「す、すみません。まとめたら重くて……」
「ったくマツノキ テメェこのヤロウほんとふてぶてしくなりやがったなぁ!」
「考えてもみろ、女の子1人でこの量を捌こうなんて酷だ。」
真一と優輝が運び出した古書物の束を脇に抱えつつ両手や角にも提げながらエレベーターを降りるターサに並びながら優輝は頭を下げる。
「でも、マツノキさん。さっきのどうやったんですか?この前はもっと時間が掛かってたような?」
ん?あぁ、恐らくは召喚のことか、笑いながら真一は応える。
「こういう平時にちょーっと呼び出すくらいならすぐできるんだ。まぁ、騒ぎを起こさないためにも術式を用いるまで能力は解放できないけどね。」
ただこの状態でも…言い掛けた口を閉ざす。
そんなこと彼女にはどうでも良かろうし、できれば関わらせないのが術者の義務な筈だ。
「騒ぎをって…、皆さんの見た目では目立ちませんか?」
...もっと見る「一応俺の術の範疇ならそういうモノを見慣れない人にも溶け込めるようにできるんだ。逆に晶魔とか怪人とか見慣れてる人にはそもそも誤魔化す必要は無いしね。」
あれ?彼の言い分に優輝は首を傾げる。
「でも、私は…?そういうモノがいるとは知ってますけどそこまで…」
「あっ…あー、ホラ。あん時は咄嗟の状況だったしね、そこまでやる暇はなかったんだよ〜」
「イヤ、つかじょーちゃんはそもそもオレ達より先に…「よせ、ターサ。」
「あ?あぁ…あ?オゥ、スマン……」
どこか歯切れの悪い真一にボソリとターサは言い掛けるが、きっぱりと彼は口を挟まれ思わず口を閉ざす。
…ったく、ニンゲンってのはやっぱムズいな、そんなことを内心に思いながら。
「イヤでもコレは使えるようになって本当に良かった。お陰であの時咄嗟にゴォルを喚べたからね。」
「だからってこんなことの為に喚び出してんじゃねぇ!」
歯噛みをしながら睨むターサをどこ吹く風と流す真一は目を細め口を尖らせながら感慨深げに1人顎に手を添えて頷く。
ゴォル…?ハッと優輝は思い出す。
熊のような巨体に捻れた大角を生やした紫色の生物ーー遊具から落下した彼女をクッションのように受け止めた、正真正銘の救出者だ。
そう言えば彼は途中ですぐに帰ってしまった?為に直接お礼は言えてないな…ふと優輝は考える。
ところで…、そんな真一の切り出しに意識を呼び戻された。
「なんだかアイドルの雑誌が多いね?」
へ!?そう言えば見られるとも思っていなかったから無防備だった、返答に困る。
「あ、えと…その…時々、気になることがあって、つい、見てて……」
人差し指を突き合わせながら言い淀む姿に、ふと初日の光景を思い出す。
…イヤ、恐らく地雷だろうしやめとこう。
なんだかんだ良好な関係になってきたのだ。
「オイ、コレで全部なら帰んぞ?」
「あっ、ありがとうございましたっ!」
そんなことを思っているうちに用事を終えたターサが姿を消し、礼を言った優輝と暫し歩いていると、彼女は不意に口を開いた。
「私、昔はジュニアアイドルスクールに通ってたんです…」
どうやらその頃、彼女の歌や踊りはひときわ飛び抜けていると講師や周りからも評されていたらしい。
だが、始めは楽しくて純粋に好きだったことも、段々と期待の視線という重圧に耐えられなくなり、いつしか目立つこと、人に見られることそのものすら怖くなってしまったと言う。
「だから由佳ちゃ…そこで知り合って聖櫻で再会した1個下の子以外は、私のそういう面は知らないんです。」
なるほどなぁ…小さな引掛かりを抱きながらも真一は目を細めて言葉を返す。
「それで、今はそういうことはどう思ってるんだい?」
「あっ、いえ。人前に出るのがダメってだけで、決してアイドルも、踊りも、歌も、イヤになったわけじゃ……!」
でもでもっ!詰まった言葉を押し出すように優輝は更に続けた。
思えば、彼女がここまで事細かに喋っている姿は初めて見るな、そんなことを思う。
「そんなのなんだか未練がましいみたいで、誰にも、言えなくて……」
そこまで言ってから、彼女はハッと自宅前まで来ていたことに気付く。
「マツノキさん、今日はその、ありがとうございました!すみません、見守りどころかお手伝いまでして頂いちゃって…!あのっ、良かったらうちで休憩していかれては…!」
そこまで言いかける優輝だが、ふと真一は着信に気付き断りを入れてから携帯電話を見る。
アラタからのトークだ。
『なーなー魔族くん、ゴブリンみたいなの見付けてブチのめしたからアレ頼むわ〜。場所は…』
「ごめんね花房さん。申し訳ないけど用事できちゃったみたい…」
はい…、目を細め、申し訳無さそうに笑う姿に複雑そうな表情で返す優輝。
・・・
「あのさ、さっきの話なんだけど。」
しかしまぁアラタなら、多少遅れても取り逃すようなヘマはしないだろう。
真一も一息吐き出して意を決すると口を開いた。
「距離を置いたことに対して、今でも雑誌とかで色々知ろうって気持ちがあるのはスゴいと思うんだよね。」
「・・・へっ!?べ、別にそんなっ褒められるようなことなんて…!」
彼の言葉に数秒黙していた少女が自分でも予想外に大きな声を上げ、慌てて両手を翳した。
それにさ…やっぱり言おうと内心頷きながら繋ぐ。
「掘り返すみたいでごめん。だけど、初めてキミの踊りを見た時、目が離せなかったんだ。」
「っ!!マツノキ、さん……」
名前を呼びかける顔からは表情は読み取れない。
いよいよ軽蔑されるだろうか、構わない。
「『見なかったことにする』なんてできなかったんだ。昔のキミを知らない俺でも惹き込まれた。なによりあの時の花房さんは見てきた中で一番いい笑顔をしていたよ。」
「な、なんでそんなに…」
「昔の友達しか知らないようなこと、わざわざ会ったばかりの…況してや男子に話してくれたよね?」
そ、それは…動揺と裏腹に取り乱さずにいられるのは、彼の穏やかな面持ちと口調故だろうか。
「そ、そんな風に言われるとは思っていなかったので…!」
だからさ…
「俺も今やってることは殆どお祖父ちゃんの影響でのめり込んだことだしさ。キミが手放したくないモノなら俺は応援していたいし、自分の『好き』を大切にしてほしいかな。」
そこまで言った時、またしても通知が鳴る。
大方彼の催促であろう。
「ごめんごめん。ポッと出のクセに好き勝手喋り過ぎたね。まぁキミの道なんだから一感想として流して。じゃあそろそろ行かないとマズいんでっ!」
あっ……思わず引き留めそうになった。
でも今口を開けば余計なことまで言うだろう、唇を噛んで抑え込む。
「マツノキさん……」
耳元で響く音はまた大きく、そして早くなっていた……
―――――――――――――――――――
「おぅ雛菜さん奈央さん、飯食おーぜー。」
「あっ、こんにちは…」
「ん〜?」
「あ、しろかちゃん、花房さん。」
学食、声をかけられた2人が振り返ると、優輝を連れたしろかが並び歩く。
他愛無い談笑をしていると、不意に聞こえてくるのは馴染みのある男子集団の声だ。
「なーなー魔族くん!なんかオレ『マツノキ』って聞き覚えあると思ったんだけどもしかしてアレか?『松の木 邦夫』!」
「っ!うん、お祖父ちゃんだけど。よく知ってるねぇ…てかキミも『魔族くん』かよ…」
「んまっ、オレはオカルト的なのとか好きだからなっ」
楓太の言葉に驚きながらも頷くとニッカリと得意気に彼は笑った。
「えっ、知ってるの!?」
「あぁ、まぁ曽良もペンネームならわかんだろ、『柳木 しなる』センセイだよ。」
なんと!?介斗の疑問に応える彼に驚きを見せるのは太一だ。
「柳木しなるセンセーと言えば国内外の妖魔怪異を探求しておられる高名な民俗学家にして怪奇小説家ですぞ!」
「えぇ…僕も名前なら聞いたことあるよ…!」
「いや〜なんや魔族くん、●木し●るセンセの孫やったんか〜」
「アラタくんなんで伏せ字入れた??」
グループで連れ立って歩く姿に呆れ半分にくすりと笑いながら雛菜はアラタに呼び掛ける。
「あらたーん、あまり疲れさせるんじゃないよ〜」
「わぁっとるってぇ。なぁつっちー!」
「ダッハハハ!エロイームエッサイム、エロイームエッサイム♪」
「さぁバランガバランガ僕らのっ、まーぞくくんっ♪」
「だから魔族くんゆーなっ!」
「槌野、アラタ、少しは静かにしてくれ……」
嵐のように過ぎる一行を淳が締めるように通り過ぎて行く。
まったく、苦笑いしながら雛菜が肩を竦める。
「すーぐはしゃぐんだから…」
「いやーでも私も魔族くんが来てから毎日ワクワクしっぱなしだぜぇ〜」
「もぅ、なんでしろかちゃんまで…」
あれ?雛菜が言いかけた時に抜けた声を出したのは奈央だ。
「花房さんどうしたの〜?」
見れば彼女は奈央と背中合わせになるように俯き気味で佇んでいるではないか。
しかし、奈央からの呼び掛けに我に返ったようだ。
「へ!?あれ、え、私、なんで…!?ご、ごめんなさい見吉さんっ!」
「あー良いの良いの。花房さん視線が苦手だもんねぇ〜」
気を取り直して席を探す雛菜と奈央、露骨に遠い目をするしろか、その後ろをつきながら優輝はひとり考える。
どうしたんだろう…、雛菜がアラタに呼び掛け、彼らがこちらを向いた時、反射的に動いていた。
ただ沢山の目線が向いたから、それだけではない気がする。
・・・彼、だ。
彼がこちらを見る前に、咄嗟に長身な奈央に隠れるように彼女の背に回っていたのだ。
いつも隣で会っているのに、どうしちゃったんだろう私……
「あ、また……」
まただ。日に日に大きく、早く、そして熱く……
耳元で鼓動が鳴り響いている。
『Ⅲ・なんだか不思議な感じ』E N D