カランカラーン
「暑いからって冷たくて甘いもんばっか食べてちゃダメだぞって訳でマタサブロー、特盛パフェ1丁ォ!!」
「いきなりなんだ!?つか言った端から!?あとお前もその呼び方かよ!まぁ良いけどッ!!」
「いや待ってなになになに!?」
夏休みののどかな昼下りを彩る喫茶店・赴嶺夜、六花と優輝が和気藹々と談笑していたその空気は有無を言わさず襲来したしろかという嵐もとい荒らしとカウンターから馬鹿律儀に怒涛のツッコミを入れる雅一郎によって崩壊した。
「おーう六花さんと優輝さんか〜。イヤあれよ、何っていうか良い導入が思いつかなかった。なんだろう、そういう話フツーにするのやめてもらって良いスか?」
「自分で言ってんじゃないわよ。」
要らんことを交えながら要領を得ない(※そんなものは無い)答えと共に当たり前のように二人の真隣りに座ったしろかは不意にニタリと笑みながら小さく息を吐く。
...もっと見る「あ、あのー…?」
「何よ、花房さん怖がってるわよ?」
「はは、君らアレだね。放送事故みてぇな転校初日からすっかり馴染んだね〜」
忘れろーッ!!針で突かれたように怒号を飛ばす六花と戸惑う優輝。
「あぅ、あの、白水さん落ち着いて…!」
「なんねアンタいきなり!?」
宥められ深く溜息を漏らす六花を尻目にしろかはさっそく出されたパフェにスプーンを掬い入れる。
そんな様子に呆れていた彼女だが、そうだと思い出すなり口を開いた。
「そういえばアンタさ、結局"アイツ"は何だったのよ?」
「ん〜?」
うざかー.…スプーンを咥えたままわざとらしく不思議そうな眼差しを返す様に一抹の苛つきを抱きながらも言葉を続けた。
「ホラ、私らが変な外国人に絡まれた時の」
「んあーありゃなんりゃけろぬぇ〜」
「食ってから言え馬鹿!なんでどいつもこいつも…」
「白水さん落ち着いて〜!?」
わーお直球だね、既に頭まで抱える六花を気にせずしろかは麦茶を流し込んで一息つく。
「だってアラタのこと知ってたうえに、アンタも騒動が収まるなりしれっと出てきてアラタにはあの男の話すんなってどう考えても曰く付きでしょ。」
んなこと言われたってなぁ…困ったように頬を小突きながらどうしたものかと思案する。
「まぁあれだな。3ヶ月もすりゃアラタの方から話さざるを得なくなるだろうよ。」
どういう意味よ?要領を得ない答えに首を傾げるしかない六花にしろかも小さく首を振りながら応じる。
「んま、文句はシドーに言ってくれ。アラタに秘密にしてるのもアイツが面白がって暴走してるだけだしな……」
「ああ、あの変な人……」
ブフッ!反射的にフき出しながら腹を抑えて浅く俯くしろかにそう言えばと彼女は切り替えた。
「ところで今日アラタはどうしたの?」
「おっと?ここに来て新たなる分岐ルートっすか?」
違うわよ!声を荒らげながら六花はSNS・ヒトコトのアプリを開いて見せる。
「いつもなら夏休みの出来事何でもかんでもバンバン上げてるのに今日なんも無いからなんとなく、さ……」
言われた内容を見ると、確かに友人達や雛菜と過ごした日の他にも風景写真やカタツムリが這う動画などここ最近は雑多な内容をタグ付きで呟いているが、今日は全く更新していないようだ。
「うん、まぁ心当たりはあるな。」
そうしろかは今朝の出来事を思い出した。
なんとなく早く起き、寮の周辺をフラついていた彼女は、朝の日課として公園で軽く身体を慣らすアラタを見つけ絡んでいた。
そんな中、ふとアラタは着信に気づき、メールを確認する……と、
「なんやこれ?」
「どした?」
失礼承知で覗き込んだソレは、見るからに異質だった。
[た す け て ]
件名も無くそれだけ書かれた文面と、画像及び地図の座標が添付された、如何にも怪メール然とした内容だ。
「んで、それを見てちょいと行ってみっかってさ〜。」
・・・
お気楽に話すしろかの姿に二人は暫し呆気に取られて見ていたが…
「イヤ、いやいやいやどう考えても罠的なヤツでしょ!なんで止めない!?」
すぐさま六花が当然というべき指摘を入れる。
「流石の私もやめとけつったんだけどさ〜」
無論、六花より遥かにその手の場数を踏んでいる彼女も同様の意見を呈したものの、
「んま、本物やったら行くに越したことは無いし、罠を放置しても後々どうなるかわからんやろ?」
そう笑いながら手を振って去る姿を見ると見送るしかなかったと言う。
「ふふ、優しいんですね…」
「なんて言うか…夏海ほど能動的じゃないにしてもアイツの人助け根性も異常よね……」
笑う優輝と複雑そうな六花、二人の姿にしろかもやれやれと溜息をつく。
「んま、アイツも色々あったからねぇー…何も無いと良いけどな。」
梅雨時の出来事、敵の本陣たるYAKATAカンパニーとの邂逅、七夕や海の日を思い返しながら小さくこぼした……
EP33「ラブリィドールの招待状」
「・・・ここやな。」
座標を確認しながらアラタは呟く。
今朝送られてきたメールを見ると、助けを求める一言だけの文面と数枚の写真、そして地図が送られてきた。
罠やろなーと思いながらも、だからこそ放置すべきではないと考えた彼は地図を辿ることにした。
その結果案内されたのは、聖櫻から数駅隔てた市街地から更に脇へ逸れた林道を通り、整理されていない悪路を乗り越えて広がる鬱蒼とした森だ。
更に辺りを適当に見回すと、見えてきたのは建造物だ。
もしや……身構えながらアラタは歩み寄って行った……
それはポツリと佇む一軒家だ。
如何にも森にありそうなシックな外観の2階建てだが、すべての窓をカーテンで閉ざされ、所々乱雑に板の貼られた姿は見るからに廃屋で間違いないだろう。
アラタは添付された画像を見返す。
薄暗い中で家具や書物が乱雑に広がる部屋の一角を撮った写真。
メールの諸々の要素と併せて考えれば答えは一つだろう。
「・・・クロ、やな。」
廃墟を使った誘拐と考える余地は無いのかと言えば、無い。
わざわざきっかり1文字ずつ空けたメッセージ。
焦りを感じないくらいにはブレが少ない写メ。
位置情報を使ったにしても分かり易くスクショできている地図。
警察ではなく自分に送られたメール、加えて差出人は不明と来た。
どれを取っても、運良くケータイを使えたにしても誘拐中に成し遂げるには余裕を感じる。
そんなことを考えながらもアラタは木刀を携え、ドアに手を掛けた。
正体を明かさず、よりにもよって自分にこんな怪文書を送信してくる程の奴だ、真意を確かめた方が良いだろう。
ギイィ…重々しい音と共に年期の入った蝶番が軋み、暗い屋内が目に入る。
こわごわと入り込んだアラタはそっとドアを閉めた……
写真の通り、そこかしこに本が積まれ、ちらほらと画材が撒かれた床を爪先で進みながら、間取りと部屋を確認していく。
「おわっ…!?絵の具かぁ。なんやろ、画家でも住んどったんかな。」
壁に飛び散る赤色に思わず跳び退きながらも、荒れ果てた一階を程々に探索してみても異常は無い。
となると……アラタは玄関まで戻り階段に目を向ける。
行くか……深呼吸を一つ、足を踏み出した時、ふと違和感に気付いた。
シャリ…シャリ……
耳を澄ませば規則的な音が冷ややかに響いているではないか。
そのうえ、アラタにとっては随分と聞き慣れた音だ。
「はーん、いよいよ怪しいな。」
木刀を握り締めアラタは恐る恐る階段を上って行った…
だんだんと大きく聞こえてくる音と共に、上機嫌な鼻歌が耳に届く。
あれ…?その声に引っ掛かりを感じながらもアラタは音を辿り、ドアを閉められた一室に目を向けた。
…ここや。
一層手に力を込めながらもアラタはゆっくりとノブを回して隙間から覗き見た。
「〜♪〜〜〜♪」
何やらしゃがみ込んで上機嫌に歌う影。
リズムに合わせて件のシャリシャリとした音は依然響いている。
っつか、待てよ!?その後ろ姿にいよいよ困惑するアラタをよそに、鼻歌も物音も静まった。
・・・
「あら、いらっしゃい。来てくれたの?」
背を向けたまま投げ掛けられる声に、アラタは止め処なく汗が滲み出た。
「まぁ良いわ、楽にしてちょうだい。」
覚えがあるどころではない、聞き馴染んだと言う表現さえ浅く思える程に…謂わば心に染み付いた声質が語り掛けながらふらりと立ち上がると俯き気味に向き直り、
「"違うところ"を切ったらごめんなさいね。うっふふ、楽しみだわ…… 」
バンッ、いよいよ観察は無意味だとドアを蹴り開けながら少年は踏み込んだが『彼女』は気に留めないようだ。
「う ま く 切 れ る か し ら ぁ ?」
目を見開いた形相とも言うべき笑顔を浮かべた顔を勢い良く上げ、両手には真鍮の鋏を構えた影ーーレースとリボンをあしらった黒いドレスに身を包み、独特な色合いが目を引く髪の少女が打ち震えるようにガクガクと佇んでいた。
「お前、何のつもりやコラ?」
眼の前の存在ーー新垣雛菜に瓜二つの人物に特段の動揺を見せるでもなくアラタは木刀で軽く肩を叩きながらズカズカと歩み寄る。
「何言ってるの?私は貴方の一番大事なヒトでしょ?」
「あ?お前なんぞカケラも知らへんが?」
彼女ーー否、奴の足元には毛状の繊維が散らばり、数個並んだ小さな椅子には身体ごと髪をザンバラに切り裂かれて綿がはみ出た人形が座っているではないか。
「ったく、どーゆーつもりか悪趣味な真似しやがって。」
舌打ちをひとつ、掴み掛かろうとした手を何かが乱暴に跳ね除けた。
「ひどぉい。私にまでそんなことしちゃうヒトなんだぁ。」
鋏を握った手首をフラフラと振りながら恨みがましく言う姿にはいよいよ嫌悪感を刺激される。
「わざわざその顔(ツラ)借りてまでボクを呼び出しやがって何がしてえんよ。話だけは聞いたるわ。」
もっちろん〜……鋏を提げた手をぶらぶらと垂らしながら覚束ない足取りで近付いてきた彼女は両腕を広げて飛びついた。
「貴方と二人きりになりたくてぇええ…!逃げないで?」
後ろに飛び退くアラタに構わず奴は腕を振り抜き、アラタを捉えるも、彼は咄嗟に払い除けた。
「ッッ痛って、なんやコレ!?」
が、いきなり手に響いた感触に思わずさすりながらアラタは唸った。
思えば鋏を持っていたから斬られただろうか。
しかしそれは激痛というよりは鈍痛。
さながら刺されたような痛みだが、物事を考えるより先に目の前の怪異は無邪気に微笑んだ。
「うっふふ、動いちゃ駄目よ?この鋏、切れ味が良くないみたいなのぉ。」
瞬間、雛菜を模した何かの手首にも力強い衝撃が走り一瞬の出来事に思わず目を向けた先ーー木刀を振り抜いたらしい、鬼気を含んだ少年の目が彼女を見据えていた。