―――――――――――――――――――
さてと帰るか……
軽く振り返り、無様にボロボロなビルへもう一度目を向ける。
笹露との約束は果たせたし、いつまでもあんなしょうもない連中に構っていては時間の無駄だ。
どうせ彼の感謝すらあの愉快犯集団には知ったこっちゃないと響きもしないのだろう。
ならばこちらとて同じことだ、奴らが今後何を考えてどう動こうがブッ潰したろうやないか。
そんな事を考えながらアラタは市街地を抜け、学園への帰路を歩み進めていく……
「オイコラ、やっと見つけたぞテメェ……」
...もっと見る
ん?不意に耳に入った声に顔を上げ、辺りを見回すと一人の青年がズカズカと歩み寄ってくる……
が、途端にアラタは思わず表情を引き攣らせた。
初対面にして眉間を寄せ上げた目元は既にサングラス越しながらアラタに対する侮蔑や憎悪を色濃く灯らせているではないか。
「なっ、なんやアンタ!?」
「何だじゃねぇよなぁ?ナニしたか解んねぇのかァ!?」
染めた髪や袖口から覗く腕ーー刺青と見て間違い無かろう模様が圧をより引き立てる男の下に歪めた口角から非難めいた言葉が飛び出してくる。
なんだと言うのだ、自分はロクデナシだがこんなイカニモな連中に目を付けられるような事をしでかした覚えは無い。
強いて上げるなら相手が超越不審者絡みの何かがあったかこんな見た目でも麻帆良関係者か……
そんな事を思い巡らせながらも、アラタは何やら引掛りを抱く。
見るからにヤンキーと言うかゴロツキと言うかの趣きある男だが、身につけているのは緑のキャップとライフジャケットに加えて手足に軍手とゴムブーツという徹底ぶりだ。
オマケに籠を背負い、腰にはビニールの束を提げている様に感じるのはどうにも似つかわしくないようなギャップ……
「ま、待ってくれやアンさん。ボクが何したってんよ!?ソレにアンタの格好なんやまるで……?」
ざけてんじゃねェクォラァ!!アラタが返すより早く足を鳴らすように一歩踏み出しながら籠から引き抜いた長い影を突き付けた。
「ヤマにゴミ捨てて注意した人殴りやがったのテメーだろうがクルァアッ!!」
・・・
え???思わずアラタは瞬きをする。
この顔立ちでヤマなどと言われると一瞬『シマ』の類語かと迷うが、こちらに向けているのはトングを長く引き伸ばしたようなモノーー所謂火箸だ。
加えて彼の服装やゴミ捨てという言葉からしてこの場合は何らの変哲も無い『山』の話で間違い無かろう。
いやいや、そんなことよりもだ!
「何を言うてんねん!ボクはポイ捨てなぞしとらんわっ!」
「ウソこいてんじゃねぇ!ちゃんとテメーの写真もブン殴られた痕も見せながら証言してくれた人がいんだよオルァ!!」
妙だ……そう考えていたアラタだがハッと感じ取る。
「(このにーちゃん、まさか…?)」
力強く震える拳を握りしめた男はそれを突き出しながら再び口を開く。
「聞こえねぇのかァ…?川や草木の泣く声がよォ…!」
彼の身体に黒い気配が滲み出すと、背負う籠から瓶缶の類が勢いよく飛び出し、彼の右腕周りにまとわるように集まるではないか。
「なっ、なんやぁ!?」
驚くアラタをよそに勢いよく掌を開くと同時に一瞬にして握り潰されたように形を歪め、男の肩から腕にかけて覆うように密集するではないか。
「だったら自然に代わってオレがテメェに痛みを教えてやらァ!!」
瞬く間にソレはさながら鎧のように腕に沿った形を成し、拳を握り締めた男がアラタ目掛けて地を蹴り飛び掛かった。
咄嗟に飛び退くと同時に男の拳が地を叩きつけ爆煙がひとつ巻き上がる。
「やっぱそっかぁ……!しかもアンタ、ボクがポイ捨てしたと思い込んでるってことは…!」
なぁ!?アラタが問いかけるより先に吠えるような語調で男は返す。
「自然を傷つけて、注意したオッサンまでブン殴って、何も感じねェのかァ!?」
間違いはなさそうやな、右半身を厳つい装甲に包んだ男の咆哮に確信めいた感触を得ると、しかしアラタは再び切り替える。
ともかくもここはどうするべきか…
YAKATAとの抗争でヒドく無茶をさせた木刀はもうしばらく休ませたい、ブレザーもこれを機に洗いに出したところだ、となれば……
「待ってろよォオッサン。オレが無念を晴らしてやる。だからテメェは……!」
再び拳を握り、こちらに踊り掛かる男の拳に何かが当たる硬い感触が襲う。
なんだと見れば少年が投げ放ったであろう何かが手元に還っていき、
「悪りぃな、アンタえぇ人っぽいしあんま一悶着したくないけど、落ち着いて貰わなあかんからな。」
手元に戻ったそれを受け止めながら諭すように投げ掛けるアラタ、面食らい勢いが落ちたがしかし気にせず突っ込み、先のように避けない彼に拳が打ち込まれた……
が、アラタは庇うように手を構え、ひとつ乾いた音が響く。
「なんだそりゃ!?」
ワンステップ下がりながら見ると、アラタの手元に驚きを浮かべた。
男の拳を防いだ手の甲、そこには何かーー全体は真っ黒で赤い三日月のような模様が片端にある円形の板状の物が嵌っていた。
『仮面の男』、アラタがそう素性を隠していた頃に用いていた面もまた、世界樹から採れた木で造られた代物だ。
それをさながら籠手のように嵌め、バンドに指を通した彼が改めて拳を握り締めた。
その態度にまた、男もワナワナと口元を歪めていく。
「テメェなぁ…この期に及んで逆ギレと抵抗かよ…!良い度胸ォしてんじゃねェかァ…!!上ォオ等ォだオルルァア!!!」
やはり拳に力を込め、叫ぶ男が勢いよく叩き込むとアラタも仮面を装着した拳を打ち返す。
ひとつ、砂塵とともに波紋のような衝撃が沸き起こった。
・・・
「今日もお疲れ様です。隆さんっ。」
「お瀬莉殿、わざわざ待っていてくれたのですね!ありがとうございますっ!」
昇降口で佇む少女の言葉に喜びを示し、暫し共に並び歩いていると、ふと、校門で3つの影を見つけた。
「なぁ、アレやべぇんじゃねえか?」
「一大事ですな。とは言えども何か引っかかりますよ…」
「そうだよ、和泉くんがそんなことをするわけ……」
眼鏡、糸目顔、癖毛……見覚えのある姿と彼らの口から出た名前に反応した隆は、
「あのっ!アラタ殿がどうかされたんですか?」
「あっ、嶺堂!どうしたもこうしたもねぇんだよ、今和泉のヤツがな…!」
すぐに駆け寄りながら話の輪に入っていった……
●『言伝〜何故その魂は肉体を得たのか〜』E N D
「ッ!?お前らっ……!」
「な、なんで…!?」
男達の拳が互いを叩き潰そうと駆け出す寸前、影が二人割って入り、まさに待ったをかけるように掌を突き出して佇む。
両者共に、見知った男女の介入に思わず足を止め、驚愕するしかなかった……