※ ※ ※
好きにしてくれて構わない、そう促すなり真一は本に目を通し、優輝はそわそわと部屋の内装や本棚を拝見する。
やはり難しそうな洋書がそれなりにある……ともあれお互いどうもぎこち無い空気が漂っていた。
ふと、真一を見れば本の脇にはペンやノートが広がっているではないか。
恐らく彼なりに色々と纏めた内容なのだろう。
やっぱりこの活動が好きなんだな、優輝は一人思う。
言わなきゃ、彼女は胸に手を添える。
しろかに無理を言い、況してや住民である真一に断りも入れず家を訪れるという無礼まで働いたのだ。
...もっと見る「あ、あの、ですね。マツノキさん。」
「ん?何かあった?」
本を閉じ、こちらに顔を向ける姿に何を言うべきか、暫し考える。
まずは…
「今日は勝手に押しかけて本当にすみませんでしたっ!」
「あー、それは別に良いよ。寧ろ俺だって結果的にキミの家を知ってたわけだし、暫くウロウロしてた訳だしさ。」
それは、貴方が私を守るためにしてくれたことだから…頭を掻きながら困ったように笑う彼の姿に唇を噛む。
だからこそ、伝えるべきなのだ。
「いつもいつも、気に掛けてくれてありがとうございます。今日はどうしてもそのお礼がしたくてお邪魔させて頂いたんです…」
だから、その……一息ついてから緑色が目立つトークアプリの画面を携帯電話に開くと彼女は差し出した。
「私は頼りないと思いますし、どれ程お力になれるかわかりませんが、もし困ったことがあったらどうか頼ってくださいね。」
え…口を尖らせた真一は気まずそうに頬を掻く。
「そこまで考えてくれなくたって良いよ、そもそも今までだって教科書のこととか学校施設のこととか怪我のこととかずっと助けられてるし、俺みたいな奇怪な奴関わらないに越したことは無いと思うし…」
いえっ!!大きな声と共に、優輝はテーブル越しに身を乗り出してきた。
「貴方は私の…命の恩人です!今でも思うんです、あの時マツノキさんがいなかったらって……」
不意に立ち上がり、こちらに背を向けるように窓から外を眺める優輝の姿の弱々しさに、真一はまた身体の奥底を刺激されたように感じた。
それに…、彼女は振り返った。
「私達を守るために頑張ってくれる貴方を、私自身が支えたいって思っているんです。マツノキさん、私に諦めかけていた好きなことを大事にして欲しいって応援してくれましたよね?だから、私も先程お祖父様の話を聞いた時、同じように貴方を応援したいと一層思ったんです!」
「花房、さん…」
まただ、まっすぐな瞳に真一は言葉を詰まらせた。
時たま彼女からは力強さを感じる。
あぁ、そうか。真一は思う。
自分が魔族に襲われた優輝を心配に思うように、彼女もまた魔族を射つ立場にあり時には怪我も負う自分を心配してくれているのだろう。
「ありがとう、お言葉に甘えるよ。これからも暫くキミのお世話になるかもしれないから、その時はよろしく。」
彼の言葉に優輝は口元を緩め、そして笑顔を見せる。
「ハイ!こちらこそお願いしますっ!」
―――――――――――――――――――
――――――――――――
――――
「あの、マツノキさん。何か困ったことってありませんか?」
数日経った放課後、廊下で優輝がそんな声を掛けてくる。
とは言うものの、学園生活も慣れてきた手前、あまり手助けがいるような事象が浮かんでこない…
あっそうだ、そこまで考えてからふと真一は思い出す。
「近くの喫茶店とかカフェとか良いとこ、あるかな?どっちも同じか。」
カフェ?首を傾げた優輝はすぐに笑顔で手を叩く。
「はい、知ってますよ。でしたら今から…」
そこまで言いかけるが、すぐに彼女は紅潮した頬を隠すように口元に手を翳す。
知り合って間もない友人、況してや男子だ。
そんな彼と一緒にカフェへ?
二人きりで?
「(そ、そんなの流石に目立つし、それに…!)」
「どうかした?」
どうしよう?不思議そうに目を細め、頭を掻く真一を前にして答えに困る。
頼ってほしいと想った手前、反故にはできない…そんなことを考えていると、不意にドヤドヤと後ろから圧に似た喧騒が迫り、
「おぅなんや魔族くん、喫茶店探しとるんか〜」
「この辺でもめっちゃ良いとこ2つあるぜ魔族くぅん!」
「しょっ、商店街もまだ見たこと無いよね?」
「アラタくん、槌野くん、曽良くんっ?ってちょっ!?」
驚いた顔を見せる彼はすぐに数人の男子に囲まれて流されるように歩きだしてしまう。
ポツリ…一人その様子を見る優輝はぼんやりと思う。
確かに女子と二人きりとなれば気まずいだろう、ただカフェに行きたいだけならあっちの方が…
「どった優ちゃん?」
「行くんでしょっ?」
へ!?不意に呼び掛けられた声に俯いた顔を上げると、悪戯っぽく笑うアラタとウィンクを向ける雛菜だ。
「っ!…は、はいっ…!」
促され、慌てて続いていく。
「なんや雛菜ちゃん嬉しそうやな。」
「いや〜、あらたんも成長してるんだなってのを強く感じられてね。」
「なんやねん、誰のお陰や思うとるんよ。」
「ふふっ♪」
前で笑い合う2人をどこか羨ましそうに見ながら笑みをこぼす…
「うるさくてすまんなマツノキ。オイ槌野、アラタ、商店街行ってもアレやんなよ…?」
「酒屋に至っては最近すっかりフータ氏とアラタ氏を見るだけで鬼のように不機嫌になりますからなぁ〜」
「おいおい、ひろしは最初っからボクら見ると鬼のように不機嫌やろ〜」
「ダッハハ!ところで串間、島田チャンは?」
「用事あるってよ。」
談笑の中、ふと真一は影に目を向ける。
雛菜が優輝の手を引き、然りげ無く背を押して彼の隣を歩かせたのだ。
互いに見合って笑うがしかし、真一は内心先日を思い返し、薄ら苦い感情を拭えずにいた…
|
|
|
「・・・花房さん……」
貰ったケーキの店を知りたい、という建前でゼルブに気遣うように付き添われて優輝が帰り、窓から歩き去る後ろ姿を見送っていると、不意に聞き飽…聞き慣れた笑い声と共に襖が開く。
「フッハハハ!恩義を果たし忠義を尽くそうとする…非力な人間にしては殊勝なその心意気、気に入ったぞオンナよ!良かろう。このフェシル、君主として我が眷属が筆頭・松の木真一に娶られることを快く認め「るーちゃんどいて〜」ドワァアッ!?」
腕を組み、反り返るような仁王立ちで声高に語るフェシルだが程なくデモスが光輪を雑に掴むと後ろ手に寝室へ投げ飛ばして入れ替わるように飛び出す。
「デモスキサマァアッ!!」
「だっせ……」「バーカ…」
声を荒らげるフェシルを嘲笑うようなターサとヴィア、そんな様を気に留めずデモスは真一に駆け寄り、アラタとしろかも続く。
「よぉよぉ魔族くん。転入してから思ったより色々あったんだなオイ。」
「ハハッ、魔族くんも隅に置けへんな。」
「いっや〜!んもぅ、あんだけ魔族学に熱中してた真一くんからここまで良い匂いがしてくるなんてっ!デモス感激ぃ〜〜♥」
いししと笑いながら肩を叩く2人と目を輝かせながら矯声を上げて身を捩らせるデモス。
「そんなんじゃないさ…」
待てよ、目を細めた彼は一息つきながら言った。
「確かに力強さを感じるとこもあったけど、多分あの子は元々メンタルが脆い。だから死にかけるようなトラウマに遭って、そんな時俺に助けられて…、きっと自分の中の恐怖と安堵とが入り混じって感情が整理できなくてまだぐちゃぐちゃしてるだけなんだよ…」
彼の言葉に、あまり興味の無さそうだった他のファミリアすら手を止め口を閉じて耳を向けていた。
それにさ…どこか苦い面持ちで真一は続ける。
「…わかるだろ?もし万が一仮にデモスの言う通り、優輝ちゃんに俺への感謝以上の感情があったとしてさ。俺はただ異変解決の為に一時的に聖櫻まで送られてきて、解決したらまたすぐ麻帆良に戻るんだ。無責任な態度なんて取れない……」
「・・・」
「魔族くん……」
「あーたねぇ……」
「真一くん…」
「マツノキ、アンタ…」
でも…、ふと真一は思い出す。
『傷は放っておけば深くなりますから。』
以前優輝に言われた言葉だ。
その通りだ、ならば……
「魔族が出てきた次元のヒズミのように、彼女が味わった恐怖も俺が消さなきゃならんだろうね。」
彼は言うと再び記録を取ったのであろうノートと万年筆を取り出し、
「その為にも、もっと俺ができることを、ね…」
そう締めながら分厚い本を取り出すと何かを調べるようにページを開きメモを取っていく。
そんな真一の姿に…
「(愚か者め、アレだけの目に遭いながら我らに関わり合おうなど強靭にも程があろうが……)」
「(今思いっきり"優輝ちゃん"言うたな)」
「(イヤ"優輝ちゃん"は草)」
「("優輝ちゃん"だなんて、真一くんたらぁ♥)」
「(フン、なぁにが"ユーキチャン"だって。アンタとっくに無責任よっ……!)」
まだ、彼らの心は届きそうにはなかった……
『Ⅳ・多分、手遅れ』E N D
「ところで魔族くん、なんで喫茶店行きたいん?」
「え!?えーっと……」
イヤまぁ理由なんてなんとでも言える、しかし優輝にあんなことを言った手前だ、変に繕うのもバツが悪い。
ハラを決めるように真一は頭を掻きながら一息ついて口を開く。
「・・・好き、なんだよね。クリームソーダ(;θ3θ)」
「いやなんで言うの躊躇った???」