※
「"探 偵 ・ 明 川 智 大"さんよぉ。」
これが俺達の答えさ、ニッと笑いかけられた男ーー智大は暫く呆気に取られていたがククッと笑い返しながら口を開く。
「おっとぉ、コレは一体なんのミスリードかなぁ?箇条書き的にそれらしいことを並べ立てれば素人は納得させられるけど、結局それは全て推測じゃないか。確固たる証拠には至らないね。」
その通りだ、肩を竦める智大に意外な程清々しい言葉をクイックが返す。
「あくまでも推測だからな。貴方が犯人と仮定して、もしそうならトンだミスをしてると教えに来たんだと言ったのさっ。」
「はっはーん、さては負け惜しみかい?mon-ami(※盟友)」
そう気取るも、クイックが渋らずに得意気に見せつけたモノをみると智大は驚愕した。
...もっと見るバカな、何故それを!?慌ててまさぐった懐から取り出したソレが確かに手元にあるのに向こうにも.....
「実は俺は前もって社長から本物を隠し持っとけと言われててな。俺に言わせりゃアンタこそなんでそんな偽物持ってるんだ?」
「......なっ、あっ、あーっ!!」
嵌められた、今更気付くも仕方ない。
目の前の少年が持っている『本物の人魚の涙』を奪い取ってこんな場所からは退散させてもらおう。
「フンッ、『僕の心を盗むと言う、罪を犯してしまったね。』そう言いながらいつか巡り会える素敵な助手にプレゼントするためにこの人魚の涙はうってつけだったのさ。そして僕は助手と幸せなディテクティヴライフを満喫する最高のプランがあったんだ!」
「......宝石で靡く女って虚しくないか?」
「僕に解けないのは乙女心だけさ。それを知るために色々と試すのは当然だろう?」
「いやぁ、あんたもうだいぶオッサンだし難しくないか?あとさ....」
溜め息を吐き、クイックは智大の足元に指を向け....
「流石にスケボーはアウトだろ!」
彼の言葉の通り、智大が高速道路を疾走していたモノ....それは異様な威力で爆走するスケボーではないか。
「僕に不可能は無いっ!いつかはこのスケボーで、助手とドライブするためにチューンアップしたのさァ!大体走って追い付いてるキミも異様だぞ!?」
ずっと気になっていたのであろうクイックの言葉に智大は得意気に笑う。
「フッ、脚には自信があるんでねっ。あと意味わからんしとにかくスケボーはダメだと思うぞ。」
「なんだって良い、君が持っているセレスティアを今度こそ頂くよ!バーティツ!」
どこからか杖を取り出し、クイックに迫って一気に突き付けると彼も負けじとかわして脚を振り抜く。
「そんな実態もいまいち不明瞭な体術が効くか!」
「うぉ!?ぶって良いのは、その覚悟がある奴だけだ!」
バランスを崩した智大が声を荒らげながら右手を突き出すと、ブレスレットから一筋のエネルギーが勢いよく射出された。
[アカン、クイック避けろ!]
言われるまでもない、身を翻し次々と射ち出されるエネルギーをかわすと、得意気に笑ってクイックは再び口を開いた。
「アラタから聞いた話と今の状況から見てわかってるぜ?ソレ、催眠効果あるんだろ。」
襲撃したウォリヤに鬼ヶ島が対応している間に狼狽える竜斎達を昏睡させ、その陽動の傍らでトルーパー伝てに人魚の涙を受け取って逃亡ーーあの状況下で彼らが眠り落ちていたのはこのようなトリックなのだろう。
「ったく、スケボーどころか催眠弾とは、ふざけてるにも程があるぜ!ん.....?」
後方から響く騒音に目を向けると巨大なタイヤが荒々しく転がりながらこちらに向かってくる....更にそれを追って阻もうと滑空するジェットボードに乗るアラタに、主導のロウダーが声を荒らげた。
「ハンッ、ここまで来てお前らなんかに負けるかよ!」
「お前らの相手はボクがしたるわ!」
[すまねぇクイック!連中逃げやがった。]
[和泉君は追ってくれたが心配だ。私が車を!]
[その心配はあらへんで!]
?優都とレンに口を挟んだ日々喜が得意気に笑う....と、向かいから響く雄叫びに目を向けると、びっしり停まったパトカーを含む車両の数々からサングラスとインカムを着けた黒スーツの集団や警官がトルーパー達と組み合う。
更には二つの影が飛び出し....
「ひゅるる!?」「ぬぉあ!?」
「てりゃぁ!まったくぅ、私らに内緒でこんな可愛い子と面白いことしててずるいわぁ。」
銀髪の少女が突風の流れに委ねるように身を翻しながら拳を叩き込まれるとロウダーとトゥナードが後退してから身構え、
「これは次の狩りは少し大人しくしてほしいおすなぁ。」
「おっと、鉄扇術は初めて見たね。にっしし!」
黒髪の少女が殴りかかるアタッカの拳を二振りの扇で捌いて溜め息を吐く。
「嵯峨椿の唐澤と三条か....!」
[おーきに、後で埋め合わせたるから堪忍な。]
一方、ウォリヤと剣を交えるアラタ目掛けて次々とトルーパーが躍りかかるがそれらがすぐに撃墜され目を向けた先には、気だるげな目付きの警察官が六連銃を構えて佇んでいた。
「警部殿、 堀壽 秀人(ホリス シュウト)。対象を捕捉致しました、任務を開始致します。」
[おお堀壽!!来てくれたかァ!!]
突然の加勢に思わず口笛をひとつ、睨み会う智大に笑いかけるとクイックは言う。
「さぁ、言っちまえばチェックメイトだ。降参するかい?それともおっと!」
「助手は、絶ッッ対可愛いコにって決めてるんだよ!ここでキミなんかに出し抜かれる訳にはいかないのさ!」
なるほどなぁ、あくまでも俺の持っているセレスティアを狙って攻撃しようと....流石に笑いが込み上げてくるがもう少し泳がせてやろう。
相変わらず振り上げてくる杖に蹴りを叩き込んではじき返し、スケボーにも蹴り込んで距離を取る。
負けじと奴がブレスレットから射ち出した催眠弾も流れるように回避し、再び急接近で踵を振り下ろす。
だが敵もそう易々とは引き下がらないようだ、スケボーを巧みに扱って後退すると、ブースターを噴き出しながら杖を構えて一気に突進してきた。
咄嗟に腕を構えて杖の一突きを辛うじて防ぐとつかみ返し軽く回して投げ飛ばした。
「いい加減諦めるんだな、探偵サンが窃盗じゃ格好つかないだろう?」
「助手の為なら危険も犯す、それが僕さ!迷宮入りしちゃえばどうということは無いんだからね、デェイ!!」
智大の足元にエネルギー球が生成されたかと思えば、スケボーの回転の勢いを乗せてソレをクイック目掛けて蹴り飛ばして笑う。
「あーもう!スケボー催眠弾からのサッカーシュートかよ、擁護できんぞ!?」
対するクイックは呆れて頭を掻きながらも軽く跳んで球を横に蹴り弾いた。
やれやれ、もう良いか。
「フッ、ハハッハッ....」
「おやぁ?いよいよ勝ち目はないと悟った諦めの苦笑いかな?さぁ、探偵に『本物の』人魚の涙を見せてごらんなさい。」
心でそう呟いたクイックが不意に笑い出すと、智大も不思議そうに不敵な笑みを浮かべて歩み寄る.....
「あんたらの作戦が極めて上手くやれてたのか俺には見当はつかんがね、だが力押しながら良い線行ってたと思うんだ。余計なことをしなけりゃね。」
「ほう、余計なこと、か。キミは物分かりが良さそうだし、教えてくれるなら副助手くらいにはしてあげようかなぁ~」
「簡単さ、最初俺が話しかけた時にご丁寧に反応しちまったろう?つまり」
こういうことさ!言うと同時に距離を取って高く跳ぶと懐から出したセレスティアを手放すなり、具足を展開した右足を力一杯叩き付けた。
「あああ、なんて事をォ!?」
ヒビが広がり、粉砕する破片に驚愕するとしかし、近くに散らばったソレらを眼にした奴は一層困惑した。
破片は赤い輝きを瞬く間に失い、無色透明な物質ーーガラス片と変じていた。
「俺は最初っからニセモン持ってんだよっ!」
「なっ、だ、騙された!?完璧なる作戦が敗れた!?何故だ、この僕の...桃色の脳細胞がッハァアア!?」
降下の勢いを付けて脇腹に蹴りを入れるとバランスを崩した智大は吹き飛び、勢い良く倒れこんだ。
「ほーらなっ、本当に余計なことだったろぅ?」
反動で懐から飛び出したセレスティアーー紛れもない本物を掴み佇んで笑むと、フラフラと立ち上がった智大が表情を緩め、
「あぁ~ンれれぇ~?なぁんか、おっかしいーぞぉお~?」
うわ言のようにこぼしてから再びガクリと伏した......
YAKATAカンパニーはやれやれと姿を消し、パトカーのサイレンがけたたましく響く閉鎖された高速道路が鎮静するのに朝までかかったようだが、こうして宝珠・人魚の涙を巡った悶着は終わりを告げた.....