27: ディジェイヌ
2026-07-12 20:34:56 NWExZjY0(34)
※ ※ ※
「はぁっ、気持ちいいです。水の中も外も暖かいし、これはどんどん泳げちゃいますねぇ。」
「二人とも速いねぇ。私もあらたんのお陰で少しは速くなったかな?」
「さぁ、別にボク泳ぐの得意な訳やないし。てかとりあえず飲みモン買ってくるわ。」
さて、要望は特に無いらしいから適当に買ってくるか。
りょーやさんは自分でオールフリー買うとか言うてたな、そこまでして呑みたいんかアノおっさん。
そんなことを考えながら適当に屋台を探すと不意にひとつから声がかかる。
「ちょっとそこのお兄さーん、ドリンクだろ?ウチどうだい?」
眼を向けると、他より簡素な販売台にもたれる男ーーよれたTシャツには脱色を思わせる淡いシミがいくつも着いた、だらしない身なりの男だ。
...もっと見る「いっやーお兄さんモッテモテだねぇ、見えてたよ。」
品書きを取り出して渡されるなり目を通しながらアラタは緩く笑う。
「ハハッ、まぁボクは日頃の行いがエエからなっ。」
「オ?言ってくれちゃうねぇ~。ヴォクもあやかりたいよ羨ましい。」
取り敢えずよくわからないから適当にそれっぽいものを選び三本頼むと、見た目の印象とは裏腹に手際よくドリンクを作ると男はアラタに渡した。
「ハイッ、おまちどぉ!」
「おーう、サンキュー。」
会計を済ませ、ドリンク三本を運ぶ彼に手を振る男はやがて暫くしてから指先に集束させた光をデコピンの要領で飛ばしてアラタに当てる....
ーーヒョホホ、やったねっ。接触成功!!ーー
「お待たせー、これで大丈夫か?」
「ありがとうございます!」
「ありがとう、全然良いよ~。」
笑顔で迎える二人にそれぞれドリンクを渡し、軽い乾杯をするとようやく一息かとアラタは口を開く。
「しかしまあ、今更やけど雛菜ちゃん結構泳げるんやな。なんとなく意外やった。」
えへへ、嬉しそうにはにかむと彼女は返す。
「得意って程じゃないし、体力には自信無いから少しだけどね。それより、ユーリヤさんもスゴいね、大はしゃぎしすぎだよ。」
そう、ですかね...?首をかしげる彼女はやがてああと思い出したように一人頷く。
「そういえばロシア人は海水浴が好きだねってよく言われます。確かに、少し寒くても海に入る人は多いですけど...ロシアは広いから海が遠いことが殆どで、夏の海水浴は憧れなんです!だから今、とっても嬉しいんですよ。」
「・・・」「・・・」
ニコリと向けられた眩しい笑顔、思わず心が洗われるような感覚をあじわう....
「それはそうと、やっぱあらたんは慣れてるよね~。私もアドバイス貰っちゃったし。」
やがて雛菜がこちらに顔を向けると、アラタはと首を振る。
「まぁ泳ぐのはそんなやけどな。ただまぁ、水馴れも色々と特訓したからなぁ。」
そう、不意に声を上げた領也に一同顔を向けると彼は得意気に笑う。
「どんな敵がいつ来るか判らない。中には当然水中を領分とする者も出てくるのは間違い無いからね、水でも動きやすく鍛えておくように言っておいたのだよ。」
「まぁ今んとこ水中が得意なヤツなんて見たことあらへんけどな。金髪に変身する民族の誇り高き王子みたいな声で海パン穿いてたりするんかな?」
知らないよ、言うだけ言い終わった領也が適当に流して本に視線を戻すと、外から声がかかった。
「あー、雛菜ちゃんにアラタ君、ユーリヤさんまで~。」
「奈央!」「こんにちは、見吉さん!」
あれま、二人に続いてアラタが驚くと、どうやら彼女は撮影の関係で来ていたらしく、後ろにも数人同業者らしき女性が見えた。
「へぇー、貴方が和泉君ね。新垣さん久しぶり。」
うわ!?後ろからいきなりかけられた声に振り返ると、ウェーブ気味のショートヘアの女性が微笑みながら立っている。
「お姉さんイズ誰!?」
「あっ、お久しぶりでーす!ほら、前に話したでしょ?私がスタジオ行った時の...」
驚くアラタと対照的に明るく応える雛菜の説明でアラタは思い出す。
たしか、春休み頃に連絡ミスでヘアメイク担当が奈央も出る撮影に遅刻した際、奈央が居合わせた雛菜に代理を提案したことがあったらしく、彼女がその人なようだ。
その時のやり取りがきっかけで今もトークは繋がってるそうだ。
「あー、その時の。いやーはっはどーもどーも。天下無双常勝無敗のイズ」
「ちょっと、良いからそういうの!すみません。」
「こんにちは。.....へぇ、話は聞いたけどなかなか良い子じゃない。」
はいこんにちは、アラタの頭を押さえて眉を下げる雛菜に少し口角を緩めながら挨拶を返すとすぐに彼女の傍に寄って小声で囁く。
「!?ちょっ、そ、そんな!なんですか急に。」
「いっつもこうなんですよ~。一年からの親友として妬けちゃいますよぉ~。」
「こコラ、奈央っ!?」
メイクからの不意打ちと、隣で露骨に口を尖らせる奈央にますます紅潮しながらも抗議すると、更に覚えのある声が二人の意識を誘った。
「あれ~、雛菜ちゃんに見吉さん、ユーリヤさんも!」
「おっ、アラタじゃん!」
「陽歌ちゃん!」「うわぁ、ミカドやねん!?」
手を振る透き通った声の主、陽歌と隣に立つ銀髪の少年、皇ミカド。
アラタのクラスメイトであり、大の特撮好きな男子で、特にその趣味が高じてか、嘗てはハンターをやっていたとか、特撮だからこそ為せるようなハードな特訓を実践したりとか言った逸話も持っているらしい。
そしてご覧の通り、軽音部の歌姫と名高い風町 陽歌とは元より良好な交友関係だと噂だったが、こうして水着姿で隣り合って歩く姿が如実に物語っているだろう。
因みに彼にはアラタも知らぬもうひとつの顔が...これはまた別の機会で良いか。
「えへへー、夏休みも近いし夏らしい新曲を考えるにあたって何か良いアイディア見つからないかなって思ってね。折角だからミカド君にも来て貰ったんだ~」
雛菜達と嬉しそうに談笑する陽歌を脇目に、話題の少年は気まずそうに頬を掻く。
「ま、まぁ二人きりで海なんて正直緊張したけど、やっぱ頼まれたら断れないよな....」
ハハァ、小声のミカドにアラタは応じ、視線の先で笑う水着姿の陽歌を捉えながら彼の肩に腕を回して引き寄せるといししと笑いながら同じく小声で返す。
「まぁそうよなぁ。なんのかんの言うても陽歌ちゃんて結構、地味に実りが」
「うわぁぁあ!!!うわ、う、うわぁ!!」
言い終わるより前に顔を赤らめて叫びながらミカドがちゃぶ台返しのようにアラタを投げるとそのまま海に転がり込み、
「うわぁ!スマン、ミカド、待って!ゴメンボクが悪か」
「ウェーイィ!!」
もがき慌てるアラタの言葉も虚しく、電流のほとばしったヘラクレスホーンを半狂乱で海面に突き立て、
「ひぎゃぁあ!!」
けたたましい音と共に水柱がひとつ打ち上がった。
「え...?」
「な、なに、今の...」
「あー、気にしないで。どうせあらたんがまたやらかしただけだから......」
「....イヤ、アラタ。ホンットごめん...つい焦っちまった....」
「気にすんなミカド、今の完全にボクが悪いんやし、ほんまヒトが良すぎるで。」
手を合わせて頭を下げるミカドに、身体からぶすぶすと煙を吹きながらあっけらかんとアラタが笑った。
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