12: ディジェイヌ
2026-07-18 00:06:44 NDVkNTY4(6)
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「ホォオオオ!!ひぃらけぇえ!!」
とある山中、一人の人影が搾り出すような声とともに手を高く翳し、力みながら濁ったように黒い気配を漂わせ…
おぉ!?目の前にヒズミが現れ大きな影が身を乗り出してくる……
「こやつならどうじゃね!?」
視線の先、もう一人は腕を組みながらその光景を眺めていた。
はしゃぎ気味に呼び掛ける主が感嘆しながら振り返る。
杖をバタバタと振りながら指し示す先ーーたった今"無"から姿を顕したのはさながら大きく逞しい黒馬…だが、体の各所は鱗が備わっており、どことなく竜というか麒麟のようにも見える、そんな異形の姿だ。
...もっと見る「イィイ!!フルルーッ!!」
突如"こちら側"に迷い込んだ異形は粗く息巻きながら長い首で足元を見下ろした。
佇むのは一人の青年ーー細身をスーツに包んだ、ホストやファッションモデルを思わせる美麗な男だ。
風で煽られるウェーブがかった髪を軽く指ではらいながら相手を見返す表情は至って冷静…それどころか異形を前にしても顔色一つ変えず喜怒哀楽を感じさせない面持ちはどこか相手をつまらない者と見下すような風情すらある。
フルルーッ!!たとえ獣のような思考と言えどもその態度は伝わるようだ。
黒馬はいきり立ちながら飛び上がり、青年を踏み潰さん勢いでその蹄を振り下ろす。
しかしなお彼が慌てふためくこともなくサングラスを外し一歩も動かぬまま妖艶な目で異形を見据えると奴はピタリと動きを止め、
「この私を知らないということも無いのだろう?"ガムギーネ"よ…」
「フルッ、ルルルル……!!」
抑揚が薄いながらもどこか諭すような問い掛けと視線に気圧された黒馬・ガムギーネはすごすごと座り込み、まるで背に騎手を迎えるように青年を促す目線を返した。
「ふむ…まぁ、悪くはないか…」
ガムギーネに歩み寄り、数度首筋を撫で回した青年が跨ると、奴はすくりと立ち上がった。
「のーのー」
と、割って入った声は先程ガムギーネを呼び寄せた男ーー地につきそうな程の白髭を生やし、紫色のローブと鍔の大きな円錐帽を着けた、如何にもファンタジーの魔導士を思わせる風格の老人だ。
「本当にこんなこと続けてたら儂は究極の力に目覚めるのかいのぅ?」
なんだそんなことか、青年は呆れたように首を振りながら答えた。
「あぁ、現にキミは境界を崩し魔族を呼び寄せる、禁忌に近い術を使ってのけているではないか。」
おぉそうかそうか、彼の言葉に満足したように老人は笑い、懐に手を入れ、
「キヒヒ、こうして儂のスゴさを思い知らせれば流石の『カレ』も弟子入りしたくなるじゃろう。元々既に実力で名を広めている少年を弟子として教えたとなれば、儂は名実共に偉大なる魔法使いとなれるんじゃぁ……!!」
触れる感触ーー忍ばせている果物を確かめながら野望に思いを馳せては品の悪い笑い声を浮かべる。
「(全く、私に協力するなら優雅な所作を身に着けて欲しいものだな……)」
そんな様を見て、青年は眉間に手を添え肩を竦めた。
とは言えども折角得られた駒だ、今は少しずつでもコトを進めていかねばなるまいか。
「まぁ、せいぜい励み給え。この世界に君臨すべき"神"の為にな…」
そう言い残し彼がガムギーネを軽く小突くとひとつ嘶きながら地を蹴り、駆け上がるように空中へと躍り出て駆けていく…
それを見た老人も杖を背に差すと箒……を括り付けた一輪車を木陰から引っ張り出すなり跨って続き、オーラを纏い勢いをつけると、どこぞの宇宙人との友情映画よろしくに飛翔し共に飛び去って行った……
「・・・」
深夜2時、アパートの窓辺に腕と脚を組んで腰掛けるフェシルは月夜を眺めていた。
いつも自信に満ちて高笑いを響かせる顔を顰め、鋭い眼差しを月に向けているではないか。
「ふぁ…喉渇い…アンタまだ起きてたの?」
不意に声を投げ掛けられ振り返る。
自身に絶対の確信を持って生きる自分とは真逆に卑屈な同胞の言葉は随分と滑稽なものだ。
「そもそもキサマらが人間共の"夜"に毒されすぎているのだ。少し考え事をな…」
相変わらずのどこか嘗めたような語調に少し眉間を寄せるヴィアだがしかし、どこか神妙な顔をしていると読めるくらいには長い付き合いなのだ。
「アンタのことだし、こーゆー時なら真面目なことなんでしょ?」
フム、物分りは良いな…そうほくそ笑みながら彼は応える。
「ここ暫くの魔族侵出の件、何者かの介入は間違い無いと見てきたが、いよいよ確信に近づいたと思っていてな。」
「へぇ……まっ、なんだかんだ私らで一番魔力高いのアンタだもんねぇ。」
で、なんだっての?続けて促された問にフェシルも一息つきながら口を開いた。
「"奴"だ。忌わしきアヤツめの気配が微少ながらも少しずつ流れてきている……」
睨むような険しい面持ちで吐き捨てる姿にヴィアはどこか驚いたように返す。
「え、ヤツって、アイツ?でも確か……」
ああ、言い掛けるヴィアを遮るように肯定を示しながらフェシルは続けた。
「だからこそであろうな。どうにか手引を得て今件を引き起こし着実に…という算段であろう。だがまぁ我としてはその方が叶ったりだな。あの怨嗟を忘れたことは片時も無い……!」
拳を握りしめ、力強く歯噛みをしながら吐き捨てる普段からは見受けられない姿に
「思ったより深刻な感じになりそうなのね。まぁそもそもアンタがマツノキに協力してるのもそっから始まったし……アイツも何かしらは勘付いてるのかしらね、だからあの子にも煮え切らない態度取って……」
複雑そうな目を向けながら応えるヴィア、しかし落ち着きを取り戻したらしいフェシルは小さく笑うと窓を降り鍵を締め言葉を続けた。
「安心しろ。松の木 真一は我が優秀なる眷属が筆頭。このフェシル、君主としてその伴侶たり得るオンナも災禍から護ってやろうではないか…」
アンタ……腕を組んで反り返る姿に数秒感心したように黙するヴィアは……
「その喋り方さえやめればねー…」
ボソリと吐き捨てた……
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