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ーーだーるまさんが、こーろんだ.....ーー
ーーだーるまさんが、こーろんだ.....ーー
気配を辿るごとにその声が次第に近くなっていき、やがて、棟を結ぶ渡り廊下でその正体を目撃する。
「...!あれは...!」
「!?子供?でもこの気配...」
「だーるまさんが、こーろんだ。」
...もっと見る赤いランドセルを背負った小さな影は二人が背後まで近づくと同時に歌い終わり、歩を止める。
「可愛い女の子かと思ったあ?」
ゆっくりと振り返るソレは白シャツの上から赤い吊りスカートを着用し、
「ざぁ~んねん...」
黒いおかっぱ頭に黄色い帽子をかぶった...
「ぼぉくだよぉおお!!」
見る間に筋肉質の大柄な男へとシルエットが膨れ上がり野太いダミ声を轟かせた。
「やっぱそういうこったか。」
「...気配通り、魔女ね.....」
「え?どう見ても不審者、てか男やんけ。」
「擬態しているのじゃないかしら、確かにコイツが魔女の気配の正体なのよ?」
互いに食い違いが生じ、一瞬たじろいでいたところで、男が大声をあげた。
「おらぁ、花男さんだどぉ~、元気だどぉ~!久しぶりにお友達が来たゾ~!」
「やっかましいわ、気持ち悪りぃ!」
「みんな何して遊ぶぅ?」
ニタニタと不気味に微笑みながら花男が二人に近づいてくるが、一発の銃声が鳴り響き、男は静止、アラタもその主、隣で拳銃から煙を吹かす少女に息を呑む...が、やがて、
「貴方と遊んでいる暇はないわね.....」
「ヴェエ!?」
「ちょ、おま。ナニいきなりブッ放しとんねん!マジでヤってもうたらどうするんよ!?」
「和泉君、魔女に情けをかける必要はないわ、言ったでしょう?甘い考えは捨てなさい、と...」
コイツ...自分の言葉にも冷淡に返すほむらに思わず眉をしかめるが、
「イヤだゾー!花男さん皆と一緒に遊びたいゾ~!せっかく『賑やかなお友達』が来てくれたんだゾー!」
「いやお前はうるっさいちゅうねん!」
その沈黙が破られた...が構わずアラタはツッコミを入れ、再びほむらに眼を向ける。
「魔女の気配があろうと人間は人間やろ!」
「貴方はどれほど私を邪魔すれば気が済むのかしら...」
「ぼくだけ混ぜてくれないなんてひどいゾひどいゾ~!びぃえええええッ!!」
「こっちの台詞や!てかお前黙れ気が散るぅ!」
わからず屋と意味不明に駄々をこねる中年オヤジ、二人の対応に目まぐるしく言葉を返すアラタだがこれでは埒が明かない。
どうしたものか考えていた時、
「ならば聞くけど、あれが魔女じゃないと言うなら、何故この結界が生じているのかしら?」
「仲間外れはいけないんだゾォ!君達なんか、夜中にトイレも行けないくせに!」
結界?そういえば、先ほど空がオーロラのような不気味な色を放ち、廊下が紫に照らされていたことを思い出し......
!気がつけば、校舎内の作りが歪み、廊下や天井がぐにゃぐにゃと曲がっているではないか。
「なんやコレは、たまげたなぁ...この違和感、魔女の仕業やったんかぁ。」
「ええ、そして恐らく犯人は...」
そうだ!ぽんと右掌を拳で軽く打った花男に二人が振り返ると、満面の笑顔で口を開く。
「二人がそんなにぼくを避けるなら、鬼ごっこしようよぉ。ぼくが鬼だから十秒数えて迎えにいくよぉ。まぁ...」
もはやツッコミからも無視されたショックから立ち直ったように言う花男のランドセルの蓋が開き、
「ぼくの『静かなお友達』は待ってくれないけどねえぇ!!」
数体の小さな影が飛び出す。
それは人型の抽象画、あるいは子供の落描きを実体化させたような見た目であり、ある者は人のようだが右半分は赤く、抽象的ながら人体模型を思わせる容姿をしており、またある者は頭がなく、自分のもげた頭部でドリブルやリフティングをしているようであり、一斉にこちらを見ると迫ってきた。
「使い魔!?くっ!!」
こっち!咄嗟にほむらが拳銃の引き金に手をかけ、三連弾で蹴散らした様を見計らうと、アラタはその手を牽いて階段を駆け降りる。
「やっぱり魔女の証拠じゃない!だから言ったのに......!」
苦々しげに言う少女と対照的に、アラタはひとつの疑問が浮かぶ。
「なぁほむらちゃん。今二階に居たんだけどさぁ....」
「何...?」
「さっきからこれで三階分くらい降りとるんやけど.....地下に行けるのは専用のエレベーターだけのハズやし。」
「え...?」
きょとんとしながら言い出す彼の姿に思わず思考停止してしまうが、
「ぼくの想いからは逃れられないのさ、どうだい?ぼく自慢のエンドレスステアはぁ~。トイレの過ごし方、教えてあげるぅ~!君達の個室も用意するからさぁ~永遠の幸せを、育もうよぉお...!」
後ろから響く声にアラタは
「くそぅ、花子さんならぬ花男に人体模型、生首ボールときて無限階段かよ!どうせ外に出れねぇならどっかの教室で対策考えるか!」
階段から廊下に躍り出ると、彼は教室を探し、
「音楽室美術室ぁダメやな、絵から視線を感じる.....」
そう考えるなかで、追いかけてきた使い魔に気付いたほむらは拳銃を乱射して多数を消滅させると、アラタが木刀を地に叩きつけた衝撃で残りを一掃、ほむらに時間稼ぎを任せて彼はどうにか教室をピッキングして入り込む。
「次会った時、覚えてろよぉお!!」
・・・・
互いの知識が少し足りんかったな.....
壁にもたれ掛かりひと息つくと、アラタは互いの標的の特徴について改めて確認することを提案する。
概ね、超越不審者は欲望につけこまれた一般人が超常的な力を得た者であり、魔女は負の感情の塊で使い魔や異空間を作り出せる...
「つまりは、原理ルーツはわからへんけど、魔女と超越不審者が融合してもうたんかもしれんな。」
どうりで女装オヤジなわけだわ。
一人納得して頷くアラタをよそに、ほむらは神経を尖らせて相手の気配との距離感を測っているようだ。
「確かに『喋る魔女』だなんて引っ掛かってはいたけど.....でもこれでわかったでしょう。これ以上の手出しは無用。関係ない人を魔女との戦いに巻き込むわけにはいかないわ.....」
「なんでや、超越不審者と融合してる言うたら関係あるやろ。」
笑いながらツッコむ少年に呆れながら、ほむらは言葉を続ける。
「聞いたところ、魔女の方が貴方の相手より強力なのは確か。魔女の側面が勝っているならそれはもう...それに、時間が経てばアイツは本物の魔女になるわ...」
え!?彼女の一言に衝撃を受けたアラタは慌てて立ち上がり、
「じゃあさっさと行かねぇと!それこそ魔女を剥ぐのがめんどくならぁッ!!」
「無理ね。」
「なぁんで!」
「魔女になってしまったら、正気には戻れない、呼び掛けにも応えてくれない...」
徐々にとげとげしくなる口調に違和感を抱くアラタは、
「お前、何を隠しとるん...」
「多くは語れないわ。でも魔女は...」
「ッ!!ならさっさとアイツどうにかしねえと!魔女になってまう前に!」
貴方ってどこまでも甘いのね。
ほむらから聞いた真実に焦りを抱いたアラタがその腕をつかみ立たせると、またしても重い言葉を投げ掛けられる。
「超越不審者、というのが欲望につけこまれ、口車に乗った存在で...挙げ句にその力で周りに害をなすならそれは自業自得じゃないかしら。そんなのを無理して助ける必要があるのかしら?」
「バカオマエ、あるに決まってんだろ!人間だぞ!」
さすがに言っている言葉の意味がわからん、いよいよアラタも苛立ちを見せるが、
「私の知り合いも、そんな甘い考えで魔法少女になり、理想との相違に苦しみ錯乱し、最後には魔女へと変わり果てたのよ。」
彼女は親友の声すらも届かず暴走し、最終的にはもう一人が相討ち覚悟でトドメを刺す選択肢しかなく、親友の心すら荒んでいった.....
他にも、その親友自身が最悪の魔女と化し、彼女自らに懇願を受けて自分が始末してしまったことも、初めて会った冷静な印象からは想像できないほど、感情的にほむらは語っていた。
「そんな結末も私は見てきた。だから私は最悪の結末を回避するために、何度も時間渡航を繰り返すのよ.....!」
拳を固め、震える彼女の背を見て、アラタは長く息をつく。
「無愛想で辛辣やと思ったけど、キミはキミなりに苦労しとるんやなぁ。そんなキミがこの世界に来たのは間違ったとボクは思わんで。」
「...?」
「ボクにとって必要とされてるのはさ、『超越不審者を倒すこと』やないんよ。『聖櫻を守ること』なんやで。連中が力を得るのは、アイツらの意思の弱さだけやない。奴等をそそのかすバカが居るってのもあるんよ。だから、ノせられた奴を更生させるのも大切なことなのさ.....」
それに、そうほむらに向き直るアラタの眼は
「完全に魔女になったときに出る幕が無くなるなら大変や。キミだけを危険な目に遭わせられんからさ、ボクが魔女退治を手伝えて、二人で戦える内にシメたろうやないかい!だからほむらちゃんも、ボクの超越不審者討伐を手伝ってくれへんか?」
軽い口調と裏腹に真剣で....
「......」
瞬間、教室中の机椅子が一斉に浮かび上がった...