送る....
両手に青い拳銃を構え、紫のタイツに青い装甲を着けた特撮ヒーロー風な姿、しかし先に計画を阻まれた際とはどこか違う雰囲気で男達は重ねて驚いた。
「諦めて僕の質問聞いてよ。」
「な、何を言うか小僧!」
「私達の邪魔はさせん!」
やれやれ....肩を落として数秒、戦士風の人物を覆うように何かごちゃごちゃと起きた後、その姿は黄色い装甲に橙色のタイツへと変わっていた。
何ぃ!?追い付かぬ思考で焦ると、樹を駆け上がって一気に飛び降りた彼の腕には不釣り合いなサイズの大岩がそのまま纏っているような拳が振り下ろされていた。
「な!?おいちょっ、待て!」
「クェイク・ハンマー!!」
「ガァアッハァッ!!?」
蒼白する様をよそに氷を砕くと同時に衝撃で吹き上げられたクミンとコリアンドが投げ出されて昏倒する。
その様子を見た戦士はやれやれと眼を向けた。
「さて、聞かせてもらうよ。おじさん達、ウチの女子テニス部に声かけてたけど、何してたのさ?」
そう歩み寄るが、
ーーひゅるるー!!ーー
「うわ!?」
つむじ風のようなモノが二人を巻き上げながら吹き去ってしまい、面喰らったうちに姿を消したことに舌打ちをする。
「逃げられたー。」
[ははは、君もだいぶ慣れてきたねぇ。]
おっ、装着を解除した少年に、涼しげな声で連絡が入る。
「そう...なのかな?」
[まぁもう夏休みなんだ、そろそろ会いに行ってみるかい?"連中"の動向もますます波に乗って来そうだしね。]
相手の言葉に待ってましたと言わんばかりに顔を輝かせ、少年は返す。
「うんっ!いよいよかぁ。ふふっ、楽しみだなぁ....」
|
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ーーそして、流石は学園長先生だね、アラタ君のことも斟酌してくれて何かと手を回してくれたよ。
その一環で実力を計るための試練課したり色々とやるなかで、彼は偶然休日に暴れ出した超越不審者相手に組織のヒトが駆け付けるまで持ちこたえる健闘を見せたんだ。
元々PAって警官か、あとはハンターとかその組織とかが片手間程度に相手してるくらいだったんだけど、数が増えて手が回らなくなってるって懸念が出てたんだよ。
その矢先シドーはそんなアイツの健闘ぶりを見てコレは化けると踏んだんだって。
「・・・」
で、進路が決まってなかったのもあって聖櫻が超越不審者の出没率が高かったことや校風的に彼に合うんじゃないかと、シドーから学園長に、学園長から武上理事長にと掛け合った結果、討伐できるくらいの実力を付けたうえで超越不審者を優先的に鎮圧するという任務を負って聖櫻学園に入学したって訳さ。
...もっと見る「ま、チカラ付けるために一年分は入学できずシドーから高1分の勉強教わりつつ辺境で修行してたけどね。とりあえず長くなったけどコレでアラタ君が聖櫻に来た話は終わり。で、こっからはこないだの海とか貴女の今後とかと関わる話ね。」
ーー元々、麻帆良生の組織関係者の中には修行として中高卒業したらヨソに行って治安維持活動をする者もいるけど....
当然、そんな特別案件をポッと出の、況してや部外者が引き受けることになったんだからそりゃ荒れたよ。
んで、納得いかない選民意識高い系の奴らが
『 和泉アラタによる麻帆良学園の実情に踏み込んだ動向反対派』
ーーまぁ平たく私らは『過激派』って言ってるけどねーーを立ち上げてあの手この手でアラタ君のボロを出すなりチカラで敗るなりして当時の現場を見たこととPA討伐の件を白紙にしようとしてるわけよ。
その過程で媚薬を混ぜたのは過激派の一人ベノムスーー実力で敵わないから雛菜さん巻き込むのもお構い無しにアラタ君の不祥事でっち上げようとした卑怯者だよ。
そっか...やがて雛菜はボソリと呟いた。
「あらたんが無理して、意識回復するなりすぐ事件に行くって言った時、無茶するのが怖くて考えが解らなかった....そうだったんだ。」
うん、頷くなりしろかは続けた。
「で、こっからは私が雛菜さんに聞きたいことだよ。私5月頃に、アイツとつるんでると何が飛び火するか解らない、貴女をも不幸にし得るって言ったよね?」
先より増して神妙な語調に、雛菜も少し身構えながら頷く。
「媚薬を飲まされたってのはつまり、アラタ君の都合に雛菜さんが巻き込まれたってことだよ。」
「・・・」
「もしあの時、組織生徒の良識派が止めなかったら、文字通り貴女が彼と関わったばかりに不幸になるって構図が成立してたんだよ。」
な、そんなのっ!思わず声を荒らげる雛菜を制止ながらしろかは淡々と続けた。
「だから今一度聞いとくね?そういうことがあって、これからも危険が起こり得るうえで、彼と積極的に関わっていたい?覚悟はある?無理なら無理と言っても誰も怒らないけど....」
「・・・」
私は...顔を上げ、心配している風でもない面持ちのしろかに目を向け、雛菜は既に出来上がっている答えを返すことにした。
「心配してくれてありがとう。でも、あらたんにどんな事情があろうと私の気持ちはもう決まっているよ。だって...」
だって....
ーーーーーーーーーーーーーー
新垣婦人に全て話す....
イヤ、厳密には深いところは言えないため、愉快犯から嫌がらせを受けたというテイに改編はしたが、変な薬のせいで起きた海水浴での出来事を話した。
あらあらと驚いているらしい彼女の顔を窺う勇気もなく、もう一度アラタは頭を下げた。
「ホンッッマすみません奥さん!雛菜ちゃんのことはお任せをとか言いながらこのザマですっ!」
うっふふふ...元よりどんな対応も甘んじて受ける所存だった少年は、目の前の友人の母がーーたった今娘に不貞を働きかけた話をした相手が笑う声に呆気にとられた。
「え...?」
「あはは。もぅ、今更そんなこと気にしなくたって良いわよ。それとも...イヤだった?」
「アッイヤ、その...イヤとかって問題じゃなくてデスネ....」
悪戯っぽく不敵に笑む姿も今は畏怖の対象だ、一瞬にして竦み上がるアラタだが婦人は一笑に付して続ける。
「ふふ、冗談よ。でもあの子いつも心配してたのよ?アラタちゃんは無茶するけど全然疲れてるとか言ってくれないって。それに...」
っ!彼女から聞かされる雛菜の話に思わずハッと反応するが、引き続き婦人は言葉を繋いだ。
「たまにはそうやって色々と確かめ合う時も必要じゃない?雛菜ちゃんもその時色々とアラタちゃんに言ってたんでしょ?」
「え、ええ、まぁ。雛菜ちゃんがボクのこといつも心配してくれてるんやなってのはわかりました.....」
バツ悪く答える少年に満足げに笑むと婦人は更に言う。
「そ、れ、に。アラタちゃんだったら全然オッケーって言うか、なんなら薬とか関係なくそっから先まで」
「オオオ奥さんン゛ン゛ ! 」
「フフッフッ...冗談よ。まぁ、これからもあの子のこと、よろしくね。」
「心臓に悪すぎます。でも、ハイ。お任せください。あと、ありがとうございます....」
頭を掻きながらも気持ちが晴れてきたのか、アラタは笑って応える....と、
「あーはい、璃子さんお久しぶりです。....藤城地区のツヨシとレツ?なんすかソレ、とりあえず承知しました。行ってみますっ!」
通話を終えるなり立ち上がるとアラタは婦人に頭を下げる。
「すみません奥さん。ちょいと用事入ったんでこれで失礼します!」
はいはーい、緩く手を振って駆けていく少年を見送り、
「ふふっ、若いって...良いわねぇ。」
満足げに微笑むと彼女も立ち上がった....
ーーーーーーーーーーーーーー
・・・は?
「好き...だから。」
晴れやかな笑顔で返す雛菜の言葉にしろかは唖然とした。
この期に及んで何を言っているのだとさえ思えてくる言い草だが、雛菜は更に続けるようだ。
「今の学校生活が、皆と笑い合える毎日が、あらたんと色々何気ない話をしてる時が、あらたんが好きだから...」
そ、そうかい...頬を掻きながらしろかは気だるそうに言う。
「うん。毎日が凄く充実してて、その中でもあらたんのことが強く浮かんできて...」
それに...真面目に表情を引き締めると迷い無くしろかを見据えるまっすぐな視線に思わず彼女も背筋を直す。
「そんな話聞いたらますます放っとけないよ。あらたん無茶はするのに、あんまり休養とかに気を遣ったりしないし心配かけられてばっかりだもん。」
「・・・」
だからね、呆れとも驚きともーーあるいは安堵ともつかない曖昧な表情を向けるしろかを気にせず雛菜は言った。
ーーあらたんがみんなの安全を守ってくれるなら、それで私が心配になるなら...私は自分にできることであらたんの安全を少しでも守って、心配事を減らせるようにしたい。
それで力になれるなら、それが幸せだよ。
「・・・そうかい。んまぁ、二回聞いてみてそれならもう大丈夫そうだねー。自分の結論(ミチ)を歩むのが大事だよ。」
曇りない言葉....しばし黙していたしろかが漸く言葉を返すと彼女は困ったように眉を下げて手を合わせる。
「えへへ、ゴメンね?わざわざ色々教えてくれたのに...あと、ありがとっ。」
ハイー?突然の謝意に要領を得ず首をかしげる。
「しろかちゃんってちょっと素気無くて、あらたんには旧知の仲だからだろうけど毒っぽいなぁって思ってたけど、私とかあらたんとか...他の皆のこととかも心配してくれてて優しいよねぇ。」
「ははっ、私が優しかったらそれは偽者(ドッペルゲンガー)ですねー、気を付けましょう。」
照れるでも否定するでもなく、彼女はおどけて返す。
ふふっ、そんな様に微笑んで答える雛菜にやれやれと立ち上がり、供に寮を出た。
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「ったく、報告は以上だよー。」
[そうか、本人が選んだなら良いんじゃないかな。]
そうだねー、領也の言葉にしろかはため息をひとつ、
「雛菜さんはソレで良いし、あのコは良い子だから私も支えてあげたいけどさー、アラタ君はそういう意味では真面目だから、万一最悪の事態になったら...」
[その時はその時でどうにかするのがサポート枠、だろぅ?]
「"見なかったことにして生きるなんてイマの自分はイヤ"ねぇ...」
ヘイヘイ、涼しげに返す領也に不貞腐れたように返すと、保健室の戸を開く音が聞こえる。
来てたんだ、快活な声に軽く手を挙げ返すと鞠香は挨拶もそこそこに不思議そうに切り出す。
「そういえばさっき雛菜ちゃんと会ったら嬉しそうだったけどなんか知ってる?」
聞くところによれば、昼食の時にもどこか上の空で追求しても慌てて濁され、同席していた陽歌からも海の日からずっとそんな感じだったと聞いていたという。
心配だっただけに打って変わったような彼女に驚いたと言う鞠香に緩く笑いながら首を小さく振るとしろかは返す。
「知らんがな。」
え...?訳知り顔に見えた彼女の思わぬ言葉に面喰らうが、そんな鞠香をよそにわざとらしく肩を竦めた。
「ヒト様が真面目な話したら返ってきたのがオノロケよ、そんなんもう末永くご勝手にどーぞ、て話でしょ?私はそう言いたいけどねー。」
「・・・フッ、ふふふ....」
っな、なんだよー....露骨な悪態にやがていきなり笑う鞠香に逆にたじろぐと、彼女は言う。
「いやぁ、なんかしろかちゃんも嬉しそうだなぁってさっ。」
「アータはここんとこ疲れてらっしゃるからねー、眼の御自愛をお勧めするわ...」
それはそうと、鞠香を茶化しながらもふと、笑う彼女にしろかは少し神妙な顔をする。
最近日常的にはいつも通りだが、どこか張り詰めたような真面目な表情を時たま見せることを自分は知っていた。
だからこそ、その笑顔と自分の返答から不意に思い出したようにしろかは返す。
「鞠香さんもホントに無茶すんなよー?最近色々あるしー。」
「うん...そうだね。ありがとう。」
ーーーーーーーーーーーーーー
「さて、明日から夏休みですが...羽目を外しすぎず、宿題のやりこぼしもなく。何よりも大きな怪我もなく皆さん元気でまたお会いしましょう。」
一同、陽子の言葉に元気よく返事をして解散する。
・・・
あらたんっ!やがて元気よく呼び掛ける声に振り返った。
あの後お互い思うところも晴れて所謂いつも通り、今日も今日とて帰路に着く。
「キミは夏休みになんか予定あるの?」
さぁーなぁ、困ったように頭を掻いてアラタは答える。
「正直、もう暫くはゴチャゴチャめんどいのが結構ありそうやし何とも言えんわなぁ。あとどっかのタイミングでイエに顔出すくらいはするかもしれへん。」
そっか....やっぱりな感じの言葉だが気落ちするでもなく雛菜は口を開いた。
「じゃあさ、いつかはともかくとしてなんか予定は立てておかない?あと、疲れてて必要なこととかあったりしたら、その...遠慮せずに私を頼ってほしい、な....?」
・・・提案とともに問い掛けが少し弱気な声になりながら投げ掛けられ、やがてアラタは少し真剣な彼女の面持ちに小さく笑いながら肩を叩く。
「ああ、せやな。そん時はよろしく頼むわ。」
「ふふっ、うん。」
まだ終わらぬ問題も多々あるが、暫しは二人の雑談に身を委ねよう。
そんなことを思いながらアラタは雛菜と笑い合い、明日からのいつか供に過ごす日の予定を話し合った.....
EP32ーーE N Dーー
ーーーーーーーーーーーーーー
「単刀直入に言うからねー」
「・・・」
連れ込まれたのは聖櫻寮、しろかの部屋だ。
神妙な顔でノートを広げ、向かいの自分に目を向けてやがて切り出した。
「アイツの抱き心地どうだった?」
「ちょ!?ナニいきなり!?な何言ってるの!?」
冗談だ、勢い良く立ち上がって狼狽する雛菜に爆笑しながら流し、彼女は咳をひとつ話を戻す。
...もっと見る「シドーから概ねは聞いてるからすぐ本題といこうかー。全身暑くなってきたのはどのくらいか覚えてる?」
えっ、えっと...先の戯言と併せて彼女の口振りから雛菜も海の日の話だと悟り、少し思考を巡らせる。
「確か、皆で泳いで休憩したとき、陽歌ちゃんとか奈央とかと会ってね。その後くらいかなぁ。」
確か、アラタと並んで座っていた時、暑いと思っていたら、不意にアラタの腕が触れ、異様に『熱かった』のだ。
「で、その時なんとなくあらたんの方見てたらドキドキしてきて....」
「向こうから物陰行こうとか言われるからコレ幸いと」
言い方!ドンと反射的に机を叩かれて腹を抱えて笑うしろかが瞬時に真面目な顔に切り替えて言葉を続けた。
「まぁいいや。で、それからどうなったー?」
落ち着いたのか、雛菜も椅子にもたれ、どこか物憂げに返す。
「うん。あらたんと話してるうちになんか色々と込み上げてきて、つい...抱きついちゃった....」
「で、まぁそのまま思ったことつらつら言いまくったと。」
う、うん...落ち着かないらしく毛先をつまみながら赤面し視線を落とす姿にくすりと口角を緩める。
「ぶっちゃけアラタ君も妙に素直だと思わなかった?」
え?いきなり変わる話題に思わず首を傾げるが、言われてみればそうだ。
彼にしてはすんなりと優しく抱き締め返してくれて、なんなら目があった時にはあらたんの方から....
「...ゴメン、水もらうね...?」
「オノロケ三昧マザフ※カー」
顔を真赤に火照らせながら俯く雛菜にボソリと呟きながらしろかは食器棚に向かう。
・・・
「で、キミにとってソレはイヤな思い出かい?」
「な、そ、そんなこと!」
薄ら笑いで問うしろかに思わず語調を強めてしまうがすぐに言い淀んで雛菜は続けた。
「しょ、正直...色々と思ってたことを言えて...それであらたんに私の気持ち解ってもらえて...あと抱き締めてもらえて...嬉しかった...」
「七夕の時保健室であんなギューギュー抱きついて大泣きしてたのに何を今更。」
「わー!そ、それは今は良いでしょ!?ていうかさっきからしろかちゃんの話が読めてこないんだけど!?」
わざとらしくシガーラムネを咥えて肩をすくめる彼女にいよいよ声を荒らげる雛菜に漸くかと姿勢を直してしろかは言葉を返す。
「んまぁ大変長らくお待たせしました、かな。君達がいきなりあんなことし始めた経緯となんでそうなったかについて和泉アラタの話をすることにしました。だから呼んだのでーす。」
え?なんとなく感じたのだろう、少し緊張気味の面持ちで雛菜はしろかの言葉を待った。
「単刀直入に言うと雛菜さんとアラタ君は悪い奴からジュースにとても強い媚薬を仕込まれました。」
「え、ビヤクって、あ、アノ...?」
「イェス、もっと直球に言うところの惚れ薬ってヤツでございござい。」
だ、だからかぁ....顔を覆って頭を垂れて雛菜は長く息を吐く。
「あらたんにいつも以上にドキドキしたのもあんな赤裸々に色々言っちゃったのも....遠回しにキ、キ、えと....求めちゃったのも、つまり...?」
ニヤリと頷きながらしろかは答える。
「そーゆーこった。」
はぅあ!?ひねた声を上げながら彼女が勝手にベッドに飛び込みのたうち回る様に頬を掻き、しろかは話を続ける。
「ま、まぁーアラタ君がすんなり受け入れてたのもそういうことだから安心したまえ。」
へ・・・?その言葉に雛菜が硬直してこちらを見る。
「その媚薬はやったヤツ曰く強く意識の向く相手に作用する、そうだ。」
「え、ええっと、つまり、その...あらたんが」
「潜在レベルでな!今からなんでキミらがそんなモン飲まされたんだって話を根本から話すんだよ!」
余談が長すぎる、まぁこちらもついに深いところを話すに当たっての踏ん切り付けるにはちょうど良かったか。
そんなことを思いながらしろかも腹をくくって本題を切り出すことにした。
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「な、なんやコレ....!?」
学園敷地内の山中、いつも通り暇潰しとしてうろついていたアラタはやがて、更に奥から騒々しい物音と....到底この近辺では有り得ないような恐ろしい咆哮が耳に入り、思わず様子を見に行った。
!?少年は驚愕した....
「ギギャギャァアア!!」
猛牛が二足立ちしたとも悪鬼のような姿ともつかない真黒な怪物が巨躯を振り乱しながら暴れ回る光景。
その周りには....
「○□◎✕...."吹雪の鎖"!!よぅし、今だ!」
「とっておきを見舞ってやるぜぇ、XTZYM..."貫け、巨岩の槍よ"!!」
数人の人物ーーおそらく外見年齢やちらほら見覚えのある制服が見えることからここの生徒達だろう、奇妙難解な言葉と共に怪物の足元が凍りついたと思えば、文字通り奴を突き上げた岩がせり上がり、断末魔と共に霧散させた。
後に聞こえるのは彼らの歓声だ。
な、なんやコレ....!?今思えばすぐこんなことを口にしたのがいけなかったのだろうか。
喜ぶ生徒達はやがてその声を聞き取ったらしく、一転して真面目な顔で向き直る。
「(ヤ,ヤベ...)イヤーハッハドーモドーモ、皆さんお強いですねぇ~....?」
直感的にヤバい、汗を滲ませながら持ち前の軽いノリで声をかけるも彼らの態度に和らぎは見られない。
「バカな、何故一般人がこんな所に...?」
「見ちまったもんは仕方ないか。やれ。」
「ナ、ナイステュ~....え?」
一人が冷淡に言うと、隣に立った男が杖を構える....が、
「待て、お前はまだ詠唱が未熟だ、下手すりゃ生きてることすら忘れるかもしれないぞ、コイツに任そう。」
「は、お前オレをバカにしてんのか!?んなこと言ったらソイツにやらせりゃ高度すぎて脳細胞まで死滅するんじゃねえか?」
「失礼な、私なら彼が今見たものだけ消すなど雑作もない...!」
口々に言い合い、押し付け合いを始める様を呆然と見ていたアラタはやがて気付いたようにじりじり後退り、一気に背を向けて走り出す。
「オァア、アイツ!?」
「追えーっ!!」
「な、なんや知らんけどさんじゅーろっけー逃げるに如かずゥ!!!うぉわ!?」
走るが、追ってくる集団から次々と放たれる不可解な淡い色合いの光弾の数々、それも咄嗟に避けながらアラタは目の前の不条理から逃げ続けた....
※
「この回避率、ホントに一般生徒なのか?」
うーむ弱った、崖の際まで追い込まれたアラタは胡座をかいて考え込む。
「ま、まぁスポーツ感覚で武術会出るくらいには我流で鍛えたしな。んにしてもしつっけぇなぁアンタら。ボクなんかどこまでも追っかけたって何にもならんで?」
ダメだ、おどけてもなおお堅い様子で一人が言葉を返した。
「キミが見てしまった以上、記憶を消さねばならないのだよ。」
「んま、治安維持ってヤツだよ。」
記憶!?突拍子もない答えに抜けた声を上げると、彼らは一様に頷く。
「あのヤバそーなデカイのをブッ倒す現場が見られちゃアカンのか?」
「そうだ。」
「わかったぞ!あのバケモンは怖い顔だけど本当は大人しくて善良なのにお前らカネとか欲しさに襲いやがったんやな、なんてことしやがるぅ!」
「違ぇえよ!見られちゃいけないってそうじゃねぇえよ!!」
ひとり合点して息巻くアラタに他の一人がツッコんだ。
「我々も本当はこんなことしたくないですけど、見てしまった以上はどこで漏洩してしまうかわからない。部外者への記憶消去は必須なのですよ。」
「んまぁ副作用で関係ないことまで消えたり脳細胞が死滅したりってこともあるかもしれねぇけどな。」
ちょっ待てい!なだめるように言う一人に便乗してケタケタ笑うもう一人、思わずアラタも声を上げた。
「脳細胞てアンタ、シレッと恐ろしいこと言うなや!あとバレちゃイカンなら安心せぇ、ボクは大事なことの口は固い自信はある!」
「ダメだ。」
あれま、ドンと胸を張って言った矢先にニベもなく突き放された返答でずっこけるがしかし、こうなればもはや少年はヤケだった。
「・・・正直、映画とかでよく見る魔法?みたいなの使ってるの見たしアンタらに勝てるとは思ってねぇ。でもな、ろくすっぽ詳しい話もしねぇでグイグイ進めてくんなら抗わせてもらう!」
仕方ないか....全員が身構え術式を展開した時だった....
「まぁ双方待ちたまえ。」
そう言いながら歩み寄ってきたのはロボットを思わせるパワードアーマー...それがやがて解除され、白衣姿の男だ。
「なっ、シドー!なんのつもりだ!」
「ただでさえコッチに干渉してきたうえにまだ口挟もうってのか!?」
組織生徒達の言葉に志藤 領也は退く気は無いようだった。
「よくわからないまま頭ごなしにああだこうだ言われても困るだろう?」
ーーさて和泉アラタクン、これが麻帆良の実情だ。
世界には常軌を逸した怪魔が蔓延っており、彼らは治安維持の為にソレを秘密裏に討伐する任務があるのだよ。
で、見られたら原則は記憶消去をすることになっている。
そういうことだ、一人が水を得たように啖呵を切った。
「だからキミはここで大人しく。」
「イヤやな。」
は!?一同顔をしかめて声を荒らげるが、領也だけどこか涼しげに笑う中、アラタは言葉を繋いだ。
「そんなヤベェモンがおるって聞いたうえでそんな世の中何も見なかったことにして生きていけなぞボクは...少なくとも"今"のボクは御免や。アンタらのことは口外せん。腕節にはそれなりの覚えあるし、それでどうや?」
「ふざけるな!武術祭で良い線行ったくらいのヤツが俺達と並ぶつもりか!?」
「口外しないなど、クチではなんとでも言える...!」
「まぁそう言うな。そもそも立ち入り防止のために現場近辺に"人払い"をかけておくのはポリシーの筈だ。」
さらりと受け流した領也の言葉にやがて、捲し立てていた連中が気まずそうに表情を引き締めた。
「おおかた、こんなところまでわざわざ来る者もおるまいとタカを括った君達の落ち度もあるんじゃないのかな?」
「い、言わせておけばシドーめ...」
「早合点するよりも、とりあえず学園長と相談しようではないか....」
「シドー。」
「・・・」
警戒心も無く軽率に男の部屋に上がり込んでいる娘が不満げに声をかけるが気にせず本に目を通す。
「雛菜さんは一般人だしアイツは魔法を知ってはいても詳しい魔力まで読み取れない。でもシドーは違うだろー?」
「・・・」
「アレだけ濃い媚薬なら魔力だってかなり強い。魔法を多少研究してた貴方くらいならわかったハズだよねー?」
「....だから愉快犯一人確保するのに五人も動員させたじゃないか。」
返す言葉にわざとらしくため息をひとつ、しろかは少し眉をひそめて更に返す。
「あんなんヤバイってわかるでしょーが。なんで自分で手を打たなかったのさー?」
「....和泉クンは不審者を鎮圧するためだけに高校生になったんじゃないんだよ。」
...もっと見る彼女の考えを汲み取ってか、領也も応えた。
「彼はもっと友人の心に触れてみる必要がある、そう思っただけだ。いつも気に掛けてくれる友が出来たら....ましてやそれが女子なら、ただひたすら超越不審者を討ってさえいれば良いなんて訳にもいかないだろ?」
「それは、まっ...まーねぇ。でも、ギリギリまで引き延ばさせていたとは言え...あの状況、アラタ君はともかくとしても雛菜さんのリスクが大きすぎただろー。」
「結果論だと言いたいのかね?ワタシは成功率を確信していた対策を取ったまでだよ。」
・・・埒が明かねー、呆れたように言うしろかは領也の部屋を出る。
「.....悪いけどもう片足爪先レベルとは言え"触れちゃった"以上、雛菜さんに話すねー。」
「....必要なところは濁しておきたまえよ?」
ハイハイ、振り返りもせずに手だけ振って退出するしろかの足音が消えてから領也は一息つく。
「.....まっ、仕方あるまいか。」
EP32「好きだから」
....と、言うわけで!
昼休み、2Bの黒板の前でアラタが声高に叫ぶ。
「以上のことから、隣の家に『塀ができた』に対して『カッコいい~』と返すのも『囲いができた』に対して『へ~い』と返すのも通用することが証明されました!イェイ!!」
なるほど!独り自分で拍手していたアラタに続いて拍手をしたのは、唯一真ん前の席で聞き入っていた隆だ。
「ええやん、りゅーくん!ええ調子やで!この呑み込みの速さ、物分かりの良さ!重要文化人材ですよコイツァ。今日からボクが嶺堂隆君を重要文化人材に認定します!!」
「そんな!私ごときには荷が重たすぎます!」
「コラー!こういう時の最適解ベストアンサーはありがとうございますだろうが!」
「アッ、ありがとうございます、アラタ殿!!」
ーーまぁたやってるよあの二人ーー
勢い良く頭を下げる隆にアラタがうむうむと仰々しく頷く、そんな光景に誰ともなく異思同音にそう考えていた矢先だった。
「ちょっと!あらたんっ!!!」
バンと勢い良く音を立てながら2Bの教室を開けたのは雛菜だ。
「おーう。雛菜ちゃんもこのクソ講座聴きに来たんか?」
ーー自分でクソつっちゃったよこの人...ーー
「良いから来る!」
「待ァて待てィ、まだ授業は終わってへんでぇ~!?」
どこか不機嫌に目を狭めるなり問答無用でアラタの腕をつかんだ雛菜が彼の叫びを無視して乱暴な大股で2Bを後にした....
なんだったんだ和泉アラタ......?
もぅ!機嫌悪そうに雛菜がメールと添付ファイルを開いて見せつける。
「なんでこんなことすんの!」
『何故かポストにいっぱい商品券入ってたんだけど、なんか知らない?』
あー...ダルそうに遠い目をしながらもアラタは渋々答える。
「いやま、まぁホンのお詫びやで....」
お詫び....心当たりはある。
というかソレ絡みだという確信があるからこそ少し怒り気味なのだ。
先日の海の日、暑気に当てられたのか二人で人目を避け、雛菜が赤裸々な気持ちを紡ぐごとに段々と互いを求めるように熱い抱擁を交わしたこと、なんならそのまま流れで....思い返すなり彼女は紅潮し、思わず語気を強めてしまう。
「いいからそういうの!お母さんになんて説明したら良いのコレ?」
良くねぇわ、打ち返すようにアラタも喰い下がった。
「あんーッなことしちまったんよ、奥さんにゃ『雛菜ちゃんのことはお任せください』とか大口叩いとってこのザマやぞ!やっぱ、治まらへんよ...」
「な、なにそれ!別に、私は...」
嬉しかったし...小声でこぼしてから違う違うと一人で照れながら話を戻す。
「気にしてないしあらたんが悪い訳じゃないでしょ?もぅ、忘れようとしてたのに思い出しちゃったじゃん。やっと今朝落ち着いたのに...」
背を向けると、アラタも頭を掻きながら同様に背を向けた。
「ボクかて、(りょーやさんに魔法薬って聞いたけど多分話したらアカンやろし)暑さにやられたっちゅうことで奥さんに御詫びしてケジメつけたつもりやのに、ムズッこいのがぶり返したわ...!」
「・・・」「・・・」
微妙な沈黙が流れる中、でもまぁと先に口を開いたのはアラタであった。
「...いつも心配してくれとるとか、ボクがいつもの行くのは怖いとか、そういう話しとったのは本音なんやろ?なんつーか、ごめん。あとありがと...」
「...ううん、私も君が色々と大変なのは知ってるのに無茶言ったかなって思ってる。ゴメンね?」
チャイムが鳴り、どこかもどかしい空気を押し流す。
やがて各々本調子を取り戻し、いつも通りの何気ない談笑をかわしながらクラスに戻っていった...
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ーー奈央はモデル、あらたんは嶺堂君と桜岳、今日は久し振りに一人下校、か...
山ねぇ、今度は二人で山登りなんて...
そこまで考えるとまた、風景と服装が山中に変わっただけの先日と同じような例のビジョンが脳内をよぎって頬をおさえながら首を振った。
「(あーもぅ!なんですぐそういうのばっか考えちゃうの!?)」
そりゃ、あそこまで強く抱き締められたのは心地よかったけどだからって...そんなことを考えていると、遠方から声が聞こえてきた。
「おああ!ちょ、まてぇえ!!」
え?その先に目を向けると、転がるモノをもつれるような足取りで追う少女ーーしろかだ。
やがて転がっていたソレが石に当たって投げ出され、落ちたところでペットボトルの蓋だったと判る。
やれやれと拾い上げる彼女はこちらに気付いて目を向けた。
「あ、雛菜さん。ちょーどよかった。」
え?
「ちょいと腹割って話そーぜぃー。」
ーーーーーーーーーーーーーー
「イッテェ。飯でも探すか。」
アラタは身体の各部をさすりながらスーパーをうろつく。
今日は隆との修行の予定だったが、どうにも身が引き締まらず、何度も彼から打ち込まれてしまったためつい中断し、今日は解散にしたのだ。
しかし弱った、ミソギのつもりでしたことが逆効果だったかもしれねぇ。
「(今奥さんに会ったら不味いよなぁ。)」
大体こういうことを思ったからとつい表明してはいけない。
だって経験上、その後には....
「あら?アラタちゃん!久し振り~。」
「ああッッ!?」
朗らかに軽く手を振る女性、美容室を営む新垣婦人だ。
「あの子から話には聞いていたけど、実際に見てみると元気そうで何よりだわぁ。」
蒼白し、とめどなく滝のように汗を滲ませる彼の態度もお構い無しに婦人ははしゃぎ気味に色々と声をかけてくるが、不意に思い出したように手を叩く。
「ここで話すのも何だし、近くのカフェテラスにでも行きましょ?」
「アッ,アア、アア、アア......」
※
「この前はありがとね。雛菜ちゃんスゴい嬉しそうだったわよ。」
「ハ,ハァ。そ、それでしたら、ま、まぁボボボクも誘った甲斐があったちゅうモンっすハイ...」
カフェテラスでの何気ない談笑がやがて海の日の話に移るといよいよアラタは身構えるが、そんな間も無くそう言えばと婦人は言葉を繋いでしまった。
「あ、そういえばさ。やっぱりぃ、仲良しの男の子女の子と海ってベストマッチ♥じゃない?二人は何かあったの?」
直・球ゥウ!心臓が破裂しそうな勢いで跳ね上がり、爛漫な優しい笑顔も今では弱小動物視点の天敵同然だ。
「...え、もしかして具合でも悪い?ちょっと横になる?」
真青で震え、汗の止まらない、明らかに挙動不審な自分に対してなお、この御婦人は依然として労るような目で覗き込む。
思えばこの人はボクにとって第二の母のような方だ、戦慄のなかでもふとそんな感情を掘り起こす。
そうだ、こんな優しい人を誤魔化して、裏切って生きていくことはできない...!
「ッ、アラタちゃん!?」
不意に立ち上がったと思えばいきなり両手を地に着けた少年に彼女はたじろぐが....
「奥さん!!すみませんでしたァッ!!」
「・・・え?」
コンクリートを割る勢いで額を振り下ろし予想外の言葉を叫ぶ彼に思わず瞬いた....
「悪りぃ、とも思わねえけどよ。今のボクかなり気分最悪なんやわ。誰だか知らんけどこれ以上チョーシこくなら、解っとるか……?」
「やぁ〜だぁ〜冷たくしないでよぉ。貴方だけの私、私だけの貴方でしょ…!?」
バリバリとけたたましい音が響くと服が引き裂け、脇腹から鋏の備わったアームが展開すると軋ませながら蠢かせた。
「ねぇ、抱、い、てっ♪」
口元を軽く舐めながらアームと両腕を振りかざすとアラタも木刀を振るって弾きながら勢い良く突きを放つが、すぐにアームを交差させて防ぐ。
「ふっふっふ……ムキになってる♥」
さらり、カールをかけてセットした髪をはらいながら満足げに呟く姿を気にせずアラタが木刀を振り下ろすと軽やかに跳び、距離を取りながら鋏を構え直すとその場で一回りした勢いで再び斬りつけるように距離を詰めて腕を振り抜いた。
触手のように伸び迫る鋏の切先を木刀で逸しながら懐に潜り込んだアラタが振り絞った拳を腹に叩き込むと、大きく仰け反りながらよろめくもゆらりと踏みとどまり、すぐに反り返った首を戻すとカタカタと揺すりながら笑った。
...もっと見る「はぁん、やっぱり強いぃ……」
「何がやっぱりや、知ったような口ヌカしやがれや。」
チッ、不快感を露わに舌打ちを投げ掛けるがしかし、妙な感覚が腕に残る。
力を込めて殴ったつもりだが目の前の奴からは手応えを感じられなかった。
そもそもコイツは何者だ?
ただの愉快犯とも違うとは思ったが、生気を感じない眼差しは人間ですらなさそうだ。
それをニマリと歪めながらこちらを見据えると、
「知ってるわよ、貴方のこと何もかも。ふふふ…」
小刻みな挙動を伴い瞬時に詰め寄ると再びの抱擁を狙おうと二対の腕をアラタ目掛けて大きく開いた。
慌てて避けようとするも、散乱とした室内では物に躓いて足元が狂い、木刀を壁に立てて転倒を防ぎつつ咄嗟に体勢を立て直す。
「クソッ、これじゃしゃあねえわっ!」
ガサガサと気色悪く迫る影からなんとか跳び跳びに距離を取ると木刀を振り下ろし、生じた衝撃で床に転がるガラクタを巻き上げ、床を露わにするも、既に奴は笑顔で目の前から飛び出してきた。
ざけんじゃねぇ!退がりながら片アームの鋏に木刀を咬ませながら勢い良く捻り上げることでへし折った少年は一瞬の隙を突いて立て続けに木刀をその身体に打ち据えた。
盛大に転げながら床に打ち付けられた奴はさも驚いた顔でこちらを見ながら数秒で起き上がり服をはらう。
「・・・なんで?」
茫然と首をかしげ一言訊う姿にアラタは汗を滲ませる。
「ねぇなんでなんでなんで?貴方にとって一番大切なんでしょ?なんで平気でそんなことできるのねぇなんで?なんで?なんで?」
淀んだ目を見開きズカズカと歩み寄りながら捲し立てる『異常』とアラタは距離を取りながらもその心には強く刺激される感情があった。
恐怖や困惑とは違う、それは『怒り』だ。
「・・・」
『冒涜』『凌辱』
彼にとってそのような思いが心底沸き起こされる怪異の醜態に、いよいよ少年は構わず感情任せの蹴りを腹に叩き込むと突き飛ばした。
「誰が大切、やと…?コラえぇ加減にせぇよこのクソバケモンがよぉ……!」
・・・暫しの沈黙。
しかしすぐにくすりと微笑みながらゆらりと立ち上がった怪異はスカートの裾に手を掛ける。
「あ〜あ〜、結構うまく真似できたと思ったんだけどなぁ……でも、今更ここからは出られないわよ?二人きりになれんだからぁ、早くヒトツになっちゃおうよ。」
濁った瞳を爛々と輝かせながら近くのソファに腰掛けるなりスカートをたくし上げ……
「私の全部をあげるからさぁ、頂戴?」
脚を大きく開きながら捲くり上げたスカートの中からジャラジャラとけたたましい音を立てながら何かが展開した。
「あ な た の 血 ィ イ イ イ !!」
脇腹から突き出た物と同様の鋏が付いた細いアーム、それが夥しくスカートの中から触手のように悍ましく広がるとすぐにアラタへと連続して伸びていった。
怯むことなく彼は木刀を構えて鋏を迎え討ち、掻い潜るように迫っていく。
「ふふっ、おーいで。抱き締めてあ、げ、る♥」
「お断りやアホ。さっさと失せろ気持ち悪りぃ。」
包み込むようにアームを被せてくる瞬間に脇を殴りつけて隙を作ると身を翻しなり横面を思い切り蹴り飛ばした。
再びバランスを崩し頭から鈍い音を響かせ倒れる姿を見据えるも、まだ収まる気配は無さそうだ。
上半身を起こしながらも90度に折れた首、目も当てられない姿の奴はガタガタと身を起こしながらスカートから幾本も伸びるアームを蠢かせながら、先端の鋏を床に立てて立ち上がった。
首が折れながらも苦痛を思わせる表情は全く見せないまま、さながら蜘蛛の魔女アラクネを思わせる異形と化した姿で口を開く。
「あらあら、この顔でも容赦なく殴っちゃうのね。女の子の顔を殴るような悪い子は、少ぉ〜しお仕置きしなくちゃぁ……♪」
先より目が慣れてきたのもあって、破れた服から覗き見える関節部や一切の痛みを感じさせない立振舞い、そしてその周囲にチラチラと微かに見える光沢からアラタは正体を勘付いていた。
「お仕置きすんならこっちの方や。お前の顔なぞ全く知らんぞこの木偶人形が!」
ふふふ〜…もはや否定する気も無いのであろう、人形は呑気に笑いながらガサガサと這い回るようにして逃げるアラタを追い回し、狙った分だけ避けられた鋏の先が何度も床に打ち込まれ鮮やかな線が描かれていく。
思いの外鋭い連撃に少し冷や汗が出ただろうか、見透すように冷たい笑顔を浮かべた人形は再び言葉を続けた。
「髪を切る鋏は切れ味悪いって言ったけど、こっちの鋏は研いだばかりなの…動くと危ないわよ?」
うるせぇ!アラタもそのふざけた態度にはうんざりだ。
腕にブレザーを巻き付けるとその拳を握りしめ、助走をつける体勢に入った。
「テメェ最初から最後まで地雷で逆撫でしやがってぇ…!そんなに顔がご自慢ならブチ抜いたるわっ!」
腕を振り絞り駆け出す彼にしかし余裕の現れだろうか、動ずることなく鋏を伸ばし狙うが少年はそれを回転を効かせてかわすことで勢いを保ちながら距離を詰めていく。
「って、あれどうなってるの?ちょっと待って!?」
彼の挙動を追っていた人形はやがて困惑しだす。
手当たり次第に迫る鋏をその場凌ぎで避ける彼の動きは不規則であり、こちらに駆け寄りながらもその軌道を読むことができないではないか。
そこだと彼を捉えるなり、保険をかけるように数本の鋏を一気に伸ばすが咄嗟にアラタは高く跳び、奴の頭上をとった。
「え?」
被さる影に目を向けたときには梁を蹴って距離を詰めたアラタがその拳を文字通り顔面に叩き込んだ。
「ガッ!?貴方、誰の顔にッそんなことォオオオ!?」
焦点の合わない目を見開く顔にバキバキとヒビが広がり、頭髪も濁るようにーー本来の姿であろうくすんだ黒へと変じる。
「言っとるやろ?欠片も知らん不愉快なクソ人形の顔でしかねぇわ。」
「ッ・・・」
言葉が出ないのか苦々しい顔でこちらを見据えていたがすぐに支える力を失ったのか脚のように支えていたアームから崩折れ、埃と共にけたたましい音が舞った。
・・・しばしアラタは様子を見ていたが、やがて奴は風化し、塵と消える。
それを見届けた彼は外に出て少し眩しさに目を細めながらも携帯を取り出した。
「……ふざけんなや。アイツはな…」
開いたアプリ、ヒトコトのTLに流れてくる写真ーーショッピングを楽しんでいるのであろう奈央と雛菜の笑顔を見るとすぐにアラタはそれをポケットにしまう。
「…?なんやアレ。まぁええか。」
チラリと見えた何かにたじろぐが今は余計なことは考えなくても良いかと少年は元来た道を目指して歩き出した……
―――――――――――――――――――
海沿いの大型施設、内外問わず人で溢れ返る中、アラタは友人達を待っていた。
『マンガフェス』ーー所謂サブカルチャーを嗜む者達にとっては年に2度の祭典だ。
・・・要はコ●ケだろって?
皆まで言うな、カードでマンガフェスと言われている以上マンガフェスだ。
しかしまさか雛菜ちゃんがコスで呼ばれるたぁな……
「んまぁボクはCOTOちゃんの企業物販目当てやけどな。」
「あーらたんっ!」
聴き慣れた明るい声に振り返るアラタは、
「似合ってるかな、どう、どう?」
「ェ゛エッ!?」
そう笑顔で駆け寄る雛菜と対象的に表情を引きつらせた。
リボンやレースをあしらった黒いゴシックドレスに身を包んで彼女が上機嫌にスカートを翻すが正直それどころではない。
「この衣装、すっごくテンション上がるね〜。」
「ひ、雛菜ちゃん?その服どした……?」
え?困惑するアラタと裏腹に雛菜は不思議そうに首を傾げた。
「どうってホラ、戸村さんが言ってたのだよ。髪型も自分で合うの考えたんだ。」
「あ、あーアレかアレ……ええやん。」
どう聞いても微妙な返事、だが彼女が喜んでいるからか特に訝しまれるでもなく言葉を続ける。
「こういうのって、違う自分になれるみたいで面白いよね〜、あらたんはなんか着ないの?」
「ボク?ボクは〜エエよ。着ても着んでも変わらへんし〜アハハ……」
「良いじゃん良いじゃんねぇねぇ〜。」
そう詰め寄られるが今その姿で来られると反応に困る。
その感情を反映するように目が泳いでいたらしい。
「あれ、なんか…怯えてる?」
そう問うも彼女はすぐ何かを閃いたように一息つくと一層身を乗り出すなり静かな笑みを浮かべながら口を開いた。
「安心して。髪以外は切らないように、気を付けるから…」
しっとりとした物言いで詰め寄るが瞬時にアラタが距離を取っていることに気付き思わず吹き出してしまう。
「雛菜ちゃん、悪いことは言わないから。はしゃぐのはわかるけど、落ち着こう(提案)」
「ちょっと、そんなに離れて。大丈夫、冗談だってば〜。……ほら。何もしないから、こっちにおいで?うふふ…あう!?」
「だからやめぃ!」
まったく…またしても冷たい眼差しを向ける彼女の頬を両手で挟むと呆れながらため息を一つ困惑気味な彼女を見つめていたが……
「・・・そうよなぁ…」
「ふぇっ!?ちょっあらたん!?何急に!?」
何の気無しにアラタが雛菜の頬をさすり、顔をまじまじと眺め出す為、当の本人は一層焦りながら顔を赤らめる。
「ね、ねぇ!周り人いるから〜!」
訴えを気に留めず、先日の出来事を思い返しながら物思いに耽る。
ーーなぁ木偶人形、やっぱお前はこんなエエ顔しとらんよ、烏滸がましいくらいにな……
「やぁやぁお待たせ〜……ってぇ、白昼堂々やってんねぇ〜!」
「アラタ、今更っちゃそうだがお前結構豪胆だな……」
「おうそういやキミらもおったんやったな。」
そんなことを考えていると、聴き慣れた声ーー美知留と斗真に呼び掛けられ、応えるアラタの手が緩んだ隙に雛菜が慌てて抜け出し隣に立つ。
「ほ、ほらほら。他の人の様子も見に行かない?」
「てかアラタはなんかしないのぉ?」
「いやぁそもそもボクCOTOちゃんの物販が目的やからさ。」
「良いから、行くぞ。」
「ちょっトーマ君!?」
抗議も虚しく問答無用でアラタはロッカールームに引きずり込まれていった……
EP33ーーE N Dーー
・・・
チィ、ヤハリダメカ…ウゴケサエデキレバ…!
モットチカラヲツケ…ツギコソハカナラズキサマヲッ……!!
カランカラーン
「暑いからって冷たくて甘いもんばっか食べてちゃダメだぞって訳でマタサブロー、特盛パフェ1丁ォ!!」
「いきなりなんだ!?つか言った端から!?あとお前もその呼び方かよ!まぁ良いけどッ!!」
「いや待ってなになになに!?」
夏休みののどかな昼下りを彩る喫茶店・赴嶺夜、六花と優輝が和気藹々と談笑していたその空気は有無を言わさず襲来したしろかという嵐もとい荒らしとカウンターから馬鹿律儀に怒涛のツッコミを入れる雅一郎によって崩壊した。
「おーう六花さんと優輝さんか〜。イヤあれよ、何っていうか良い導入が思いつかなかった。なんだろう、そういう話フツーにするのやめてもらって良いスか?」
「自分で言ってんじゃないわよ。」
要らんことを交えながら要領を得ない(※そんなものは無い)答えと共に当たり前のように二人の真隣りに座ったしろかは不意にニタリと笑みながら小さく息を吐く。
...もっと見る「あ、あのー…?」
「何よ、花房さん怖がってるわよ?」
「はは、君らアレだね。放送事故みてぇな転校初日からすっかり馴染んだね〜」
忘れろーッ!!針で突かれたように怒号を飛ばす六花と戸惑う優輝。
「あぅ、あの、白水さん落ち着いて…!」
「なんねアンタいきなり!?」
宥められ深く溜息を漏らす六花を尻目にしろかはさっそく出されたパフェにスプーンを掬い入れる。
そんな様子に呆れていた彼女だが、そうだと思い出すなり口を開いた。
「そういえばアンタさ、結局"アイツ"は何だったのよ?」
「ん〜?」
うざかー.…スプーンを咥えたままわざとらしく不思議そうな眼差しを返す様に一抹の苛つきを抱きながらも言葉を続けた。
「ホラ、私らが変な外国人に絡まれた時の」
「んあーありゃなんりゃけろぬぇ〜」
「食ってから言え馬鹿!なんでどいつもこいつも…」
「白水さん落ち着いて〜!?」
わーお直球だね、既に頭まで抱える六花を気にせずしろかは麦茶を流し込んで一息つく。
「だってアラタのこと知ってたうえに、アンタも騒動が収まるなりしれっと出てきてアラタにはあの男の話すんなってどう考えても曰く付きでしょ。」
んなこと言われたってなぁ…困ったように頬を小突きながらどうしたものかと思案する。
「まぁあれだな。3ヶ月もすりゃアラタの方から話さざるを得なくなるだろうよ。」
どういう意味よ?要領を得ない答えに首を傾げるしかない六花にしろかも小さく首を振りながら応じる。
「んま、文句はシドーに言ってくれ。アラタに秘密にしてるのもアイツが面白がって暴走してるだけだしな……」
「ああ、あの変な人……」
ブフッ!反射的にフき出しながら腹を抑えて浅く俯くしろかにそう言えばと彼女は切り替えた。
「ところで今日アラタはどうしたの?」
「おっと?ここに来て新たなる分岐ルートっすか?」
違うわよ!声を荒らげながら六花はSNS・ヒトコトのアプリを開いて見せる。
「いつもなら夏休みの出来事何でもかんでもバンバン上げてるのに今日なんも無いからなんとなく、さ……」
言われた内容を見ると、確かに友人達や雛菜と過ごした日の他にも風景写真やカタツムリが這う動画などここ最近は雑多な内容をタグ付きで呟いているが、今日は全く更新していないようだ。
「うん、まぁ心当たりはあるな。」
そうしろかは今朝の出来事を思い出した。
なんとなく早く起き、寮の周辺をフラついていた彼女は、朝の日課として公園で軽く身体を慣らすアラタを見つけ絡んでいた。
そんな中、ふとアラタは着信に気づき、メールを確認する……と、
「なんやこれ?」
「どした?」
失礼承知で覗き込んだソレは、見るからに異質だった。
[た す け て ]
件名も無くそれだけ書かれた文面と、画像及び地図の座標が添付された、如何にも怪メール然とした内容だ。
「んで、それを見てちょいと行ってみっかってさ〜。」
・・・
お気楽に話すしろかの姿に二人は暫し呆気に取られて見ていたが…
「イヤ、いやいやいやどう考えても罠的なヤツでしょ!なんで止めない!?」
すぐさま六花が当然というべき指摘を入れる。
「流石の私もやめとけつったんだけどさ〜」
無論、六花より遥かにその手の場数を踏んでいる彼女も同様の意見を呈したものの、
「んま、本物やったら行くに越したことは無いし、罠を放置しても後々どうなるかわからんやろ?」
そう笑いながら手を振って去る姿を見ると見送るしかなかったと言う。
「ふふ、優しいんですね…」
「なんて言うか…夏海ほど能動的じゃないにしてもアイツの人助け根性も異常よね……」
笑う優輝と複雑そうな六花、二人の姿にしろかもやれやれと溜息をつく。
「んま、アイツも色々あったからねぇー…何も無いと良いけどな。」
梅雨時の出来事、敵の本陣たるYAKATAカンパニーとの邂逅、七夕や海の日を思い返しながら小さくこぼした……
EP33「ラブリィドールの招待状」
「・・・ここやな。」
座標を確認しながらアラタは呟く。
今朝送られてきたメールを見ると、助けを求める一言だけの文面と数枚の写真、そして地図が送られてきた。
罠やろなーと思いながらも、だからこそ放置すべきではないと考えた彼は地図を辿ることにした。
その結果案内されたのは、聖櫻から数駅隔てた市街地から更に脇へ逸れた林道を通り、整理されていない悪路を乗り越えて広がる鬱蒼とした森だ。
更に辺りを適当に見回すと、見えてきたのは建造物だ。
もしや……身構えながらアラタは歩み寄って行った……
それはポツリと佇む一軒家だ。
如何にも森にありそうなシックな外観の2階建てだが、すべての窓をカーテンで閉ざされ、所々乱雑に板の貼られた姿は見るからに廃屋で間違いないだろう。
アラタは添付された画像を見返す。
薄暗い中で家具や書物が乱雑に広がる部屋の一角を撮った写真。
メールの諸々の要素と併せて考えれば答えは一つだろう。
「・・・クロ、やな。」
廃墟を使った誘拐と考える余地は無いのかと言えば、無い。
わざわざきっかり1文字ずつ空けたメッセージ。
焦りを感じないくらいにはブレが少ない写メ。
位置情報を使ったにしても分かり易くスクショできている地図。
警察ではなく自分に送られたメール、加えて差出人は不明と来た。
どれを取っても、運良くケータイを使えたにしても誘拐中に成し遂げるには余裕を感じる。
そんなことを考えながらもアラタは木刀を携え、ドアに手を掛けた。
正体を明かさず、よりにもよって自分にこんな怪文書を送信してくる程の奴だ、真意を確かめた方が良いだろう。
ギイィ…重々しい音と共に年期の入った蝶番が軋み、暗い屋内が目に入る。
こわごわと入り込んだアラタはそっとドアを閉めた……
写真の通り、そこかしこに本が積まれ、ちらほらと画材が撒かれた床を爪先で進みながら、間取りと部屋を確認していく。
「おわっ…!?絵の具かぁ。なんやろ、画家でも住んどったんかな。」
壁に飛び散る赤色に思わず跳び退きながらも、荒れ果てた一階を程々に探索してみても異常は無い。
となると……アラタは玄関まで戻り階段に目を向ける。
行くか……深呼吸を一つ、足を踏み出した時、ふと違和感に気付いた。
シャリ…シャリ……
耳を澄ませば規則的な音が冷ややかに響いているではないか。
そのうえ、アラタにとっては随分と聞き慣れた音だ。
「はーん、いよいよ怪しいな。」
木刀を握り締めアラタは恐る恐る階段を上って行った…
だんだんと大きく聞こえてくる音と共に、上機嫌な鼻歌が耳に届く。
あれ…?その声に引っ掛かりを感じながらもアラタは音を辿り、ドアを閉められた一室に目を向けた。
…ここや。
一層手に力を込めながらもアラタはゆっくりとノブを回して隙間から覗き見た。
「〜♪〜〜〜♪」
何やらしゃがみ込んで上機嫌に歌う影。
リズムに合わせて件のシャリシャリとした音は依然響いている。
っつか、待てよ!?その後ろ姿にいよいよ困惑するアラタをよそに、鼻歌も物音も静まった。
・・・
「あら、いらっしゃい。来てくれたの?」
背を向けたまま投げ掛けられる声に、アラタは止め処なく汗が滲み出た。
「まぁ良いわ、楽にしてちょうだい。」
覚えがあるどころではない、聞き馴染んだと言う表現さえ浅く思える程に…謂わば心に染み付いた声質が語り掛けながらふらりと立ち上がると俯き気味に向き直り、
「"違うところ"を切ったらごめんなさいね。うっふふ、楽しみだわ…… 」
バンッ、いよいよ観察は無意味だとドアを蹴り開けながら少年は踏み込んだが『彼女』は気に留めないようだ。
「う ま く 切 れ る か し ら ぁ ?」
目を見開いた形相とも言うべき笑顔を浮かべた顔を勢い良く上げ、両手には真鍮の鋏を構えた影ーーレースとリボンをあしらった黒いドレスに身を包み、独特な色合いが目を引く髪の少女が打ち震えるようにガクガクと佇んでいた。
「お前、何のつもりやコラ?」
眼の前の存在ーー新垣雛菜に瓜二つの人物に特段の動揺を見せるでもなくアラタは木刀で軽く肩を叩きながらズカズカと歩み寄る。
「何言ってるの?私は貴方の一番大事なヒトでしょ?」
「あ?お前なんぞカケラも知らへんが?」
彼女ーー否、奴の足元には毛状の繊維が散らばり、数個並んだ小さな椅子には身体ごと髪をザンバラに切り裂かれて綿がはみ出た人形が座っているではないか。
「ったく、どーゆーつもりか悪趣味な真似しやがって。」
舌打ちをひとつ、掴み掛かろうとした手を何かが乱暴に跳ね除けた。
「ひどぉい。私にまでそんなことしちゃうヒトなんだぁ。」
鋏を握った手首をフラフラと振りながら恨みがましく言う姿にはいよいよ嫌悪感を刺激される。
「わざわざその顔(ツラ)借りてまでボクを呼び出しやがって何がしてえんよ。話だけは聞いたるわ。」
もっちろん〜……鋏を提げた手をぶらぶらと垂らしながら覚束ない足取りで近付いてきた彼女は両腕を広げて飛びついた。
「貴方と二人きりになりたくてぇええ…!逃げないで?」
後ろに飛び退くアラタに構わず奴は腕を振り抜き、アラタを捉えるも、彼は咄嗟に払い除けた。
「ッッ痛って、なんやコレ!?」
が、いきなり手に響いた感触に思わずさすりながらアラタは唸った。
思えば鋏を持っていたから斬られただろうか。
しかしそれは激痛というよりは鈍痛。
さながら刺されたような痛みだが、物事を考えるより先に目の前の怪異は無邪気に微笑んだ。
「うっふふ、動いちゃ駄目よ?この鋏、切れ味が良くないみたいなのぉ。」
瞬間、雛菜を模した何かの手首にも力強い衝撃が走り一瞬の出来事に思わず目を向けた先ーー木刀を振り抜いたらしい、鬼気を含んだ少年の目が彼女を見据えていた。