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「かぁわしたやぁっくそくぅっ、わすれっな、なんやねん.....」
暑さを紛らすように口ずさみながら気だるげに教室に入ると、明音やつぐみ、由紀恵らがこちらに視線を向けてくる。
どうやら聞いた話では、昨晩見廻りの者が最終チェックを終えた頃に、不気味な声が聞こえてきたらしく、学校に霊がいるのではないかと噂になったそうだ。
また、以前よりどこからか気配がした、声が聞こえたと噂にもなっているようだ。
そこで、何をしでかすか分からず神出鬼没な面を持つことからアラタの仕業ではないのか、という考えが彼女らに浮かんだというのだ。
「アホかッ!!ボクがそんな暇なことするわけあらへんやろ!その頃多分うたた寝しとるわ!」
...もっと見る「アハハごめんごめん、さすがに冗談だよ~」
笑いながら言う明音にいさめられるアラタだが、
「最近つったか?何を差し引いても、ボクが察知できなかった言うのは少し引っ掛かるなぁ。ホンマの幽霊なんちゃうか....学校の霊、花子さんかな?」
昼休みになると神妙な顔で件について考え出す.....が、いかんせん考えることは元々苦手な故に結局単純な結論に行着く堂々巡りを繰り返していたのでとりあえずオカルト研究会へゆららを訪ねていた。
「うーん...なかなか浮かんでこないねぇ。」
はい、水晶玉を渡され覗き込むアラタだがわかるはずもない。
「あっ、本題を念じてね。」
付け足された言葉に従い顔を近づけ目を閉じる...
やがて妙な輝きを放ったそれにアラタは目を向けるが依然として光景こそ見えないがピンク、黄、黒、青、赤と不規則に変色して光っていた...
「あらぁ部長、先輩。どうしたんですかぁ?おっとと」
と、入ってきた燈が暢気な声をかけるが少し躓いて占具のカード束が崩れてしまったため水晶玉の異様から目を離した。
「あっ、すみません邪魔しちゃって」
「おーう気にすんなや、ん...?」
そうカードを拾う燈に続きアラタも散らばったカードに手を伸ばすが近くに落ちた数枚に目を止めた。
弓、銃、盾、剣、槍
見事に武器の絵柄ばかりが寄り集まった状態...
なんやこれ...?
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ところ変わって聖櫻市街の路地裏で....
突如、空間が歪むと共に、強烈な光が発せられ、それが晴れたあとにはひとつの人影が佇んでいた......
ここは.....その人物は違和感を抱きながら街道に姿を出し、しばらく歩くが、
「.....違う.....」
やがてその感覚の正体に気付き、
「ここは私の知っている『世界』ではないわ。何故こんなことに.....」
人物はそう思考を巡らせるが、すぐに考えを振り切り眼を鋭く細める。
「いいえ、させない。間違った世界軸で『奴等』の好きにはさせないわ.....」
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・・・・・・
「...あ゛っっっづいっッ!!」
深夜の聖櫻学園校舎、その一角の未使用スペースで住人、和泉 アラタは勢いよく跳ね起きて窓から顔を出す。
やはり夏休み間近ということもあって気温も湿度も高く、まさに熱帯夜と言った状態なのだ、寝ようにも寝られない 。
「はぁー、死んでまうわこんなん。」
てかやっと1時かよ、そうボヤくとアラタは上体を起こし腕を組む。
こんな調子で5時間も続けられては堪ったものでない。
なんとか対策を打たねば、そう考えていたとき、不意にひとつの答えに行着いた。
「ア、そうだ。てけとーにどっかのクラスでエアコンつけて寝よう。さてさて」
そう言うなり立ち上がり、歩を進めるうちに、あることを思い出す。
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「は?ハサミだ?」
「う、うん....」
それは19時頃、雛菜から一本の電話が入ってきたのだ。
なんでも、彼女が日頃使う散髪バサミを教室に忘れてしまったようで、
「イヤ....机に入れてあるなら明日取りにくればええやん....」
「でも...君に預かっててもらえると、安心だからさ.....」
「でもなぁ.....わざわざクラス違うボクが持っとると二度手間になるやんけ。」
アラタがそこまで言うと、彼女は一息ついて言う。
「あのハサミはね、お母さんがくれた...私にとって命みたいなものなんだ。それに、例の幽霊騒ぎ?もあるから、ちょっと心配なんだよ...」
「......」
そう語る彼女に少年はしばらく黙って耳を傾けていたが、その表情を不意に緩めると、
「わかった。今日は安心して寝ろ。」
小さく微笑んでそう口を開く。
「ホント!?ありがとう。じゃ、おやすみっ!」
声を明るくし、そう彼女が返して電話を切ったことを確認するとアラタはひとつ伸びをする。
「ボクも寝るか...」
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「はっは、そやったそやった。んーなことあったわ~。ほなら今日は2Aで寝ましょうね。」
しれっと、とんでもないことを忘れていた気もするが、恐らく気にしたら負けなのであろう。
アラタは2Aに入ると彼女のハサミを回収し冷房を起動、そのまま班組みにした机の上に寝そべりタオルケットを巻く......が、
「...ん?足音か...?」
不意に、不審な靴音らしきものが耳についたように感じると起き上がり、教室を出た。
そのまま眼を閉じると気分を落ち着かせ、気配を感じる方向へと歩を進める。
それにしてもだ...
「なんや気持ち悪いわー。夜とは言え、こんなに分かりやすいくらいに紫色に見える影なんてそうそう現れへんやろ.....」
それに空も、まるでオーロラに覆われたようだと彼は表情を強張らせ、ロクでもない夜の到来を多少なりとも覚悟した.....
・・・・
案の定気配を追ってみれば、曲がりかどから人影が延びている様がこちらに見えているではないか。
となればこちらも当然、相手に認識されているだろう、少年は木刀を握る手に力を入れると勢いよく踏み込み...
「誰やッ!!」
「......!!!」
その切先を相手に突き付け、相手もこちらに拳銃の銃口を向けているのが認視できた、が......
「お、女の子......???」
その姿を見ると思わず驚愕する。
こちらを冷たく睨む少女はしかし、アラタが木刀を下ろしてもなお、その手を退くことはなく、
「何故、貴方はこんなところにいるの?答えなさい.....」
「キミこそなんで。一般人、じゃああらへんみたいやけどさ.....あ、ボクはアラタ。和泉 アラタや。」
黒い長髪を、何故か無風の熱帯夜の中でなびかせながら問う彼女にただならぬ気配を感じると、とりあえずアラタは自分の身の上を話す。
自分は最近、迷惑行為を働く輩からこの聖櫻学園近辺を護衛するために転入したこと、そして学校に宿直警備員的にすんでいることとまぁ、必要最低限のことを教えたつもりだ。
そこまで話されると相手も納得したようで、彼女は口を開く。
名は暁美 ほむら。
多くは語れないが、どうも時間を操る力を持っており、その一環で世界、というか『次元』そのものが異なる場所ーーソレが"この世界"らしいーーへ来てしまったようだ。
「そして本来、この世界にはいないはずの『魔女』の気配を辿ってここに着いたのよ......」
そう言葉を締める彼女に、アラタはひとつの疑問を抱く。
「?『次元が違う』ちゅうのは色々見てきたから信じられるけどさぁ...この世界にも『魔女』は居るよ?まぁ表向きには伏せられとるけどな。魔法使いも普通におる。」
そうか、それを聞くとほむらは一息つき、彼にこう返す。
「違う。貴方達の言う、いわゆる『魔女』とは違って.....自分の作り出した異空間に人を迷わせて害をなす、負の感情の塊のようなものを『魔女』といって、こっちの世界では私たち『魔法少女』が討伐しなくてはならないのよ。」
彼女の発言から察するに『魔女』と『魔法少女』は違うものなのかと問おうとするが、その話題を出しかけた途端に、彼女からただならぬ重みを感じたアラタは思わず口をつぐみ、質問をやめた。
「.....でまぁ、その魔女がこの学園校舎内におるっちゅう訳やな。ボクも手伝うわ。」
しばらく校内散策をしながら異世界人を名乗るほむらへの案内がてら事情を把握したアラタはにっかりと笑い、手を差しのべる。が...
「....魔女との戦いの役に立とうなんて思わないで。甘い考えは捨てなさい。はっきり言って今、この学園は異常な状態よ....」
やはり彼女は冷たい態度をとるが、そんな様を見るとアラタはひとつ大きくため息をもらす。
「んあ?そら『現実化した特撮の産物』に『表皮が鉱石の獰猛巨大生物』『女の子を口説いてくる常人離れした変質者』なんぞ徘徊しとるんやもん。『今』のみ、『学校』のみならず元々この近辺は異常やで....」
「随分と狙われてるのね、ここ。」
今度は逆にほむらが驚くが、アラタは特に気にした風でもなく、
「ホラ。現にガッコに住んでるとか言い出すヤロウが、拳銃突きつけられても木刀持ったまま動じず、挙げ句キミの異次元論まですんなり鵜呑みにしとるやろ?実を言えばボクもなんとなく、超越不審者の気配を感じとるんよ今。」
「そう...貴方も、何かと戦う運命にあるのね...」
超越不審者、その言葉を聞くとある種同情をにおわせる物言いをするが、再びアラタは呆れたようにため息をついて立ち止まる。
「なぁにが運命や......」
「え......?」
「護る助けるっちゅうのはハートでするもんや。そんな強い気持ちが力になり、身体を突き動かすんだよ。使命だ任務だじゃねえ。」
「....私の知り合いと同じことを言うのね。でも.....もしかしたら貴方のその優しさが、甘さがきっといずれ貴方自身を傷つけかねないわ。」
内心たじろぎながらも表情を引き締め、そう話す彼女に、
「構わない。ボクは無意味に誰かが傷ついてほしくないから、ボク自身がどんな目に遭おうと、助けられるものは...イヤ、無理だとしても意地でも助けたい....」
...甘過ぎる。
魔法少女として生きる者であれば、間違いなく錯乱して自滅か、不意を突かれて命を落とすような考え方だ。
限り無いパラレルワールドのひとつにおいて、上述のような末路を辿った知り合い達の像を重ねながらも、しかし何故だろうか。
今隣にいる彼がその言葉を語るときの眼には揺るぎない力強さと、それでいてあまり深く重く考えていないように思われる柔軟さが窺え、彼女にはどこか複雑に映っており....
そう...、ほむらは一言返すしかできなかった。
ーーだーるまさんが、こーろんだ.....ーー
「ッ!!」「!!?今のは.....!」
と、不意にどこからか子供のような声が聞こえ、二人は身構える。
その時、お互いが狙う特有の邪気を感じ取り、引き寄せられる方へと走っていく....