「あれ…?」
「ん?なんですか部長〜」
「和泉アラタですね。彼がどうかしましたか…?」
「あ、イヤ。ちょっとね〜……」
・・・
はぁ……ため息をひとつ、河原で胡座をかくアラタは脱力する。
「どうすっかなぁ……」
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『流離いの士.六~悩慮~』
「瀬莉さ〜ん、来たで〜。」
和文化室の障子を軽く叩いてから開くと、準備をしていた少女はおやと向き直り正座する。
「すみません和泉さん。来て頂きありがとうございます…」
気にすんな、頭を下げる瀬莉を手で制しながらアラタは腰を下ろす。
昼休み、偶然廊下で出会った彼女は不意に声を掛けてきた。
なんでも、聞きたいことがあるから放課後に部室へ来てほしいと頼まれたわけだが、大方彼のことだろう。
特に隆を呼ばない話なのだ、いよいよ彼もぼんやりと浮かべていた仮説と向き合い、自身の感情を整理すべき時なのだろう。
覚悟はできている、深く息を吸いアラタはハラを決める。
「さてと、解るで。笹露のことやろ?」
「っ!」
促された瀬莉は少し驚き、やや言い淀みながらも口を開く。
「は、はい……なんと言えば良いのか難しいんですけどその…村雨さんは一体、何者なのでしょうか?」
「ッてぇと、アレか。なんか見たんやろ?」
えぇ……頷きながら瀬莉は話を続ける。
それは、彼女が一度笹露といた時に抱いた違和感の話だ。
聞けば随分と些細なことだが、アラタも先日の一件を思えば気にし過ぎと笑い飛ばせたものではない。
寧ろ、彼自身の疑念を確信へと裏付けるような情報だ。
彼女は恐らく何かを感じながらも見間違いだろうと話せなかったのだろう。
アラタは内心で言い分をまとめてから顔を上げる。
「なぁ、これは今のキミの話とボク自身が見た最近のことに基づく推測やからあんま驚かないで聞いて欲しいんやけどさ……」
そう切り出したアラタの話に瀬莉は少し表情を強張らせた。
しかし、だからと言って彼女が思い詰めることでもないだろう。
一頻り話すと笑いながらアラタは続けた。
「言うてもまぁあんま気にせんでエエよ。それでもアイツが真面目でエエ奴なのは変わらんしりゅーくんに悪いことはせんってキミもよく知っとるやろ?」
気さくに笑う姿に瀬莉も少し安堵したのか表情が和らぎ大きく頷いた。
「そうですね。ありがとうございます和泉さん。」
「こちらこそ、やな。キミのお陰でボクもいろいろ動きやすくなったと思うわ。ほなね。」
微笑む彼女の姿にアラタも一息つくと、部屋を後にした……
―――――――――――――――――――
「どーおっすかなぁー、ったくよ……」
本日二度めの同じ言葉が思わず出るほどには行き詰まっているのが現状だ。
「あら、どうしたのよ?」
お?首を回して振り向けば、由紀恵が土手を下りてくるではないか。
「おあ、由紀ちゃん。久し振りやな。」
・・・
「はあ???」
しばしの沈黙の後、彼女は眉を顰めて首を捻った。
「毎日のように会ってるじゃない、ナニ言ってんのよ。」
「しもた!更新以前に最近全編総じて出番無さすぎるから」
「 な ん か 言 っ た ……?」
イエナニモ、由紀恵から睨みを効かされ思わず口を噤む姿にため息をひとつ、彼女は気を取り直すように言葉を続ける。
「…で、何してんのよこんなところで。」
「せやなー、何してる言うたら難しいとこやね。まぁ色々あるんよ。」
「悩みとか?」
悩み?うむむ……アラタは再び黙した。
「悩むとかいうより前の段階で悩んでるような感じもあるんよなぁ……なんて言うんやろ。」
例えば、一つの事象に対して最悪な結果を伴う可能性があったとして、自分は何ができるだろうか、正しい選択を取れるだろうか。
彼自身がここ数日で見てきた出来事、そして瀬莉から聞いた話……それらを合わせると、延々そんなことを考えてしまう。
「アナタねぇ、十分過ぎるくらい悩んでるじゃないの。」
先と矛盾する言い分に呆れ半分に応えながらも由紀恵は小さく笑った。
「でも、そうは言っても本当は言う程悩んでるようには思えないわよ。案外結論は出てんじゃない?」
「ちょっ、心外やな〜。ボクかてアレコレ思い詰める時もあるで。」
「悩む感情があるなら少しは手を焼かせてる私にも向けて欲しいけれどね。」
「・・・ごめんて。」
冗談よ、悪戯っぽく笑う彼女は軽く屈んで顔を覗き込む。
「まぁ、ほら。"どうすべきか"よりも実際に貴方の言う最悪な結果になった時、自分がどう動くのが想像できるかって思えば良いのよ。」
え?彼女の言葉に思い直してみる。
もしも悪い予感が当たったらどう動いているか……なんだ、そんなのひとつではないか。
やりたくないから逃げていたに過ぎないのだろう……あれこれと考えてはいたが、結局自分の中で答えは決まっていたようだ。
その時が来たらそうするしかない、そんな確信と向き合うように一息つくと立ち上がり、由紀恵の肩を叩く。
「ありがとな、由紀ちゃん。お陰でハラ決めることはできそうやで。」
「そう、なら良かったわ。貴方があまり無理をすると新垣さんだって心配でしょうしね。」
2人土手に上がり、手を振り合ってから別れて暫く歩き、携帯電話を取り出した。
……と、雛菜からのトークが更新されていることに気付き開くと……