ーーーーーーーーーーーーーー
「ヒョッホホホ、いいぞぉ。計算通りだね!その調子だ!ホラ早く、致せ!咬ませ!!」
固く抱き締め合う少年と少女、その様子を下卑た面持ちで茂みから窺いながら影ーー先程アラタにドリンクを売った男は興奮混じりに口走る。
「え、どうしてあの二人があんな風になっちゃったかって?オーケイ、読者の皆にだけ特別に教えちゃおう!」
ーー我々、『和泉アラタによる麻帆良学園の実情に踏み込んだ動向反対派』の活動からサモンが抜けたのは記憶に新しいだろう。
恐らくはタツミヤめが姑息な入れ知恵をしたんだろうね。
だが、そもそもタツミヤや夜霧に志藤、デスメガネタカミチや...況してや学園長すらバックボーンで支援してるような和泉アラタへの対抗として大々的に実力行使で出ようとすること自体が間違っているんだ。
...もっと見る
でもヴォクは違う!
始めッから戦って勝つ気なんてサラサラ無いのさっ!
まず、奴のヒトコトを突き止めたヴォクは今日海に、アノいつものコと来ることを知った。
そこでドリンク販売を装って和泉アラタに絡み、ヴォクのドリンクを買って貰う完璧なプランだったわけだ。そして....
ここにこそこのヴォク、
魔法薬学科専攻のベノムス
が立案した計画としての真価が発揮されるのさ!!
ご明察の通り、ドリンクにはちょっとした隠し味を仕組んだよ。
そう、ヴォクが日々の空き時間を費やし作り上げた超激烈濃厚媚薬、" ロ エ ベ ケ ス "!!!
コイツを口にすると強い想いのある相手に向く意識、感情が跳ね上がり、始めは何気ないーーそれこそ指先が少し触れ合うくらいのことから段々と興奮作用が加速していき一線、また一線と越えていく!
因みに、三人いるなかでちょうどあの二人にピンポイントで渡せたのはなんでかというと....基礎の『意識を逸らす魔法』とロエベケスの魔力をリンクさせることで、ドリンクを配る和泉アラタが自分といつものコに『特製』を何気なく配れたんだ。
あの様子だと二人はもうキスしたらソレを皮切りにそのまま......ヒョッホホホ!!
そしてぇ!その様子をヴォクがバッツリ押えてリーク垂れ込みなんでもやって拡散することで和泉アラタの立ち位置は悪くなり聖櫻にもいられないッ!!
そうなれば超越不審者共を鎮圧する任務なんて背負えるはずもないからね、これを機に『見ちゃった』記憶は全て忘れさせてあげる訳さ!
あのコには可哀想だけど、これも和泉アラタと関わっちゃった運命だよ。
でもそうだなぁ、和泉アラタから記憶消したらこの辺の諸々全部皆から忘れさせて、せめて和泉アラタはただの聖櫻生として解放してあげようかなぁ。
ヴォクも鬼畜じゃないのさ、あの辺の記憶を忘れた和泉アラタや、巻き込まれたあの女の子にはその後で幸せになろうが、目的達成したヴォクにはなんだって良いからね!
....さぁ、というわけでぇ!
抱き締め合い、微動だにしない二人に息を荒らげながらベノムスはビデオカメラを構え待ち続けるが....
「なっ、あっ、ああ!?」
次に起きた光景に思わず声を上げてしまった。
「そんなバカな!?あの術式....!」
「魔法薬学科さん、こちらの界隈において媚薬の作成は違法のハズですけど?」
ギョ....後ろから投げ掛けられる声に恐る恐る振り向くと、長い金髪の女性が不気味な面と法衣を着けた影の集団と、右に箒を構えた少女を従えて佇んでいるではないか。
「オ、オマエはタカネ!?うるさい、ヴォクには覚悟があるんだ!然るべきスジを戻すために違反に走る覚悟がね!」
タカネと呼ばれた少女ーー魔法生徒間でも規律や正当性にうるさく面倒臭い、ベノムス達ヤサグレ者には特に厄介な人物であった。
「まったく、彼のことは学園長が既に快諾していることですのよ。それに背いている時点で充分なのに、更に違反を重ねてどうするの?...ありがとう。」
やがて、二本の三編みを垂らし、大きな眼鏡をかけた素朴な印象の少女が杖を片手に左につくとタカネが労い、ベノムスはより後退る。
「や、やっぱりアレはキミの仕業か、ナツメグ!のわぁ!?」
不意に手にまとわりつく感覚に眼を向けると、彼の両手首には手錠のように影が絡み付いていた。
「オマエら、ヴォクを脅す気か!?望みはなんだ!?そもそもヴォク達...君らが過激派呼ばわりする連中の意見も解るからこそ、この活動だって制限は受けてないハズだ!」
「どうでも良いですわ。ただ媚薬製作という違反には処分がつくだけのことです。」
「くぅ、何度も言わすな!こっちにも覚悟が...」
「覚悟とは言ったものだな、ベノムス。」
不意に響く冷めた声....いつの間にか佇むのはタツミヤとレンだ。
「志藤から聞いた彼のPA討伐記録だが...彼は以前意識を失うような敗北を喫してもなお、そのPAに立ち向かったらしい。止める友人さえも振りきってね....」
な、何が言いたい!?汗をにじませ、口元を歪めるベノムスに、レンがやれやれと首を振って言葉を引き継いだ。
「ソレがアイツなんだよォ...ボコられようが心配されようが手前の任務はきっちりカタつける。あのヤローの覚悟...甘く見んじゃねーぞ......?」
「まっ、覚悟があるというなら何でも甘んじて受けるんだね。」
「ッ.....」
冷たく睨み付ける彼らに悔しそうに歯噛みをするが、タカネが言い渡した言葉にすぐに奴は取り乱した。
「処分は、"当分の魔力謹慎"とのことです。」
「そんなぁ、冗談じゃない!魔法薬学科のヴォクから魔力取ったらナニが残るんだよ!考え直してくれよ!」
「それが謹慎というモノですわよ!」
「ヤァアダヨォオオオ!!!」
「オコジョにならないだけ我慢してください~!」
箒を持った少女に宥められながら引き摺られていくベノムスを見据えていた二人はやがて姿を消し、タカネにひとつの連絡が入る。
[ご協力ありがとう。感謝するよ。]
「.....言っておきますけど?私だって納得はいっていませんわよ。ただ学園長の御意向を尊重しただけのことですわ....」
[なんだって良いさ、彼らを守ってくれた。それで充分だよ。]
フン、バツ悪く無愛想に通信を切ったタカネは引き続き二人の少女とベノムスを引き連れ歩を進めていた.....
|
|
「あら、たん...わたし、わたしは....」
「ひなちゃん、すまん。なんか、イヤな、予感が、するんよ.....」
お互い焦らされる感覚なのだろう。
一生懸命に雛菜と目を合わせないようにすると一層全身が疼いて熱くなり、息も上がってくる。
もはやどちらも自分が何を言ってるのかさえわからない、それくらいに感覚が不明瞭になっていくなか.....
ーー流水の縛り手・ウィンクドゥス・アクアーリウス!!
そんな声が聞こえた気がした。
なんやっけコレ....難解な言葉もこんな状態では何一つ感じ取れない、そう思っているとやがて、抱き締め合う二人の頭上から叩き付けるように何本もの水流が降りかかった。
「うわわ!?」「ウォ、冷た!?」
全身に覆われる冷たい感覚、ハッと我に返るように明瞭になる意識、慌てて互いの肩にもたれていた顎を離し濡れそぼった顔を見合わせる。
雛菜の表情もパッチリと目を開き、自我を感じ取れる面持ちだ。
「・・・ッ!ご、ごめん、あらたん!」
「あ、おああスマンスマン、すぐ離れるわ!」
やがて先の会話を朧気ながら思い返したのであろう、水で冷えたのがどこへやら、雛菜が瞬時にまた全身に熱を帯び、鼓動を高鳴らせながら口を開く。
思えば先とは違い、ただ熱いだけでなく確かな温もりを感じるがそんな場合でもない、応えるように離れようとするが、思惑と裏腹に雛菜はまた強く自分を抱き寄せてくるではないか。
「ごめんね。悪いんだけどもう少し、このままいさせてくれても良い、かなぁ...?」
.....先の様子は何かしらの作用があってのことだったであろうが、恐らく彼女が語った数々の言葉は本物だ、だからこそ少年は
「.....うん......」
「えへへ、ありがと.....」
そう一言だけ返し、胸元に寄せられた、うっすらと微笑む少女の頭に手を添えた.....
ーーーーーーーーーーーーーー
「雛菜ちゃん?」
「おーい、雛菜ちゃーん。」
「お顔が赤いけど大丈夫ですか?」
「っ!ご、ごご、ゴメンゴメン。ちょっと、ぼーっとしてた!」
膝を抱え無言だった雛菜に、陽歌、奈央、ユーリヤが心配そうに声をかけると彼女は慌てて返す。
背中合わせには同じく膝を抱えぎこちないアラタがミカドに心配されながら苦笑する。
「どうしたんだよ、戻ってきてから二人ともヘンだぞ?」
「イ、イヤまぁー、ボクが変なのは元からやしぃ、みたいな?」
「お二人のこの感じ、これがアーバンチュールなのですね!?」
違うと思う、あきれ混じりにミカドがユーリヤにツッコんだ。
ねぇ、そんな様子を見ていた領也の隣から、メイクの女性が小声で呼び掛ける。
「戻ってきてからずっとあの調子.....貴方何か吹き込んだの?」
「いや?ワタシは何もしてないよ。」
知らないとは言ってない、心でそう補足しながらも、やれやれと口数少なく背中合わせで膝を抱えて座り、硬直気味なアラタと雛菜にため息をひとつ、しろかとのチャットルームを開く。
さてどうしたものかと、帰りまでぎこちなく最低限のやりとりしかしない不自然な距離感の二人に領也は頭を軽く掻いた.....
EP31ーー E N D ーー