7月初頭、煌びやかな七夕飾りが目を引くとある高校、その空気とは対照的に、たった今空から降り立った影に生徒達は唖然とした空気を醸し出していた。
「お待たせぇ〜織姫チャァン!アッハァ、キミのことだよ!スタァが満を持して降臨だよぉ?会えなくても想い続けていたんだろぅ、叶って良かったねぇ!」
朝礼台に佇む者ーー派手な襷を着けた牛に跨る紫の装束を纏った青年はしかしあどけなく笑いながらくるくると回した指をそのまま生徒達に向けて行く。
「ぼぉ〜くの、お〜りひ〜めちゃ〜んになりたいのはぁ〜……キミ、かなぁ?」
「イヤなんだお前、超越不審者か!?」
無造作に指された女子の近くにいた男子が反射的に声を荒らげると、呆れたように右目にかかる前髪を流しながら男は言う。
...もっと見る「不審者ぁ?イヤだなぁ…誰も何も、僕があの有名な"星の王子様"、彦空さぁ!」
「ヒコゾラァ!?!?」
どう見ても超越不審者です、本当にありがとうございました。
一層深まる困惑にすら不思議そうに首を傾げながら牛から降り立つなり生徒達を一瞥するように歩き回りながら彼は言葉を続ける。
「ちょっとぉ、みんな暗いな〜。せっかく巡り会えたってのにそりゃ無いよぉ〜。僕は皆の憧れの星、泣いて喜ぶところだろぅ?さぁ、一年に一度のパァ〜リィの始まりだよぉ〜!」
「寧ろ怖くて泣きそうだと思うけどね。」
「ん?なんだい、キミ?」
?不意に投げかけられた声に彦空どころか他の生徒達まで不思議に視線が向けられた先、前髪に虹色のメッシュをつけた少年が頭を掻きながら歩み出てくるではないか。
彼は軽く手を叩きながら居合わせる生徒達に目を向けた。
「とりあえずここは僕が収めておくからさ、皆は作業戻って大丈夫だよ。」
「いや、何言ってんだよ。お前もそういうキャラじゃないだろ?」
顔見知りからの突然の提案に学友達も指摘を入れるがしかし、彼は人懐っこく笑いながら答える。
「大丈夫だって。僕も色々やったからね。ダメそうなら助けも呼べるし。」
「えっ、ちょっと待ってよ!僕の織姫チャァン?僕の大ぁい事な織姫チャァ〜ン?七夕号に乗せてあげるよ、天の川でボートに乗ろうよ、なんならコンパしなぁい!?ちょっあーもぅ、遠ぉ〜く離れていても、僕達はキミの傍にいるよぉ〜!」
ゾロゾロと去っていく女子達に慌てて言葉を投げ掛けるがどこ吹く風だ。
なるべく関わらないようにと発端の少年を残しヒト気が無くなった状況にムッと顔を顰めながらもすぐに笑顔を作ると彦空は少年に口を開いた。
「残ぁん念、僕のファンクラブは女子限定なんだ。」
「肝心のメンバーなんているの?」
少年がデバイスを腹にあてがうと装着され、緑と藍2つの石を取り出すなり、
『Virude』+『Cyaneum』→『PRISMA』
機器に嵌め込むと電子音が響く。
「ん?なんだいコレは…?」
不意に彦空は違和感を抱く。
7月らしからぬ爽やかな風が吹き抜ける中、少年の身体は瞬く間に藍色のタイツに覆われ、全身がつむじ風に巻き込まれると共に緑色の装甲が纏われており、目の前を一直線に雷鳴が走ると一本の鞘に収まった日本刀が形成されるなり彼は手に取る。
・・・プライズマ?そういうことか、納得したように一人頷く彦空だがすぐにやれやれと首を振り、
「対抗のつもりかな?でもキミには、華が無い。スタァ〜にはなれないよ?」
鼻で笑うと手に星のような光が寄り集まり星型の圏を形成しながら構えた。
「彦月兄さんが僕の為に仮面の男を討ち取ってくれるんだ、僕もこのままなんていられない…!」
仮面の男、か……朝礼台から降り立つなり、圏を構え迫ってくる姿に少年ーープライズマも彼の言葉に少し感じるものを得ながらも閃光を散らしながら刀を抜くと構えた。
「(あーは言ったけど僕もまだまだ駆け出し、油断はしないように…!)」
「織姫チャンと巡り会えるんだぁ…邪魔をするなァ!!」
見開いた目で鋭く睨み付けながら吠え掛かる彦空が圏を振りかぶってくる姿にプライズマも刀を振るって弾き返すと、さながら風に乗るように滑らかな所作で後退して奴から距離を取る。
このぉ…!再び圏を構えるなり迫るプライズマに自身も駆け出すと勢い良く圏を投げ付け、
「なっ、しまった!?」
咄嗟に構えるプライズマだが想定外の衝撃に勢い良く投げ出される。
「僕と織姫チャンはぁ、一年にっ、一度のぉっベストカップなんだよぉ!!僕の織姫チャンになるのはっ、女の子の夢ェ!!」
勢い付いた彦空が再び圏を掲げ腕を軸に回すと輝きを灯し、一気に振り抜くと次々に光の輪が少年めがけて投げつけられた。
このっ…!強風と電光をまとったプライズマはすぐに刀を振るっては光輪を切り捨てながら、今一度刀を収めてから腰に添え直し一気に彦空へと距離を詰め、電撃を迸らせながら鯉口を切り…
「何ィ!?」
刹那、彦空の困惑と乾いた音が響き、奴の持つ星型の圏が宙を舞うと電気を散らしながら勢いよく爆散した。
呆気にとられる彦空の背後ーー振り抜いた刀を再び収めたプライズマは向き直って口を開く。
「勝負アリ、だね。騒ぎにならないうちに…ん?」
言い掛けた時、ふと彼は苦々しい口元をニッと緩める彦空の姿に引っ掛かり、目線を向ければ自身に大柄な影が砂塵とけたたましい音を引き連れ…
「しまった!」
そう言えばと失念に気付くなり咄嗟に刀を翳して防御の耐性を取るも細い得物では防ぎ切れずに突き飛ばされてしまった。
ぐぅ!?壁に打ち付けられながらも体勢を持ち直すが転がる刀が微弱な電気を散らしながら爆ぜると、自身の緑の装甲も風に吹かれるように消え、残された剣共々簡素な紺色のみの姿となったではないか。
そして彼を突き飛ばした正体ーー彦空が騎乗していた牛が勢いよく鼻を鳴らしながらその身体を輝かせた。
「くっ、まさかとは思ったけど牛いたんだよな…」
「"七夕号"とは、ずっと昔から一緒だったんだぁ…ありがとう。」
輝きが晴れると、プライズマはマスクの奥で驚愕に目を見張る。
「大丈夫か、彦空?」
ズボンと名入りの襷のみを纏う筋肉質な上裸の男がポンと彦空の肩を小突きながら優しく笑うと彦空も困ったように笑い返す。
バキバキと拳を鳴らしながら鼻輪と角が目を引く厳つい顔立ちの男『愛牛・七夕号』はプライズマに向き直ると構え口を開く。
「お前も少しはやるようだな。良いだろう、ここからは俺が相手をする。」
行くぞっ!一声吠えながら拳を引き絞るとすぐさまに七夕号はプライズマ目掛けて一跳びに迫ってきた。
「うぇ!?ちょっ、ヤバ、待って!?」
すぐに緑の石『Virude』のエネルギーが切れていたことを思い出した彼は慌てて飛び退くが、無慈悲に七夕号の拳は校舎の壁にめり込んだ。
「アホウめが、闘いに待つもナニもあるかァ!」
そりゃそうだけど…思わぬ正論に一人頬を掻くが構わずにこちらへ向き直ると奴は後砂を蹴りながらまたしてもこちらへ向かってくるではないか。
「あぁそうだっ、と!?」
両手を握り合わせ、一つの大きな拳を作った状態の腕を脳天目掛けて振り下ろされたプライズマはすぐに避け、慌てて距離を通る。
「彦空相手の時の威勢はどうした!?すぐ逃げやがって、何の為の剣なんだ?」
簡単に言うなよ……、凄みながらまたしても駆け寄ってくる七夕号に舌打ちを一つ、しかし傾向は掴めたと改めてプライズマはデバイスに嵌まる石を差し替えると、
『Rubor』+『Luteum』→『PRISMA』
2色の輝きと共に全身を覆うタイツは橙色に変わり、全身を焼き尽くすような焔が湧き上がると真赤な装甲に覆われ、包まれた両手の火が晴れると同時にボクサーのようなグラブが形成された拳を握り直してからストレートに迫った七夕号の拳を払い除ける。
ほぉ…?地を擦りながら体勢を直す七夕号が少し感心を見せるがプライズマは再びグラブを燃え上がらせながら隙を逃さんと迫り、拳を打ち付けた。
一つ鈍い音が響くも七夕号も逞しい腕で受け止めたらしく、即座に切り替えながらその拳を少年に見舞う。
横面を打たれるも二撃をすかさず拳で撃ち返したプライズマがもう片方の拳を無造作に叩きつける。
互いに打ち付け合う拳の音を響かせながらプライズは奴の拳を潜ると胸元に一つ打ち込む……
が、七夕号も負けまいと空いた片手でプライズマを掴み上げ、
「やるじゃないかぁ。だが…!」
「な!?ぐぁあ!!」
即座に胸倉から地に叩きつけるとプライズマの絶叫が響く。
五体を広げる姿に不敵に笑う七夕号。
しかしすぐにプライズマは立ち上がるなり両拳を叩き合わせ、グラブを勢いよく燃え上がらせると拳を振り絞った。
「ぬぉ!?」
迫る一撃に腕を交差させて七夕号は受け止めるも、その炎熱に思わず顔を歪めだす。
次の瞬間、奴の右肩に熱く重たい一撃が入る。
どうやらプライズマがここぞと殴りつけたようだ。
クソォ!!すぐに交差を振り解いた勢いでプライズマを引き離すが、彼は即座に迫り、肩を擦っていた七夕号が振り抜いた拳を避けながら腹に一発打ち込んだ。
「た、七夕号、大丈夫か!?」
「おぅよ、これしきのことで…!」
心配する彦空に力強く答え蹴り上げられたプライズマが怯みながらも反射で燃え盛る拳が跳ね除け、またしても彼が懐を奪うと顎目掛けて突き上げた。
「ぐぅ、小僧め、見くびっていたようだ、な…!」
頭を振る七夕号だが、立ち込める硝煙が晴れると相手の姿が無い事を確認し…
「(彦空は随分呆気無いと思ったけど、あの牛は人間になった上に結構強い、つまりは…!)」
一人思案するプライズマは再び拳を握り締めて火を纏うと、
「なっ、なんの真似だ!?」
彦空に向かって駆け出し、その拳が標的を捉える瞬間、
「貴様ァ!」
割って入った七夕号に阻まれた拳が直撃する。
だが……
「ふふっ、かかったね!」
すぐにもう片方の拳を打ち付け、立て続けに拳を七夕号に叩き込んだ。
「そこぉ!」
「七夕号!?やめろォ!!」
そのまま七夕号へひたすら拳を打ち据えると奴もいよいよ炎熱を伴う連撃に疲弊したのか、最後に一発勢いに乗せて殴り飛ばした。
勢い良く吹き飛ぶ七夕号と鬼気迫る形相で掴み掛かる彦空…咄嗟にプライズマは赤い石を抜き取ると火が消えるように赤い装甲が歪み、
「悪く思わないで、ね…!」
「だぁああっ!!」
簡素な籠手を着けた橙色一色の姿に変わるなり彦空の腹に拳が叩き込まれ昏倒した。
「うぅ、七夕号、兄さん……」
投げ出され蹲ると、隣で伏していた七夕号は一度牛の姿になると、更に光を放ちながら小さくなり、一つの牛のぬいぐるみ…恐らく彦空を名乗った男が愛用していたのであろう物へと戻っていた……
[お疲れ。素晴らしい洞察と判断だ、キミも腕を上げているね…]
「あっ、お疲れ様でーす。へへ、そうかな?」
装着を解いた少年はデバイスからの通信に耳を傾けると聞き馴染んだ涼しげな声が語り掛ける。
「とは言え相変わらずエネルギー残量を考慮しない立ち回りが目立つね、そこは気をつけ給え。」
「うっ……は、ハイ…」
頬を掻きながら苦笑を浮かべ通信を切るとスマホに映した二人の人物が笑い合う写真を見て微笑むと、すぐに作業を再開しに少年はその場を後にした……
「へぇー、すげぇなアイツ。」
「いつの間にあんな腕節良くなったんだ?」
「どうでも良いけどアイツ姉ちゃんめっちゃ可愛いんだよな、ホラ。」
「マジで!?うわ超美じ……この隣の男最近の写真にめっちゃ写ってんな?」
・・・
「終わったァ!!!」
「始まってすらないんだよバカ」