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どこからお話すべきですかね……
とりあえず、ワイズは指を立てて切り出した。
「賢い貴方ならばもうご明察のことと思いますので結論から言いますと……彼は言うなれば『疑似眼魔』と言ったところですね。」
ガンマ……当時笹露を巡った諸々や、彼が消滅する寸前に転がり落ちた義眼状の器具から留意していた事象が挙がり、やはりとアラタは頷いた。
ーー強大なる魔力『マギア』を巡った先月の抗争、コトの始まりはあの時でしたね。
確か学園にいらした方々は軒並み寝入ってしまい、貴方は弊社のお客様とカチ遭っていらしてたんでしたっけ?
貴方はそちらで手一杯だった一方で所謂『怪人』も聖櫻学園を訪れていたようなのですよ。
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「なんやと……!?」
おーっと、表情を険しく引き締めるアラタに手を翳しながらワイズは首を振る。
「慌てない慌てない。貴方の用が済んだ後そんなモノは見ていないでしょう?謎の戦士が片付けたそうですよ。」
知りませんけどっ、わざとらしくあっけらかんと締める語調と言い分に少し首を捻るがまぁ本題からは逸れた、アラタは続けるよう促した。
…で、何でしたっけ?
アそうそう、その謎の戦士が片付けた怪人の跡地からロウダーとアタッカにアレコレ残骸の回収をお願いしましてね、その中から使えそうな物を物色してたのですよ。
そして…、その中で私が目を付けたのが、ご存知『眼魔』から回収した『眼魂』です。
待てや、この男はまたしても話を遮る。
「ブッ倒した眼魔なら眼魂かて回収できても壊れとる筈やろ?」
「んー……ソレは流石に秘密です。我々にはカジツがございます。その力を使って擬似的に修復複製くらいなら、ね?」
言い含めるようにウィンクを投げ掛けるとまたしても彼は立ち上がりそうな勢いでワイズを睨みつけた。
とりあえず、そのチカラによって眼魂を疑似修復した途端、私『感じる』ようになったのですよ。
あちらこちらから漂う思念めいた感覚がね……
あっ、ダラダラ説明してると忘れそうなので先に補足しますとウォリヤに連れて行かせた『青竜刀眼魔』はこの修復した眼魂から生み出したモノで、村雨笹露の眼魂はソレを再現したモノですよ。
そうして様々な思念ーー魂というべきなのでしょうか、その類を感じ、それぞれの抱く感情を読み取る中で、ひときわ強い『想い』を感じたのです。
「……それが、笹露っちゅうことか?」
えぇ、彼の念は怨霊悪霊のような邪なモノでこそ無かった。
ですが、他の魂とは明らかに一線を画する妄執めいた感情をヒシヒシと感じたのです。
コレは面白い、その時の私は強い好奇心に駆られましたよ。
元より我らYAKATAカンパニーは人の抱く強い感情に寄り添う為カジツの力を授けているのは御存知の通りでしょう?
だからその魂をーー村雨笹露を擬似眼魂に入れさせたのです。
あとは見て頂いた通り、ソレを産まれたての自我の弱いトルーパーに埋め込んだ結果、眼魔とはならず記憶も不安定ではあったものの恐らく村雨笹露の最盛期……をベースに彼自身の理想も入り混じっているのであろう姿を取れた訳ですね。
「まぁ、元より邪念があったわけでは無いと言えまさか貴方がたと親睦を深めるなどとは思ってもいませんでしたがね……まぁ、村雨笹露はそのように生まれたという、それだけの話ですよ。」
耳を傾けるアラタを尻目に悠々とハーブティーを啜りながらワイズは締める。
そうかよ……ワイズに返してから数秒、沈黙から再びアラタは口を開く。
「でもよ、それならそれでなんで唆して暴れさせるようなことしよったんや?」
「……ッフフ!!」
間を置くでもなく投げ掛けられた問いにワイズがフき出す。
随分と不思議なことを仰る、我々がどのような者なのか知らないわけでは無いだろう。
それもそうだ、アラタも気に食わないが奴のそんな感情は読み取れた。
「そりゃまぁ我々YAKATAカンパニーと致しましてはカジツを授けた手前、心ゆくまでその力を発揮して頂かなくては何にもなりませんからね。変です?」
如何とも腹立たしい奴だ。
笹露、お前は本当にこんなヤツにその言葉を送りたいんか……?
彼の願いを頭に呼び返しながら思わずそんな感情が過る。
しかし約束は約束だ、友に託された言葉をしっかりと届けねばならない。
一息ついてからこちらのリアクションを興味深そうに待つワイズに意を決して口を開いた。
「その笹露からテメーらみてぇなゲスヤロウにありがたいお言葉があるってぇからよ、その為にも来てやったんよ。」
「はぁー、物好きもいらっしゃる。」
ダンッ!けたたましい音と共にデスクが一瞬跳ね上がる。
目を追えば反射で飛び出たのであろうアラタの膝先と一層の嫌悪に染め上がった双眸……
「黙って聴けや。」
敵陣の真っ只中で拘束状態だと言うのに……呆れ交じりに笑いを抑える反面、しかしワイズは油断する気も無かった。
この男は言伝とやらの為だけにここへ来たことを表明し、努めて成すがままに振る舞うことであくまでも衝突をするつもりは無い。
かと言って有事には何らかの手を打てるだけのタマだとも先日や今までの動向を探る中で学んでいることだ。
加えて和泉アラタには駆け付けてくれる者が数多いる。
況してやその中には例のマギア云々やハンターもいるし怪人を鎮めた戦士とて無関係ではなかろう、こちらも迂闊に手を出せば何を仕出かすか判ったものではない。
「失礼いたしました。」
ニッコリ、わざとらしく微笑んでからワンクッション置くなりどうぞと手を差し向けて促す。
こんな事をすれば和らぐどころか逆撫でるだろうがまぁ良いだろう。
チッ……わかりやすく舌打ちを漏らしたアラタは首を振り、
ーーありがとう……なぁアラタ。最期に言伝を頼まれてくれないか?ーー
笹露の言葉を思い返してから意を決して息を吸う。
『そなた達が何者なのかはついぞ判らなかった。しかし、たとえハナフダやそなた達が企み有って僕を利用したのだとしても、この力があったからこそようやく姉さんと再会できた上にその過程で隆や川上殿、アラタと言った掛け替えの無い友と最期に巡り会うことが出来た。ありがとう……』
・・・
暫しの沈黙の後、バツ悪く頭を掻きながら今一度ワイズを睨みつけたアラタが言葉を続けた。
「で、いつまでこんなアホみてぇなこと続けるつもりや?」
いつまで?唐突な問い掛けに首を捻る。
どうも笹露の言い分に免じて情に流されているらしい。
「愚問ですねぇ。チカラを求める方がいれば我々はいつでもカジツを授けます。ソレが我々の役割です故。」
愉しむようにアラタの反応を窺う。
いよいよ交渉決裂だと言って暴れるだろうか。
「そうかよ、勝手にせぇ。」
存外、拍子抜けするほどあっさりと言い放ったアラタは立ち上がる。
「おやおや。私供を野放しにしてしまわれて良いのです?」
「泳がせといた方が絶対言わんようなことも掴めるかもしれんからや。ソレに今暴れてウォリヤ達も来たら流石に分が悪りぃしな。」
「その気になれば我々をいつでも潰せると言わんばかりですねぇまったく。まっ、私も今はなんだか特別に気分が良い。今すぐお帰り頂ければ咎める気もありませんよ。」
気分が良い?こんな奴なりにも笹露の言い分が響いたのだろうか、アラタはふとそんな事を考えるがとにかく用事は済んだのだ。
こんな忌わしい場所はさっさとオサラバするに越したことは無いと雑な所作で開けられたドアを潜り歩き去っていく。
後を追うトルーパーを見送ってからふとワイズはアラタの言伝を思い返す。
『ありがとう』ーーカジツをバラ撒く者としてあれ程純粋な感情で言われたのは初めてだ、どうにも妙な調子になる。
「カジツもどのような形で効力を及ぼすか判らないモノですねぇ。まぁ……」
とは言えども所詮は一時の好奇心の戯れだ、不思議なこともあったと流して思い留めておくものでもあるまい。
アラタが去ったのを見計らってからワイズは引き出しから一つのメモリ端子を取り出す。
刺々しい外装の鉱石に覆われている上に、加えて目を引くのはボディ部のロゴだ。
ねじれた角に尖った顎と歯を見せ笑う鋭い目の悪魔の横顔を象るように大きく描かれた『S』の文字ーーそれを抽象的に簡略された動物らしい紋様が数個囲う、見るからに禍々しい雰囲気を漂わせているではないか。
「それよりもコレはいつ使うことになるやら……何れにせよ成果が楽しみです。」
端子を一瞥してからほくそ笑むワイズが眺めるモニターの先ーーアタッカが目の前の光景を見守っていた。
「頑張るねぇ〜あのおっさん。」
アタッカは笑い、縦横無尽に跳び回る影とソレに翻弄されながら吼える晶魔を見届ける。
刹那、晶魔の前に現れた影は腕に真黒な靄を収束させ勢い良く拳を叩き込んだ。
鈍い音が響き、晶魔の姿勢が崩れると、悠然と降り立った影は言い放つ。
「"白"と"黒"は灰塵に帰す。"闇"よ、応えてくれッ…!!」
両手に包帯を巻き、コートもブーツも黒ずくめな老齢の男は左目の眼帯に手を添えながら一息吸って口を開いた。
「俺がこの"チカラ"を究め、"約束されし漆黒"を授かりし時ッ!それこそが"黒の日"!!"闇"が、"世界"をォ……!"染 め る"ッッ!!! 」
「にっしし、流石に不釣合いな力だと思ったけど、案外バケるかもしんないねぇ〜」